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Assassin  作者: Aoi
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1-1

 BBOに存在する都市の内の一つ、廃都市ゲノンは灰色で統一された建物が密接に立ち並んでおり、複雑に入り組んだ裏路地がある。長くここに住んでいる者でも迷うため、プレイヤーメイドの地図なしでは入ろうとする者もあまりいない。その地図もすべての道を網羅できてはいないのだが公式の地図がないため仕方がない。その裏路地を、ソルアは歩いていた。

 時刻は他のプレイヤーが少ないまだ薄暗さが残る午前5時。周囲には朝靄が立ち込め、まるで知らない道に誰かを誘い込もうとしているかのようだ。

 時々聞こえる鳥のさえずりが朝の到来を感じさせるが、それ以外の静けさからは未だ夜の余韻を感じ取ることが出来る。他のもっと大きな都市エリアならばプレイヤーも多いかもしれないが、ゲノンをこんな時間に訪れるプレイヤーは少ない。

 ソルアの足取りには迷いがなく、左、右、右、右、左、と地図など手には持ってはいないが、まるで頭に入っているかのように淀みなく進んでいる。見ている者がもしもいたらその淀みのなさに驚いていたかもしれない。

 そうして、進んでいくうちに先の方に灰色の巨大な尖塔群が見えてきた。ゲノンの中心に乱立しており、円形の都市の中心にそびえ立つBBOの中でも名景の一つに数えられる名物でもある尖塔群だ。この街を本拠地にするギルドは大体これらの尖塔の一つを所有、もしくはそれを夢見ている。そしてそれは ソルアの所属するギルドでも同じだ。

 ソルアは裏路地を通り抜けると、尖塔群の内の一つへと進んで行き、その扉を押し開け入っていった。


 扉を開けるとそこは滑らかな灰色の大理石で占めらた空間で、壮大かつ厳かな雰囲気が発せられている装飾が諸所に見られる。

 扉が独りでに閉まるのを待たず、ソルアは再び歩き始めた。豪奢な一流のホテルの様なロビーを、受け付けの女性の軽い会釈に応えながら進み、下の階へと続く階段を一番下の階まで降りていく。

 最下層まで降り切るとそこは一つの大きな縦長の空間となっており、その真ん中には漆で塗られたかのような大きな円卓が据えられている。円卓には既に円卓と同じ黒色のマントを羽織った10人が席についており、誰も座っていない席は一つだけだ。


 「少し遅れたな、ソルア。どうしたんだ珍しい。」


 座っている10人の内の一人、真っ黒な短髪をした精悍な男、トバリが声をかける。椅子に腰を下ろしていてもその長身は隠せないようで、精悍な顔立ちから出る男らしさと合わさり10人の中でも存在感を放っている。

 BBOの戦うことがメインであるという指標からプレイヤーの基本的な容姿は変えられない。髪や目の色などカスタム出来る場所はあるが、骨格などは変えられないのだ。

 恐らく、トバリは現実でも同じような存在感を放っていることだろう。


 「悪い、ちょっと朝からしつこい奴がいてね。まくのに手間取った。」

 「お前がまくのに手間取るなんてそれも珍しいな。」


 トバリが心底驚いたような顔をする。


 「ここの場所がばれるようなヘマはしてないから、安心して。」

 「そんな心配はしてないが、そいつ面白いな。以外に才能あるかも。今度会わせてみてくれないか。」

 「いやだよ。普段追っかけまわされてる奴の所にわざわざ会いに行くなんて。行くなら自分だけで行ってくれ。」

 「ダメか。まぁその話はまた後ってことで。ソルアが来て全員そろったことだしそろそろ議題に入ろうか。ソルアも席に着いてくれ。」

 「了解。」


 そう言われソルアが自分の席に着くのを確認すると、トバリが再び口を開いた。


 「まず言っておくことがある。今日みんなに集まってもらったのはいつもの定例会のためじゃない。」

 「定例会以外でわざわざ集まるなんてのはいつ以来かしらね。」


 トバリの言葉を受けて黒い長髪の女性が発言する。綺麗な顔に理知的な目が印象的な容姿をしており、艶やかな黒髪がその容姿をさらに引き立たせている。その所作にも思わず見とれる洗練された美しさがあり、街にそのまま出れば通り過ぎるものが皆振り返るほどだろう。


 「大方、またどっかのギルドが踊らされて戦争でもするって話をするんでしょうね。」

 「ユキア、もう知ってるのか。」

 「ちょっとうわさで聞いてね。」

 「そうか。じゃあもう知っている奴もいるかもしれないが、近々ギルド鉄の風とギルド悪魔の囁きの間で戦争がある。」

 「戦争なんて多くはないけど、ないわけじゃないでしょ?その戦争にどっか問題でもあるの?」


 ピンク色の髪の毛をサイドで結んだ少女、エナが口を挟む。


 「そうだな。確かに戦争なんて起きるときは起きる。今回も度重なる縄張り争いの延長線上で起こった戦争だし、過去にも同じような例はある。」


 そういってトバリが一泊置いて言う。


 「問題はこれが仕組まれた戦争で、負ける方も決まってるってことだ。」

 「裏切り、って所かしらね。たしか鉄の風には野心満々の陰謀家君がいたはずだし。」

 ユキアが若干退屈そうに言う。

 「そうだ、詳しい所はソルアに調べてもらったから、こっから先はソルアにバトンタッチだ。」

 そう言ってトバリが視線を向けると、おもむろにソルアが立ち上がり、話し出した。


 「まずユキアさんが言ったように鉄の風の幹部ルーダスが今回の黒幕の一人だった。そして、もう一人が悪魔の囁きのマスター、ヨゼフ。」


 「詳細を述べるよ。先ず、ルーダスがヨゼフに」

 「ちょっと待って。」


 話を続けようとしたソルアの言葉を、ユキアがいきなり口を挟も遮った。比較的他者を尊重する彼女にはあまり見られない行動だ。

 それに対し不思議そうな様子でソルアがユキアに顔を向ける。


 「何ですか?ユキアさん。」

 「ソルア君さ、円卓でくらいフード外さない?フード好きなのは良いけど顔が見えてないと何か気になっちゃうのよ。」


 ユキアが若干あきれた口調で言う。


 「あっ、それあたしも言おうと思ってたんだ。ソルア君せっかく綺麗な顔してるのにもったいないよ。」


 エナもユキアの言葉に乗っかって発言する。


 「確かに。顔が見えてた方が話しやすいしな。ソルア、フード外してもらっていいか?」

 トバリも二人に賛同する。


 「・・・分かりました。」

 三人の視線を受けてソルアが仕方なさそうにフードに手を伸ばす。パサッと後ろに落ちるフードからまず現れたのは、うなじを軽く覆うほどの長さの純白ともいえる真っ白な髪だ。髪と髪との間には薄い陰影が出来ており、よりいっそう髪の美しさを引き立てている。

 そしてその髪の白さにも負けないのがその白い肌である。病的な美しさを持つその肌はトバリにもこれでアルビノじゃないなんてな、と言われたほどだ。瞳がこれで真っ黒ではなく赤なら100%誤解されるところだろう。


 「では続けます。」

 やるべきことはやったから次いくよ、的な顔をしてソルアが再び話を続ける


 「ルーダスは鉄の風の幹部ですが、前からギルドの方針とそりが合わないと感じており、不満を貯めていたそうです。そしてそれが限界に達したころ、悪魔の囁きのヨゼフと密かに接触し、取引を持ちかけました。」


 「ルーダスがヨゼフと取引した内容は一つ、鉄の風内部で内部工作を起こし、悪魔の囁きと衝突させ戦争にし、鉄の風を罠にはめて潰すこと。二つ、その報酬としてルーダスを悪魔の囁きの幹部として迎え入れることです。」


 「なるほどな。ルーダスは一気に悪魔の囁きの幹部にまで上り詰められる。ヨゼフは鉄の風をつぶせばギルドマスター討伐特典など莫大な金が手に入り、縄張りも独占できる。いいこと尽くめな訳だ。」

トバリが苦々しそうな顔をする。


 「皆、こいつらが今回の仕事のターゲットだ。相手は一つのギルドのマスターもいる。近づいて接触するだけで容易じゃない。だから全員に召集をかけたんだ。」

  

 「そんで早速仕事に取り掛かりたいところだが、その前に、皆に今一度このギルドの存在理由を思い出してほしい。」

 真剣な表情でトバリがみなに語りかける。


 「BBOは戦いが主題だ。戦うことが好きな奴らが集まったゲームだった。」


 「でもいつからかおかしくなっちまった。戦いの後は恨むことなんかなくむしろ互いを称賛し合ってた筈が、いつの間にか恨み言を言い合ったり、ギスギスした空気が漂うことが多くなった。」


 「そのせいか、今回みたいな陰謀めいた戦争や集団で一人のプレイヤーを弄るようなプレイが目立つようになってきた。」


 「俺らは、BBOを愛する奴らはそんなことを望んじゃいない。そんなことは決して許さない。ゲームのルールとして禁止されてなくても、たとえここが仮初ゲームの中でも。」


 「俺たちは影から規律を守るものになろう。そういって俺たちはお互い違うギルドから集まってこのギルドElevenを立ち上げたよな。この言葉を今回も証明して見せよう。俺たちで穢れのない戦いを取り戻そう。」


 トバリが話し終わると皆が真剣なまなざしでその言葉に応えるかのようにトバリと目を交わしたり、頷きあったりする。


 「ありがとう。この後はとりあえず各自解散だ。戦争が始まる前にこの件にけりをつけるために動かないとな。また追って連絡する。それまでに準備を整えておいてくれ。」


 議題が終わり、全員が部屋からでようと扉の方へ向かう。戦闘を歩いていたソルアが扉のノブに手をかけ、回し部屋からでようとする。

 その時、異変は始まった。

 いつまでも扉の前に立ち止り一向に扉を開けようとしないソルアにトバリが不審に思い声をかける。

 「どうしたんだ?ソルア。何か問題でもあるのか?」


 「扉が・・・開かないんだ。」

 「まさか。」

 そう言ってトバリも扉を開こうとするが、全く扉は開こうともしない。

 「馬鹿な!」

 

皆に驚愕の表情が浮かぶ。

扉の開閉はシステムに支配されており、開かないなんてことは通常ありえない。普通のバグでも色の変調や画像の些細な乱れレベルしか見られないBBOでこんなバグが発生したことは一度もない。およそありえないことだ。

 

「GMコールも繋がらないぞ。」

 「どうなってんだ。」

 「訳がわからないわ。」


 皆のざわめきが大きくなる中、唐突に視界が奪われるほどのまばゆい光が部屋中を満たす。

目を開けることさえ出来ない光に包まれた中で、ソルアは必死に頭を回転させ、状況を掴もうとするが、思ったように頭が回らない。


 なんっだこれ・・・。


 抗いようのない強烈な眠気が頭を襲い始め、ソルアは意識を失いその場に倒れた。

 

 他のメンバーもまた一人、一人と意識を失い倒れていく。


 しばらくして部屋に満ちていた光が収束し、やがて点になり消えた時。

 

 部屋には誰の姿も残ってはいなかった。


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