歪み
あれから教会や、合唱団が集まる場所に不審な男が現れるとうわさになった。
それを、苦笑いするロイ王子はその正体はルイ王子だと言う。
「絶対兄上だな。兄上は素直じゃないから……堂々と見に行くつもりになれないんだ。最近外出も増えたし、普通の姿で獣人と話しているのも見かけると聞いた」
「確かに使用人とは会話してるわね。買い物も自分でしているし……」
「そうだろう、クリス。前ほどはきつい物言いも減ったしな」
「ボクがハンカチを落としたとき、届けに来てくれたよ、ルイ王子は」
「兄上がか。使用人に渡してしまいそうなイメージだが」
確かに、わざわざショートを探して渡すのは意外だ。
「何か言いたそうにしてたよ、ルイ王子は」
「何を言いたかったんだ、兄上は」
「どうせ憎まれ口だろう?」
「ブルーノが言うほど、ルイ王子は性格ゆがんでないよ」
「どうだか。獣人があれほど嫌いなんだから、何をしてもおかしくない」
「むしろ王族だからこそ、何もしないでしょー? オレが思うに、何かしたら本格的な戦争の幕開けだからねー?」
チェリーの言い分はもっともだ。国に許可なく戦争を始めるほど、ルイ王子はバカではないと思う。しかも、こっちの国でケンカを売ったところで、自分がとらわれるのは目に見えているだろうし。
「たまにプレゼントおいてってるってボクは聞いたけど?」
「兄上は素直じゃないなあ……」
思わず苦笑いする皆だった。
これで、ルイ王子と獣人は仲良くなれる。皆がそう思ったのに、事件は起こってしまった。
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「ロイ王子! ルイ王子が獣人の子供にケガさせられたって!」
「クリス、兄上がけがしたって本当なのか」
「ええ、ふざけているところにぶつかったらしいの。それでとっさに逃げてしまったみたいで、ルイ王子が激怒しているらしいの」
「不機嫌な兄上は子供には怖いもんな……」
確かにきりっとした顔立ちのルイ王子に睨まれたら……うーん、怖い怖い。
とりあえず私達はその現場に向かうことにした。
そこには、頭に大きな絆創膏を貼ったルイ王子がいた。
よかった、そこまで大きなけがではなさそうだ。
「ルイ王子!」
ルイ王子は自分の個室で不満げに座っていた。
暇だったのか、本を開いている。
「クリス……やはり獣人は……」
「ごめんなさい、私が代わりに謝るわ」
思わず頭を下げる私。
だって、きっと子供たちにルイ王子は怖くないって言わなかった私が悪いんだもの。
目を丸くするルイ王子。そして、大きくため息。
「バカなの? なんでクリスが謝るわけ?」
「私が説明不足だったから」
「だから、謝りにも来ないの? あの獣人の子供は。ハムスターだっけ」
「きっと、まだ怖がってるだけだから」
「ふうん? この傷、後が残ったらどうしようかな」
「ボク、治癒魔法が使えるから今すぐ消してあげるよ」
「ショート王子……意外な特技があるんだな」
「……いや?」
「別に、後でしてもらうよ」
「うん!」
よかった、傷に関しては何事もなく終わりそうだ。
でも、問題は怒りの矛先だ。
イライラしているのが顔を見ているだけでもわかる。
リラックスする紅茶を持ってきたけれど、それをルイ王子が飲んでもあまり変わらない。それほどまでに気が立っているのだろう。
「っていうか、さっきからハムスターの子、入り口でもじもじしてるけど。お菓子もって」
ブルーノがぼそりと言った。
そこには小柄なハムスターの獣人の男の子が立っていた。
手にはお菓子が入っているバスケットを持っている。
涙目になって、おろおろしているので、チェリーが扉をあけた。
「入っておいでよー」
「でも、あの」
「お詫びに来たんでしょー?」
「そうだけど、ルイ王子怒って……」
「大丈夫大丈夫。謝れば許してくれるって。ねー? ルイ王子は大人だもんね?」
そう降られれば、最年長のルイ王子が否定できるわけもなく。
「当たり前だね」
結果、その言葉にほっとしたハムスターの獣人は嬉しそうにルイ王子の前にやってきた。そして深く深く頭を下げる。
「先ほどはすみませんでした。これ、お菓子です。家で焼いたバウンドケーキで、申し訳ないですが……」
「ふん……そう言うのは気持ちだよね?」
「! ありがとうがとうございます!」
涙目になって皿に頭を下げるハムスターの獣人に、ルイ王子はバスケットを受け取った。中にはジャムも一緒に入っている。
「あの、このジャムも手作りで、お母さん自慢の味なんです。舌に合うかはわからないですけど……おいしくないことはないと思います」
「そう」
「……ルイ王子に食べていただけるの、お母さんは緊張してました」
「別に、ぼくは大体のものは食べるから」
「! そうですか」
「貴族が好き嫌いばかりしててはみっともないしね」
「では、本当にありがとうございます! 失礼します」
「ん」
ルイ王子の声に、興奮気味に去っていくハムスターの獣人。
後ろでロイ王子が若干苦笑している。
「兄上。バウンドケーキお好きですからね」
「……ふん。王子が小さいことを引きずり続けるのはみっともないだろ」
「そうですね」
「だよね、クリス」
「そうね、ルイ王子。それに……獣人でも人間でも間違いは起こしてしまうから。伝説のふたりだって、きっとそう。獣人だからでも、人間だからでもない、ただそれがふたりに起こってしまっただけなのよ」
だから、そんな語り継がれるような事件でもないように思う。
それが人間の貴族と獣人でなかったら、ここまで大事になってなかったんじゃないだろうか。
「……どうだか」
ルイ王子はとたん眉間にしわを寄せる。ちょっと怖い。
「ぼくにはよくわからないね」
そう呟いて、ルイ王子はため息をついた。
バウンドケーキを使用人に預けて、私達は夕飯をとることにした。
夕飯の間、ルイ王子は終始無言だった。




