騎士団見習いへようこそ
はれて騎士団見習いになったチェリー。
今日は初めての参加だ。なぜか私も同伴で。
「クリスさんにすごいねって、言ってもらいたいんだよ、あの子は」
ビット騎士団長は、苦笑いをして私に耳打ちした。
しかし、そこにはショート王子の姿もある。ブルーノは興味がないと付いてこなかったけれど、ショートは王子気になってしょうがない様子だった。
「チェリーおにーちゃん、きしだんみならいになりゅの?」
「そうですよ、入団テストは無事終わりました。と言っても、基礎体力テストをしただけですけれどね」
ビット騎士団長がショート王子を抱っこしながら言った。
メイドさんもいるんだけれど、どうも大きなビット団長のほうがお気に召した様子。
子供は高いところが好きだからなあ……。
「てすと、みたかった。ボク」
「退屈ですよ。同じ作業の繰り返しで、ただ疲れるだけです」
「ボクもできる?」
「王子様にはちょっと無理ですかねぇ」
「むう」
「騎士団見習いになるには、それなりの体格が必要ですから、大人になったらいけるかもしれませんね」
「ボク、おっきくなるー」
「期待していますよ」
ショート王子には、ずっと小さくてかわいいままでいてほしいと思うのは、私のわがままなんだろうなあ。子犬のかわいさって、格別だよね。
でも、王様もお妃さまも、そんな大柄じゃないし、多分そんな大きくはならない気がするけれど、それを指摘するのは残酷だろうな。
その代わり、天使のような美貌が保障されるけれど。
本当、今のまんまでも十分天使だけれど!
「お、挨拶するみたいですよ」
「ぺこりー?」
「チェリー・ソルトです。よろしくお願いします」
新しい仲間として、チェリーは他のメンバーに頭を下げて名乗った。
「お前、第一騎士団長の息子なんだってな」
ライオンに、ゾウに、クマの獣人達がチェリーを威嚇する。
何歳ぐらいかな? 十は超えているんじゃないかな?
「はい、そうですが……」
「だからと言って甘い顔はしない。指導に第一騎士団長も参加するけれどな」
「父さんが」
「ああ、騎士団長達が順番に指導してくれる。中には、別の方もいるが……」
「なるほど」
「基礎訓練は俺達が指導する。先輩には逆らうなよ」
「大丈夫です」
「それにしてもお前、五歳にしては体格がいいな。だがうさぎだ」
「うさぎしゃんだったらだめなのー?」
ショート王子が首をかしげる。
「王子様、騎士団は大型動物のほうが本来向いているのですよ」
「どうちて?」
「物理的に体格もいいし、体も頑丈ですから」
「ふうん、でも、チェリーおにーちゃん、おっきーよ」
「そうですね、チェリーは特別大柄です」
そんな会話を背にして、チェリーたちも会話を続ける。
「わかっています。不利なことぐらいは。それでもオレは、聖女様を守る騎士になりたいです」
「それは本気か?」
「もちろんです」
「じゃあ、試させてもらう」
そう言って、ゾウの獣人は大きな岩を持ってきた。
それは、はっきり言って子供のチェリーには持つだけでしんどそうな……。
「これを、半日持ち続けろ」
「え」
え、と言ったのは当然私の方だ。
そんなの無茶だってば。
飲まず食わずに持ってろって事でしょ?
「やります」
「ええええ!?」
叫んだのも、私。なぜか驚かないビット騎士団長。
「やっぱり、根性試しが始まったか……」
「こんじょーだめしー?」
「王子様、チェリーは今試されているんだ。本気で見習いをつづけれるかどうかをね」
「どうして? ごうかくしたんでしょー?」
「合格だけなら、適性があればだれでもできる。でも、根性までは測れない」
「そうなのー?」
私は半泣きの目でチェリーを見た。
思わず止めようと思い、前に出るとビット騎士団長にさえぎられた。
「止めないでいいよ、クリスさん。あいつも男だから」
「でも、こんなの……」
「本気でやばかったらこっちから手を貸すさ。まあ、その手を受け入れるとは思えないけれど」
「チェリー……」
私はチェリーのほうを見てつぶやく。
チェリーは私に気が付いたのかにっこり微笑んだ。
そして口パクで「だいじょうぶ」と言った。
心配する私をよそに、先輩見習い達はタイムを計り始めた。
「よし、今から半日、お前はここにいろ。いいな」
「はい」
「常に監視をつける。逃げるなよ」
「逃げないですよ」
「どうだか、うさぎは逃げ足が速いって言うしな」
がはは、と笑う先輩見習い達。ひどくない?
私は思わず彼らをにらみたくなったけれど、ガマンした。
「クリスちゃん、見てて。オレ頑張るから」
「チェリー……」
「心配しないで。応援してよ?」
「……がんばって」
「おっけー、全力で頑張るー」
いつもの緩い笑顔。
私は不安を抑えて、その場を見守ることにした。
**********
あれから数時間が立つ。おなかが減ったので、食べ物がほしい。
けれど、チェリーの前で飲食はどうかと、私はこらえていた。
でも、私のお腹は正直だった。それ以上に、ショート王子は正直だった。
「おなかすいたのー」
「はいはい、王子様。ご飯にしましょう」
「え、でも、チェリーは食べれないのに、目の前で!?」
「男は忍耐ですから、チェリーは我慢するのです」
「そんな、あえて目の前で食べなくてもいいんじゃ」
「あえて食べるからこそ、忍耐が付くんですよ、クリスさん」
そんなあ。ビット騎士団長はそう言ってメイドさんにご飯を運んでもらっていた。
豪華なお弁当が私の前に置かれる。チェリーと目が合った。一瞬物欲しげな目をしたけれど、すぐにぶんぶん首を振って理性を取り戻していた。
私はおいしいお弁当なのに、まったく味を感じないまま平らげていった。
まあ、あと数時間すれば、チェリーもご飯が食べられるよね!
その時いっしょにおいしいねってご飯を味わえばいいんだ!
「うぐぐ……」
しばらくして、チェリーがうなった。苦しそうだ。
そりゃ、空腹の中大きな岩を持っていればつらいに決まっている。
するとビット騎士団長が、目の前に出て行った。
そしてあえておにぎりをちらつかせ、真ん前で食べる。
「どうだ、食べたいだろ? チェリー」
「お腹は減ってるけれど、決まりだから」
「強がりはどこまで続くかな?」
「合格だって言われるまでは、続けるよ」
「へー、すぐおなか減ったって言うお前が……」
「騎士団になったら、食べれない状況も出てくるんでしょー? なら、今から我慢できなきゃダメじゃん」
「そうだな。よくわかってるなチェリー」
「オレも、調べたりはしてるからねー」
そう言いつつ、じゅるりという音を立てるチェリー。
やっぱり空腹らしい。喉は、唾液で潤しているのだろう。
「生半端な気持ちで、騎士団目指してないし……」
ちらりと、私を見たチェリー。
「チェリー、頑張って」
私の言葉に、チェリーは満足げだ。
「守るべきものがあるからね」
「お前も男だな」
「子供だからってバカにしないでねー」
「はいはい、頑張ったらお菓子やるよ」
「本当!?」
「子供じゃないか……」
「ボクもおかしほしー」
「王子様にもあげますよ。王子様はお昼寝しましょうね。大きくなれますよ」
「わーい」
しばらくして、ショート王子はすやすやと眠りについた。
それから数時間、目の前でビット騎士団長は沢山挑発をした。
わが子供だから、あえてつらい思いをさせているのだろうけれど……。
苦しそうな顔で、プルプル震えるチェリーを見てたら、私は不安になってくる。
倒れたりしないかな? 大丈夫だよね?
そうこうしているうちに、お昼寝からショート王子が起床した。
「ちょっと、席外すね」
ビット騎士団長は、多分トイレに行った。
その間、ショート王子の世話は私がするのだ。
まあ、すぐに帰ってくるだろうから全然苦痛じゃないんだけれどね。
そんな時、魔物が現れた。虫のような動物のような、割と大きな魔物だ。
「きゃあああ」
「わーこわいー」
叫ぶ私。逃げ出すショート王子。魔物はショート王子を追いかけた。
どうしよう、と思うけれど、先輩見習い達は気が付いてない。
ショート王子はチェリーに助けを求めて逃げていく。
「チェリーおにーちゃん、たすけて」
「王子様」
「きしだんは、よわいものをたすけるって、いってたよ」
チェリーは一瞬困った顔をしたけれど、すぐに岩を投げ捨て魔物に襲い掛かった。
魔物はチェリーに捕らえられ、バタバタしている。
そうこうしているうちに、ビット騎士団長が帰ってきた。
先輩見習い達も気が付いたようだ。そして、タイマーを見つめている。
「今、半日が過ぎたと声をかけようとしていたところだ」
「え……」
思わず私が声を上げる。
「あの、数分前までは岩を持ってたんです! チェリーは、ショート王子のために岩を捨てて……だから」
「それでも、時間は時間だな」
「でも」
「けれど、それ以上に大切なのは命だな」
先輩見習い達は顔を見合わせた。
「騎士団を目指すなら、自分の利益より、子供の命を優先するのは当然の判断だ。よくやったと言えるだろう」
「!」
私とチェリーの顔が明るくなる。
やったあ! これでチェリーは無事認められるのだ。
「チェリーおにーちゃんありがとー」
「王子もこう言っているし、今回は合格だ、チェリー。お前はこれから俺達の仲間だ。よろしくな」
「ありがとうございます!」
チェリーは涙ぐみながら言った。そしてお腹が盛大になった。
だよね、おなか減ってたよね……苦笑いを浮かべるチェリー。
そこに、ビット騎士団長はお弁当を手配した。
今回はさっきよりも豪華だし、ジュースもある。
「騎士団長は、最初から合格を信じてたんですよ」
メイドさんがこっそり私たちに教えてくれた。だから、これははじめから準備してあったものらしい。チェリーは豪快にお弁当を食べていった。ショート王子もジュースをうれしそうに飲んでいる。
「おいしいねー、チェリーおにーちゃん」
「そうだね、王子様」
「ボクもはやくおっきくなりたいー」
「あはは、きっとなれるよ」
微笑ましい光景を眺めて、私もジュースを飲んだ。
これからは、きっとチェリーにとって充実した毎日が待っているのだろう。
無事、立派な騎士様になってくれるよう、私は心から祈った。




