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めばえ

「ごはんおいしかったねー」

「ねー」


 のんびり帰宅中にはしゃぐ私とチェリー。

 ドッと疲れた様子で馬車の中でくたびれてるブルーノ。

 エイベルが保護者として一緒に乗っているんだから、素直にエイベルに甘えればいいのにね。きっとブルーノのプライドが許さないんだろうけれど。

 ブルーノってば、プライドが高いんだよね。チェリーはなさすぎると思うけれど。


「あしたからも、そののこりものをもらえるんだよークリスちゃんのおかげだねー」

「私ももらっちゃったから」

「すてちゃうのはもったいないもんねー」

「ねー」


 のほほんとしている私とチェリーに、うつろうつろなブルーノ。


「ブルーノお兄ちゃん寝ちゃいなよ、おこしてあげるよー」

「そうだよ、ブルーノ。もう夜だし、寝てもおかしくないよ」

「それともいびきがすごいの? だからはずかしくて寝れないの?」

「チェリー坊、ふざけるな。よし、眠っていびきなんかかかないところを見せてやろう」

「おおー」


 チェリーなかなかうまい……ブルーノのプライドの高さを利用して、無理やり眠らせた。……ってのは、考え過ぎだろうか。

 私はタオルケットをブルーノにかぶせる。もうすでに彼は夢の中に落ちていった。


「あしたも遊ぼうね、クリスちゃん」

「うんっ、おうち近いもんね、チェリーと私」

「仲いいなあ、お前たち」

「けんじゃさまーオレらなかよしだよー」

「ブルーノも混ぜてやってな。あいつは意地っ張りだけど悪いやつじゃないんだ」

「しってるー、オレきらいじゃないよー」

「私も」

「そうかそうか、ならいいんだ。あいつは人づきあいが下手だから」


 確かに、発言もきつめだし、いつも本読んでるし、近寄りづらい感じはするなあ。

 逆にチェリーは友達が多い。のんびりして怒らないし、結構人懐っこいから、特に年上に人気がある。

 たぶんブルーノも、喋ってみれば結構いいやつってわかる人がいると思うんだけれど、なんか人見知りなんじゃないかって疑うときが少々。


「オレと、王子と、ブルーノお兄ちゃんと、クリスちゃんはうんめいのよにんだから、ずっときっといっしょだよ」

「チェリー君は、いい子だね。でもいずれは、その中のふたりが選ばれてしまうかもしれないんだよ?」

「それでもオレはクリスちゃんのみかただよ。クリスちゃんのことがすきだから」

「きっとその好きとは、また違う好きに悩まされるようになるよ」

「それは、どんなすき?」

「ドキドキして、胸が苦しくなるような好きさ」


 そう言ってエイベルはチェリーを撫でた。チェリーは首をかしげる。


「けんじゃさまは、そのすき、しってるの?」

「ああ、大人になると分かるんだよ、チェリー君」

「オレも、わかる日が来る?」

「もしかしたら、すぐかもしれないけれどね」

「オレは、少しだけど、クリスちゃんにどきどきしたことあるよ」


 チェリーは唐突にとんでもない告白をした。

 私は思わず目を丸くする。


「そうか、君は早熟そうだからね」

「そうじゅく?」

「育ちが早いって事さ」


 確かになんか、チェリーは見た目以外にもそんな感じがする。

 どこか子供っぽく見えて、賢い雰囲気があるし。

 勉強的な意味じゃなく、頭がよさそうな感じ。


「それは、いけないこと?」

「そういう訳じゃないさ。でもまあ、孤独を感じることはあるかもね。きっとうちのブルーノはその辺鈍いだろうから」

「ブルーノお兄ちゃんは、としうえだよ?」

「そういうのは実年齢は関係ないんだよ」


(すごい会話をしているわね)


 私は思わず寝たふりをはじめた。リルもだ。


『ブルーノは恋愛音痴っぽいが、チェリーは素直な分自覚も早いだろうな』


(ショート王子はどうなんだろう)


『生まれたばかりの赤子だから、さすがにわからん』


(ですよねぇ)


 でも、大人になった三人を思いうかべると、皆男前なんだよねぇ。

 子供の段階で、容姿が整っているし、個性もはっきり出ている。

 きっと一番の長身はチェリーだろう。運動神経から察するに、きっと筋肉も期待できる。ブルーノは文系男子のような雰囲気に育つとみる。頭がよくて、今と性格はあまり変わらないだろう。ショート王子は犬だから、わんこ属性かな?


 その時私は誰を選ぶことになるのだろうか。

 むしろ、選べるのだろうか。

 三人とも、私以外に好きな人ができてたら、それでハイ終了だし。


「オレは、えらばれたいじょう、クリスちゃんをまもってあげたい」

「偉いね。自分だったらその役目をいやだと思うかもしれない」

「けんじゃさまみたいに、オレはすごくないけれど……かみさまがオレをえらんでくれて、クリスちゃんみたいないい子がせいじょさまだから……」

「そっか、チェリー君はえらいね」

「つよくなりたいんだ、はやく。でもどうしていいかわかんなくて」

「それはまだ、君が幼いからしかたがないよ」

「でも、だから、からだをつかうようにはしてるけど、オレうさぎでしょ?」

「うさぎだね」

「しょうどうぶつっていうんでしょ?」

「小動物だね」

「どうして、神様はライオンやクマを仲間にしなかったのかな?」

「きっと考えがあってのことだよ」


 確かに、猛獣を仲間にすれば、物理的には強くなりそうなんだけど……。

 人間たちも警戒することこの上ないだろうから、きっとだからじゃないかなあ。

 そうこうしているうちにチェリーの家についた。チェリーのお母さんが、チェリーを迎え出てきたので、エイベルはチェリーを渡した。


「またねー、けんじゃさまー」

「さようなら、チェリー君」


 可愛く手を振るチェリーを見て、私は寝たふりをやめた。


「やっぱり起きていたのか、クリス」

「……なんか、気まずくて」

「チェリー君はストレートな子だね」

「うん、私もそう思う」


 だからこそ、たまに聞いてて恥ずかしい言葉も飛んでくるけれど。


「ブルーノが太刀打ちできるかな……」

「くちじゃまけちゃうかも」

「あはは、やっぱりクリスもそう思うかい」

「そろそろおうちがみえるよ」


 私はあくびをしながら言った。エイベルが私を抱っこしてくれた。

 リルも寄ってくる。


「転送魔法で帰ってもよかったんだけれどね、チェリー君に興味があってね」

「どうして?」

「やっぱりどうしても、うちの子のライバルって気になるものだよ」

「そうなの?」

「どの家も、自分の子供を一番の仲間にしたいと思っているんだ。権力欲しさじゃなく、我が子愛しさでね。自分の子供が、選ばれしものだと、心から信じているんだ」

「へぇ……」


 そういうものなのかなあ。でも、私が親の立場だったら、きっと自分の子供こそがってなっちゃうかもしれないなあ。


「みんなすてきだとおもうよ、私」

「この年でそんな口説き文句をいうのかい、クリス」

「ううん、ほんとうだもん。まだショート王子についてはなんともいえないけど、きっといいこだとおもったもん」

「そうだね、あの子のオーラはとてもきれいなものだったよ」

「私のオーラは?」

「キラキラして、特別な虹色をしているよ」

「へぇ、すごいー」

「さあ、家についたよ。ブルーノを起こしてお風呂にはいろう」

「はーい」


 私はブルーノを揺らして起こそうとする。

 ブルーノはすぐに目を覚ました。


「クリス、何」

「おうちついたよ」

「……そう」

「おふろはいろう?」

「先はいれば」

「いっしょのほうが楽しいよ」

「僕もう六歳だから、楽しくなくていいの」


 呆れる顔をするブルーノ。そうかなあ。

 最近いっしょに入っても、そっぽ向いて構ってくれないしなあ。

 古くてもう捨てる本を持ち込んで読むのが一番楽しいんだってさ。


「いっしょがいいのにー」

「頬を膨らませても駄目だからね?」

「ぶー」


 こうして私達の長い一日は終わった。

 結局ブルーノはひとりでお風呂に入った。

 わたしはエイベルに水魔法を使ってもらって色々遊びながらお風呂を楽しんだ。

 昔は、ブルーノも水魔法に興味津々だったのにな。

 最近は自分で軽く使えるせいか、あまり興味がないようだ。

 私は今は簡単な水を出す魔法とかを覚えようとしている。

 魔力はまだ未知数。幼すぎて測定不可能らしい。


「けんじゃさまー」

「なんだい?」


 布団にエイベルと入る。ブルーノはひとりで寝る気だ。 

 三人で寝たほうがあったかいのに、これもやっぱりブルーノが拒否するのだ。

 本人曰く、狭苦しいから、らしいけれど、そこまでブルーノは大きくないし、余裕でぬくぬくできると思うんだけれど……。


「最近ブルーノがつめたい」

「あはは」

「どうして笑うの?」

「それはね、反抗期の始まりだよ」


 ブルーノからげんこつがエイベルに飛ぶ。

 エイベルは頭を押さえて、でもやっぱり笑っていた。


「何変な事クリスに吹き込んでるんだよ」

「事実じゃないか」

「違うね」

「ちがうのー」

「ああ。僕は自分の時間が欲しいだけだ」

「なるほど」

「父さんは何でそこで笑ってるんだ」

「いや、別に」


『愉快な親子だな』


(ねー)


 ブルーノは不満そうに口をとがらせている。

 エイベルは笑いをこらえている。

 そしてふと、チェリーとエイベルの会話を私は思い出す。

 もしかして……。


「ブルーノは、私をいせいとして意識してるの?」


 素早く枕が飛んできた。私、頭を超強打。

 痛くて目の前がくらくらする。


「なにするのー、ブルーノ、ひどいー」


 そう言ってブルーノの顔を見上げると……泣きそな顔で、顔を真っ赤にしていた。


「うるさい、クリス!」

「……ごめんなさいブルーノ」


 なんか、言っちゃダメな事言ったよね。私。

 空気読めないにもほどがあったよね。うん、ごめんなさい。


「おやすみなさい、ブルーノ。また明日、三人で遊ぼうね?」

「知らないっ」

「…………」


 あーあ、完全拗ねちゃったよ。私のせいだよ。

 エイベルはやっぱり笑いをこらえているし。

 私はため息をついて、布団にもぐりこむ。

 ブルーノだって、男の子だもんね。あんまり女の子とベタベタしたり、お風呂一緒に入るのはいやだよね。それすらも、察せなかった私は馬鹿だ。

 一人反省会をしていると、リルが私に語り掛けた。


『多分、チェリーだったら意識しだしても喜んで一緒に寝ようとしてくるだろうから、性格だろうな……。さすがに風呂はわからないが』


 たしかに、チェリーは好意を丸出しにしてきそうだな。なんて思いながら。私は眠りについた。



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