9話
少し間が空いてしまいました。
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ラーゼフ大将に届いた凶報の内容はパルミオン王国の特使であるオルテシア・ミーニャ・フォン・パルミオンのファルラント大陸への行きを阻止してあわよくば拿捕を目的とした第三帝国艦隊が、全滅したとの報せだ。
そう、全滅だ。壊滅では壊滅もあり得ない事だが、全滅は更にあり得ない事だ。
最後の通信は不審な船団がこちらに近づいて来るとの通信が最後でその後はいくら呼び掛けても応答がなく、不審に思った基地から確認のために船を出すとその海域には第三帝国艦隊の物と思われる船の残骸と多数の骸だった。
これを受け帝国情報部は調査に乗り出したが未だに情報は掴めていないとの事だ。
それというのも生存者無しの為に致し方ないだろうが、早く原因を突き止めない事には安心して海上輸送などが出来ずに物資が滞る可能性が高くなる。今は陸上輸送で何とか保つがこれ以上の進軍には支障を来すだろう。
陸上輸送よりも海上輸送の方が遥かに多くの物資を運ぶ事が出来るためだ。
まあ、近年魔動車の開発により馬車での輸送だった頃よりも改善されより速く多くの物資が運ばれる事にはなったが未だに海上輸送の方が多くの物資を運べること変わりはない。
ラーゼフこの凶報に頭を悩ませるのだった。
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王城に着いたグランツ達一行は部屋に案内され今暫くお待ち下さいと言われた。
因みに中隊の部下の殆どは王城の中庭で待機している。
それに万が一に備えて王城の上空には空挺部隊3個小隊が待機している。
部屋へ向かう途中オルテシア達とは一旦別れたが謁見の間で再び再開するだろう。
部屋にはグランツと部下のオッテンドルフ中将に副官のサリーダ大佐と護衛の者が8人だ。
その他にはメイドが3人だけしか室内には居ない。
ソフに座ったグランツ達の(護衛の8人は立っている)前にメイドが紅茶とお茶受けを素早く準備する。
出された紅茶を特に警戒する事なく口に含む。
普通なら毒殺などを警戒して毒味役に先に飲ませたりするが、グランツにはスキルの恩恵によりすぐさま体内で毒の成分を分解して無害化する為意味はない。
その為に躊躇する事なく自然に紅茶に口をつけたのだ。
その事に自身で淹れたメイドも目を見開いて驚いている。
メイド達はそんな事は知らないからだ。まあ、毒を淹れたりはしてはいないがここまで躊躇なく飲むとは思わなかった為だ。
グランツはそんなメイド達の態度をふん、と鼻で笑いながら紅茶を味わう。
そして部屋に備えつけられていた新聞を読む。
この世界にも新聞という物がある。
まあ、前の世界と違い新聞社などは無く王宮が発行している物のみだが。
流石に全てを鵜呑みにする訳ではないが情報は無くて困る物でもない為に暇潰しも兼ねて読んでおく。
主に内容は如何に帝国が非道であるか、王国軍は勇ましく戦い帝国軍から王国を守っているなどの大した事は書かれていない。
あとは帝国の勇者達について書いていた。
一応グランツも勇者達の情報を集めさせねはいるがガードが固く思う様に進んではいない。
それも仕方がないだろう。まだ建国間もないフリーデではそこまで他国に根を下ろしていない為だ。まあそれでも他の国よりも余程優秀な諜報網を持ってはいるがまだ足りない。
だが今はそんな事を愚痴っていても仕方がない。と頭を切り替える。
で、肝心の勇者の事についてこの王国新聞に書かれているのは、人数は6人で若者の男女である。としか書かれていなかった。
思わず溜息が出る。
まさかたった一文しか書かれていないとは予想外だ。
敵の最大戦力たる勇者達の情報がこれだけとは……いや、国の上層部はもっと情報を得ているだろう。
♢♢♢♢
その後暫く待っていると耳につけている通信機に連絡が入った。
内容はどうやらオルテシアが近衛兵を率いて城内にいる裏切り者の講和派貴族の拘束と徹底抗戦派の一部の貴族に不正が発覚した者達の拘束に動き出し、間も無く粗方拘束が完了する。
そしてその後すぐにまた連絡が入った。
それは補給基地を攻撃する様に命じた部隊の司令官からだ。
『こちら、ガボット・ワン目標の破壊を完了しました。周辺に帝国軍の影はなし。こちらの損害は極めて軽微です。数名が軽い擦り傷程度でそれもすぐに完治致しました』と連絡が来る。
ガボット・ワンは作戦行動中のコールサインだ。
グランツは周りのメイドに聞こえなく通話中の相手には聞こえる絶妙な音量で次の指示を出す。
『了解した。ガボット・ワン。引き続き周辺の警戒に当たれ。部隊から一個小隊を抽出し帝国軍の前線基地の偵察に当たらせろ。決して無理しなくて良い。以上通信終わり』
グランツはそう言ってさりげない動作で通信を切る。
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数日前の凶報で頭を悩ませているラーゼフ大将の元へ再び伝令が走ってやって来た。
執務室に入って来た伝令の顔を見るに再び悪い知らせが届いたと覚悟した。
1つ溜息を吐いてから顔を引き締めて伝令に問う。
「何があった?」
「はっ。そ、それが後方の補給基地が敵の奇襲にあい壊滅したとの事です」
顔を青ざめさせながら言う伝令にラーゼフは一瞬頭の中が真っ白になった。
それ程迄に信じられない。いや、信じたくない報せだったからだ。
補給基地はこの前線の生命線とも言える物だ。
その為に警備も厳重であり、守る兵士達も精鋭とラーゼフ大将の信頼の置ける指揮官を配置していた。
帝国軍の数は一個旅団をこの補給基地に配置して更には虎の子の魔導士の部隊を一個中隊も加えていた。
魔導士は数が少ない上に育成に時間がかかる反面強力な力を持っている為に各国は力を入れて育てている。
嘘か真かその昔1人の魔導士が戦局を覆したと言われている。
殆どの人は誇張し過ぎた昔話と思っているが、国の上層部は昔の書物などから考えてあの戦力差を覆すには確かに言われている通りの魔導士が実在しなければ不可能だと今でも議論されている。
そして色々な文献などを調べて見ると過去にはそうした信じられない力を持った人物の事が複数人書かれており各国は個で軍と同等以上の存在を認めその確保に勤しんでいる。
そして帝国は文献を調べ遺跡を調査して勇者召喚の魔方陣を発見した。
如何言う原理で召喚出来るのかはまだ解明はされていないが研究は進み転移魔方陣の作成に成功した。
転移魔方陣の作成には膨大な時間と高価な触媒を要する為にまだ帝都と主要な都市にしか配備されていないがこれがもう少し低コストになればその数は増えるだろう。
帝国以外の国でも勇者召喚の魔方陣が発見された事から各地の偉人達は皆召喚された勇者やそれに類する者では?と言う見方が近年では論じられている。
……割愛
ラーゼフはすぐに部下に命じて残りの食料が何日分持つか調べさせた。
それに加えて補給基地に向けて偵察部隊を送りここ前線基地の警備体制も二段階強化させた。
帝都にも指示を仰ぐべく連絡をしたが、補給基地にある中継機器も案の定破壊されており連絡が出来なくなっていた。
食料を調べさせていた部下が戻って来た。
「どうだった?」
「はっ!食料は残り10日程です」
「それは全体に行き渡らせたとしてか?」
「はっ!その通りです」
「ご苦労。下がって良い」
「失礼します」
残り10日……か。
取り敢えず主だった将や勇者達を集めてこの後について話し合う必要があるな。
「おい!誰か居るか?」
「はっ!何で御座いましょうか?」
執務室の前にいる2人の護衛の内の1人が扉を開け入って来た。
「至急会議室に主だった将と勇者達を集めてくれ。今している作業などは急ぎ引き継ぎをして。出来るだけ急いで来るように伝えろ」
「はっ!了解しました」
兵士は敬礼して部屋を出る。
ラーゼフも書類仕事を一先ず止めて会議室に向かう。