第二十話 決着
何故だ、何故この俺が負けている。
四神の長として二百年負けたことのなかった俺が…人間相手に!
訓の猛攻に押され気味の白虎は混乱していた、動きは鈍くなり攻撃もさっきより当たりづらくなっていた。
訓はとてつもない速さで刃を奮った、刀で白虎の腹を斬り、剣で右腕を切り落とし、刃で両肩から交差するように斬りつける。
能力で傷を戻そうとする白虎、しかし間髪入れず訓は白虎の頭に剣を左足に刀を刺し空いた右手で渾身の拳を腹にぶつけた。
白虎はそれに耐えきれずうめき声を出してしまった、しかしそんな事はお構い無しに訓は刃を抜き白虎の両腕を切り落とす。
訓は手を止め冷たい視線を白虎に送る。
「どうだ、自分より強い者に圧倒され何も出来ないのは。
お前は今までいくつの村にこの苦痛を与えてきたんだろうな、どれだけ霊夢さんや香蓮さんに苦しみを味わせたんだろうな。」
自分より強い者、この言葉に白虎は怒りを憶えた。人間の訓が神である自分より上な訳がないと、自分こそが強者であり勝者なんだと。
白虎は切れた腕を戻そうとするが、疲弊のせいか精神の混乱からなのか能力は明らかに力を失いつつあった。
「ほ、星の…星の赤子共の…」
白虎は走って霊夢達の元へ向かった、しかし後ろから訓が斬撃を飛ばしたことによって両足さえも絶たれるのであった。
「ああ、そうか。
俺の能力は『ありとあらゆるものを斬る程度の能力』だったな。」
床に倒れている白虎にゆっくりと近づく訓、その一言は他には聞こえるか否か程の小さな声だった。
「赤子…赤子の力を……」
斬れて短くなった腕を霊夢達の方へ伸ばす白虎、しかしそれを遮るかのように白虎の目の前に立つ訓。
「さて、お前の首を落としたらどうなるのかな?また戻るか?それとも死ぬのか?」
訓はゆっくりと刃を持つ両手を上げた、その刃は白虎の血を垂らしながら窓から射し込む日の光で鈍く光っていた。
「悔い改めろ、白虎!」
勢いよく刃を振り下ろすとどこからか訓を止める声が聞こえた。
「まってくれ!」
訓は刃の軌道を変えて床に当たった、声のする方を見るとそこには今まで黙っていた青龍が涙を流しながら訓を見ているのであった。
「白虎様を殺すなら、私を殺せ!」
「おいおい、何で今まで黙ってたあんたがしゃしゃり出てくんだよ。」
「白虎様は私達四神の長、お前達に必ずや勝つと確信していた。
しかし白虎様に危機が来たら黙っている訳にはいかないだろう!」
青龍の話を聞くと訓は青龍の方向へ斬撃を飛ばす、目をつぶり死を覚悟した青龍、しかし斬撃は青龍の後ろの壁に当たった。
「恐怖しただろう、死を感じただろう。あんた達はこれを何人もの人達に与えてきた。
俺はそれを許すことが出来ない!」
「星の赤子を探していたのだ!」
「なら人を殺していいのか!?
あんた達は神様だ、神なら何しても許されるのかよ!」
訓と青龍が話をしていると、白虎が高らかな声で笑い始めた。
「ハハハハ!
人間が何を宣うのだ、我々は神だ、全ての頂点に立つ存在だ!」
白虎はいつの間にか右腕を戻し使える状態にしていた。
白虎はその腕で斬撃を飛ばす、斬撃は霊夢達の所へ向かっていた。
まずい!間に合わない!
今までとは違いとてつもない速さで飛んでいく斬撃を訓は止めることが出来なかった。
だが、斬撃は止められた。
どこからか飛んできた黒い球体に触れた斬撃は吸い込まれるかのように球体と共に消えていった。
どこかで見覚えのあった球体、それを放った正体はすぐに分かった。
「いや、間に合ってよかったわ。」
声のする方向を見ると、そこには扉に手をかけているアンドリューがいた。
「お、お前は…何で!?」
「相談屋、あんたのその正義感、惚れたよ。
アニキと呼んでいいかい?」
アンドリューの行為に対して、訓は疑問を霊夢達は安堵を、青龍は怒りを向けた。
「お前ぇ、裏切るのか!!」
「青龍様、俺はあんた達がやっている事が正義だと信じてた。
でも人殺しをしてたなんて、そんなん聞かされたらそりゃ裏切りたくもなるわな。
俺の目的は、妖怪を人間に認めさせる事たがらな。その為には正義の心を持ってないと。」
アンドリューの言葉を聞いて訓は少し安心した。
彼も自分と同じく、認められたくて生きているのかと。その心は何よりも嘘のない本心だと。
しかしその心とは裏腹に白虎への怒りも高まっていた、まだ人を傷つけるのかと。
「さて、白虎さんよ。どうやって落とし前つける気だ?」
訓は剣を白虎の右腕に刺して動かないようにし、刀を首に軽く当てた。
「マジで、マジで許さないからな。」
刀を上にあげ、そのまま勢いよく振った。
城中に硬いもの同士が当たる音がした、刀は白虎の顔の横数ミリ先を斬った。
「いいか、一度だけチャンスをやる。
地元戻って二度と悪行働くんじゃねえ、もしやった事が俺の耳に入ったら…」
そういうと訓は剣を抜き、刀と一緒に納めた。
「何言ってるのよ訓!早く退治しなさい!」
「ダメだよ霊夢、こいつらは仮にも神だ。こいつらが居なくなる事で困る人達が居る、それはいけないさ。」
「訓さん…」
「文さんは分かってもらえるかな?妖怪の山にも守矢の神々とか色々居るでしょ、それが居なくなったら…」
「訓はそれでいいのか?」
「俺はそれで構わない
魔理沙さんこいつらに傷を与えられてるのにすいませんね。」
「…」
「香蓮さん、最終決断は貴女がしなよ。貴女にはこいつらを裁く権利が有る。」
そう言われると香蓮は黙って下を向き考えた、すこしすると香蓮は訓に向かって笑顔を見せる。
「良いんじゃないですか?私は神様を裁くほど偉くありません、訓さんが決めたことに私は従います。」
従う
この言葉を聞いた訓はやれやれと呟きながら青龍の拘束を解いた。
「ほら、ご主人と一緒に帰んな。」
「白虎様は長であるだけだ。」
そう言いながら青龍は白虎を抱え窓を開けた。
「帰りましょう、白虎様。」
白虎は訓の方を見て一言だけ言った。
「愚かな、甘い男だな。」
そうして二人はどこかへ消えてしまった。
「さて、俺達も帰りますか。」
訓は身体を伸ばしながら皆に言う、皆は笑顔でそれに賛成した。
城を出ると外はすっかり夕方だ、黄昏の空が一面に広がっていた。
訓は門を開けるなり何かに気付いた。
目の前には小さな影が、それは包帯をまいた股助だった。
「おかえり、遅かったな。」
「すまん、手こずった。
ただいま。」
一行は博麗神社に向かった。
霊夢によると玄武や朱雀の気配も消えていたらしい。
城はもう誰も居らず、大きなその姿は逆に寂しさを感じさせた。
次回で最終回となります




