第十九話 立ち上がる
「くそ、まだ動けるのか。」
腹の剣を抜きながら鳳凰へ近づく白虎、すると足を止めニヤリと笑った。
「キサマ、オウではないな?」
白虎の質問に鳳凰は頷く。
今訓の身体の主導権は訓に戻っていた。
身体の中では鳳凰の魂が身体をまた奪い取ろうとしている、しかし戦いで憔悴している為訓に取り返されたままなのである。
「訓さんふっか~つ…」
荒い息をしながら刀を手に取り立ち上がる訓、肩や背中など至るところから血が出ているがそんなことはお構い無しに白虎に近付いた。
「ふん、オウのままなら知らぬうちに死ねたろうに。
残念だな。」
そう言いながら白虎は剣を縦に振る、訓はそれをよけずに左手で掴んだ。
白虎はそのまま剣を振ろうとするがピクリとも動かない、訓の顔を見ると殺意が滲み出ていた。
「ふざけんな…よ!!」
訓は右手で白虎の顔を殴り吹っ飛ばした、その衝撃で白虎は剣から手を離す。
遠くへ飛んでいった白虎を追いかけようと訓は歩き始めるがその足は動かなかった。訓本人が戦っている時点で命ギリギリの状態だったのに、鳳凰が代わって戦った事で身体にはかなりのダメージがかかっていた。それは常人なら既に死んでいてもおかしくない程である。
「くそ、動けよ…
動け……」
やっとの思いで一歩前へ出た、しかしそこから先へ行くことが出来ない。
そんなことをしているといつの間にか白虎が訓の前に立ちふさがっていた。
白虎は訓の頭を掴み床に叩きつけた、腰を落とし訓の頭を上げると眼鏡は割れ鼻から血を垂らし唇も切っていた。
「いいザマだな、クズめ。
ここまで!オレをコケにしたのは!お前が!初めてだ!!」
白虎は何度も何度も訓の頭を叩きつけた。
礫達は助けに行きたかった。
しかし前の戦いでのダメージ、さらに今は気を失った霊夢達を抱えている。とても加勢出来るような状態ではない。
礫達はただ訓がやられているところを見ているしかなかった。
すると霊夢が意識を取り戻し、目を開いた。それに呼応するかのように香蓮や魔理沙も目を開く。
何が起こったかと身体を起こし辺りを見渡すと白虎に一方的にやられている訓が目に入る。
三人は状況が掴めず困惑していた。
しかし今は訓を助けなければ、そう感じた三人は立ち上がろうとするが何故か身体の自由が聞かなかった。
魔理沙は戦いでのダメージが、霊夢と香蓮は白虎達に暴れられないようにと手足に妖術のかけられた鎖が巻かれていた。
霊夢は鎖を解こうと試みるが、鎖には四神四人分の術式が複雑に編み込まれていた為出来ないのである。
霊夢が必至になっていると、手元に水が一滴落ちた。何かと顔を上げるとそこには目から涙をこぼす香蓮がいた。
香蓮の中では様々な感情が交差していた。
自分の前には恐ろしい存在がいる、一体何をされるか分からない。そしてそれは自分を助けた訓を攻撃している、このままでは訓が死んでしまう。全て自分のせいで。
香蓮は城中に響き渡るほどの悲鳴を上げた、すると香蓮を中心に衝撃波の様な波紋が流れた。
何があったかとその場の全員は香蓮の顔を見る。
白虎は一瞬悪寒の様なものを感じた。
叫び終え我に戻る香蓮、辺りを見ると皆の視線が自分に向かっている事に気付く。その中で一際威圧を感じたのは白虎の視線である、その圧力に圧倒され後退りをした。
自分の悪寒は気のせいかと白虎は胸をなで下ろした、すると手に痛みを感じることに気付いた。
手を見るとそこには刀が刺さっていたのだ。
目を上にやるとそこには刀を握り立っている訓がいた。
「よそ見するな。」
訓はそういうと白虎の顔を蹴り上げた、白虎は鼻血を出し悶えた。
訓は白虎の手から刀を抜き立った、それにつられるかのように白虎も手を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
「何故、何故立っていられるのだ?」
白虎の質問に訓は淡々と答えを返す。
「そんなん俺にも分からねえよ。
でもまあ、全回復って訳でもなさそうだけどな。足は震えるし、身体も重い。正直お前を蹴っただけで相当体力持ってかれた。
が、まだ…お前を倒す力は残ってるぞ!」
訓は構えをとり戦う意思を見せた。
白虎はその姿を見ると愚かなと言う様な顔をしていた。
訓は剣を投げ串刺しにしようとするが白虎はそれを片手で払い除け斬撃を飛ばす、刀でそれを受け止め持ちこたえた訓は一気に白虎の懐に入った。一瞬遅れて気付いた白虎は腰から左肩にかけて斬りつけられ血を流す。しかし能力で傷を戻し訓の頭をまた掴む、しかし負けじと訓も落ちていた剣を拾いその腕を斬った。白虎はものともせず訓の腹を蹴り上げた、高く飛んだ訓はそのまま刃を立て差し掛かる。ギリギリの所で白虎は避けるが訓は着地したと同時に白虎の顔を殴った。白虎は地面に叩きつけられながらも弾幕を張り自分諸共訓を攻撃する。訓は弾幕に気付くと刃を横に持ち一回転周りに円状の斬撃を放ち、弾幕を消した。
両者の一進一退の戦いに霊夢達は唖然としていた、外の世界から来た一人の人間が神相手に互角の戦いをしている事に。
鋭い爪で訓に傷を与える白虎、訓は傷口からポタポタと血を滴らせながらも近づいてきた白虎の髪を掴み頭突きをした。脳震盪を起こした白虎はその場でよろけて尻をついた。
訓は息を荒らくしながら白虎に指を指した。
「ファイナルラウンドだ、俺の全身全霊を持ってお前を倒してやる。
かかっこい!」




