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いまどきの女子高生は

作者: 前田剛力

「なによー、このスケベー」

 車内に嬌声が響いた。携帯に向かって声を上げているのはキュートだ。

「誰?あの医者のタマゴ?まだあいつと付き合っているの」とチャビー。

「そろそろ別れるつもり」

周囲の顰蹙もなんのその。今どきの女子高生ときたら…


目の前にいるのは所謂、今どきの女子高生3人組だ。シートを占領してお菓子をつまみジュースを飲む、化粧品を次々と取り出してはあれこれ塗りたくる、そして携帯禁止の車内で堂々と喋る。「付き合う、別れる」とにぎやかに騒ぐ相手は医者の彼氏のようだが、若い娘が昼間からこれでは日本も終わりだね。

通勤時間帯ではないので車両には僕を含めて10人くらい。傍若無人に振舞う彼女達を乗客は皆、無視していたが、僕は携帯で喋っている一番可愛いい子にキュート、お菓子とペットボトルを交互に口にする小柄で太目な子はチャビー、派手な化粧で周囲を圧倒する子をカラフルと勝手に名づけて観察していたのだ。


その時突然、そばに座っていたお婆さんが胸を押さえて倒れた。何が起こったか判らないまま僕を含めた数人が立ち上がり、席に近づいた。

「誰かがそばで携帯を使っていたせいじゃないか!」男が声を上げた。

キュートはびっくりしたように倒れた老人と自分の携帯を交互に見つめた。

「ヤバッ、電波で心臓のピースメーカーが止まるとかいうやつ?」とカラフル。

それを言うならペースメーカー、確かにそんなことも言われる。車掌を呼ぶべきか、119番する方が早いか。いずれにしても時間がかかる。誰も動きかねていた。

「ちょっとどいて」いきなりキュートが割り込んできた。携帯で喋りながら、だ。

「今さー婆ちゃんが気を失ったの。この電話のせいかも。あんた医者でしょ」

お婆さんの様子を相手に伝えている。大胆にも彼女のまぶたをめくり、脈を取り、呼吸に耳を澄ましてからまた何か話す。

「うん、分かった」キュートが振り向く。ドキリ、たまたま真後ろにいたのは僕。

「不整脈じゃないかって。本人は薬を持っているはずだから探して」

 僕はお婆さんの手提げを覗きこんで首を振った。

「一杯あり過ぎてどれが薬か分からない」

「おじさん、交代交代」僕はまた押しのけられた。カラフルだ。手際よく袋の中を探す。

「これはリップ、こっちは化粧水、そんでもってこれはカゼの薬で」

 並べたのはどれも同じような容器、僕には見分けがつかない。

「こう見えても薬にはうるさいのよね……あった。これだわ。うちの婆ちゃんのと同じ」

さて、これをどうやって飲ませるのか。大人達にはなすすべもない。気を失って歯を食いしばって気を失っている老婆に薬を飲ませるなんて。

「私に任せて」今度はチャビーが僕を押しのけた。

「こういうのって、ちょっと得意」

 彼女は薬を口に入れ、ペットボトルのお茶を含んだ。そしてそのままお婆さんの顔に近づき……口移しで飲ませたのだ。

「やるう、そっか、キスの要領ね」キュートが手を叩く。

 やがてお婆さんはごくりと喉を鳴らし、お茶と一緒に薬を飲み込んだ。


 お婆さんが意識を取り戻したのは、電車が次の駅に入る直前だった。連絡がついてホームには担架が待っているとのこと、やれやれ。これで安心。

「君たち、表彰ものの活躍だったね。学校は?名前は?」誰かが少女達に尋ねた。

「いいのいいの。私達、誉められるって柄じゃから。バイバイ」

 三人は車内の拍手に両手を小さく振って応え、人ごみに消えていった。

 まったくもう、今どきの女子高生って……ちょっとやるう!


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