4話
パルミオン王国海軍船2隻の元へ向かわせたアイオワ号から連絡が来た。
アイオワ号から来た連絡を通信士が読み上げる。
「何でもフリーデ国、国家元首に御目通りしたいとの事です」
グランツは暫し考える。
ふむ、何れは大陸へと思っていたがまさかあちらの国の方から来るとは思っても見なかったな。
「ユーネどう思う?」
グランツは自身の副官に尋ねる。
最初の内はミスロバと呼んでいたが最初からグランツに仕える彼女に何時迄も他人行儀なのは如何かと思い何度か食事に誘ったりしていると、気付けば男女の関係になり数日前に盛大に結婚式を挙げて目出度く夫婦になった。
グランツ自身もまさか結婚するとは思っても見なかったが一途にグランツを思ってくれるその心に次第に惹かれていき結婚を決意した。
因みに前の世界では独身だった。
今は案外結婚生活も悪くないと思っている。
だが私的の場では夫婦の関係だが公務の時は2人とも呼び名は変わったが上司と部下ときっちりと分けて考えられる2人だった。
「はっ!グランツ閣下私が思うにお会いしてもよろしいのではないかと思います」
ユーネも賛成か、まあ別に会っても会わなくてもそれほどデメリットは無いが今のうちに大陸への足掛かりを作るのも悪くはない…か。
よし!そうと決まれば「通信士、トルッテ提督に彼らを我が国の本島オリジネにある港町カッソの港湾まで護送せよ。と伝えたまえ」
「はっ!了解しました」
続いてグランツは「ソルダム少将にカッソまでパルミオン王国一行を迎えに行き。この総統府迄護送する様に伝えろ」
別の通信士が立ち上がり「はっ!了解しました。直ちに取り掛かります」と言い陸軍省に連絡を取る。
「ユーネ、すまないが後の事は任せる。私は歓迎の準備を始めるので後で合流してくれ」
「はっ!了解しました。グランツ閣下」
ユーネに後の事は任せて護衛を引き連れ会場選びから警備部隊の選抜までを急いで執り行う。
ついで市民たちにもパルミオン王国の外交団の訪問を告知した。
一応治安部隊を念のために増強させて有事に備える。
別段市民はパルミオン王国に悪意や害意などは持ち合わせてはいない(まあ好意もだが)が初めての外国人になる為にもしもの可能性がある為だ。
こうした細かな気遣いもしなければならない為にグランツは辟易とする。
自身が望んだ戦争はまだ出来ていないがその為の準備だと思えば頑張れる。
ふと、他の転生者や転移者は今頃どうしているかな?と思ったが今の自分にはあまり時間が無いなと思います準備を急いだ。
それに一番の問題は既に解決済みだ。
それは‘‘言葉,,だ。もしこの世界の言葉が理解出来なければそれで詰んでいた可能性もある。
まあ、その時は専用の言語解析部隊を作って事に当たらせていたが……後は文字だな。
仮に神の力で言葉はわかる様になっているが読み書きが全く出来ない可能性もある。
その為にその事も調べなければならない。
警備にはティターンも動員する予定だ。
だが動員するのは第一世代機のみで辛うじて隊長機の第一世代機改を参加させる。
例えパルミオン王国が同盟国でもやはり全ての手の内を見せるのは危険だと判断した為だ。
ティターンを動員する理由は大陸には魔装機兵と呼ばれる物が存在する事があの神から送られた情報に入っていたからだ。
その為に無いと相手側に舐められる可能性があるのだ。
そうしてあれこれ試行錯誤を繰り返してパルミオン王国の外交使節団を迎える準備が出来た。
■■■
会場に到着したとの連絡が入る。
暫く待つとアナウンスがなり『パルミオン王国外交使節団一行の皆様が来場為さいます』と響いた。
この場に居るのは総統であるグランツに副総統のユーネ。後は各機関部門のトップ達が軒並み揃って居る。
扉が開かれて白のドレスを纏ったオルテシア王女とそれをエスコートする、タキシードを着たアリッサを先頭に軍服姿のビトケンティス准将にその副官、ラルゴ大佐やデルロ艦長並びに上級士官や文官が続く。
グランツはそれを普段の服装より一層豪華絢爛にした軍服を着て玉座に腰掛けている。
この玉座も最初は要らない、と言っていたがユーネや上級将校達に必要です!と言われた為に用意して仕方なく座っているが周りから見るとまさに王の風格が見て取れる。
そんなグランツの内心を知らないオルテシア王女は(あの人がこの国の王様ね。まさに王者に相応しい覇気と風格を携えているわ、それに見事に鍛えられた体から察するに武にも通じているわね)と考えていた。
グランツが座っている玉座は他の場所が見下ろせる様に高みにありオルテシア王女はその手前の場所で立ち止まり、ドレスの端を持ち優雅にお辞儀をする。
他の使節団もオルテシア王女がお辞儀をするのに併せて跪く。
「パルミオン王国第2王女オルテシア・ミーニャ・フォン・パルミオンで御座います。今後ともよしなによろしくお願い致します。…この度は突然の来訪にも関わらずにこの様な歓迎の宴まで御用意下さりまして、感謝の言葉もありません。この交流を切っ掛けに我が国と貴国フリーデ国との仲が少しでも近付ければ幸いで御座います」
オルテシア王女の返事にグランツは暫し考えてから口を開いた。
「私はこの国の国家元首である、総統の地位にあるグランツ・オディウムと言う者だ。それとこの会場を見て気づいた者もいようが、その通りだ我が国には貴族と言う存在がいない。その事で戸惑われる事もあるかと思うがご了承なされよ」とグランツは告げた。
その言葉に使節団の数人は動揺したが周りの者に何か言われてすぐに落ち着きを取り戻した。
現在パルミオン王国のある大陸では貴族が居ない国は存在しない。
共和国と言う国はあるが大分権力を削られてはいるが未だに貴族は存在している。
もう1つの大陸には貴族が存在しない国があるらしいが詳細はわからない。
オルテシアは貴族がいないと言うことに少し動揺したがすぐに平静を装った。
確かにオルテシアの故国であるパルミオン王国がある、ゼーフィールド大陸には貴族が存在しない国は存在しないが、だからと言って相手側が平民の将軍などに会ったことはあるのでそこまで驚きはしなかったが作法に対して幾つかの違いがあるかもしれないと、少し不安を瞳に宿した。
それを察したグランツは「お互い慣れぬ事もあるかと思う。なので多少の無礼はこの際はお互いに水に流そう。これから少しずつお互いを知っていけば良い」とフォローする。
つまりグランツにはパルミオン王国と交流する意思があると言う事だ。
「そうですか、わかりました。寛大な御配慮感謝致します」
その後終始和やかに会話は進んだ。
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場の雰囲気が温まったところでオルテシアは本題を切り出す。
「ところで、オディウム陛下。今我が国と隣国のラークタウン帝国とで戦闘状態に陥っており現在我が国は佳境に立たされております。そこで不躾ながらも平にお願い致します」
オルテシアはグランツは言葉を飾り立てたり湾曲な物言いを好まないと僅かな会話で判断した。
そこで素直にパルミオン王国の現状を説明し、グランツに救援を要請する事にした。
「我がパルミオン王国に救援部隊を派遣しては頂けないでしょうか」と深く頭を下げた。
他のパルミオン王国の者もオルテシアに続いて深く頭を下げた。
グランツは暫し考えた後に「救援部隊を派遣するのは構わないが我が国に何かメリットはあるのかな?」と声は穏やかだが目は鋭くオルテシアを見据えていた。
オルテシアは少し怯んだ様だが、すぐに立て直し「はい、まずは我が国に恩が売れます。それと帝国軍を追い返し、その後反撃作戦で奪った帝国領の半分をフリーデ国へと考えております」
即座にグランツは言葉を返す。
「それでは、足りないな。まず、貴国に恩を売れるのは当たり前としてだ、その後の反撃作戦に参加する義理はなく、貴国は今滅亡の危機に陥っているそれに対して取り戻した領地を無償で貴国に変換するのはすこし、虫が良すぎやしないかね?」
確かにそれは虫が良すぎる、と言っているオルテシアも思っているが、もし金銭などを要求されたとしても払えない。
度重なる敗戦で国庫は火の車である。
その為に取り返した領地も荒らされている事だろうがそれでも一から畑などを耕し直すよりはマシだ、その為に今は取り返した領地を割譲する余裕もない状態だ。
オルテシアが言葉を発するよりも早くグランツが再び口を開く。
「ならば食料支援などもしよう。それとパルミオン殿。例えば取り返した領地の一部を我が国に頂きたい。そこに基地を立てて帝国の防波堤になろう。その代わりに貴国にはその為の報酬を貰いたい。無論貴国の財政が傾きつつある事も理解している。その為の担保を貰いたい。例えば貴国の主要な鉱山の一部を決められた期間までに我が国に報酬を渡せなかった場合貰い受ける。その代わりに期間までに貰えれば鉱山は貴国の物のままだ」
どうだろう、と言うグランツの言葉を脳裏で繰り返して処理する。
メリットとデメリットを即座に弾き出した。
このままではパルミオン王国はラークタウン帝国に破れ、王国民は奴隷に落とされるだろう。
それにこの条件はそれ程悪くはない。
フリーデ国の国力などは不明だがここに来るまでの街並みを見て決してこの国の国力は低くはないだろうと判断した。
「わかりました。その条件でお願い致します」
「わかった。では調印に移ろうか」
その後2人は調印にサインをしてここにパルミオン王国とフリーデ国との同盟が成立した。
その後のグランツの行動は早かった。
元々軍を派遣するつもりだったのですぐさま出撃準備に取り掛からせた。
その素早さにパルミオン王国外交使節団は瞠目した。
それを視界の端に見やりグランツはニヤリと笑った。