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ブルーノの本

 今日は約束通り三人で庭にいる。

 とは言ってもブルーノは本を読んでるだけで私達にかまってくれない。

 私とチェリーはのんびりキノコを集めてご飯にしようと考えている。

 キノコご飯、春の今はとてもおいしい。

 かごにいっぱいキノコを詰めて、たまには木の実もとってみたりして。

 食べられなくても、加工すれば魔法役に使えたりもするものがあるから見逃せない。

 そのうち腕白な近所の子供もやってきた。

 どうもブルーノが読んでる本が気になるらしく、のぞき込んでいる。

 確かあれってなかなか手に入らない人気の本だ。


「何読んでるの」

「…………」


 ブルーノは答えない。

 たぶん、ブタの獣人かな? くるんとしたしっぽがすごくかわいい。

 んだけど、突然にやりと笑うとブルーノの本を奪ってびりびりに破ってしまった。

 そして逃げるブタの獣人。あっけにとられるブルーノ。

 慌ててそれをかき集める私。ブタの獣人を追っかけるチェリー。

 圧倒言う間にチェリーにつかまるブタの獣人。


「なんでそんなことしたの?」


 チェリーにすごまれておびえた様子のブタの獣人。


「かまってくれないから」

「あれは、大切な本なんだよ」

「ごめんなさい」


 ブルーノは何も答えない。いや、答えれないのだ。

 呆然としたまま本の残骸を見ている。

 まだ読みかけだったろうに……。

 チェリーがブタの獣人を帰らせて、ブルーノを慰めるためにほかの本を進めながら家に戻らせる。

 私は粉ごなになった本の屑を集めて、テープでつないでいくことにした。

 リルが結界を貼ってくれて、紙は風で飛んで行かないようになっている。


『お人好しだな、クリスは』


(だってこれは、ブルーノが珍しく賢者様におねだりして買ってもらった本だもん、きっとすっごく楽しみにしていたんだよ)


『だろうなあ、目がらんらんとしていたからな、読んでる間』


 さすがにそれには気が付かなかったけれど。

 リルってば、目ざといなあ。

 私はちまちまと紙くずを集めては、虫眼鏡で文字を見て、張り合わせていく。

 気が遠くなるような作業だった。途中チェリーがジュースを持ってきてくれたけれど、それを飲みもしないぐらい必死だった。


(もし、みつからなかったらどうしよう)


 きっと心底ブルーノはがっかりするんだろうなあ。

 読者が大好きで勉強熱心なブルーノ。彼にとっての本は友達のようなものだ。

 私は暗くなるとろうそくをもって、かけらを探していった。

 次第にチェリーも参加しだしてきて、ふたりで一生懸命探した。


「ぜったいみつけようね、チェリー」

「うん、クリスちゃん」


 どんどん暗くなり、さすがに待てなくなったのかブルーノが飛んできた。


「おい、もういい!」

「あとちょっとだから、待って! あと二かけらなの」

「ブルーノお兄ちゃん、ごめんね、もう終わるから」

「…………」


 私達は懸命に、かけらを探していった。そして、最後のひとかけらを残し、無事見つけることができたとき。エイベルが帰宅した。

 結界の存在に気付いた彼は、慌てて結界を外し、私達のほうへ飛んできた。


「何をしていたんだ!?」

「ブルーノの本を、いたずらでやぶかれたから、なおしてたの」

「オレはすこしだけてつだったけど、ほとんどはクリスちゃんがやってくれたんだよ。ほらみて、本、あとひとかけらだけがたりないの」


 チェリーはボロボロの本をエイベルに見せた。

 エイベルは呆れ気味の顔で、私達を抱きしめた。


「お前たち……」


 訳が分からずぽかんとする私達。


「友達思いのいい子だな、本当に。さすが、神様が選ぶだけはあるよ」

「? 当たり前のことをしただけだよ」


 私の言葉にエイベルは首を横に振る。


「いいや。皆なら魔法に頼ってこんな面倒な事はしないね。それか新しい本を買うよ」

「まほう!」


 私とチェリーが同時に言った。そうか、魔法を使えば、こんなことはすぐに解決したのだ。なんてバカななのだろう、私は。すぐにでもブルーノ二本を読ませてあげたい一心で、周りが見えていなかった。


「まあ、ブルーノにはまだ復元魔法は使えないけれどね、こんなふうに一生懸命探してくれる友達を持ってブルーノは幸せだなあ。ほら、出ておいで、ブルーノ。家の扉から盗み聞きはよくないよ」

「いたの」

「クリス、ブルーノはずっと家の入口からふたりを見ていたんだよ」

「どうして?」

「気になって、心配だったからさ」


 どうして声をかけてくれなかったんだろう?

 あ、恥ずかしいからか。やっぱり照れ屋なんだなあ、ブルーノは。

 おずおずと出てくるブルーノは、なんかもじもじしていた。


「おしっこ?」


 チェリーがぽやんとした口調で言った。


「ちがうっ」


 ブルーノは本気で怒った様子。

 そして、後ろからあったかいココアを差し出してきた。


「飲めば」


 そっけない口ぶりで、横を見ながらブルーノ。


「こっちの水色のほうがチェリーだから」

「そっちがオレの? 何がちがうの?」

「…………」

「こたえてよーまあ、いいや。ありがとう」


 そう言ってチェリーはココアに口づける。そして、何かに気が付いた。


「あ、オレのほうが甘いんだ、多分。いつものより甘いもん。オレ甘いの好きだから」


 なるほどね、私のはいつものココアだ。


「ありがとう、ブルーノお兄ちゃん!」

「ふんっ」

「ブルーノ、ありがとう」

「別に」


 すっごい顔真っ赤なんだけど、ブルーノ。

 照れちゃってて、可愛いっ。まあ、怒られるから口には出さないけれど。


「ブルーノ」

「何、父さん」

「みんなにお礼は?」

「…………」

「ちゃんとお礼を言いなさい!」


 普段穏やかなエイベルが怒鳴るから,その場の全員ビックリした顔をしていた。

 ブルーノもぽかんとした後、目をそらしモジモジする。


「おしっ「ちがう!」


 チェリーの質問はさえぎられた。

 そして、ブルーノはあ、と息を吐いた。


「助かった、ありがとう」


 耳まで赤くして、ブルーノは私達に頭を下げて逃げていった。

 あんなに大切な本を放置してまで消えたので、その本をエイベルが拾う。


「ったく、素直じゃない息子で悪いね」

「ありがとうっていわれて、オレうれしいー」

「私もー」


 キャッキャと喜ぶ私とチェリーを撫でてくれるエイベル。

 リルもなんだか満足げだ。

 そしてエイベルは突然真剣な顔になった。


「よし、復元魔法を見せてあげよう」

「ほんとー!? オレまほうみるのだいすき!」

「私も!」


 エイベルはテーブルの上に本を置いた。そして聖水で魔方陣を書いていく。

 その上に本を置きなおすと、パン、と目の前で手を叩いた。


「復元魔法、開始」


 すると、本の周りに光が集まる。そしてテープで止めていたかけらたちが自然な形にくっついていき……どこから最後のひとかけらが飛んできてくっついた。

 結果まるで新品のような状態になった本が出来上がった。


「すごーいオレにもできるようになるかなあ」

「うーん、チェリー君は魔力がないように見えるよ」

「え」


 呆然とするチェリー。


「オレもけんじゃになれないの?」

「魔法は、簡単に使えるものじゃない。まあ、ブルーノは大丈夫だろうし、クリスも適正自体はある。けれど多分チェリー君とショート君には普通の魔法適正はない」

「おうじさまも?」

「そう、チェリー君だけじゃないよ」


(そうなの?)


『そうだな、ショート王子の家系はまず魔法がつけるものがいたためしがない。努力でどうにかなるか、試したこともないが』


 なるほど。


『チェリーの場合は、努力以前の問題だ。魔力を生み出す能力がすこしもない。適性がない、ですまないレベルだ』


(そんな……チェリーは魔法が大好きなのに)


 いつもエイベルの魔法をあこがれた目で見えてるのに……。


『同情してやるな。男は女に同情されるのが一番こたえるんだ』


(うん……)


『それに、この世界は賢者だけが偉いわけじゃないだろう』


(そうだけれど)


 好きな職業につけないのはせつないじゃん。


『賢者以外にも、あいつにあこがれの職業はあるはずだ』


 それってもしかして……。


『あいつの体格と、度胸なら、まず適正だろうな』


 なるほどなるほど。


『そのうちあいつも自覚するだろう』


 私もそんな気がしてきた!

 そのうちしょんぼりしていたチェリーもココアを飲むことに夢中になっていた。

 やっぱりまだまだお子様である。

 そして、エイベルは転送魔法でチェリーを家に帰していく。


「またねー、クリスちゃん」

「うん、またね。チェリー」

「おやすみなさいー」

「おやすみなさいっ」


 ぶんぶん手を振って私は布団に入っていく。

 案の定ブルーノは起きていたので、本を渡してあげる。


「本、治ったよ」

「ああ」

「よかったね」

「そうだな……」


 素直じゃないなあ。まったく。まあ、そんなところもかわいいと思うんだけれど。

 言葉と違って、しっぽとお耳は正直だからね。

 本を抱きしめたまま、ブルーノは眠りに落ちた。

 しばらくするとエイベルが帰ってきた。手にはパンを持っている。


「それ、どうしたの?」

「おみやげ。チェリー君の家で焼いたんだって。明日食べようか」

「うんっ、たのしみ! おいしそうだもんっ」


 チェリーのお母さんって料理上手なんだよね。だから、チェリーの体格があんなことになったんだろうなって思うぐらいに。上品な味がするし、いくらでも食べられちゃうんだよー。正直エイベルは男の料理って感じのものを作るから、すごく嬉しいな! もちろん食べられるだけで十分ありがたいんだけれどね。

 一人暮らし経験者だから、食べ物が待ってるだけで用意されるありがたみはすごーくすごーくわかるしっ。作るのって手間がかかるし何より面倒くさいんだよね。だから前世ではコンビニ弁当ばっかり食べてたなあ。コンビニのポイントカードが無意味にたまったままだ。あーもったいないことをした。

 ……なんて悲しい思い出は忘れておくことにしよう。むなしいだけだから。


「けんじゃさま、いっしょにねようっ」

「もちろん、明日が楽しみだね」

「うんっ、パン、楽しみ!」


 私はエイベルを布団に引きずり込む。そしてそのまま、すやすや眠った。



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