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国を創りて何を成す  作者: 灰色人生
I始まり
8/19

8話

 



 ◇◆◇◆


 前線へとやって来たゼンヤ達はまずは前線の総指揮官である。ラーゼフ大将の元へと挨拶へ向かった。


「ラーゼフ閣下失礼致します。勇者様御一行をお連れ致しました」


「そうか、入りたまえ」


 指揮所の中から渋い男性の声が返ってきた。


 増援部隊を率いて来た少将が代表して扉を開ける。


「失礼します。メルキン少将入ります」と言い扉を開け室内へと入る。


 メルキン少将に続いてゼンヤ達勇者パーティーと勇者の護衛部隊・部隊長のトールズ大佐も室内へと入り扉を閉める。



 ラーゼフは書類仕事を一旦止めて対談用のソファに皆を促し上座に座る。


 確かに勇者は帝国の救世主として(表向きは)召喚されたが、軍内では経験が物を言う為にこの位置付けは当然と言えるだろう。


 ゼンヤは特に不満がる事もなくソファに腰を下ろす。


 ゼンヤに続いてカレン達もソファに座る。


 ラーゼフは今では立場が偉くなり前線に出る事は滅多に無くなったとはいえ、その体は50を過ぎた今でも衰えを知らずに見事に鍛えられ若々しささえ印象付ける程だ。


 髪は白髪になってはいるが未だにその茶色の瞳の眼光は鋭くその目で見つめられると全てを見透かされている様な錯覚を覚える程に鋭利に研ぎ澄まされている。


「よく来てくれたな。勇者殿。どうかね前線の空気と言うものは?」試す様な瞳で問いかけてくるラーゼフの問いにゼンヤは


「ええ、そうですね。思っていたよりもピリついた感じがして少し空気が重い感じがしますが、特に支障などはありませんよ」と気負いもなく軽く返す。


「そうですか、それなら良かった。戦場に初めてくる新兵共は緊張からかまともに機能しない事が殆どでしてね。目下こればかりはどうしようもない問題ですよ。ハッハッハッ」と軽く笑っているがその目は無機質にゼンヤを見つめていた。



 そんな目で見つめられてもゼンヤはさして気にした風もなくどこ吹く風だ。


(さて、これは虚勢か、それともただ単に鈍いだけか…まだ、判断材料が乏しくて何とも言えないな)とラーゼフはゼンヤの一挙手一投足を観察してそう考えていた。


 例え勇者が象徴の側面が強いとはいえ、ラーゼフは無能な者より有能な者を望んでいる。


 まあ、優秀過ぎる者も厄介だが無能な奴ほど時に何をするかわからない怖さがあり時として無謀な事をする事がある為だ。



 チラリとゼンヤのパーティーメンバーを観察する。



 ラーゼフが最初に思ったのはやはり、全員が若いといや、幼いと言った方が適切だろう。


 この世界では15歳で成人と認められるがこの勇者達が居た前の世界では20歳だったらしい。


 そして前の世界ではこの勇者一行はまだ、学生だったらしい。


 なので皆貴族出か裕福な家の者かと思いきやミライ・ササフネ以外普通の平民の家庭だと資料には書いていた。


 ミライ・ササフネは前の世界ではその世界屈指の財閥の令嬢だったらしい。


 その為かその所作の1つ1つに気品があり高位貴族の令嬢並に礼儀作法などを一通り納めている。


 前の世界では子供達は皆学校に通えたと言う。



 ラークタウン帝国にも学校は存在する。


 1つは貴族が通う帝立上級学校。


 1つは一部の貴族や大商人に優秀な平民の子供が通う学校。


 1つは試験に合格すれば誰でも通える帝国兵士育成学校


 1つは騎士を目指す貴族が通う騎士学校


 以上の4つの学校が主な者だ。



 あとは個々の領地でやっている私塾などがある。



 さて、今回の勇者一行の目的は戦場の空気の体験で戦闘には参加させない。だったな。



 それよりもまず、この勇者一行は人を殺めた経験がないと書いてある。



 そんな能力はあるが新兵以下の内容ではとても戦闘には参加させられない。


 もし、万が一があっては大変だからな。



 だがいつかは人を殺める経験も積んで貰わなければならないのも確かだ。


 魔物は倒した事があるとは書いてるがそれも低級のもので、当初はやはり忌避していたと記載されている。


 今でこそ人型の魔物も倒せると書いてるがそれに慣れるのも大分時間がかかったと記載されているので、とても人を殺せるとは思えない。



 まあ、今回はそんな予定はないだろうがな。


 と安堵していると扉がノックされた。


「何だ?今は勇者殿達が居るのだぞ?」と少し不機嫌そうに答えると



「も、申し訳ありません。ですが帝都から至急ラーゼフ大将に伝えたい事があるとの事です」と扉の外から怯えながらもハッキリと伝えて来た。



 ラーゼフは1つ溜息をつき「勇者殿申し訳ないが、そう言う事だ。私は少し席を外させて貰う。後のことは副官のバーグ大佐に任せる」


「はっ!了解しました!」


「わかりました。ラーゼフ大将」


 執務室から出てエーテル通信機が設置されている仮設テントに向かう。


 通信士に「何事だ?」と声をかける



「はっ!どうやらパルミオン王国は他国へと援軍の派遣の要請に第2王女オルテシア・ミーニャ・フォン・パルミオンを特使として派遣する事を決定したようです。そしてこのゼーフィールド大陸ではなく、隣の大陸のファルラント大陸の国へと向かうようです」


 そう言うことか、今この大陸の国々はこの争いには参加するつもりはなく、どちらかと言うと漁夫の利を狙うかのように国境に軍を集結させてはいるがそれは、もし我が帝国軍が王国に対して痛手を貰ったら援軍と銘打って一気にパルミオン王国へ雪崩れ込んで来て、そのまま居座り占拠する腹積もりだろう。



「他には何と言っていた?」


「はっ!海上は第三帝国艦隊が封鎖し、ファルラント大陸へのルートを封鎖するとの事です。そしてラーゼフ大将には申し訳ないが予定を変更して勇者達の力を此処で周辺国に見せつけ牽制して欲しいとの事です。これは陛下からの勅命だそうです」


 これにはラーゼフは顔を顰める。


 素人に毛が生えた程度の者達をいきなり過酷な前線でその力を振るう様な事になるとは思っても見なかった為だ。



 確かに勇者の護衛としてついて来た部隊は精鋭揃いだが今回は肝心の勇者にその力を振るって貰わなければならない。


 果たしてそれが可能か?--と聞かれてもラーゼフは答える事が出来ない。


 何故ならばあまりにもまだ勇者の事を知らないからだ。



 過去に召喚された勇者は数十年も前でしかも帝国ではなかった為にその資料があまりなく、帝国に勇者が召喚されたのは数百年も前にあったと記録されているが、殆どの資料は風化してとても読めるものではなく。


 読めたとしても所々抜けていて意味をなさない。



 だがラーゼフは軍人だ。軍人は命令された事に意を唱えず遂行する事に全身全霊をかけるべきだとラーゼフは常日頃から考えてそう行動して来た。


 まあ、あまりにも愚かな命令だった場合は部下の為にも拒否した事はあるが、その時は何とか凌いで来れたが……今回の命令は皇帝からの勅命であり拒否権は存在しない。なのでやるしかないのだ。



「了解した。と伝えてくれ」


「はっ!了解しました」


 さてと軍議を開かなければならないな




 執務室に戻って来たラーゼフは「勇者殿お待たせしましたな」と和やかにしながら入室した。


「いえ、全然大丈夫ですよ。バーグ大佐に色々聞いていましたから」


 バーグ大佐に目を向けると少し疲労感が顔に出ていた。


 一体何を聞いたのだか…後で何か労いの品でも渡してやるか。と一考した。


「それで、どの様な要件だったのでしょうか?」と聞いてくる。


 普通聞くか?言葉に出かかったが何とか堪える。


 それに此奴にも関係がある事だしな。


「ええ、陛下からの勅命が下りまして。今回は勇者殿達一行は二、三日此処に滞在して戦場の空気を体感して帰るだけの予定でしたが、それが変更になりました」


「それはどの様な変更ですか?」



「それは勇者殿達に力を振るって帝国の威を敷いては勇者殿の偉大さを示して欲しいとの事です」


「大将閣下失礼ながら勇者様方はまだ、対人戦の経験がありません。あるとしても訓練での一対一のみであり、多対一はまだ未経験です」と勇者護衛部隊長のトールズ大佐が意見具申して来た。


「大佐……私もわかってはいるがこれは"勅命"だ。何人もこれに逆らう事はまかりならん。逆らうと言う事は国家反逆罪に処されるぞ?」と眼光鋭くトールズ大佐を見つける。



「し、失礼しました。大将閣下」とトールズ大佐も理解したのか大人しく引き下がる。


 勇者はどうなのかとそちらを見るとふーんと言った感じだった。



「へぇ、やっぱりカレンが言った様にイベントが発生したね」と呑気に言っていた。


 それにしても"いべんと"とは何だ?


「そうね、ゼンヤ。やっぱりお約束だものね」と賢者殿も同意している。


「よぉ〜し!腕がなるぜ!」と格闘王のアキヒロは腕を回して気合を入れている。



「はぁ、やっぱりこの様な事が起こるのね」と剣聖殿は憂鬱そうに呟いている。



「まあ、何とかなるっスよ!カナメっち」ルナは笑いながらカナメの肩に腕を回して上機嫌に言う。


「わ、私も頑張ります」フンス!と胸の前で両手の拳を握り締めやるぞ!アピールをするミライ。



 どうやら皆気合十分の様だ。



「では、そのための軍議を開きたいと思う。集めるのに……そうだな。2時間後会議室に来てくれ。場所は後で教えるのでここで解散だ」と締めくくる。


 ラーゼフ大将は忙しく勇者達だけに構ってはいられないのだ。



 2時間後各部隊長以上の者をほぼ全て収集して軍議を行なった。



 やはり一番のポイントはどのタイミングで何処に勇者達を派遣してその力を振るって貰うかに焦点を絞った。


 そして3時間の軍議の末に明日パルミオン王国軍が特使の派遣の陽動の為に大規模な攻勢作戦を開始するとの情報が入ったので、それを利用する事にした。



 王国軍の作戦は内部の裏切り者達の手で筒抜けだった為に簡単に作戦が決まった。



 あとは決行を待つだけだ。



 勇者達には先に休んでもらいラーゼフ大将は明日のお膳立ての準備に取り掛かる。




 ▽▲▽▲


 翌朝。剣聖のカナメ殿と格闘王のアキヒロ殿の2人はやって来たが後の賢者のカレン殿と聖女のミライ殿がいつまで待っても起きて来なく呼びに行かせた。


「はぁ、すいませんラーゼフ大将。多分あの3人は昨夜もお盛んだったのだと思います」と頭痛を堪える様に頭を抑えながらカナメが告げてくる。


 アキヒロは笑いながら「ハッハッハッ!あいつらも何も戦場に来て朝方までしなくても良いのにな。まあ、俺も人の事は言えないがちゃんと節度をわきまえてるつもりだぜ」


 どうやらアキヒロもやる事はヤッたがちゃんと自己管理は出来てる様だ。



 それにしても聖女と賢者殿もとはな……


 勇者の女好きはここ前線まで届いていたがあの2人もお盛んとはな。


 頭が痛い話だが聖女と賢者は兵士の間では結構人気があるからな。


 もちろん剣聖のカナメ殿も人気だがやはり守ってやりたくなるあの2人の方が断然人気がある。


「カナメ殿も苦労しているのだな」と思わず呟いてしまった。


 カナメは苦笑しながら「ええ、ラーゼフ大将には御迷惑をおかけします」と頭を下げて来た。


「いや、君の苦労を思えば私などまだ、マシだと思えて来たよ」2人して苦労話に華を咲かせた。


 そんな2人を尻目にアキヒロは暇なのか筋トレを始めた。



 暫くふると勇者が悪びれた様子も見せずに「すまない。寝坊したよ」と言って来た。


 一瞬殺意が湧くが、後数日の辛抱だと堪える。



 カレンも特に気にした風もなく唯一ミライが恥ずかしがっているだけだ。



 その後は特に問題もなく予定通りの場所で王国軍の待ち伏せをする。



 暫く待機していると情報通りに王国軍が行軍して来たので十分に引きつけてから矢を射かける。



 突然の襲来に王国軍は目に見えて混乱している。



 そこへ騎馬隊が突撃していき王国軍を縦横無尽に切り裂いていく。



 ある程度蹂躙した所で軍を引く。



 王国軍は何故いきなり帝国が引いたのかわからず混乱していたが、指揮官の指示で陣形を整えて行く。


 賢者のカレンが前に進み出て王国軍に向かい極大魔法を叩き込んだ。



 王国軍の魔法師が必死に防御魔法を唱えるがすぐに突破され蹂躙された。



 残った王国軍は僅かになったがそこへ勇者率いる騎馬部隊が突撃した。



 その騎馬部隊には聖女のミライが神聖魔法の加護を与え仄かに光輝いていた。



 格闘王のアキヒロと剣聖のカナメも勇者の後に続き王国軍を蹂躙して行く。



 王国軍は必死に抵抗したがそれは無駄な努力に終わった。



 こうして王国軍は壊滅した。



 どうやらラーゼフの心配は杞憂に終わった様だ。


 勇者達一行は問題なく人を殺める事がわかった。


 まあ、聖女はわからないが彼女は後衛だし問題はない。


 それに賢者のカレンも直接その手ではなく魔法でだがそれでもあれだけの魔法を撃てるのだ、問題はないだろう。




 その後帝国軍は歩を進めて王国の都市を3つも陥落した。


 殆ど抵抗と言えるものは存在せず楽に占拠出来た。


 先の攻勢作戦に参加した兵士の大部分が失われたのだ無理もない。


 それにこの帝国軍に勇者一行がいる事も理由の1つだろう。



 そうして数日間占拠した都市で疲れを癒す為に駐屯しているとラーゼフ大将の元に凶報が届いた。








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