メリーさんの羊
見渡す限りの緑色の大地。
遠くのほうにぽつんと小さな家が見える。
それと真っ白な塊が。
すこし近くで見てみよう。
もこもことしている。
あれは雲?
いや、ただのヒツジだ。
ヒツジの群れだ。
少し離れたところに、一人の青年が大きな杖を片手に座っている。
羊飼いらしい。
羊飼いはゆっくりと立ち上がりヒツジの群れに近づいて行く。
「さあ帰、ん?」
羊飼いがヒツジの群れを見つめて止まってしまった。
どうした?
ヤギでも混ざってたか?
すやすや………
これはまた気持ちよさそうに。
一人の少年が眠っているじゃありませんか。
「はあ……またか」
そう言って家のほうを向いて歩き出した羊飼い。
ヒツジ達は彼の後をメエメエと言いながら、細い目をしてついていく。
「あれ?ここは?」
暖炉の炎が暖かい。
テーブルの上にあるランプがまぶしい。
「やっと起きたか。おまえ寝すぎ。もう夜だぞ」
皿をテーブルの上に置いて言った。
「そうか、ボク寝ちゃったんだ。気持ちよくって……」
「ほら、腹減ったろ。こっち来て食え」
「うん」
ウール100%だと思われるふかふかベッドから飛び降りてテーブルに向かう。
イスにちょこんと乗る。
「おいしそう」
「まだ食うなよ。全部用意してからな」
「は〜い」
足をばたばたさせて待つ。
「行儀悪いぞ。はい、これで全部」
ジョッキサイズのコップを置いて椅子に座る。
「はい、手を合わせて」
パチン
「いただきます」
「いただきま〜す!!」
少々厚めに切られた食パンにバターをたっぷり欲張って塗る。
その上にはシャキっと新鮮な野菜を載せる。
またその上には少々厚めに切られ、こんがりと焼かれたラム肉を。
またまたその上にはパンからはみ出すくらい大きなチーズを乗せる。
最後に少々厚めに切られた食パンにバターをまんべんなく塗りたくってはさむ。
これで羊飼い特製ラムラムスペシャルサンドウィーッチの完成だ。
アーン
と、大きな口を開けて一口かぶりつく。
ほっぺを大きくしながらもしゃもしゃ食べる。
「んまいか?」
「うん!! んまい!!」
アーン
パクッ
もしゃもしゃ
「んぐっ!!」
喉につまった!?
少年ピーンチッ!!
「ほら、これ飲め」
羊飼いが身を乗り出して少年側に置かれたコップというかジョッキを持って少年に差し出す。
少年、胸をとんとんしながらそれを受け取りぐびぐび飲んだ。
ぐびぐび
ゴックン
「ふー」
もう精根尽き果てた表情で背もたれにぐったりと寄りかかった。
「もっとゆっくり食え。ゆっくりと」
「ふぁーい」
疲れきった表情で答えた。
「ずっと一人で暮らしてるの?」
片付いたテーブルの上にはランプだけが光っている。
「まあね。だけど時々仲間と連絡してるから」
暖炉からはぬくもりがやってくる。
「ふーん」
テーブルの上にぐでえっと潰れる。
「それに、おまえみたいに時々乗ってくるやつもいるしな」
目を細めてゆっくりと瞬きをし始めた。
「…あし…も……乗せ…ね……」
「ああ」
寝息をたてる少年を優しく抱き上げ、ベッドの上にふわりと置いた。
「そんじゃあな」
ヒツジの群れの中に少年が座っている。
「ねえ」
「ん?」
「羊飼いさんのお名前は?」
やたらと大きな杖を天空に振り上げながら言った。
「メリーだ」
羊達が一斉にメエ〜っと言いながら走り出す。
「ばいば〜い!!メリーさ〜ん!!」
羊たちは一斉に地面を蹴り、大空へと駆け登っていった。
どんどん小さくなるメリーさんの大きな杖が、左右に揺れているのがわかった。
もこもこの羊たちの中でぬくぬくする。
ふと、羊たちの間に顔を突っ込んだ。
ズボッ
羊たちの下から顔を出す。
眼下にはエメラルドブルーがきらきらと光輝く。
「あ、イルカ」
イルカの群れがピョンピョン跳ねてる。
跳ねるたびにイルカに反射した光が突き刺さってまぶしい。
スボッ
と、顔を引き抜いて再び羊たちのなかでぬくぬくする。
「まだ家は遠いな〜…………ふぁ〜あ……。なんだか……また眠くなって来たな………」
細目になり、目を開けてる時間のほうが少なくなった。
「……また……会える………か……な…………むにゃむにゃ」
すー
すー
すー
すー
雲が滝のように大地に降り注ぐ。
メエメエと羊たちが地上に降り立った。
隣に座ってやたらと大きな杖を持った青年が立ち上がる。
「さあ帰……る……」
羊たちの一点を見つめて固まっている。
「はあ……またか………」
そう言って家のほうへ歩き出すメリーさんの表情は、少し微笑んでいるようだった。
The eNd




