あの人
ある日の朝、屋敷に大きな怒鳴り声が鳴り響く。
「アリス!!お前は何度言ったらわかるんだ!!」
白髪のオールバックにスーツ姿の男が高そうな赤い椅子に座り、目の前にいる綺麗な金髪を指でくるくる巻きながら、真面目に話を聞く気がない少女、この少女こその名前はアリス。
今回も勝手に屋敷を抜け出し、町に行ったことで怒られている。
「はぁ‥‥‥いや、まぁ私、17歳なのよ?もう自由に屋敷を出てもいいでしょ?いつまでもこんなところに閉じ込められて‥‥‥旅、旅がしたいわ!お父様!!」
「黙れ!!お前がそうやっていつも屋敷を抜け出し、遊んでいるせいで成績が悪くなっているじゃないか!まずは、次の試験のために勉強するんだな」
アリスは不機嫌そうに指でくるくると髪を弄り続けていると後ろから低めの女性の声が聞こえてきた。
「アリス様、しっかりとやることをやらずにしたいことばかりをするのはどうかと思いますよ」
その声の主はアリスに幼少から仕えてきたメイド、ルリ。
彼女は毎回、アリスが屋敷を抜け出しては探しに行き連れて帰るため、うんざりしていた。
「私はね!自由が好きなの!!お父様のために生きてるんじゃないのよ!だから自由に屋敷を出るし、自由に遊ぶ!!」
「‥‥‥自由が欲しいなら、しっかりと知識を身につけ一人でも生きていけるようになってから与えてやる」
父の言葉にアリスは黙ってうつ向いた。
「ど、どうして‥‥‥」
アリスはうつ向きながら声を震わせて呟く。
「外に出た方がいっぱい学べる!!私は誰かが書いた本の知識じゃなく、自分が見たもの、感じたものから知識を得ていきたいのよ!!」
いつもなら、ここら辺で黙って部屋を出るアリスが今日は反論したことにアリスの父、バイスは少し驚いた。
「アリス‥‥‥外で何を見てきた?」
バイスはさっきまでの厳しい態度を緩めて、体を前屈みにしてアリスに訊く。
「‥‥‥」
アリスはバイスから目を逸らし、話そうとしない。
「アリス、言ってみなさい」
「‥‥‥私の、人生が変わる人を見つけたの」
「人生が変わる人‥‥‥」
ルリは呟き、静かにアリスの言葉を待つ。
「‥‥‥あの人の姿が頭から離れないの」
アリスの言葉にルリはハッと、何かを勘づいた。
「あの人‥‥‥恋?」
「そうよ、ルリ。この胸の高鳴りは恋、あの人を想い浮かべる度に私は私じゃなくなる‥‥‥」
「一体、どんな男なんだ?」
バイスの質問にアリスは首を横に振る。
「お父様、男じゃない‥‥‥」
「え?」
「幼女よ‥‥‥」