過去の記憶で世界を語る
説明回ですが、この物語の核心部分に触れつつ、まだぼかした説明です。
そして3人のヒロインが初めて顔を合わせます。
甲殻狼との戦闘で移動手段を失ったユージは徒歩でエクトール領都に向かって歩いていた。ユージの半歩後ろを白い外套を着たエルフがついていく。
彼女の名はエフィ。
ユージの昔からの知り合いのようで、さっきからずっとユージに向かってしゃべり続けていた。やがて話はお互いの能力の事になっていく。
「そういやユージの階級は?」
ユージは少し考え込んだが、彼女には正直に答えることにした。
「…394。」
「は?」
「394。英雄級だ。」
ユフィはユージのデタラメすぎる階級唖然とし思わず足を止めてしまった。
「どうやったらそこまで上がるのよ。」
「5順目と6順目は再誕生回数が0だったからな。効率よく熟練上げができたんだ。」
ユージは立ち止まったユフィを気にもせず、歩き続ける。我に返ったユフィは慌ててユージを追いかけた。
「ね、ねえ!資格は?」
「…無職。」
ユフィはユージに追いついたところでまた立ち止まった。
「初期資格じゃん…。どういうこと?」
ユージは足を止め、くるりと反転してユフィの腕を掴み、強引に歩かせた。
「…あのね、街までは徒歩で二日かかるんだよ。僕ら野営用の道具持ってないんだから。説明は歩きながらでも聞けるでしょ。」
ユージはちょっと怒り口調で言うと早足で歩きだした。ユフィは申し訳なさそうに謝る。
「…一般的に無職は制限事項が多く、何をするにも不向きだ。無職であり続けるとその制限事項の範囲がより広がる【恩恵】を取得してしまう。…僕も【睡眠時間低下】や【運低下】【対話能力低下】の恩恵を貰って、かなり苦しんだよ。…でも、ある一定の階級を超えると、その制限を解除する技能を取得するんだ。」
「何それ?そんなの反則じゃん!」
「そうだね、無職は制限事項がついてることでほかの資格より使い勝手が悪くなっている。【副職】のお蔭で複数の資格を並行して使えるけど、成長することはできない。言いかえれば手数の多い雑魚だよね。現に街では『雑用係』と呼ばれてるし。」
「でも、その制限事項がなくなったら、100%の力で2つの資格を発効できる…。」
ユフィの言葉にユージは首を振った。
「実は、最大4つまで副職を設定できるんだ。」
ユフィの足がまた止まった。
これ以上遅れてはこっちが困ると、ユージはユフィを背負った。男の人に背負われ恥ずかしがって暴れるユフィだが、ユージがどうしても下ろしてくれず、諦めておとなしくなった。今はユージの背中に体を預けてぴったりと張り付いている。
「アタシも無職に戻す。どれくらいで制限解除されるの?」
「ユフィ、今の階級は?」
「…98。」
「僕は階級1から無職で熟練度を上げて、100を越えてようやく制限解除されたからね。今からやるとなると、200以上にならないと…。」
ユージの返答にユフィはため息をついた。
「…なんで、このことを先に教えてくれなかったのよ。」
「無職に何か秘密があるというのは、一般サービスとして公開していた時から気づいてたんだ。でいろいろやってその秘密を調べてる間に…。」
「一斉システムダウン、サービス終了になった…。」
「そう。」
「そこからは原因とその後を探るべく、僕たちも含めて名だたるハッカーが運営会社のサーバーに侵入。何とかこの世界に潜入できる手順を確立させた僕はその手順を何人かに連絡して…。」
「そうよね。アタシもそれを貰ってここに入ったからね。」
「無職の制限解除を知ったのはこっちに来てからなんだ。」
「ふううん…。で、それからは?」
「ひたすら資格収集と階級上げ。でもって、無職と相性のいい資格をいろいろ試してた。」
そこで見つけたのが【俳優】。様々な資格をノーコストで演じることができるが、無職と同様、制限事項がある資格。だが、制限解除された無職と組み合わせることで、俳優の制限事項も解除され、同時発効資格数が最大8にまで増えた。加えて【演武】の技能は戦闘職の技能に見劣りしない効果を持っている。
ユージはそこまでユフィに説明し、言われた言葉が「ずるい」だったので苦笑する。
確かにズルい。
だが、これは僕たちの目的を達成するための準備段階ででしかない。まだ仲間をようやく一人見つけられただけなのだ。先は長いのだとユージは噛みしめた。
【韋駄天】を使ってユフィを背負ったまま街道を駆け抜け、夜半過ぎには領都に到着した。城門は夜の間は閉じており、翌朝になるまでは誰も通れないようになっている。このため、城門のすぐ近くに寝泊まりのできる宿屋があるが、ユージはユフィを目立たない恰好に着換えさせてその宿に泊まることにした。幸い一部屋だけ空いていたので、その部屋を借りる。部屋に入ると早速ユフィがローブを脱ぎ捨てベッドに倒れ込んだ。
「つかれた~喉乾いた~。」
ユフィはベッドで大の字になって足をバタつかせているが、その恰好はいろいろなところがキワドイ…。
「食堂に行って、食べ物と飲み物を買ってくるよ。…それから、一応男が居るってことを意識してもらえると助かるんだが。」
ユージの言葉に自分の恰好に気づき慌てて布団を被る。
「ご、ごめん!ずっとソロでやってたから…そういう感覚忘れてた。」
ユフィの言葉にユージは頬を緩めてから、部屋を出た。それを見送ってからさっと布団を取り払って扉の向こうを見つめるユフィ。
「…この程度では乗って来ないか…。背負ってもらった時はいい感じだったんだけど…。」
なにやら企んでいる様子のユフィは、ユージが帰ってくるまでまたベッドに横になり、次なる作戦を考えていた。
簡単な食事とお酒、冷たい水を持ってユージが帰って来た。ユフィは水の入った水筒を手に取り、ごくごくと飲んでいく。全部飲みきってぷは~と息を吐いた。
「言い忘れたんだけど、エルフってほとんど食事の必要がないんだよ。」
その言葉にユージが驚きの表情を見せた。エルフは希少種族の為ほとんど見かけない。ユージも実は初めてだった。
「へぇ~便利なのか?」
「ソロでやってるときはね。こんなふうに人と居る時はちょっと残念かな?」
ユフィは空になった水筒をテーブルに置くと、少し悲しそうな目をしてベッドに座り込んだ。
「食べないのか?」
ユージの質問にユフィは首を振った。
「さっきの水でお腹いっぱいなの。」
ユフィは自分のお腹をペチペチと叩いた。ユージはふ~んと言いながら自分の食事を始める。羊肉と野菜を混ぜ合わせ、卵でとじたオムレツをナイフとフォークで切り分け、口に運んでいった。ユフィはなんとなく羨ましそうにしていた。
「…食べてみる?」
ユージはフォークに刺したオムレツをユフィに差し出した。ユフィは照れながらも口を開ける。
「はい。」
パクッ…もぐもぐもぐもぐ…ゴクン…。
「…美味しい!久しぶりに木の実以外の食べ物を食べたわ!…でも、これ以上は入んないみたい。」
嬉しそうな表情ながらも目は少し悲しげ。エルフってのも大変なんだとユージは思った。
食事を終え食器を片づけるとユージは服を着替えた。通気性のいい寝間着を着たユージはソファに寝転ぶ。こっちに来るもんだと思っていたユフィはちょっとふて腐れた表情で枕をユージに投げつけた。
「枕くらい…貸してあげるわ。」
「…サンキュ。」
暫く沈黙の時間が続く。
特にユフィがユージを意識してしまって眼が冴えてしまっている。何とか気を紛らわそうとゴソゴソしていると、ユージに心配された。
「どうした?眠れないのか?」
「う…うん。今日はいろいろあったから…そうだ、ユージがこの世界に入り込んでからの話をしてよ。どうやってきたのか興味あるし。」
無邪気な笑顔をユージに向けお話を催促するユフィ。ユージは頭をポリポリと書いていたが、やがて起き上がってゆっくりと語り始めた。
「一巡目はクライアント向けのチュートリアルだったよ…あっという間に魔王のところまで攻め込んでいった。ところが魔王の一撃で全滅。…そりゃそうさね。低階級で魔王と戦っても勝てるわけない。ベット・プレイヤー全員死亡で一巡目終了。」
二順目は最初の20年ほどは穏やかだった。でも30年目に突入した辺りで突如魔王軍の逆侵攻が始まり、わずか5年で全滅した。
三順目、四順目はダンジョンに篭り、ひたすら階級上げに勤しんでいたので、ほとんど知らない。五順目、六順目は街中で暮らしはしていたが、人との交流を極力控え、ひたすら資格集めをしていた。
「…一番の思い出は…四大災厄かな?…ユフィは知ってる?」
話を振られてちょっとびっくりしたユフィだが、首を振る。
四大災厄とは、この世界で発生するランダムイベントの中でも、生存率の低い大イベントのことだ。
『古代竜の気まぐれ』、『幻魔蛇の脱皮』、『魔王烏賊の怒り』、『金鷲獣の報復』の4つで、どの辺境伯爵領でも発生する可能性がある。中でもユージが地獄を見たのは、五順目のプレイ中に発生した『幻魔蛇の脱皮』と6順目の最後に発生した『古代竜の気まぐれ』だと説明した。その内容を聞いてユフィは体を震わせて布団を被った。
「…今は、どうしてんの?」
ユフィの何気ない質問にユージの顔からほんの一瞬だけ笑顔が消えた。
…ついに来た。…だが、回避できる話でもない。普通に…普通に喋ればいいだけだ。
そんなユージの変化をユフィは見逃さなかった。…なにかある。そんな直感が働き、質問の内容をより具体的に変えた。
「今回もソロでやってんの?」
「…最初はそのつもりだったんだけどね。ちょっとした事件に巻き込まれて、やむを得ず…。」
「…何があったの?」
「殺されそうな奴隷を助けたんだ。」
「ユージらしいじゃない。…で、その奴隷はプレイヤーなの?」
「ああ、二人ともプレイヤーだ。」
「二人もいるの!?」
声を荒げたユフィにユージはビクッとなった。
「ま、まあ、家帰ったらちゃんと紹介するよ。…でも一癖も二癖もある訳あり奴隷だからね。気を付けてよ。」
ユージの言葉に何故かユフィはニコニコしていた。その理由がユージにはわからず、不思議そうにしていると、
「楽しみにしてるわ。……一体どんな可愛い娘なんでしょうね。」
そう言って今日一番の笑顔をユージに見せた。
ユージは咄嗟に何も言い返せず、ただ背筋を冷たいモノが通り過ぎる感覚に久々に恐怖というものを味わっていた。
朝(4月4の陽曜)になり、城門が開く音でユージは目覚める。窓から外をみると、お日様がまぶしく辺りを照らしていた。
「う、う~ん……。」
日差しを受けてエフィが布団毎寝返りを打った。エフィの声を聞いてベッドに目を向けたユージはブホッ!と吹き出した。
…な、なんで全裸…?
ユージは慌てて目線を逸らし、朝食を取りにいそいそと部屋を出た。
扉が閉まった瞬間、ユフィはガバッと起き上がって扉を睨み付けた。
「ちっ…これでもダメだったか。」
朝食を手早く済ませ、二人は宿屋を出た。直ぐそこには巨大な城門が大きく内側に開いた街の入り口が見えている。門の前には袖なし長套外衣を着た領兵団員が立っており、行き交う人の身分確認を行っていた。
「ユフィ、ちょっと君の能力に細工をするよ。」
そう言うとユージはユフィの頭に手を乗せて、魔力を込めた。
【能力隠蔽】という無職で取得できる技能が、ユフィの能力を書き換えた。
名前:ユフィ(18歳)
階級:17
資格:給仕女
技能:給仕
裁縫
身分:自由民
そのままの能力では危険視される可能性があるので、当たり障りのない内容に擬装する。その間ユフィは大人しかった。
「よし、行こうか。」
ユージの言葉にユフィは顔を赤らめながらついて行った。
「おはようございます。」
ユージは門番の一人に声を掛ける。門番はユージの顔を見て表情を崩した。
「なんだ、“従者の金貨団”の雑用係じゃねぇか!」
「はい。実は、団長の命令で南の安全地帯に行っていたんですけど、そこで彼女と知り合いまして…。」
後ろに控える外套に覆われた少女を指す。門番は少女を見てニヤニヤと笑った。
「なんだ?また奴隷を拾ったのか?お前も物好きだな!」
「また」という言葉にユフィはピクリと反応した。昨日ユージからは奴隷の事について詳細に聞かされている。だけど、この門番の表情は、事実とは異なる意味で捉えた笑みだとわかる。ここは、その意味になぞらえるような素振りをしておこう。
ユフィは体をビクつかせて怯える素振りを見せた。
「わわっ!ほら怯えちゃったじゃないですか!…もう!ちゃんと団長には報告しますから。」
そう言ってユージは門番に頭を下げた。門番も気まずかったのか、適当に言葉を返して、二人を中に通してくれた。南の大通りをしばらく歩いてから、ユージは小声でユフィに話しかけた。
「…ナイス演技だ。」
「これでアタシも俳優になれるかな?」
「ああ。いい劇団を紹介するよ。」
「ふふ。楽しみにしてるわ。」
何気ない会話をやり取りしつつ、ユージは領主館を通り過ぎて、自分の家に到着した。
「へぇ~…3階建ての一軒家なんだ。」
ユフィは1回から順番に外観を眺めていく。その間にユージは【結界】の解除を行った。ユフィはごくりと喉を鳴らした。
結界が必要な奴隷とはいったいどういう奴隷なのか。話では聞いているが、今一つ想像ができていなかった。
ユージが音を立てない様に扉を開けた。ユフィはその後ろから扉の奥を覗き込んだ。
暗闇に光る眼…。
ユフィは悲鳴を上げそうになった。
「や、やあマナちゃん!もう起きてたのかい!予定より早く帰って来たよ!」
妙に明るい口調のユージを見てユフィの頭は混乱した。奴隷相手になんでこんな低姿勢なのか。状況が飲み込めず、呆然とユージを眺めてるだけ。そんな彼女に光る眼の視線が向けられた。
「…その女は…何?」
ユフィは戦慄した。光る眼しか見えないのに圧倒的な威圧感。足が後ろへ引いてしまうのを堪えるのが精いっぱいで身動きすらできない。
「うん、ちゃんと説明するから、入れてくれる?」
怯えも怒りも感じないユージの声に光る眼が奥へと消える。そしてユージはユフィの手を引いて家の中へ入った。
ユフィは玄関を入ってすぐに別の視線に気づいた。玄関の扉の裏側から、背の高い角の生えた女の人が無表情でユフィをじぃっと見ていた。
「…主様。このエルフは煮るのですか?焼くのですか?」
ユフィはまたもや戦慄した。感情の読み取れない表情でとんでもない発言をしており、股間から何かが漏れ出しそうになった。
「ディーラもちゃんと僕の説明…聞いてくれる?」
ユージの言葉に無言で扉を閉めて後をついて来る鬼人族の女性。ユフィは改めてとんでもないところに来たんだと身を震わせた。
ステータス説明
■能力
プレイヤーの強さを表す基礎数値。体力、生命力、知力、筋力、硬さ、素早さ、器用さ、魔力、精神力、運、威厳、信用の12種類あり、数値が高いほど能力が高い。それぞれの成長度合いは書くプレイヤーの『人格』により上昇値も最大値も異なる。
■階級
特殊能力の使用回数、熟練度に応じて上がっていく。
一般の人は約2年に1回上がる。傭兵団などの狩りを行う人は1年に1回の頻度で上昇する。年齢が40を超えるとほとんど上がらない。ほとんどの人が30前後で止まる。50に到達するのは100人に1人。100に到達するのは1万人に1人。
■資格
最初は全員「無職」から始まり、一定の条件を満たすことで取得し、発効することができる。発効できる資格数は基本的に主資格(ML)1つのみだが、主資格によっては副資格(SL)を発効させることが可能。
一度発効させた資格は自分で失効させることはできないが「資格認証士」によって失効させることで別の資格を発効することができる。失効した資格は、1年~10年再取得はできなくなる。
副資格(SL)は自分で発効・失効が可能で、失効しても再取得はすぐできる。ただし副資格にはさまざまな制限事項があり、副資格の能力で主資格を超えることはできない。
■恩恵
特定のクラスにあがることで、受けることができる特殊なスキル。取得する恩恵はライセンスによって異なり、ステータス上は固有スキルとして表示される。
■身分
自身の身分を証明する物。取得条件を満たすと自動的に変更され、自分では変更不可。ステータス上は隠すことも、偽ることも可能。但し偽っていることがバレた場合は犯罪となる。
身分によってステータス変化あり。