2 学園生活
ゲームの主な舞台である学園は名前を王立フィロ学園と言う。
フィロ学園は、あらゆる人物に扉を開き、さまざまな科が存在し、学園で何を教えているのか把握している人はいないというほど色々な授業を展開している。それこそ、魔術関係から、どうやったらきれいにプレゼントをラッピングできるかまで、さまざまな講義が存在している。お風呂場でどう発声すれば気持ちよく鼻歌を歌えるか、なんて授業は一周回って興味がある。
学園のさまざまある科の中でも人数が多いのは一般教養科、魔術科、技術科、騎士科、医療科、芸術科で、たとえば私は魔術科、ベラは一般教養科、ウォルターは技術科、王子は騎士科である。私たちの留学予定期間は三年で、最初の一年はどの科に所属していても受けなければいけない授業が多々あるため顔をあわせることが多い。それは私の一つ上の学年に所属するウォルターも同じなので彼とはこれからも顔を合わせることになるだろう。ただ、上の学年でしか開講していない授業もあるので、そちらには私は顔を出せない。
まぁそんなうだうだした説明はいいんだ。とりあえず私の当面のミッションは技術科の皆さんとお近づきになること。できれば教授とお近づきになりたい。そのためには色々リサーチしなければならない。私の機械仕掛けの頭がきゅいんきゅいん思考を走らせる。
今私は寮の自分の部屋にいる。なんと一人部屋だ。ゲームで見た部屋と構造が同じでいたく感動し、ベッドの下やバルコニーにあるはずの宝箱ならぬ落し物を探す。薬草を二つ発見した。機械にも効くのだろうかと食んで見たが、むしろ強烈な苦みに頭痛がしてダメージを負ったので捨ててしまった。吐きそう。
うぅ、とお腹を押さえる。機械のくせにこの体はまるで人間のように反応する。それともこれは私の前世の記憶に引きずられているだけなのだろうか。どちらにしても結局この不快感は消えそうにないので考えるのはやめておく。
ふぅとためいきをついて痛む腹をさすり、明日の準備をする。明日は入学式兼歓迎会だ。それに備えて寝よう。機械なのになぜ寝るのかと聞かれるかもしれないが、私のバッテリーは一日ちょっとしか持たず、できる限り動かず何もせず転がってないと充電されない仕組みらしい。よって毎晩電源を落とすように眠りこけてる。
そしてなんと夢も見る。横断歩道の白線を踏む夢、翼を焼かれたドラゴンになって空から落ちる夢、自分が爆発する夢、転落死する夢、そんな夢を見る。そのたびに私は絶対に生き抜いてやるって誓うのだった。
朝はすっきりおきられるのが機械になった唯一の利点かもしれない、と制服を着ながら思う。
この学園の制服は黒を基調としたブレザーのようなデザインで、薄手の黒いコートと紐を結い上げる構造の黒いふくらはぎまでのブーツも支給される。これを着ると深紫色の髪のせいもあって陰気に見えが、鏡に映ったゲームのヴァレリーそのもので、その姿にテンションが上がる。どんだけ公式資料集を眺めまわしてもわからなかった下着の柄まで把握できたなぁなんてにやつている私は立派なヴァレリー狂だと思う。いや、私がヴァレリーなんだけども。おもわず鏡の前でポーズをとったりセリフを言い放ったりしてしまうのは許してほしい。
ポージングでいい汗をかいたあと、さぁ行くかとドアに手をかけようとした瞬間、ごんごんとノックされた。
「はぁい誰ですか?あら、ベラ」
「おはようヴァレリー。一緒に登校しましょう!あとドアを開ける前に誰がノックしたか確認したほうがいいわよ」
ドアを開くと制服に身を包んだゲームに出てくるベラがいた。彼女はヒロインらしい輝きに満ちていて、思わず見惚れてしまった。
「何呆けてるのよ、行こうよ」
「いや、うーん、せっかくのお誘いですが……」
「……もしかしてウィスタリア先輩と約束があったりする?」
「いや、ないですないです。先輩とはほんとにそういう関係じゃないです」
「じゃあいいじゃない、行くよ。それとも私って嫌われてる?」
ベラがこちらを試すような笑顔を浮かべるので、渋々了承した。
「……わかりました、ご一緒させていただきます。でも、なんでわざわざ?」
「だって、私たち友、達でしょ」
そういってウィンクする彼女に何も言えずうなずいてしまったが、これはまずいんじゃないか。関わらないようにしようと思ってたのに。まぁこれから距離を保てば……
「ねぇねぇあなた魔術科でしょ?私たち授業色々重なるよねぇ」
「えっそうなんですか」
廊下を歩いていると、ベラが口を開いた。
「そうそう。魔術科と技術科は人数が少ないから、一般教養科と合同だよ。
「へぇ~初耳です」
「いや、昨日説明で言われたよ……。あと前から言いたかったんだけど敬語やめてくれない?」
「……わかった」
「よし。それでこそ友達!」
うんうんとうなずくベラに、あぁ私の距離をとる作戦が……と頭を抱えたくなるのをこらえる。しばらく二人でぽつぽつと言葉を交わしていると、ベラが何やら気づいたように立ち止まった。
「あれ?あそこにるのスティーヴンじゃない?」
「へっ」
「ほら、取り巻きを連れてきているよ」
「えぇー……」
振り向くとそこには、おそらく護衛も兼ねた取り巻きを連れた王子がいて、彼はベラに気付くとこちらに歩いてきたのだった。私は機械なのに胃がきりきりと痛みだすのを感じた。
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