第2話 異世界侵略者、襲来(1)
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「(やっぱり、空は歪んで見えたんだよな……)」
川口で遭遇した騒ぎの翌日の昼過ぎ。午後二つ目の授業を受けていた冬斗は教室の外に広がる文教副都心の街並みをぼうっと眺めていて、どこか上の空だった。
昨日起きたあの事象は、案の定というか勿論の事だが夜のニュースは軒並みどこも突然発生した停電と通信障害について報道していた。
報じられたのは幾つかの事実。
停電と通信障害は金華市周辺でのみ発生したということ。
停電は公共交通機関も影響を受けて一時運転を見合わせ。ただし直後に復旧した為安全確認を行った後運転は再開されたので大きな影響はなかったということ。
通信障害に関しては携帯端末から自動車のオートドライビングシステムにも影響したから市内で何件かの交通事故があったこと。しかしこれもすぐに元に戻ったので大きな事故は無かったこと。
この通信障害は警察や交通系の情報システムに影響したが、一分足らずの出来事だったので問題はなかったこと。
しかし、原因は結局のところ不明だった。速報の時にはテロの可能性も報道されたが政府が否定したことでその線は無くなり、ともなるとどうしてこうなったのか分からずじまい。
翌日朝も報道はされたはされたが特に惨事が起きた訳でもない上に局所的な事件と呼べるか怪しい事柄だからか、扱いは小さくなっていた。
しかし、それでも冬斗は昨日からある胸のつっかかりは消えなかったのである。
「ということもあり、現在魔法科学は魔法から枝分かれした一分野として、さらには日本において魔法科学産業は重要な工業になっているのは皆の知っての通りね。主要な大手会社はなんと言ってもメイルサンコーポレーションで――」
二十代後半の髪の毛をポニーテールにしている若い女性教員が授業の解説をしていても、冬斗はほとんど耳に入ってこなかった。
冬斗はずっと空を見続けている。今日も空は高く、夏と秋が混ざったような快晴は気分が良くなる位清々しいブルーだった。しかし、当たり前だが空は歪んでなどいない。
「(ニュースでも空がおかしいなんてニュースは無かったし、ネットでもそんな話転がってなかったもんなあ……)」
本当になんだったんだろうか。やっぱり自分の気のせいだったのだろうか。いや、でも。確かにこの目で見たんだよなあ。
と、彼の頭の中は昨日のことで一杯になっていた。
ともなると、授業なんてものは全く聞いていなかった訳であり、視線も窓の外なのであるので。
「とおーうみくーん。とおーうみくーん」
彼がふと我に帰って電子黒板の方へと視線を移すと、彼に声をかけた主は不満気な表情をしている女性教師だった。
「遠海くん。授業聞いてたー?」
「すみません、ちょっと気分が良くなかったので」
冬斗は怒られるのも面倒だし、この先生は適当な理由さえあればそれ以上は追求しない優しい先生なので嘘も方便。彼はわざとらしく少し体調が良くない素振りを見せて言う。
「大丈夫? 九月に入って寒暖差も大きくなったからかしら?」
「昨日、半袖半ズボンで寝てたからかもしれないです」
「それはいけないわ。昨日の夜は涼しかったんだから気をつけないと。浜名さんも体調悪くてさっきから保健室でしょ?」
「そうですね、気をつけます」
手を頭の裏に置いていかにも申し訳なさそうにする冬斗に、絶対嘘でしょと小声で言いながら笑う夏未と上手くやりやがったなと口パクで彼に向けていう秋也。
ただ、二人の行動と言動は女性教師に聞こえなかったのか、
「気をつけてね。これが終わったらもう帰りのホームルームだけだから、もうちょっと頑張りなさいな。さて、授業を続け――」
気を取り直してという様子で授業を再開しようとするが、彼女が喋っている途中に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「あちゃあ。もう終わりだったのね。はい、じゃあ今日はここまで。宿題出ているからしっかりやってくるのよー?」
女性教師の言葉に、生徒達のどれだけかは反応してはーい。と声が上がる。
授業は終了なので、日直の生徒がお決まりの終わりの挨拶を始める。
「きりーつ」
全員が立ち。
「れーい」
それぞれお辞儀をし、
「「ありがとうございましたー」」
生徒達はもう授業も終わりなので気が緩みきったその瞬間。
近くで爆弾でも落ちたかのような、とてつもない大きさの爆発音が発生した。