その真価は誰も知らず
ずっと温めていたストーリーをプロットして、ようやく投稿できるように書き上げました。
更新頻度が低く、まだ、処女作のほうも並行投稿しながらなので、できるだけ書き溜めて書き溜めて投稿したいと思います。
皆様に面白いと思って頂けるよう頑張りますので、ご一読ください。
話は、主人公がどんな能力を持っているのかを説明する回から始まります。そしてどんな世界なのか、目的が何なのか、回を重ねるごとに展開されていきます。
面白いと思って頂ければ、幸いです。
では、第一話、・・・どうぞ。
土砂降りの雨が地面を叩く。雨音は激しく鳴り響き、周囲の音を全てかき消していく。
雨季の季節は、一日中強い雨が降り続き、人々は屋根のある場所で過ごす。
農家は畑仕事ができず、製造技師は湿気を嫌って制作の手を止める。大道芸人は講演を中止して稽古に勤しみ、領兵団は依頼に出かけずに飲んだくれる。
大地に恵みをもたらす雨は、この街では鬱陶しい邪魔者扱いにされており、この時期にぎわうのは食堂や酒場くらいであった。
ここは、魔物に支配された大陸【魔導大陸】の東の端、エクトール領の領都。10万人の住民を抱えた辺境街の中でも上位に入る大きな街。普段は人々の喧騒が昼夜問わず城外まで聞こえるほどの賑やかな街だが、雨季の季節は嫌な雨音だけが街全体を制圧し、人影も賑やかな声も鳴りを潜めてしまっていた。
雨は夜中まで降り続き、朝を迎えても止む気配を見せない。日の出の時間になっても辺りは薄暗く、雨で視界も悪い…。
街の外れに曾ては多様な鉱石を産出していた坑道があった。今は廃坑になっており、ここに近づく者はいない。だが、その坑道の入り口で雨に打たれることもお構いなしに腕を組んで立っている男がいた。
背中に小剣を二本差し、雨避けのコートを羽織り、足元の木箱に片足を乗せて、廃坑の奥をじっと睨んでいた。
「早く出てこいよ…もう夜が明けちまったぜぇ…。」
不気味な声でわずかに笑い声をあげ、廃坑にいる何かを待っていた。時折足場にしている木箱を見下ろす。中には大小さまざまな大きさの石が入っている。男は時折その石を見てはニヤニヤと笑っていた。
「…これだけの鉱石を掘り出してるんだ。奴は採掘師の資格を持ってるに違いねぇ…。出て来たら俺様の【資格鑑定】で確認してやるから…ああ、待ち遠しいぃ!」
男は興奮を抑えながらも木箱に掛けた足を小刻みに揺らして廃坑の奥をじっと睨み付けていた。
「…いや~ずいぶんと採れたなぁ…。こりゃいつも掘ってた場所ははずれだったんだな。今度からはあっちを掘り進めていけばいい鉱石がまだ採れる。」
誰に聞かすわけでもなく独り呟きながら、重い鉱石を積んだ背嚢を背負って暗い坑道を男が歩いていた。
年齢は20歳前後、黒い髪だが左の一部分だけが赤く染まっている。上下一体型の作業着に厚手の手袋と長靴で覆い、手には鶴嘴を持っていた。
男の名はユージ。
エクトール領の領兵団の1つ、“従者の金貨団”に所属する誇り高き領兵…と云っても下っ端の雑用係の若輩者。
この若者は領兵団から支給されるお金だけでは生活できず、人目を忍んで廃坑を掘って鉱石を採っていた。売れば結構なお金になっており、生活費の一部として大きく貢献している。そのためこんな鬱陶しい雨の日であろうがお構いなしにせっせと廃坑に足を運んでいた。
ユージは重い背嚢に上半身をふらつかせながら、坑道内を入り口に向かって歩いていたが、ふと足を止めた。一瞬だけ顔を曇らせたがすぐに不敵に笑った。
「…早々に釣れたか。さて…相手はどんな資格を持ってるのかな?」
ユージは鶴嘴を握り直し、入り口に向かって歩き出した。やがて雨が地面とぶつかる音が聞こえ始め、薄っすらと周りが明るくなる。同時に外からは坑道の奥から松明の明かりが見え、待っていた男が口の嘴をつり上げた。
ユージが坑道の入り口から姿を見せると堪えきれずに声をあげた。
「遅いぜぇ!夜が明けちまったじゃねぇか!」
外に出た直後に大声で怒鳴られ、ユージは肩を震わせた。その様子を怯えてると捉えた男は目を細め、魔力を眉間に込めた。【資格鑑定】が発動し男の視界に半透明の窓枠が表示される。
【資格鑑定】は任意の相手の能力の一部を閲覧できる技能だ。相手の情報を閲覧するため、相手の許可なく使用することは犯罪。以前、彼に接触した時は人通りの多い日中だったためできなかったが、今は周りに誰もおらず、気兼ねなく使用できた。そして窓枠が表示された内容を感情を高ぶらせて確認する。
名前:ユージ
階級:11
資格:無職
技能:副資格
副資格制限
睡眠時間低下
表示された内容を見て男はわずかに顔を引きつらせたが、すぐにいやらしく笑った。
「なんでぇ…お前無職かよ…。階級も低いし…。じゃ、副資格で採掘系の技能を持ってるわけか?」
男は更に目を細めた。窓枠の表示内容が切り替わる。
副資格:俳優
技能:役割
能力半減
男の表情が固まった。ユージは何を見たのか察してニヤリと笑う。
「僕さ、万年金欠なんでね。領兵団の仕事が無い時は劇場で副業やってんだ。…そしたらこんな資格が取得できたんだよ。」
喋りながら背嚢を下ろし、ピッケルを立て掛けた。そして動きにくい手袋を外す。
「ば、馬鹿な…!無職の上に副資格が生産職でも戦闘職でもない俳優だと!?貴様、そんな能力でどうやってこれだけの鉱石を!?」
「顔の悪い男の人には教えられません。」
ユージの返事に男の眉が吊り上った。この男にとってはブサイク系の言葉は禁句だったようだ。鉤鼻に荒れた肌、たらこ唇に太すぎる眉。並びの悪い歯に釣り上がった目。いい男とは言い難い部品だらけで構成されている。そして男のこめかみには欠陥が浮き出ていた。
「…き、貴様!死にたいらしいな!」
「元々殺すつもりでそこで待ってたんじゃないの?」
男の顔は土砂降りの視界の悪い状態でも赤くなっていることが分かった。強すぎる怒りと殺意がユージに向けられる。そしてユージの視界に窓枠が広がる。
名前:ベルドラント(21歳)
階級:23
資格:簒奪士
技能:資格鑑定
技能簒奪
技能成長不可
悪人面
身分:犯罪者
男の視界に表示された内容より更に情報量は多く、ユージは全部確認してからわざとらしく笑った。
「…くっくっく。その顔の悪さは【悪人面】の技能のせいなのか。一体どれだけ簒奪したんでしょうか…。」
ユージの目が怪しく光り、窓枠の内容が更新された。
技能:剣の舞(奪)
剣の一撃(奪)
剣防御(奪)
歌の説得(奪)
気配隠蔽(奪)
魔力向上(奪)
資格閲覧(奪)
技能名の隣に付いた「奪」の文字。それは相手から奪った技能。
「へー。7つもあるねぇ。…つまり7回も【悪人面】によって顔が悪くなったんだ。」
ユージの言葉に男はだらしなく口を開いたまま固まった。
「どうしたのベルドラント君。あ、確かこの前逢った時はマハークって名乗ってたよね?あの時はあんなに親切にしてくれてじゃない?僕の荷物を運んでくれたりしてさ。あ、まさかあの荷物が「鉱石」と知って何かを奪おうとしたのかい?【簒奪者】さん?」
ユージの言葉は悪人面の男を震わせた。正確に自分の能力が見えていることをわからせるような言葉。この世界で相手に自分の能力を知られるということは弱点を晒しているに等しい。男は思考が止まったまま、顔も引きつらせていた。
だが男は醜悪な笑いで無理矢理一蹴する。背中の小剣を抜き、交差して構えた。
階級も自分の方が上。戦闘系のスキルも無し。俺様が負ける要素は何処にもない。男は不安を払しょくするかのように大声を張り上げた。
「ど、どうやってこのベルドラント様の能力を調べたのか、貴様を殺せばわかることだ!殺して光の粒子となって消える前に【資格閲覧】すればいいだけ!そもそも貴様のその能力ではこのベルドラント様には通用しない!」
自分のことを「ベルドラント様」という男は能力を視られた恐怖を振り払うかのように大声を張り上げユージを威嚇した。
逆にユージは冷静にベルドラントの技能を分析していた。武器は小剣。剣装備時の技能が3つ。盾を持っていないことから【剣防御】で身を守り、【剣の一撃】で相手の隙を作り出し【剣の舞】で止めを刺す手順だろう。
ユージは目を閉じた。そして再び目を開いた時、表情が変わり、全身から感じる雰囲気も変わっていた。
ユージの副資格に設定した俳優。それは取得した資格を発効せずに使用できる【役割】を習得できる、言わば、“役を演じる”能力を持っている。彼はこれで様々な資格を演じることができた。
そして今彼は演じる役割を変更した。資格を変えることで若干外見の雰囲気が変わる。ベルドラントはその変化に気づいたが、既に自分が勝つというシナリオしか想定していないため、その変化が何を表すかを考えることをしなかった。単純に目の前に立つ武器も持っていない男に奇声と共に襲い掛かっていった。
この世界の住人は最初から無職を発効した状態で生まれ、生活の中で条件を満たすことで資格を取得する。資格は取得しただけでは何も起こらず、発効して自分の主資格を設定することで資格を使用、技能を習得することができる。
一度発効した資格は自分で失効することはできないため、そう易々と資格を変更することはできない。
無職という資格は副資格という主資格とは別に資格発効できる枠を持っており、自分で失効もできる。通常ライセンスを失効した場合は、再取得に1年~10年の沈黙期間を要するのだが、副資格から失効した場合はすぐに再取得できるようになっていた。この仕組みを利用して早いうちに自分に合った資格を取得し自分の主資格を決めるのだ。
だが普通は無職であり続けることはしない。一見便利に見える資格だが、副資格には次の制限事項が備わっている。
・能力50%
・習得技能上限4割
・経験値取得上限4割
・階級上限4割
・恩恵取得不可
要は主資格で発効するのと比べて能力は半分以下だし、上限が設定されている為、全然能力向上できないのだ。
この為、一般的にはさっさと主資格を別の資格にして能力向上を目指す。ユージの様にいつまでも無職でいる事は無駄な努力と思われていた。
当然、ベルドラントも彼を、彼の資格を甘く見ていた。だからこそ容易く勝てると結論付けていた。
だが、彼の主資格の無職と、副資格に発効した俳優の組合せは、ユージがこれまで試した資格の組合せの中で最強だった。
事実、勢いよくベルドラントが放った【剣の一撃】を簡単にいなしさっと身を翻して距離を取った。ベルドラントがもう一度攻撃を放っても簡単に避けられているのだ。
「何故ベルドラント様の攻撃が当たらん!?無職で俳優のくせにその動きはなんだ!?」
4回も技能を発動し、魔力を無駄に減らしてしまったベルドラントは態勢を立て直すため一旦距離を置いてユージに向かって吠えた。
「…【威無】だよ。」
ユージは不敵な笑みで答えた。
【威無】。剣士で習得できる技能で相手の攻撃を最小限の身のこなしでなかったことにできる。ユージは剣士を演じてベルドラントの攻撃を躱したのだ。
「チッ…」
ベルドラントは舌打ちし、2本の小剣を構え直した。
直後にまたユージの目が怪しく光った。それは【鑑定】を使用した証。それを見たベルドラントは意味もなく一歩退いた。
「…おやおや、さすがに【魔力向上】を簒奪しているだけあって、魔力がまだたくさん残ってるね。…こりゃ長期戦になるかな?」
ベルドラントは絶句した。
【鑑定】の技能は相手の能力を視る事。しかし、全てが見えるわけではなく、せいぜい相手の発効資格、技能が見える程度。しかし、ユージは見えないはずの簒奪技能を言い当て、今度は自分の魔力の高さをも指摘した。つまり、
体力
生命力
知力
筋力
硬さ
素早さ
器用さ
魔力
精神力
運
威厳
信用
の基礎能力値まで見えていることを示しているのだ。…それほどの鑑定眼を持つ資格は聞いたことがない。
脅威。ベルドラントは戦慄する。
だが、ベルドラントは舌なめずりをしておぞましい顔で笑った。欲しくなったのだ。ユージが持つ隠された力を。
見えない技能であっても、殺して【資格閲覧】を発動して無理矢理開示させ、【技能簒奪】で奪えばいい。俺様には必殺の連続技がある!
自信を無理やり取り戻したベルドランドは、小剣を握り直して魔力を込める。勢いよく飛び掛かり【剣の一撃】を放った。ユージがこれに反応していなそうとしてのを見て技能を中断し、小剣を小刻みに振り回した。ユージはいなし損ねて体勢を崩す。ベルドラントはその瞬間を見逃さず、【剣の舞】を発動した。体を回転させて二本の小剣を振り回し体勢を崩したユージに襲い掛かった。
「死ねや--!」
ベルドラントが荒々しく舞った。
ガガガガッ!
何かを削り取る音が聞こえた。今のタイミングで躱すことなど不可能。手ごたえもあった。やはりオレ様は最強だ。
得意満面にベルドラントは切り裂いた相手を見た。…そして驚愕する。
そこには無傷で立つユージがいた。ユージはボロボロになった盾でベルドラントの【剣の舞】を防いでいた。
「ば、馬鹿な!盾など…持ってなかったはず!?」
ベルドラントの言葉にユージはしれっと返した。
「ん?最初から持ってたよ。…【認識阻害】で見えなかっただけ。」
【認識阻害】…大道芸人で習得できる技能。
「馬鹿な!一度に2つの資格を演じるだと!?」
ベルドラントの知識では、俳優が演じれる役は1つ。だが目の前の若者は剣士と大道芸人の2つの役を演じていたのだ。自分の常識外の事象にベルドラントの思考はまたもや停止する。
「そんな…オレ様の魔力全振りの一撃が…!」
「うん、すごい威力だったよ。お蔭で【青銅の小盾】が使い物にならなくなった。」
ユージは余裕のある笑みを浮かべながらボロボロに削られた盾を左腕から外した。そして長靴の内側から小剣を取り出した。
盾と同じく青銅製の小剣。それを二本取り出し両手に持つ。そして術後硬直でまだ動けないベルドラントに向かってニヤリと笑った。
「…教えてやるよ。お前の放った【剣の舞】は舞踏家で習得できる【演舞】の技能だろ?…俳優も【剣の舞】を習得できるんだ。だけどそれは【演武】の技能…。威力は俳優の方が何倍も上なんだ。」
ユージは小剣を構え魔力を込めた。
ユージの姿を見たベルドラントは、初めて死を認識した。目の前にぶら下がっている確実な死。認識しても何の感情も浮かばず、ただ迫りくる死を呆然と眺めているだけだった。
ユージの身体が美しく舞う。全身から湧き上がる力強いオーラ。竜巻の様に渦を巻き、ユージの周りで勢いを増す。鋭い刃を連想させる腕が回転しながら近づく。そして死を連想させるほどのユージの強烈な表情。…オレ様の【剣の舞】とは全然違う。薄れゆく意識がそれだけを感じて…こと切れた。
ベルドラントはユージの舞に切り刻まれた。返り血がユージの舞に合わせて鮮やかに飛び散る。ベルドラントは雨で溜まった水たまりに倒れ込み、辺り一面に血が飛び散った。だがすぐに雨でその赤色が薄められていく……。
舞終えたユージは肩で大きく深呼吸をした。
「ふう。返り血を浴びちゃったけど大丈夫かな?」
ユージは自分の作業着を見て色濃く付いたところを無理やり雨に濡らした。
「こんなずぶ濡れで家に帰って…マナちゃんに怒られなければいいけど…。」
ユージは作業着についた血を必死に雨で洗い落としていた。
能力の向上が見込めない資格と云われた無職と、演じるだけのの能力である俳優。だが、その組み合わせで彼は簒奪者を圧倒した。
その真価は誰も知らず、ユージだけがその秘密を知っている様であった。
資格解説
無職
生まれた時から取得している資格。最も貧弱な資格と認識されている。一般的には自分に合った資格を得るまでの仮資格という認識で、早々に資格発行を行って失効されるが、唯一すぐに再発行できる資格。実は取得できる恩恵が最も多い。早めに違う資格を発効しないと酷い恩恵を受けるのだが、実はそれに耐えてクラスアップさせると素晴らしい恩恵をうけることができる。
『習得技能』
・副職Ⅰ
・副職Ⅱ
・副職Ⅲ
・副職能力発揮Ⅰ
・副職能力発揮Ⅱ
・副職能力発揮Ⅲ
・取得経験増加
・恩恵取得解禁
・能力隠蔽
『取得恩恵』
・副資格制限
・睡眠時間低下
・体力低下
・運低下
・対話能力低下
・思考低下
・悪運向上
・体力温存
・鉄面皮
・短時間回復
・沈着冷静
・並列思考
・翻訳




