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5 授業

本日三回目の更新でございまず

「……であるから、結果として体内を循環する魔力は、イメージを触媒として……魔力が心臓下部に位置する……で濃縮され、生成し、放出する……」


あまりにも授業がつまらなすぎて頭がぐらぐら揺れる。船をこぐなんてレベルじゃなくて豪華客船が転覆しようとしているようなレベルだ。やっと目が覚めたと思ったらいつも授業終了五分前。


「今日も盛大に寝てたね、ヴァレリー」


「……言わないで、ベラ」


「いやぁ、いつも思うけど、あそこまで揺れるのになんで突っ伏して寝てしまわないんだい?逆に目立つよ」


「王子、私は寝たくて寝てるんじゃないです。教授たちが睡眠魔術の使うので、私はそれに抗おうと必死に抵抗しているんです」


今日は騎士科と魔術科と一般教養科の合同授業の日だった。あくびをかみ殺しつつ次の講義に向かう。授業の合間の廊下はいつもにぎわっていて、さまざまな服装の生徒が行き交う。


「そういえばさ、最近君なにしてるの?いつにもまして付き合い悪いよね」


ベラが不機嫌そうに切り出した。


最近私はレアアイテムさがしとその準備に奔走しているので、朝早く寮を出て門限ぎりぎりに帰ってきているし、ベラからの遊びのお誘いなども全部断っている。でもそんなこと言えるはずもなく、かといって言い訳も思いつかない。


「えぇと、黙秘します」


「君、庭園の薔薇の花畑のとこでなんでか泥だらけになってたり、こないだなんか噴水に飛び込もうとして止められてたよね?なにしてるの?」


「あ、それ俺もみた。っていうか、図書館で片っ端から本引っ張り出しては戻してってやってて司書さんに注意されてなかった?」


「ふぇっ?な、なんのことですか?私心当たりないです~人違いじゃない?」


「しらを切ろうなんて、もしかして何か悪巧み?私も噛ませなよ」


「いやいや断じてそのようなことはないよ!全然。うん、何もない。気にしないでいたずらでもしかけてなよ。私、いたずら仕掛けてる時のベラの笑顔が好きだな~あはははははは」


「……怪しいね、スティーヴン」


「……怪しいな、ベラ」


「いやいや年頃の乙女なら秘密の一つや二つあるよ~気にしないでください!ほんとに」


「年頃の……乙女……」


王子が遠い目をしている。この表情みたことあるぞ。先輩がよくしているやつだ。ようするにあきれられているんだ。


「ヴァレリーってさ……一見暗く見えるというか、おとなしそうなのに、行動とか言動が突飛だよね。君なんて呼ばれてるか知ってる?」


「は?私通り名とかあるの?」


「ベラと並んで残念な美人って呼ばれてるよ。アステル国の神秘とか、そういうオブラートに包まれた表現もあるけど」


「ええ!?私ベラと並んでるんですか!!」


「そうそう、私たち有名人~」


「まじでか……」


割と衝撃が大きい。そうか、私はベラと並んで変人扱いか。解せぬ。私はただ生存本能にしたがってるだけだ。機械に生存本能があるかなんてわからないけど。


「なに沈んでるの!大丈夫大丈夫、アステル国の威信は優秀なスティーヴンとかウォルターが守ってくれてるから。私たちは親近感を覚えてもらえればいいんだよ」


「そういう問題じゃない…」


うぅ、とうめき声をあげて次の教室に向かう。なんでだ、こんなはずじゃなかった、私はただ普通に生きていたいだけなのに。


しばらく歩くと次の授業で使う教室についた。次の授業は珍しく騎士科と合同授業だったので、ベラとは別れて王子とともに講義室に入る。早めについたので席はかなりあいている。すると、後ろから呼び止められた。


「ねぇ、そこのあなた!」


「はい?」


振り返ると、そこには細い腕に風紀委員の腕章を付けたグレイス・グレイがいた。綺麗なローズグレイ色のネコ目を吊り上げて、かなり不機嫌そうだ。彼女は体こそ小さいが、今まとっている威圧感はすさまじい。


「……私ですか?それとも王子のほうですか?」


「あなたよ、ヴァレリー・ヴァイオレット。ちょっといいかしら」


「は、はい」


二人で教室をあとにする。きびきびと姿勢よく歩くグレイスにつられて自然と背筋が伸びる。なんだろう、すごく怒られそうで嫌な予感がする。


「さて、ヴァレリーさん、ご存じのとおり私は風紀委員です。そして、風紀委員とは、学校の風紀を守るものです。……なんで呼ばれたかわかりますか?」


「……はい、大方予想はつきます。でも待ってください、教授のカツラに虫を仕込んだのも、カフェテリアでソースをコーヒーと偽って先輩に飲ませたのも、ロッカーに昆虫どっきりを仕掛けたのもベラであって、私じゃないです!」


「いやいや、それは関係ない……ってそんなことやってたんですか、あなたたち」


「私たちじゃなくてベラ・ブルーベルです!私は被害者です、巻き込まれたんです」


「いや、今はそのことは置いておいて。私があなたを呼び出したのは、先日の噴水突入未遂や魔法棟無断侵入の件です」


「えっ……そんな、大ごとになっていたんですか……?」


「そうです。なぜあんなことをしたのか聞いても?」


「いや、えっと、話すと長くなるんですが……」


まさかレアアイテムさがしだなんて言えない。きゅるきゅると歯車をマックススピードで回転させ、当たらずとも遠からずな言い訳を考える。


「実は、学園についてから大事なものをなくしてしまって。それを探すために噴水を調べたり、あと魔法棟が許可なく立ち入ってはいけないってしらなくて入ってしまって……」


「……そうですか。なくしもの。それはどういったもので?」


「えっと、大事な書類です。ずっと探してるんですが見つからなくて」


「書類……。まぁ、異国で大事なものをなくしてしまったら焦るのも納得できます。あとで風紀委員に来て下さい。探すのに協力します。ただ、今後突飛な行動は控えてください。わかりましたか?」


「は、はい!申し訳ありませんでした」


そう言って完璧な角度で頭を下げると、ちょうど授業開始のベルが鳴ったので、あわててその場を辞し教室に入る。一気に疲れた。グレイスは目力があるなぁ。


でも困った、これで堂々とレアアイテムさがしができなくなってしまった。ゲーム中なら、NPCに爆炎を放ったり、図書館の棚を切りまくったり、いくら主人公に変な行動をさせても何も言われなかったが、さすがに現実ではそうもいかなかったか……。


その日の授業中はずっと今後のレアアイテムさがしについて考えていた。

読んでくださってありがとうございました!

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