第2話 下校(平日真っ昼間の場合)
い、忙しい………
特に話題があるわけでもなく(勇者が来た話とかは除く)、始業式が終わった俺は、午後からの仕事の為に足早に家(店)に帰ることにした。
ジェイドも同様で、カチアは自らの送り迎えで来ている馬車でジェイドを送ると言いだした。
………ジェイドがライバル店舗で働いていて、なおかつカチアは南側に帰るのに東側回るのかっていうのを理解しているのかどうかと思う事数多。これが恋に盲目な乙女か、勘弁願いたい。
いつも通り2人でそれを止めてから、校舎玄関へ向かう。
「明日から忙しくなりそうだな」
「ああ。まったく、真ん中の学年になったかと思ったらそのまんま中間管理職っぽい立場になりそうでめんどくせぇなぁ~」
「それもまた一興ってヤツさ。じゃあな、ジェイド」
「おう。ったく、お前のその前向き精神が時々羨ましくなるぜ………」
ジェイドの愚痴に苦笑いしつつ道に出たところで別れる。
行きは右側、帰りは左に見える皇城、どちらを見ても広がる庭園に、ちらちら視界に現れる国を支える省庁の建物。
今までの2年間で一部が変わりはしたが、基本的にいつも通りなそれらを視界の端に捉えつつ、西門へ向かう。
「今日は帰りもエルさんの担当ですね」
「ああ。にしても、早く妻と娘の元へ帰りたいよ………」
「あの、隊長。まだ勤務時間半分近くあるんですけど………」
部下に苦笑いされるエルさんに生徒証と通行証を渡しつつ、俺自身も苦笑いする。
見ての通り、エルさんことエル・フィバル西門警備兵長は皇城エリアの人々の中でも屈指の愛妻家で有名で、最近愛娘が誕生し、親馬鹿が足されるどころか掛け算されてより顕著になった。
彼は普段朝6時から9時間働いているが、朝の忙しい時間を過ぎた頃からやりきった感を出して帰りたい旨を口にし始め、勤務時間を半分過ぎた頃にはずっと言っているらしく、交代直前になると他の警備兵にも絡み始めて、警備兵長の地位も相まって手が出せないらしい。
俺自身も13時頃に門を通ろうとした際、ふとした拍子に相槌すら打たせないペースで内容の濃すぎる話を10分間ぶっ通しで聞かされた。たまたま誰も来なかったけど他に通る人がいたらどうするつもりだったのだろうか………。
なおそれ以外はしっかりした人で、むしろ責任感は増しており、有事の際は冷静に指示を出してその職務を全うする。その為部下からの信頼は厚い。苦笑いする人が多いとも言えるが………ともかく誠実で心優しく、周囲から頼りにされるお兄さんという人である。
「はい、返すよ。君もいつかは家庭を持つさ。その時になれば、家に愛する妻と子供がいることの素晴らしさ、故に離れている時の孤独感を実感するだろう。わかるだろう?」
「はぁ、なんとなくわかります」
「そうだろうそうだろう。家に帰れば笑顔の妻があなたおかえりと言ってキスしてくれて────」
「隊長。俺も家庭あるからその気持ちはわかりますけど、何回も言ってますが万年新婚夫婦みたいにラブラブ状態を勤務中に持ち込むのいい加減やめてくれませんかね?これ言うのも何回目かわかりませんけど………セルジュ君は行った方がいいよ、今更な気がするけどやっぱり君を巻き込みたくない」
「あはは………じゃ、お言葉に甘えて失礼します!」
「あ、セルジュ君!まだ話は終わってな「ほら隊長!他にも通行しようと来た人はいるんですよ!」むぅ………」
楽しそうで何よりです。
そそくさと城門から走った(逃げてない)俺は、大通りを店(自室)に向かう。
昼休み直前の時間帯となる11時台は、混雑を避けて早めに昼食を取る人々に、12時台に向けて先に自分の食事を済ませる飲食店の人々、それらに応対すべく動き回る人々など、あらゆる食べ物の匂いを纏った人々が騒がしく動き回る。
今でも十分忙しそうな飲食店だが、12時になり、庶民街や商業街の大半がが一斉に昼休みに入ると、殆どの飲食店がフル稼働することになる。人気店はそれこそ毎日大行列だ。
そんな鼻腔をくすぐる匂い溢れる大通りを歩いている俺も、そんな匂いに囚われるわけで、
─────ぐぅー。
「………先にメシ食べるか」
家まであと5分足らず。
別に職場の食堂で食べてもいいのだが、こういう時はいつもと違う行動をしたくなる。
仕事は13時からなので、余裕はかなりあることもその気持ちを後押しした。
大通りと十字クロスして続くいくつもの通りのうち幾つかは飲食店街で、ちょうど目の前でクロスする通りがそれだったりする。
俺はいい店を探すべく飲食店街へと歩を進めるのだった。
「………いらっしゃいませ〜!おひとり様で?」
「はい、とりあえずサラダください」
ペース戻したさエクストリーム
が、頑張りますよ………