第参歌<序>
科戸河湊から逃れ、下総で足止めを食った一行。
一行の前に、大きな橋が差し掛かった。
「――逃がさんと……言ったはずだ」
脳内に響く不気味な声と共に、濃霧が広がる。
「なんだこの霧は!」
菊三十兵衛が慌てる。
虹の如く差し掛かる木造の橋に一行は驚嘆した。
「この橋は……五条大橋でござるな」
介郎の言葉に流徹は疑問を投げる。
「ここは京ではないであろう……幻術か?」
幻術というには感覚が鮮明だ。
それを見て、介郎は唸る。
「うーむ、分からぬ。だが、これを引き起こしているのが魔人であることは確かでござる」
一行が困惑していると、そこにズン、ズンと地響きが生じた。
「なんだ!?」
「――行くがよい、暴れん坊譚五郎」
その直後、霧の中から、猛獣の雄叫びが響き、地響きが徐々に間隔を狭めていく。
そして、その気配が近づいてきた。
霧から姿を現したそれは、六尺六寸の偉丈夫で僧兵の出で立ちであった。
鎧は黒革錦にして、大薙刀を持ち、魔人と化して理性を失っても尚忠心を持つような表情が印象的だ。
胸元には痴の勾玉がぶら下がっていた。
「奴は……」
流徹が刀を構えると、譚五郎はその巨体を持ち上げ、大きく跳躍した。
「あの巨体で軽快に動けるのか!?」
大薙刀を振り下ろすと、橋に大きな跡が残る。
寸前のところで避けた流徹は冷や汗を流す。
「秘技・滑車剣!」
先手必勝と言わんばかりに、刀を構え、大きく振り上げた。
滑車のような幻が出現し、それが譚五郎を切り裂く。
だが、ニヤリと笑い平然と立っていた。
その隙を見逃さず、球磨は連続突きを繰り出した。
一、二と躱される事を予見して三撃目を加える。
だが……。
「馬鹿な、三段突きを読んだのか!?」
「理性を失っても尚戦闘に於いては反応が良い……これは本能か」
「貴様ら、邪魔だーっ!」
葛の葉が反動推進を利用して拳を放つ。
背面から炎が噴射し、強力な一撃を浴びせた。
「捉えた! 鳩尾!」
周囲の水面や霧をも揺るがすほどの一撃。
それだけでは終わらない。
「乱れ誘導花火!」
葛の葉の肩が開き、無数の花火が発射され、至近距離で爆ぜる。
轟音と閃光が霧の中でも伝わり、一行が思わず怯む。
「葛の葉……これほどまでの力とは……」
爆炎によって煙が立ち込める大橋中央。
耳も、目も慣れるまでしばらく時間がかかりそうなほどの攻撃が終わり、静寂が場を支配していた。




