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鋼鐵の海神  作者: 月野原行弥
3/11

序章

 どごぉぉぉぉぉぉぉん!!


 爆発音とともに艦体が上下左右に激しく揺さぶられる。シェイカーの中に放りこまれてシェイクされている気分だった。


 ピコォ~ン、ピコォ~ン


 ソナーの発する探知音とともにスクリューの音が近づいてきた。

「取舵二十、微速前進」

 頭上に迫るスクリュー音の真下を避けるため潜水艦長は命令を発した。


 ピコォ~ン、ピコォ~ン


 すると、今まで聞こえていたのとは正反対の方向から別の探知音とスクリュー音が響いてきた。

「くそっ! なんでこんなとこに駆逐艦がなん杯もいやがるんだ? これだから物量主義のやつらはいやなんだ!」

「落ち着け。頭に血が上ってもいいことなんて一つもないぞ」

 執拗に爆雷攻撃を仕掛けてくる敵駆逐艦の数の多さに先任将校の水雷長は毒突いた。(潜水艦には副長がおかれないため先任将校が副長の役を担った)手近な計器盤につかまって身体を支えながら潜水艦長は水雷長をたしなめた。

「いくら敵さんの国力が桁違いだからといってこんなところに艦隊を常駐させておけるわけがないだろう?」

「それなら、あの艦隊は……」

 潜水艦長の言葉で気づいたらしく水雷長は頭上に目を向けた。水雷長の思いついた通りだと潜水艦長は頷いて見せた。

「ああ。間違えなくなにか大掛かりな作戦で出撃してきた艦隊の前衛だろうな」

「それなら、この情報は是が非でも持ち帰らなければいけませんね?」

「そういうことだ。こんなところで沈められるわけにはいかん」


 どごぉぉぉぉぉぉぉん!!


 また爆雷が爆発し艦体が激しく揺さぶられた。艦内に張り巡らされた配管がその衝撃で緩み水が噴き出した。

「レンチを持ってこい! 早くしろ!」

 下士官が自分の上着を脱いで配管の隙間に押しつけ工具を取ってくるよう怒鳴り声を上げた。


 ピコォ~ン、ピコォ~ン

  ピコォ~ン、ピコォ~ン


 休む間もなく複数の探知音が迫り続けて爆発音が響く。工具を持って通路を走っていた水兵は身体を支えることができずに壁面に叩きつけられた。

「おい、しっかりしろ!」

 脳震盪でも起こしたようで水兵はぴくりとも動かなかった。骨が折れたのかレンチを握ったままの腕があらぬ角度に曲がっている。下士官は声をかけたが配管から手が離せず助けにゆくことはできなかった。

 

 どごぉぉぉぉぉぉぉん!!

  どごぉぉぉぉぉぉぉん!!

   どごぉぉぉぉぉぉぉん!!


 次々に炸裂する爆雷に揺さぶられ他のものも助けにいくどころか自分の身体を支えるだけで精一杯だった。

「やむをえんか……」

 目を瞑って考えこんでいた潜水艦長が呻くように声を上げた。

「艦首三下げ、艦尾二上げ」

「待ってください、艦長!」

 潜水艦長の命令を耳にした水雷長は悲鳴のような声を出した。

「もう安全潜行深度の百メートルをとうにすぎています。これ以上深く潜ったら……」

「わかっている。しかしこのままではじりじり追い詰められて止めを刺されるだけだぞ? 敵の包囲網をかい潜るにはこれしかない」

「わかりました」

 腹をくくったように水雷長は頷いた。

「艦首三下げ、艦尾二上げ」

「艦首三下げ、艦尾二上げ」

 もう一度潜水艦長が命令を発し潜舵(せんだ)手と横舵(おうだ)手が復唱した。

「深度百十、百十二、百十五」

 水深計の針に目が釘づけになった航海長が脂汗を浮かべながら深度を報告してくる。

「もう少しだ。もってくれよ」

 艦体からは鉄と鉄がこすれるようないやな音が聞こえてくる。頭上からは神経を逆なでするような探知音。潜水艦長は固唾を呑んで呟いた。

「深度百二十」

「よし、水平に戻せ」

 壁からは鉄がきしむようないやな音が響いてくるが艦体が水圧に負けて押しつぶされる様子はない。潜水艦長は他の乗組員に気づかれぬよう小さく息を漏らしてから潜行を止めるよう命令を出した。

「聴音手、敵艦隊が手薄なのはどっちだ?」

「待ってください……。右舷三十度辺りが一番スクリュー音が少ないですね」

 九三式水中聴音機の計器を操作して聴音手が答えた。

「よし、面舵三十。微速前進」


 どごぉぉぉぉぉぉぉん!!


 潜水艦長が命令を発したのと爆雷が爆発したのは同時のことだった。安全潜行深度を越え艦体に負荷がかかっていた。そこへ爆雷による衝撃までが加えられた。艦内の配管が水圧に耐えられず次々に水を噴き出していった。

「こっちにもレンチをよこせ!」

「補強材はどこだ!?」

 水平たちが慌ただしく緩んだ配管を締めつけきしみを上げる艦体に補強の木材をかまして必死にダメージコントロールに奔走する。しかし、一つの配管からの漏水が止まってもまた別の配管から水が噴きだしてくる。

「蓄電池室に浸水!」

「排水ポンプ、作動不能!」

「蓄電池室よりガスが発生!」

「これまでか……」

 蓄電池が海水でやられてしまっては潜水艦は水中で身動きが取れない。それどころか電解液と化学反応を起こして猛毒な塩化水素まで発生してしまう。換気ができない潜水中の潜水艦にとっては致命的だ。次々に届けられる艦内の損害状況の報告に潜水艦長は唇を噛んだ。

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