5話
♢時は数週間前に戻る♢
グランツが無人島に転移したのと時を同じくしてラークタウン帝国の帝都では勇者召喚の儀式が執り行われていた。
勇者召喚には莫大な魔力を要するのでラークタウン帝国は数十年前から密かに計画を立て、少しずつ魔術師により魔力を専用の器に貯めて行っていた。
それがつい数日前に貯まりきり皇帝は勇者召喚の儀式に取り掛かるように宮廷魔術師長に命じた。
それて今日全ての準備が終わり全宮廷魔術師による召喚の儀式が行われた。
そして光の柱が降り注ぎその中心には6人の男女の若者がいた。
6人全てが同じような服装をしていた。
彼らは同じ高校に通うクラスメート達だ。
今回修学旅行で初の海外に向かうのに乗っていた飛行機が墜落してそれに乗っていた乗客だ。
そしてこの6人は何時も一緒にいるグループだ。
1人は茶髪に黒眼の高身長のイケメンの男だ。
彼の名は白井 善矢である。
彼はクラスでも中心人物であり周りの女の子からの人気も高い所謂リア充である。
もう1人の男は短髪の黒髪黒眼の褐色の肌を持ち鍛えられた体を持っている。
彼の名は郷田 明宏である。
彼は柔道をやっており全国大会の常連者だ。
次の彼女はストレートの黒髪に少し青みがかっている。
眼の色は黒である。
彼女の名前は姫崎 可憐である。
彼女は容姿端麗であり成績優秀な女生徒であり、学園のアイドル的な存在だ。
胸は大きく腰回りは細く手足はスラット長いモデル体型だ。
次の彼女は黒髪黒眼で髪はポニーテールにしており赤縁の眼鏡を掛けている。
彼女の名前は須原 カナメである。
彼女も成績優秀であり常に学年トップの成績を誇る委員長タイプの人間である。
物事を冷静に考え行動する。
体型はスレンダーだが出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
次の彼女は茶髪がかった髪を短く切り揃えており目は猫に似ている。
彼女の名前は西園寺 瑠奈である。
スポーツ万能でありその勝気な性格からとても負けず嫌いである。野性味あふれた少女だ。
最後の少女は黒髪黒眼をしており髪をツインテールにしている。
彼女の名前は笹舟 美蕾である。
小柄であり守ってあげたくなる程だ。
彼女は自身の幼児体形を気にしている。
そんな6人の登場に宮廷魔術師達は成功したことに安堵していた。
もし、失敗しようものなら数十年の成果と努力が水の泡にかえり彼らもただではすまなかっただろう。
6人の前にこの国の第一皇女ルクスレリナ・アルロ・ベートリデ・フォン・ラークタウンが一歩進みでる。
「ようこそ。ラークタウン帝国、帝都へ勇者の皆様方。私はこの国の第一皇女のルクスレリナ・アルロ・ベートリデ・フォン・ラークタウンです。以後宜しくお願いしますね」と挨拶する。
ルクスレリナは黒のドレスを着ており腰には一振りの剣が携えてある。
彼女は帝国十二神将の序列5位の剣使いであり、八剣士の1人でもある。
帝国十二神将は帝国最強の上位12人の将軍に贈られる称号である。
同じく八剣士とはこのラークタウン帝国のある、ゼーフィールド大陸と隣の大陸のファルラント大陸の剣士上位8名を指して言う称号である。
「さて、この中で何方が勇者なのでしょうか?」
ルクスレリナは6人全員が勇者だとは思ってもいない。
更に言えばルクスレリナは勇者の事をあまり快くは、思ってもいない。
何故ならば帝国には十二神将と言う一騎当千の猛者達が(自分も含めて)いると言うのにそれも異世界の勇者などと言う御伽話の様な者の力を借りずとも十分に他国を侵略出来ると思っているからだ。
本当はこんな場所には来たくは無く鍛錬でもしていたいが、仮にもこの国の皇女なので仕方なくやって来た。
妹達でもいいのではないかと思ったが、父である皇帝に勇者の実力も把握するには武に長けたお主が適任だと言われたので渋々了承した。
そして現れた勇者一行は自分と同じかそれよりも少し若いぐらいの者達だ。
これで一層ルクスレリナは懐疑的になったが、この世界では若くても強い者はいるので今は要らない先入観は一先ず置いておこうと思ったが立ち振る舞いから、見るからに素人丸出しである。
唯一ガタイのいい青年が辛うじて武に通じているとはわかる程度だ。
急に見知らぬ者達に囲まれてそれが見るからに外国人の者に話掛けられて驚いたゼンヤ達だが言葉が通じたのと自分はあの神とか言う老人に力を貰ったのを思い出してなんとか平静を保てた。
そして勇者と言われて思ったのがカードに書かれていた内容の事だろうと思った。
「勇者は僕だよ」
ゼンヤはそう話しかけて来たルクスレリナに言った。
白井善矢が手に入れたカードに書かれていたのは【勇者】【☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆】である。
他の者達は郷田明宏は【格闘王】【☆☆☆☆☆☆☆☆☆】と書かれており姫崎可憐は【賢者】【☆☆☆☆☆☆☆☆☆】と書かれていた。
須原カナメは【剣聖】【☆☆☆☆☆☆☆☆☆】であり西園寺瑠奈は【大召喚士】【☆☆☆☆☆☆☆☆☆】と書かれており最後の、笹舟美蕾は【聖女】【☆☆☆☆☆☆☆☆☆】と書かれていた。
その事を告げると一同は驚いた。
6人のうち誰かは勇者で他の者はオマケぐらいにしか考えていなかったが他の者達の職業も勇者に負けず劣らず伝説級の者だ。
そして1番ルクスレリナが興味を示したのが剣聖のカナメである。
剣聖とは数多いる剣士達の頂点の職業のうちの1つである。
なので手合わせをしたくてウズウズしていた、正直まだまだだが磨けば光るだろうと思っていた。
その後自己紹介を終えて簡単な質疑応答をした。
まあ、話の内容は9割がたこちらの都合のいい様にだが。
彼ら勇者一行はまだまだレベルも低く弱いので鍛錬が必要だろう。
だがそれよりも重要な事はラークタウン帝国に勇者がいると言う事実だ。
これで大義名分が出来た帝国は早速勇者の名の下にパルミオン王国に宣戦布告を開示したと同時に電撃侵攻した。
パルミオン王国側もいつかは攻めてくるだろうと覚悟はしていたがまさかの勇者召喚に動揺した隙を突かれてパルミオン王国内部深くまで切り込まれてしまった。
自分達の名の下に争いが起きているとは知らない勇者達は贅沢を満喫していた。
彼らはまだ学生であり引いては子供であった所を突かれた。
まあ、この世界では15歳で成人と認められるので勇者達もこの世界基準では大人だ。
いくら地球ではまだ子供です。と主張したとしてもこの弱肉強食の世界では認められないだろう。
なんせこの世界では弱いのが悪い為だ。
こうして勇者達は国賓級の扱いを受けながら帝国近衛師団の一部隊に戦い方を日々教わっていく。
6人はいや、カナメは違うがそれ以外のメンバーは少しゲーム感覚であまりにも危機感が欠如していた。
それに嘆いていたカナメだが注意してもあまり聞く耳を持って貰えなかった。
ルクスレリナはそんなカナメに近づき相談に乗ったりして仲を深めていった。
そしてカナメはルクスレリナに師事をして剣を必死に習った。
元来真面目な性格のカナメは言いつけ通りに鍛錬をしながらも自身の悪い所を積極的にルクスレリナに聞き修正していった。
カナメのこの態度に非常に好感を持ったルクスレリナも真面目に彼女に剣の道を教えた。
カナメがこうして頑張っている一方で他の勇者一行は帝都を観光していた。
まあ、途中でアキヒロは日課の鍛錬の為に抜けていたが、他の者達は観光を楽しんでいた。
数日後流石このままではいけないと思ったのか自分達の指導役の騎士達に教えを請い鍛錬を始めた。
◆
「ふぅ、今日も疲れたね」
「そうね、ゼンヤ。それにしても日々成長していってるのを感じるわ」
カレンは嬉しそうに自身の成長を喜んでいた。
何せ普通なら魔法式などを覚えるのに半年は最低でもかかると言われていたがカレンは僅か5日で、暗記した。
それと言うのも魔法式は数学の公式に似ていたので難なく出来たのである。
アキヒロは元々の身体能力の高さに加えて格闘王の補助もある為に日々色々な格闘技を習い習得していっている。
「ああ、向こうじゃ信じられないくらいの速さで自分が強くなっていけているって、実感出来るのが良いよな」
「そうです。それに皆さんがもし怪我をしても私の治癒魔法で治すのです」
そう言ったのはミライである。
彼女は教会の神官達に回復魔法を教わりその中でも治癒魔法に抜群の適正を見せている。
回復魔法は治癒や解毒などの事の総称である。
「それは頼もしいっスね。その時は宜しく頼むっスよミライちゃん」
ミライに抱きつきながらルナは言った。
ルナは日々迷宮に潜り魔物達を倒しては契約していっている。
その為に1番怪我をする回数も今の所一番多いだろう。
「ええ、それは頼もしいわね。私もみんなに負けない様に頑張るわ」
剣の手入れをしながらもカナメはそう宣言した。
「それにリナは教え方も上手だからとても良い先生よ」
リナとはルクスレリナの愛称である。
2人はとても仲良くなりルクスレリナが家族以外で初めて自身の事を愛称で呼ぶ事を許した人間だ。
因みにカナメだけであり、他のメンバーはまだ許して貰ってはいない。
「本当にカナメはルクスレリナさんと仲が良いよねぇ。僕達にはまだ余所余所しい感じがするからね」
ゼンヤは苦笑してそう言った。
ゼンヤは今まで多数の女子に囲まれて好感を抱かれていたがルクスレリナはそんな他の者達とは違いちゃんとした線引きをしており決してこちらの懐に深く入って来ず、逆にこちらが近づこうとしても鉄壁の如き守りと言葉使いでヒラリヒラリとかわしたりガンッ!と跳ね返したりする。
なので未だにルクスレリナの事はよくわからないのがゼンヤの認識だ。
それなのに何故かカナメだけは気に入られている。
これが他のカレンやルナそれにミライも仲が良かったなら一国の皇女として異性とはちゃんとした線引きをしているだけと思っただろうが、彼女達にも余所余所しい態度は崩さない。
唯一崩すのがカナメだけだ。
ルクスレリナが相当の剣の使い手とは知ったがそれで剣に適性を持つ剣聖のカナメを気に入ったのかと思ったが、よくよく考えれば勇者のゼンヤも剣を使う。
まあ、併用して魔法も使うがそれでも一応剣の道に通じてる筈だが一向に心の壁は崩れず日々分厚くなっていっているような錯覚を覚える。
だがそれとは反対に前に廊下で出会ったりする貴族令嬢達には地球にいた頃と同じで好感触である。
中には露骨に誘惑してくる者までいるぐらいだ。
それ程までに勇者と言う肩書きは皆が欲していると言う事だろう。
それに加えてゼンヤは無類の女好きである為に問題になった事もある。
既婚者の婦人と寝たりしてそれがバレて相手の夫から決闘を申し込まれた事も何回かある。
婚約者がいる貴族令嬢もその甘いマスクと鍛えられた肉体を持って奪い去ったのも此処1週間で一度や二度ではない。
それに何故かゼンヤは女性のピンチを感じ取り颯爽と現れて幾度も救っている為に女性陣からは人気が高いが、反面男性陣からは反感を買っている。
中には自身の婚約者を寝取られた騎士達も混じっている。
こんなにも女性陣からは人気があるゼンヤをしてもルクスレリナは全く靡かない。
このグループでもカナメだけはゼンヤもまだ手を出した事はないと言うか彼女も鉄壁のガードを誇っている。
それでお互いに何か通じるところでもあったのだろうか?
そんなくだらない事を考えていたゼンヤだが扉がノックされた事によってその思考は一旦頭の隅に追いやった。
「どうぞ」カナメが入室の許可を出すと「失礼します」と言い扉を開けて入って来たのは近衛兵であった。
「皇帝陛下がお呼びです」と告げて来たので皆椅子から立ち上がり呼びに来た近衛兵の後に続いて謁見の間に向かう。
「よく来たな。勇者の諸君面を上げてくれ」
皇帝の言葉に従った顔を上げる。
この際目線は皇帝の胸あたりに留めるのが基本だが勇者達には顔を見る事を許可している。
何せ元の世界では学生だったと言うのでこんな礼儀作法などは全く知らなかったからだ。
それに皇帝のガルドレイ・バーング・ストラトス・フォン・ラークタウンも勇者には別に礼儀作法は求めてはいないのでそこら辺の細かい作法などは抜きにして必要最低限の作法だけ教えた。
「呼び出したのは他でもない。今我が国と隣国のパルミオン王国が戦争状態なのは知っているな?」
皇帝の言に一同は頷く。
彼らは数日前にこの世界の歴史などの授業で現在ラークタウン帝国とパルミオン王国が戦争状態なのは聞いていた。
「そこでだ兵の士気高揚も兼ねて一回戦場の空気を体感して貰いたい。勿論貴殿らだけで派遣するのでは無くちゃんと護衛も精鋭を付けるので安心するがよい」
この言葉に勇者一行はいよいよか、と思った。
あの神を名乗る老人から現在の大陸に関する情報をある程度教えられていたのでいつか、自分達もその争いに巻き込まれるだろうとは思ってはいたのである程度覚悟は決まっていた。
それに自分達はまだ運が良い方だと思っている。
他のクラスメート達にはまだ会ったことはないが碌な場所に転移させられたとも限らない。
それに一から自分の力だけで生活していかなければならないだろうと思っている。
この弱肉強食の世界で如何に1人で生きるのが難しいのか街に観光に出た時に見た貧民街の住民をみて理解している。
一同を代表して「わかりました。その任お受けいたします」と告げた。
「それは、重畳。では後ほどこの事を前線の兵達に布告せよ。それに伴って勇者達の鎧の準備に取り掛かれ。今日より1週間後に出発とする」
これにて皇帝との謁見は終わりを告げた。
この1週間勇者達は少しでも強くなれるように一生懸命鍛錬をした。
そして来たる1週間後盛大なお見送りを受けて前線のある西に向けて勇者一行と増援部隊並びに勇者一行護衛隊合わせて約五千が西の前線地帯に向けて出発した。