かつての仲間は放浪のエルフ
主人公の裏任務…その後編です。
そして、3人目のヒロインが登場します。
今回のお話で、この小説につけられたタグの意味が少し明らかになります。
行商隊の観察を十分に行ったユージは、宿屋に隣接する食堂に向かい、朝食兼昼食として、パンと野菜スープを注文した。パンをちぎって野菜スープに浸し、美味しそうに頬張りながらも、町の入り口に立ったままの悪徳商人に注意を払った。男はさっそく広場で商売を始めていた。ユージは男の一挙手一投足を見て、商人としての技量を測った。
暫く眺めたのち、この男をは商人に向いていないと結論づけた。理由は、客に対する接し方だ。
常に上から目線の物言い、時には脅しとも取れる言動も聴こえる。商人の相手をしているご老人たちは嫌そうな顔で相手を見ているのに、それに気づかず自分の商品を売ろうと喋り続けている。
「こりゃあ、僕のところに難癖付けに来るのも時間の問題だな。」
ユージは苦笑し、残りのスープをすすって昼食を終わらせた。
【気配探索】で町全体に注意を払いながら、自室で待機する。観察してわかったのだが、あの正体不明のエルフは、金庫係の男を意識していた。恐らく警護対象を金庫係とされているのだろう。他の男たちは商人の周りに立っていることから、エルフと男達で役割が違うことが想像できた。そして御者台の上で待機し続けている女性は…恐らく性奴隷。ユージが観察し始めてから、水すら与えられていない。男達が時折、女性を見てニヤニヤしていることから、彼らも女性と関係済だと推測した。
夕方になり、早めの夕食をとっていると血相を変えた悪徳商人がユージの座っているテーブルを叩いた。
「…貴様か!私の商売の邪魔をしたのは!」
額にはちきれんばかりの血管を受け立たせた悪徳商人がユージのナイフを持った右腕を掴んだ。
「失礼ですが、どちらさまで?」
ユージは冷静な態度で商人に言葉を返した。ユージの視界に窓枠が広がった。
名前:ナルダス(38歳)
階級:27
資格:鑑定士
技能:鑑定(道具)
偽装
身分:領民
…犯罪者ではないのか。年齢の割に階級は低いな。取得している技能がやけに少ないが…。
不審に思ったユージは詳細に鑑定すると、この男の能力の悪さを見て納得した。
体力 :27
生命力:264
知力 :31
筋力 :41
硬さ :40
素早さ:33
器用さ:39
魔力 :89
精神力:49
運 :23
威厳 :19
信用 :16
通常階級20を超えた人間の能力は100を超えている。200に到達していてもおかしくない。ところが、ナルダスという男は軒並みその数値が低い。これでよく鑑定士の資格が取得できたと感心するほど。
鑑定士の取得条件は、『自由民として10以上の街で商品の取引を行う』というもの。普通に生活して取得できる資格ではないため、取得者は商人であることが多い。ところがこの男は商人としてのセンスも良くないのにこの条件を満たしたということは…。
特定の資格取得を目的とした有力者の援助…を受けたと推測した。
別に悪いことではない。特に奴隷はその対象として特定の資格を取得するための訓練を受けさせる。だが、この男にこの資格は無意味。どういうメリットで援助したのか…
「貴様!聞いているのか!」
鑑定結果の考察に夢中になり、手首を掴む悪徳商人を無視していたようで、ナルダスは手に力を込めた。が、全然痛くない。
「私より先にこの町で鉱石を売り捌き、私の鉱石が売れないように邪魔したであろう!」
「仰ってる意味が解りません。何故私が鉱石を売ってあなたの商売の邪魔になるのですか?私の売った鉱石より良質であれば売れるでしょうに。」
「ぐっ…!!」
ナルダスは言葉を詰まらせた。この反応はユージが販売した鉱石が自分のものより質がいい事を知っている証拠。
「それとも、予めこの町で鉱石の販売依頼を受けていたにも関わらず、私が先に売ってしまったということでしょうか。」
ユージは言葉で商人を誘導し始めた。ナルダスは考えなしに跳びついてきた。
「お、おお、そうだ!お蔭でせっかくこんな田舎まで来たのに全く売れないとは、大損ではないか!」
「なんと、そうですか。でも、どうしてわざわざこんな田舎まで足をお運びに?大きな街で商売をすれば売れるでしょうに。」
ユージの言葉にナルダスはまたも言い澱む。男の反応にユージはカエサルの行商隊のカラクリが見えてきた。
カエサルの行商隊は悪質な商品(主に屑鉱石)を他国で高値で販売し、暴利を貪っている。その噂はいろんなところから聞いているが、具体的に商人名は出ていない。つまり同じ商人が何度も同じ場所で悪徳商売はやっていない。つまり悪徳商人は足がつかないよう一度訪れた街には行かない様に長距離を移動することで、行商隊と呼ばれるようになり、且つその商人がカエサル出身であることから『カエサルの行商隊』という不特定な名称になったということだ。
カエサル領は資源が豊富なので商人が多いと聞いた事があるが、ユージの手首を掴み、激昂しているこの男は、カエサルの商人だったが生存競争に負けて行商に手を出し、あちこち回っているうちに鑑定士の資格を取得した…そんな感じだろう。だが、元手なしに商売などできるはずもなく、こういう負け組を集めて斡旋している輩の存在も否定できない…。
ユージの中で方針は定まった。後はこの正体不明のエルフをどうやって抑え込むかが作戦成功の鍵だと考えた。
「私の行動でアナタが商売できないということは、まだ商品が余っているということですね?…如何でしょうか。私はエクトール領に住んでいるのですが、幾人か鉱石を必要とする知己がおります。明日街に戻る予定なのですが、ご一緒されますか?知己を紹介いたしますよ。」
ユージの言葉にナルダスは喜色を浮かべた。売ることさえできれば利益を上げられる悪徳商人は、ユージの言葉に跳びついた。護衛の男達が訳が分からず戸惑っていると、ユージへの用が済んだナルダスがさっさと引き上げたため、慌てて後を追っていった。残ったのは金庫係の奴隷と仮面のエルフ。
仮面のエルフは表情の見えない顔をじっとユージに向けていた。
…ぞくり。
ユージは久しぶりの武者震いを味わった。仮面のエルフが視線を外し、金庫番を連れて食堂を出て行ったので、震えは止まったがユージの内心は高揚感で溢れていた。
「久しぶりに…本気出せるかもしれない。」
翌朝(4月4の風曜)。
宿屋のロビーに到着したユージは仮面のエルフと、金庫番がいるのを見かけた。金庫番はおどおどして周囲を見回しているが、仮面のエルフは門の向こうの景色を見ていた。僕の存在には気づいているだろうと思いながら一応挨拶をした。
「おはようございます!…あの商人様はどちらですか?」
ユージの挨拶に金庫番の男は驚きの表情で口をパクパクさせていた。外を眺めていた仮面のエルフが、金庫番の前に立ちはだかり、ユージを睨み付けた。
「…この男は口が聞けぬ。話があるならアタシにしな。」
「これは、失礼しました。商人様は?」
「……まだ寝てるであろう。」
「そうですか。でも、出発の時間が近づいております。エルフ殿、起してきてもらえませんか。」
「断る!」
仮面のエルフは声を荒げた。その様子に金庫番が怯えた。
この子は悪徳商人の部屋がどうなっているかを知っているようだ。御者の女奴隷がこの場にいない時点でユージも想像がついていた。おそらく「昨晩はお楽しみでしたね」状態なんだろう。ユージ自身も起しに行く気はないので仕方なく待つことにした。
2時ほど経って、下品な会話をしながらナルダスと護衛の男達が御者の女を引きつれてやって来た。御者の女は憔悴しきった表情をしており、ユージは顔をそむけた。
ナルダスは遅刻したことに謝罪もせず、御者の女に蜥車の準備を命令した。女は痛む体を庇いながら外へと歩いていった。
…ムカムカする。
わかっている。彼女はモブだ。
ユージは何度も心に言い聞かせて落ち着かせた。
やがて御者の女が蜥車に乗って宿の玄関に到着したので、悪徳商人と護衛の二人が荷台に乗り込んだ。この町に来た時とは違い、【剣士】が二足竜に跨る。そして、仮面のエルフと金庫番が最後に乗り込み、ユージは御者台の方に乗り込んだ。後ろを振り向き、荷台にいる悪徳商人に話しかける。
「商人様、雨が降りそうです。降ってくれば気温が下がりますので、私ので良ければこのコートを着て下さい。」
そう言って、自分が着ていたコートを渡した。
「気が利くではないか!」
商人はひったくるようにコートを受け取り、さっそく着込んだ。
あのコートはユージが甲殻狼を挑発する際に着ていたコート。匂いを追ってこの蜥車にあの甲殻狼が来れば、コートを着た人間を追いかけるはず。
ユージは御者の女の代りに手綱を持ち、蜥車を走らせた。
夕方、陽が沈みかけたところで、ユージは北側の茂みを睨み付けた。
「…来たか。」
ユージは御者の女に体を寄せた。そしてチラリと後ろの荷台に目をやった。仮面のエルフがおもむろに立ち上がり、金庫番の男に寄り添った。やはりアイツも気づいたか。
ユージは茂みに気を配り、いつでも御者台から飛び出せるようにした。
ヒュッ!
茂みから鋭い風が吹き付け、ユージは御者の女を抱えて蜥車から飛び出した。目にもとまらぬ速さで反対側の茂みに飛び込み、御者の女の口を塞いで息をひそめた。
甲殻狼が突如街道に飛び出し、蜥車を引っ張る八足竜の横っ腹に噛みついた。突然の出来事に八足竜は奇声をあげて荷車ごと横に倒れた。荷台がひっくり返り、中にいた悪徳商人たちが放り出された。その中に仮面のエルフはいなかった。
仮面のエルフは、危険を察知して金庫番の男と共に後ろから飛び降りていた。
「う、うわあああ!」
情けない声を上げながら二足竜に跨った剣士の男が騎上から甲殻狼に斬りかかったが、硬い殻に弾かれる。八足竜に噛みついたまま、甲殻狼が太い前足を剣士に向かって振り下ろした。二足竜の頭が吹き飛ばされ、肉片が剣士に襲いかかった。剣士の男は地面に振り落とされ尻餅をついた。そこに、八足竜の腸を食いちぎった甲殻狼がその腸を吹きつけた。腸が剣士の兜を直撃し、首が変な方向に曲がった。
一部始終を見ていた悪徳商人が恐怖の叫び声を上げた。その声に反応して甲殻狼がナルダスを睨み付け、目を光らせた。そして喉を唸らせ威嚇する。ナルダスは全身をガクガクと震わせた。
「お、おい!エルフ!俺を助けろ!」
情けない声で悪徳商人は助けを求めた…が、仮面のエルフは冷たい声で言い返した。
「…なぜ?」
エルフの返事にナルダスは目を見張る。
「は!?な、何言ってるんだ…?」
「何故貴様を助ける必要がある?アタシの契約はこの奴隷の警護であって、貴様ではない。」
エルフの言葉に草むらに隠れるユージはニヤリと笑った。
甲殻狼の強烈な咆哮が響き、その恐怖で悪徳商人たちは地面に這いつくばった。既に八足竜は腹を食いちぎられて息絶えており、もう一頭の二足竜は剣士を降り落として走り去っていた。
種族:甲殻狼(亜種)
階級:50
技能:威嚇咆哮
岩削りの爪
風魔法Ⅰ
甲殻強化
体力 :128
生命力:589
知力 :63
筋力 :441
硬さ :820
素早さ:388
器用さ:-
魔力 :140
精神力:61
運 :-
威厳 :181
信用 :-
かなりお怒りのようで、ユージの【鑑定】が勝手に反応した。
階級50はかなり高い部類に入る。人間でも100人に一人くらいいるので倒せない相手ではないが、少なくともここに這いつくばっている連中では無理だ。ユージは更に様子を伺った。甲殻狼は怒り狂ったように吠えて前足で護衛の男を踏みつけた。反対の足で残りの護衛も削り取る。そしてメインディッシュとばかりに悪徳商人の頭からかぶりついた。上半身だけを喰らい、バリボリと何かを噛み砕いてゴクリと飲み込む。残った下半身は光の粒子となって消えていった。
「あの商人はプレイヤーだったのか。…トラウマにならなきゃいいけど。」
隠れる必要がなくなったユージは草むらから出てきて呟いた。その言葉に仮面のエルフが反応した。
『プレイヤー』という言葉に反応する人間は通常この世界にはいない。この言葉の意味を知っているのは、自分がプレイヤーであることを自覚している人間だけ。
つまり、『人格』だけでなく『記憶』も一緒にこの世界に入り込んでいる人間…。通常のプレイヤーは『人格』だけが入り込んでいるが、特殊なプレイヤーは自分の『記憶』もこの世界に持ち込んでいる。
ユージはそういう奴が何人かはいると考えていたが、7回目にしてようやく出会った。そのプレイヤーがエルフなのにはちょっとびっくりしたが。
ユージは【役割】を拳闘士に変更し、【異空間倉庫】から鋭い鉤爪のついた手甲を取り出した。それを右腕にはめ、狂ったように突っ込んできた甲殻狼に向かって構えると、その顔を下から殴りつけた。甲殻狼の下顎は砕け、顔の半分が宙を舞った。甲殻狼はそのまま地面に倒れ紫色の光の粒子となって消えた。地面には硬い殻だけが残った。
『甲殻狼の殻』
甲殻狼の通常ドロップ品だ。ユージはそれを拾い上げ、【異空間倉庫】に仕舞い込んだ。そして仮面のエルフを見やる。
「…さてプレイヤーさん。僕の名前はユージ。」
ユージは自分の名前を言った。この名を聞いてピンとくる奴であればいいがと心の中で呟く。
「あ…。」
小さな声を上げて、エルフは慌てて仮面を取った。
整った小顔に青い瞳。西洋の美少女を漂わせる雰囲気。その少女が嬉しそうな笑顔をユージに見せた。
「やっと会えたぁ!」
言いながらユージに飛び掛かるように抱き付いた。
「ちょ、わ、悪いが君は誰!?」
「誰って…あ、わかんないか。ユフィよ!!」
その名はユージの記憶にある名前。
「お、お前…紺谷結衣か!?」
「リアルネームは言っちゃダメっしょ?」
「あ…ユ、ユフィ…うん、悪い。」
「もう、それより随分と探し回ったんだから。」
「仕方ないよ。遊戯開始時は場所も種族も選べないんだから。噂で結衣…ユフィが入り込んだってのは聞いてたが…ようやく合流できたな。でもなんでもっと早く声かけてくれないの?」
「だって、アタシもユージかどうか顔だけで判断できないし。アンタ、ユージって名乗ってもいなかったし。」
「そうか、ゴメン。なんかお互い、合図を決めとかないとな。…それよりもこいつらをなんとかしないと。」
そう言ってユージは怯える御者奴隷に向き合った。
「…この後、どうしたい?」
彼女はガタガタ震えながら答えた。
「こ、殺して下さい。」
ユージは彼女の言葉に肯き、鉤爪の手甲で上半身を吹っ飛ばした。肩で深呼吸をしてエルフに向き直る。ユフィはユージの突然の行動に顔を青ざめた。ユージは振り返り、ユフィを鋭い目で見つめた。
「…ユフィ。こいつらはモブだ。役割がなくなったら生きていけない疑似生物。特定の質問をすることで役割の有無を調べられるって一番最初に教えただろ?」
「え?ええ…でも…。」
「ユフィ。感情に流されたら、足を引っ張られるぞ。」
「おい金庫番お前は生きたいか?」
男は震えながら首を横に振った。同じく鉤爪で腹をえぐり取った。
「ユフィ。役割を失ったモブは始末しないと足を引っ張るぞ。そこだけは徹底しなさい。…じゃないと、このイカレたゲームを終わらせられないんだから。」
魔族に大陸を奪われた世界、『ボウラント・ワールド』。ユージはこの世界をイカレたゲームと呼んだ。
●鑑定士
物や人を鑑定する技能を持つ特殊な資格。特に人を鑑定することで、能力を細かく閲覧することができる。だが、能力を閲覧する行為は犯罪とされており、この資格を発効する人間は『犯罪者』になりやすい。
『取得条件』
自由民として10以上の街で商品の取引を行う(確率1%)
『習得技能』
・鑑定
・道具鑑定
・魔物鑑定
・魔装具鑑定
・人物鑑定
・擬装
・道具修復
・魔装具修復
『取得恩恵』
・鑑定強化