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第1話 日常(2)

※一部設定の改変につき、文章を一部のみ変更しました。

・・2・・

 冬斗らが通う高校は清秋学院高校と呼ばれている。正式名称は清秋学院大学付属高校。この高校は普通科だけでなく全国でも三十しかない魔法科が設置されている高校で、冬斗や夏未に晴香や秋也もこの魔法科に所属している。

 魔法が存在するこの世界では魔法が使える能力者も存在している。例えばこの日本であれば全人口の十七%は魔法が使えるいわば能力者がいる。

 とはいえ能力者全員が魔法科の高校に通い、大学に進学、魔法に関連する就職先で働く訳ではない。能力者の中でも将来有望な人物が魔法や魔法科学の世界の未来を拓くのを目的として、教育を施されるのだ。

 故に人口の割に魔法科が設置されている高校は少なく、ともなれば魔法学部が置かれている大学もそう多くはない。

 だが、就職先は多岐にわたる。魔法や近代になって発展し体系化された魔法と科学が融合した魔法科学が高度に発展した日本の場合、魔法に関連する職業は多く、魔法関連企業や魔法科学に関する魔法科学企業、それだけでなく日本軍と並んで日本の国防の一翼を担っている日本魔法協会など様々な仕事が存在する。

 だからこそ、当たり前だがそれらの職につくための養成する学校もこのように存在する。それが高校の魔法科、そして大学の魔法学部や魔法科学学部、魔法医学部などであるのだ。

 その魔法科が設置されている清秋学院高校は、国内私学で最大の魔法関連学部を擁している清秋学院大学の隣にある。大学は全国でも広い面積を持っているが、付属高校も大学ほどではないにしても高校にしては広いのが彼らの学校の特徴だ。大学並の設備を誇っているからというのがその理由らしい。

 冬斗達はその高校の中でも魔法科の生徒の教室がある、三号棟の三階にいた。


「よーっす、みんな」


 手を挙げて三人に挨拶をしたのは、彼らと地下鉄で合流を果たせなかった長崎秋也だった。冬斗のような男性にしてはやや長い毛髪とは逆に、黒髪は短くしている。男子用制服のネクタイを少し緩めている以外はごく普通の制服の着こなし方をしていた。見た目だけみればスポーツに打ち込む体育会系の爽やかな高校生のように見えなくもない。


「おはよう、秋也。間に合ったみたいで良かったな」


 冬斗は自分の席に座っているので、その姿勢のまま朝の挨拶を返す。


「本当だぜ。家出てすぐに気づいたから良かったけどよ」


「おはよー、長崎ー。忘れちゃ不味いもんねー」


 冬斗の席の前に立っている夏未は手をひらひらとしながら秋也に言うと、秋也は、


「おはようっす。初日から出鼻くじかれるとこだったぜ」


「まあ、ちょっと凹んじゃうよねー」


「自業自得かもしれないけどな。そうなるわな」


「成績に響いちゃうもんね。あ、おはよう長崎くん」


 控えめな様子で彼に小さく手を振った晴香は苦笑いをしていた。


「よっす、浜名。それだけは勘弁してえなあ」


「だよね。でも、学校着く前に忘れたことに気付くとかじゃなくて良かったね」


「まったくだぜ」


 ふぅ、と息をしつつ言う長崎。教室に入ってきた時に息を切らしていたわけではないからおそらく一安心という意味なのだろう。


「おっと、まだ八時過ぎなんだな」


 長崎は教室に掛けてある時計を見て、あれ、というような表情をする。


「オレ、てっきりもう十五分くらいになってると思ってた」


「焦ってたから勘違いしたんじゃないか?」


 冬斗の言葉に秋也は納得したような面持ちになると。


「かもしれねえな。地下鉄なんて時刻表見なくてもいい時間帯だし」


「今の時間帯なら三分に一本来るからねー。休校日ダイヤも昨日で終わってるしさー」


 夏未の言う通り、今日から金華メトロは全五路線で休校日ダイヤではなく通常ダイヤになっていた。各高校が二学期目を始めるからだ。

 しかし、実のところ昔からこの街に地下鉄があった訳では無い。

 今より数十年前に首都直下型地震があったのをきっかけに東京から那古野市へ首都機能が移転されたのが国内の大きな出来事であった。となると、昔から魔法と魔法科学によって発展した金華市も近傍の大都市に首都機能が移転されたとなるとさらに発展を遂げる。

 日本魔法協会の総本部もあり、魔法や魔法科学関連企業が多く立地し、学園都市でもあるこの街には首都を補完する機能が追加されたことにより交通のキャパシティを大きく広げることになったのだ。結果、公共交通機関として重要な使命を果たすことになる金華メトロが開通。人口の割に沢山の人が井口で働き井口で学ぶだけあって本数は増大していった。だから地下鉄の本数が朝と夕方の時間帯はやたらと多いのである。無論、昼間もそれなりの本数は走っているが。


「おっ、そうだ。みんな夏休みはどうだったよ?」


 秋也はニッ、と笑いながら冬斗達に質問する。夏休み明けの学生達の話題としては当然の切り出しだろう。


「僕はみんなにも前もって言ってたけど、イギリスまで夏休みを利用して魔法短期留学に行っていたよ。魔法銃に関しても色々学べてためになったよ」


「さっすが冬斗クン。あたしには出来ないことをやってのける! んで、留学は国費留学だっけ?」


「そうそう。国と魔法省の支援付き。春の全国魔法射撃大会でいい成績が取れたからね。僕の場合は魔法を学ぶってより魔法射撃について学ぶ方面だったけど、やっぱ一緒に来た留学生はバケモノ揃いだったよ」


「そんなにすごかったの?」


 晴香が疑問を投げかけてきたので、冬斗はそれに答える。


「分かりやすく例えるなら、周りはラスボスクラスがゴロゴロいる感じかな」


「なにそれこええ……」


 苦い表情をする長崎は、ラスボスと言われて何を思い浮かべたのだろうか、うへえという顔つきにもなっていた。


「だろ。魔法学では高校生にして上級呪文が使える人がいたり、光や闇の応用二属性が使える人がいたり、火・水・雷・風の基本四属性を使いこなすマルチマジシャンがいたりと、とにかくすごかったよ。やっぱ世の中は広いんだって痛感したかな」


 僕はそんなのには敵わないよ、と冬斗は苦笑いをして言う。

 優秀な魔法科魔法学部所属学生が選抜される国費留学だけあって、先程の表現が大げさじゃないほどとんでもない高校生が彼の周りにも多くいた。それは世界でもトップクラスの魔法及び魔法科学を擁する国家と日本が呼ばれているのが納得出来る程にだ。

 彼も確かに優秀ではある。だが、それ以上の天才はやはり存在するのだ。


「遠海くんも魔法銃射撃の狙撃部門で全国三位を取れたり十分にすごいけど、他にも優秀な人が沢山いるんだね」


「高校生だろうと何だろうと、大人顔負けのすごい人はいるからね」


「そうなると、やっぱりその人達って協会とかにも注目されてるんだろうねー」


 夏未はまるで別世界のことかのように言う。

 事実ここまでくると別世界のような話だ。清秋学院高校魔法科に所属している時点で、全国の魔法科生徒の中では優秀な部類なのだが、ここまで差があるとどうしてもそうなってしまうものだ。


「ほぼ間違いないだろうね。中には協会から給付型奨学金が出されるのが確定している人もいたし」


「ひょえー。協会からの奨学金って学費以外に研究奨励金も出る超がつくほど競争率の厳しい奨学金でしょー?」


 研究奨励金という通常奨学金に重ねて支給されるタイプの奨学金の名前が出て、ただでさえ驚いていた夏未は驚愕する。


「そうそう。でも、そんな人なんて国費留学に選ばれた人の中でもごく一部だけどね。ところで、三人は夏休みどうだった?」


 自分達には遠い世界の話をいつまでもしていても仕方ないと思った冬斗。だからか話題転換も兼ねて、今度は彼が三人にこう聞いてみた。


「オレは、夏休み前半は課題やったり受験対策したり、息抜きにネトゲをしてたからここについては特に話せることはねえけど、盆前から五日前まで父さんの実家がある熊本に帰省してたぜ。父方のじいちゃんとばあちゃんとこは標高の高い場所にあっから、こっちより涼しかったぞ」


「へえ、どれくらい涼しかったんだ?」


「こっちが三十五度の時でも三十度切ってたな」


「いいなあ。アタシ、暑いの苦手だからそういうとこ行きたいなあ」


 冷房が効いている教室にも関わらず、言葉通り暑さが苦手な夏未は下敷きを団扇代わりにして扇ぎながら言う。


「へへっ、いいだろ。快適な夏休みだったぜ。普段捗らない勉強もけっこう捗ったぞ」


「私、暑い時はあんまり課題とかやる気がなかったから、羨ましいなあ」


「来年みんな連れてっていいか聞いてみようか?」


「ぜひ」


「もっちろーん! お願い!」


「私も、行きたいかな」


 秋也の提案に三人は即答だった。


「おおう、食いついてきたな。今度聞いてみるよ」


「よーし、まだ二学期初日だけど大学生になっている来年の夏休みは予定が一つ決まったねー!」


「オレの友人って言えば大丈夫だと思うぜ。そんな石原は夏休みどうだったんよ?」


「あたし? あたしはあんまり目立ったイベントは無かったかなあ。あ、でも二週間連続である金華の花火大会は両方行ったよー!」


「おっ、両方行ったんだ。僕はその頃はイギリスだったからなあ。羨ましいよ」


「ハルちゃんの浴衣姿、可愛かったよー?」


 石原は浜名の方を見てニヤニヤしながら言う。


「ちょ、ちょっと夏未ちゃん……。そんなことないよ……?」


「なあにを言うかー。素材がいいんだもん、似合うに決まってんじゃん。黒髪美少女の浴衣とか完璧じゃん」


「石原、それに関してはオレも全力で同意したいね」


「さっすが長崎。わかってるね」


 ガシッ、と固い握手を交わす夏未と秋也。対して川島は恥ずかしそうに俯いている。

 なんだこの光景は……。と眺めている冬斗であったが見てる分には楽しいからいいやという様子であった。

 しかし、かといって浜名がわたわたとしているのをずっと放置しているのも心苦しいので救いの手として冬斗は浜名にこう問うた。


「浜名は夏休みどうだったんだい?」


「え、えっと、私?」


 俯いていた浜名は少しだけ慌てて冬斗の方を見る。


「んーと、私は秋華ちゃんと花火を見に行った以外はお母さんの実家に帰省したくらいかな」


「長野だっけ?」


 冬斗は思い出しながらも晴香に言う。


「うん。高原くんの所ほどじゃないけど、お母さんの実家の方もけっこう涼しかったかな」


「涼しいところに実家があるのはいいなあって思うよ」


「えへへ。お母さんの実家のご飯美味しかったから、私は満足かな。おじいちゃんもおばあちゃんも優しいし」


「みんなそれぞれ楽しめたようで何よりだよ」


  冬斗が笑顔で言うと、川島も春の陽射しのような暖かい笑みで頷く。


「おっ、もうそろそろ始業式の時間みたいだぜ」


 長崎が会話の途中であったが時計の方に視線を移しながら冬斗達に知らせる。確かに時計の針はもう間もなく始業式が始まる時間を指し示していた。


「おはよーう。久しぶりだな、みんな。そろそろ体育館に向かう準備をしてくれよー」


 その直後、冬斗達の担任で三十代前半だが二十代後半くらいの若さに見える男性教師の石田従道(いしだつぐみち)先生が教室に入って来た。よく通る声の彼の発言は騒がしかったクラス中に響き、生徒達の耳に入る。石田は気さくな先生で評判なので、冬斗のクラスメイト達は先生に挨拶を返しつつ話したりしつつ、始業式に向かう準備を始めた。


「よーし、そろそろ行くかー」


 冬斗は席を立ちながら言うと、周りと同じように準備を始めた。


「今度の始業式は寝ないようにしねえとな……」


「おう、そうだぞ長崎。先生だって校長の高度な全体睡眠魔法に耐えながら聴いてるんだからな」


「うっす。気をつけます」


「いい心がけだ。ま、先生も気をつけるけどな」


 先生が寝ちゃダメでしょー。とクラスメイトの一人が石田先生に笑いながら言う。先生が来てからさらに賑やかになる教室。

 冬斗はこの雰囲気が実は好きであるので、微笑みながら教室を見渡していた。

 教師の指示もあったので冬斗ら友人達とわいわいとしながら、そして冬斗達を含めたクラスの生徒達は体育館へと向かい始めた。

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