ショート王子の覚醒
最近ショート王子がご機嫌斜めだ。
すぐに拗ねるし、まあ反抗期なんだろなって思っていた。
それでも私にはわんこわんこでなついてくれるし、可愛いからそれでいいかなあって、気軽に考えていたんだけれど。
「どーちてボクだけなんにもないの?」
そんな事を、ショート王子がきいてくるから、私は反応に困ってしまうのだ。
どうやらショート王子は仲間になる三人の中で、自分だけが何も能力がないことを虹再なりに不満に思っているらしい。
きっとまだ、はっきりとした違いは分かっていなくても、魔法が使えるお兄ちゃんと、騎士団見習いのお兄ちゃん、ぐらいの把握はしているのだろう。
「ショート王子はまだ小さいからだよ? そのうち能力が出てくるよ」
「やだやだ! ボクもなにかできないとやだもん」
そう言われても、二歳じゃ何もできなくて当然だと思うんだけれど……。
「じゃあ、お勉強するとか」
「むずかちいのわからないの」
だよねぇ。無理だよねえ。ブルーノじゃあるまいし、二歳じゃろくに勉強できるわけがない。できてもABCが歌えるかどうかぐらいじゃないかなあ……。
正直頭脳では、ブルーノには負けるだろう。年齢が六歳も離れている。
同じ年でも張り合える人がいないって言うのに……さすがに無理だ。
「ショート王子はこの国で一番かわいいよ?」
「しってる」
うーん、これじゃご機嫌にならないかあ。
困ったなあ。私は頭を抱えた。
なのでとりあえずショート王子を抱っこしてみる。
「クリスおねーちゃんは、ボクのおよめしゃんだもんね」
「まだわかんないかなあ」
「ボクがいちばん、おとくっておかあさまがいってた」
「お得……」
まあ、玉の輿だよね、確かに。
「ボクも、クリスおねーちゃんだいすき」
「あら、どうして」
「いいにおいがするし、やさしいし」
「どんな」
「あまーいにおい」
「なんだか嬉しい」
ああ、もふもふだなあ、ショート王子は。
ふわふわのしっぽがお腹に当たって気持ちいいよぉ。
ショート王子こそ、甘ったるい匂いがしてきゅんとくる。
子供特有の、あの匂い。
「おおきくなったら、ボクかっこよくなりゅの」
「うんうん、きっとなれるよ」
「きっと、チェリーおにーちゃんよりもおっきーよ」
それはどうだろうか。チェリーは多分、国の同年代で一番でかい。
将来的にも、早く成長が止まらない限り、かなりの長身になるだろう。
「そしてブルーノおにーちゃんよりもあたまいいのー」
うーん、それもきっと難しい……。
でも、仲間になる三人に選ばれるってことは何らかの能力があると思ってもおかしくないはずだ。
伝説の三人、と陰で呼ばれているのを、多分最年少のショート王子も知っているのだろう。そして自分だけが、王族であることをも、気にしているはずだ。
「ぜったいにりっぱになってやるんだ」
「頑張ってね」
「だから、ボクをえらんで」
「まだ先の話だよ」
「……ボクじゃ、いや?」
「誰も決めれないの。ごめんね」
シュンと耳を下げて項垂れるショート王子は超かわいい。
思わずもふもふなでなでしちゃうぐらい。
くぅん、と鳴いた時は、鼻血が出るかと思った。
「今日は賢者様と、森の探索をしようね」
「もり!」
「メイドさんたちも一緒だけれど、なかなか行く機会ないよね」
「おはなさん、いっぱい?」
「そうね、キノコもいっぱいだわ」
「わあい」
ショート王子が大はしゃぎ。
「でも、その前にお昼寝しようね」
「あいっ」
ショート王子を眠らせて、私も休憩をする。
本当、誰かを選ぶってしんどい。
**********
「おはよー」
ショート王子が私の腕の中で目を覚ました時、私はお城のテラスで紅茶を飲んでいた。おいしいクッキーとバラのジャムで、優雅にティータイム。
紅茶もしっかり茶葉の香りがする、王室御用達の美味しい紅茶だから、ちょびちょび飲んじゃう。詩集を読んだりして、まるで気分はお嬢様。
「おはよう、ショート王子」
「もりにいくのー」
「王子様、楽しみですね」
「うん、しゅごく」
エイベルも嬉しそうにお菓子のバスケットを持っている。
そして、私からショート王子を受け取って抱っこを変わってくれた。
ショート王子は最初はぐずったけれど、エイベルになだめられておとなしくなった。
「もりー」
馬車で森に向かう際中、ずっとショート王子はご機嫌だった。
歌を歌いながら、ぴょんぴょん馬車で跳ねるのは、危ないからやめて欲しい。
「森が見えたよ、ショート王子。鳥も飛んでる」
「とりしゃーん」
尻尾をフリフリショート王子。
しばらくして、馬車は止まった。ところでこの馬車の馬は、獣人ではない。私は最近まで獣人だと思っていた。騎士団の時に気が付けばよかったんだけれど。
「ちょうちょしゃーん」
ちょうちょを追いかけるショート王子。
ああ、かわいいよかわいいよ、超天使。
ショート王子は何の能力持ちって、萌え殺しの能力だよね!
いるだけでかわいすぎて死にそうになるよ。
しかし、はしゃぎ過ぎたショート王子は盛大に転んだ。
「ひゃう」
「大丈夫、ショート王子」
「ふえ……」
泣きそうになったショート王子は、私を見た。
んだけど。
「ボクおとこのこだから、なかないの」
ぽろぽろ泣きながらそう主張するショート王子。
超かわいいです!
「そうだね、ショート王子は泣いてないもんね」
「うんっ、ボクなかないの」
ああ、撫でたい、よしよししたい。
エイベルもほほえましい顔でショート王子を見ている。
「王子様は男の子だねぇ、強いねぇ」
「うん、つよいこなの」
かわいいこなの!
何気についてきたリルがため息をついている。
私の心の声を読んだな!?
だって仕方がないじゃん、すごい可愛いじゃん!
『変態……』
(なっ、違うもん、母性だもんっ)
『まあ、王子は可愛いな。どう成長するかはわからないが』
(おっきくなんかならなくていいっ)
『それはそれで困るだろう』
(えー)
こんなかわいい王子がおじさんに育つのなんか、考えたくなんかないよー。
ショート王子はエイベルとキノコ狩りを始めたようだ。
「このきのこ、きらきら!」
「ダメです、それは毒キノコです」
「どくー? きれいなのにー」
「きれいなきのこは食べられないんですよ」
「ぶー。おもちゃにしちゃ、だめ?」
「触るだけでダメなきのこもありますから、ガマンですよ」
「ざんねーん」
よたよたと歩きながら、バスケット一杯にキノコを詰めるショート王子。
バスケットが重いのか、なんだか前のめりで転がりそうだ。
なので、私が横からバスケットを持つと、なんだか不満そうな顔をした。
「だめなんだよ、おんなのこのにもつはおとこのこがもつ、おとこのこのにもつはおとこのこがもつの」
……何それ、超かわいい!
キュンキュンが止まらない私を見て、エイベルがからのバスケットといっぱいのバスケットをショート王子から交換してくれた。
「おじさんは、男の人だから、持っていいよね? 王子様」
「うんっ、おとなはね、こどものにもつもっていいの」
「代わりにもっと沢山キノコを採ってね、王子様」
「あいっ」
元気よく返事をして手を挙げるショート王子。
そしてせっせとキノコを探していく。
もう慣れてきたのか、手早い。
そんな時、ふと目に入ったのが数匹のツバメがけがをして倒れている姿だ。
「ねぇ、賢者様。雀がケガしてる」
「お、クリス。よく見つけたな。これは何かに襲われたかな……」
「治癒魔法を使ってあげて、これぐらいのケガなら、リスクなしで治せるでしょう?」
「まあ、大丈夫だろうね。何も道具はいらない、念じるだけでどうにかなるだろう」
「よかったあ」
私がほっと胸をなでおろしていると、ショート王子がキノコを置いて駆け寄ってきた。そして悲しそうな顔をして雀を見る。
「すずめしゃん、いたそう」
「大丈夫だよ、賢者様が治してくれるから」
「ほんとう? いたいいたい、ない?」
「ないよ。すぐに元気になる」
「こんなにいっぱいのすずめしゃん……かわいそう」
しゅんとしっぽを下げて凹むショート王子。
そうこうしているうちに、エイベルの準備は整ったらしい。
何かをぶつぶつ言って、手を雀にあてていた。
すると、スズメの傷跡が光り輝き、じわじわと傷が治っていく。
「なんていったの?」
「王子様。これは、×××ですよ」
うーん、早口で聞き取れない。
「×××……」
そう言って、ショート王子はスズメの前に手を当てて唱える。
すると、まさかの事態が起こった。
スズメのケガが光り、スズメの怪我が治っていったのだ……。
あっけにとられる私達に、きょとんとしているショート王子。
「なおったね!」
嬉しそうに報告するけれど、治癒魔法って、一部の獣人しか使えないんじゃなかったっけ? ……つまりは。
「王子様には治癒魔法の適性があるようだね。魔法の適性はないみたいだけれど、それより貴重な治癒魔法の適性とは……とても珍しい」
「てきせい?」
「ショート王子は、皆の怪我を直す能力があるって事よ」
「いたいいたい、なおすの?」
ショート王子の表情が輝いている。
「そう、それはとても特別なえらばれし力だよ」
「ボク、えらばれたの?」
「だよ。皆を守ってくれる、最強の能力者だよ」
ショート王子がしっぽをめっちゃ振って興奮している。
目もキラキラしているし、本当にうれしいのだろう。
「やったあ、ボクも、みんなのやくにたてりゅ」
「ふふ、よかったね、ショート王子」
「王子様、さすがだね」
「えへへ」
こうして、ショート王子の能力が判明した。
それを知った王族達は大喜び。さすがは我が王子だと、かなり褒められていた。
「まさか、治癒能力とはねー、すごいレアじゃんー」
「ふん、どうせ頻繁には使えないだろう。わんこ王子はまだ二歳だ」
「ブルーノお兄ちゃん、まだオレ達も子供だし、どこに旅に出るわけじゃないんだから、いいんだよー」
「どうだか、いきなり襲撃にあうかもしれない」
「ないない」
ほかのふたりもなんだか嬉しそうだった。
その後、ショート王子はエイベルに弟子入りすることになった。




