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嫁いで三日、やり返します

作者: こうが
掲載日:2026/04/30

暴力的な描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

「答えろゼルキン、家門に仇なす奸臣か、見る目のない無能か、どちらだ」


 波打つ黒髪の若い女性が、左手でメイドの金の髪を掴みながら使用人達を漆黒の瞳で睥睨していた。

 青い顔で黙り込む使用人達の中心には、ゼルキンと呼ばれた執事が頭を深く下げていた。

 髪に白が交じる年代の彼は、執事長として長年伯爵家に仕えていた。

 ゼルキンは三日前に当主と結婚した黒髪の女性、アンドレアがこのようなことをするとはその外見からは想像もしていなかった。

 ゼルキンだけではなく、彼女を初めて目にした使用人達はアンドレアを見た目だけで判断していたからだ。

 豊かな黒髪、漆黒の瞳、小柄な体躯で細身の彼女は、柔和な顔立ちと相俟って優しそうな、言ってしまえば気弱そうな印象を受けた。

 そのため、彼らは無意識ではあるが、彼女を恐れるべき相手ではないと思い込んでいた。

 しかし今、厨房の真ん中で堂々と立つ彼女の威圧感に、使用人達は皆黙りこくっていた。

 髪を掴まれたままのメイドの上半身はずぶ濡れになっており、ゼルキンは状況を整理するために思考を巡らせていた。


「―全ては、私の管理不行き届きで、ございます。大変申し訳ございません、奥様」


 ゼルキンは震えそうになる声を抑え込み、再度深々と頭を下げた。

 アンドレアはニヤリと口元を引き上げた。


「そうか。お前が責任を取るか。とは言え、何が起きたかも知らず責任を取らされるのも納得いかんだろうからな、説明してやろう」

「ひっ……!お許しください!お許しください!」


 アンドレアは左手に力を込めるとメイドの顔をゼルキンに向けた。

 メイドは痛みに声を上げるがアンドレアはその力を緩めなかった。

 メイドの耳にはブチブチと己の髪が抜ける音が響いており、彼女は更に恐怖に涙を溢れさせていた。


「お前たちが私を気に入らんのは分かっている。田舎の片隅のたかだか子爵家の娘ごとき、仕えるに値しないと思っているだろう。お前らの敬愛する御当主様にはもっと相応しいご令嬢がいるだろう、とな」


 アンドレアは声を荒げることもなく淡々としているが、その声の裏にある怒りにゼルキンは気付いていた―。


♦♦♦

 アンドレアが嫁いだホワイトリッジ伯爵家は、歴史は浅いが良質な鉄が採れる土地だった。

 鉄製品の武具を加工する技術に優れ、男女問わず戦士としての誇りを持つ人々と、現当主、アンドレアの夫になったレオンハルトは若く勇敢な武人として領民の尊敬を集めていた。


 片や、アンドレアは古くから続くブラックリッジ子爵家の出だった。

 山間の長閑な土地で、ブラックリッジ産の軍馬は有名だった。

 子爵家の人々は鍛錬を好み、質実剛健と言うに相応しい人々だった。


 ある時、ブラックリッジ子爵家が所有する土地で新たな鉱山が発見された、と話題になった。

 鉄が採れても加工する術がない子爵家と、鉄を加工する技術があるが歴史の浅さ故、貴族としての人脈を拡げたい伯爵家の利害関係が一致した。

 年齢の釣り合いが取れたブラックリッジ子爵家の次女であるアンドレアと、ホワイトリッジ伯爵家の嫡男のレオンハルトの婚約が成立した。


 一年の婚約期間の間、アンドレアがレオンハルトの元に迎え入れられたのが三日前だった。

 政略とは言え、婚約期間中の交流でレオンハルトはアンドレアを好ましく思っていたし、アンドレアもレオンハルトが結婚相手で良かったと思っていた。

 しかし結婚式直後、鉄の採集地で重大なトラブルが発生したとの報告があったためレオンハルトは執事長のゼルキンに指示を出し、アンドレアに謝罪をしてから慌ただしく出立した。


 一週間程度で戻ると言い残していたが、結婚式当日に花婿が不在になった事実を一部の使用人達は自分達の都合良く考えた。


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 ゼルキンの言いつけよりも旦那様の御心を優先しなくては、と考えた彼等は早々にアンドレアの世話を放棄した。


 一日目、メイドの手を借りてウェディングドレスを脱いだアンドレアは、浴室をぐるりと見渡した。


 浴槽には温かい湯が張られているが、手伝いのメイドはドレスを脱がせてくれた一人しかいなかった。

 焦げ茶の髪をきっちり後ろで纏めた少女は、顔を青くしてアンドレアの前に膝をついた。

 そばかすが散った頬はまだあどけなく、新人だろうと容易に想像できた。


「申し訳ございません。私一人ではありますが、精一杯お世話をさせていただきます」


 本来であれば年上のメイドの指示で動く少女は、慣れないながら丁寧な手つきでアンドレアの豊かな黒髪を洗い、香油を塗りこんだ。

 ナイトドレスを身に纏い、椅子に座るアンドレアの髪を梳かす手つきも覚束ないが心地よい力加減だった。

 鏡越しに見えるメイドの緊張した面持ちをアンドレアは微笑ましく思い、優しく声をかけた。


「名前は?」

「あたし、いえ、私は、リズと申します」

「そう、ありがとう、リズ。お陰でさっぱりしたわ」


 アンドレアがにっこり笑うとリズは顔を赤くした後浮かない表情を浮かべた。


「すみません、人を増やすように執事長様に伝えておきます」

「ありがとう、でも今はいいわ。暫く貴女に全て任せるわね」

「精一杯努めて参ります……!」


 お食事をお持ちします、と頭を下げて部屋を出るリズをアンドレアが見送ったのは夕方のことだった。


 ―しかしその日、アンドレアの元に食事が運ばれたのは夜中と言っていい時刻だった。

 何度も頭を下げるリズが押してきたワゴンには、豪華だが冷めきった料理が並んでいた。


「申し訳ございません。私の手際が悪く、奥様にはご迷惑を……」

「いいわ、冷めても美味しそうだもの。貴女も忙しかったみたいね?」


 リズのエプロンは真新しくなっていた。

 汚れてしまったエプロンを取り替えていたのだろう。

 髪型も急いで纏めたのか、所々ほつれていた。

 項に残る汚れにアンドレアは何が起こったのか薄々気付いていたが、リズは言い訳もせずに必死に手を動かして準備をした。


「貴女には悪いけど、少し我慢してちょうだい。明日、街に降りて買い物をしてきて。遠いから朝早くから行かないと間に合わないわね。夜は遅くてもいいから、戻ったらすぐに私の部屋に来てくれる?」


 準備を終えたリズに銀貨と銅貨を数枚渡し、アンドレアは席についてから彼女に買い物を言い付けた。


「ですがそれでは……」

「一人で着られるワンピースも持ってきたから大丈夫よ。貴女に買い物を言い付けたと、ゼルキンに伝えてちょうだい」

「わかりま……、えっと、畏まりました、奥様」


 リズが退室した後、ベッドに横になったアンドレアは大きく欠伸をして目を閉じた。

 朝食は届くだろうか、と他人事のように考えていた。


♦♦♦

 二日目、洗顔の水は届けられず、着替えの準備にも誰も訪れなかった。

 試しにアンドレアが呼び鈴の紐を引いたが、誰も来る気配はないためアンドレアは一人でワンピースに着替えたのだった。


 着替え終わった頃、金の髪のメイドが朝食を運んできた。

 ノックもせず、乱暴に扉を開けたメイドは溜息を吐いてから朝食の盆をテーブルに叩きつけるように置いた。

 銀の盆の上には、硬そうなパンと見るからに色の薄いスープ、干からびたチーズが載っていた。


「お嬢様、私共は忙しいんですよ。朝から呼び鈴を鳴らすのは止めていただけますか」


 その物言いにアンドレアの柳眉がピクリと動いたが、メイドがそれに気付くことはなかった。


「朝食がお済の頃に食器を下げに来ますけど、ご自分で厨房に持って行ってもいいんですよ。田舎の子爵家ではそのようになさるのでしょう?」


 確かにアンドレアの実家である子爵家は田舎だが、役目を放棄するような無責任な使用人は皆無だった。

 嘲るように言うメイドにアンドレアは表情も変えず何も言わなかった。


「全く、何で旦那様も子爵家の、それも年増のお嬢様を迎え入れたのか、理解に苦しみます。馬車はいつでも用立てるようにしてますから、お帰りの際は声をかけてくださいね。ゼルキン様も旦那様の補佐をしているのでお忙しいのですから、くれぐれも弁えてくださいよ」


 言いたいことだけ言ったメイドは足音を立てながら部屋を出て行ったのだった。


「……ヘレン、だったわね。明日が楽しみだわ」


 微かに笑ったアンドレアだったが、武人のレオンハルトが見ればその瞳に滾る怒りを見逃さなかっただろう。

 アンドレアは、文句も言わずに運ばれた朝食を口に運んだのだった。


 朝食の後、暇を持て余していたアンドレアは荷物の整理をしていた。

 本来であればメイド達に指示を出すだけでいいはずだが、朝食の食器すら誰も下げに来ないのでアンドレアは一人で作業をしていた。

 子爵家から持ち込んだ荷物は多くはなかったため、アンドレア一人でも十分だった。

 加えて、伯爵家に来てすぐにレオンハルトから渡されたものがあった。

 それもあり、大切な荷物をあんな態度のメイドに任せられないというのも理由の一つだった。


 アンドレアは片付いたクローゼットを見てから日の高さを確認した。

 太陽の位置から大体の時間を計ったが、誰もアンドレアに飲み物も軽食も運んで来なかった。

 レオンハルトはよく体を動かすため、すぐに空腹になる、と一日三食以上摂ることをアンドレアは交流の中で聞いていた。

 レオンハルトが不在の今、同じ回数の食事が用意されるとは思っていなかったが、スケジュールの確認にすら訪れないメイド達に呆れていた。

 子爵家から持ち込んだ干し肉を齧りながら、アンドレアはリズの帰りを待ち侘びていた。

 ゼルキンが弁えていれば、リズには荷馬車の使用が許可されるだろう。

 馬車を使えば夕方にはリズが戻るだろうと予測していた。


「忙しいとは言え、私の様子をリズやヘレンに確認くらいするわよね……?」


 その細やかな希望は虚しく散り、リズが戻ったのは夜になってからだった。


「奥様、お待たせいたしました……!ゼルキン様がお部屋から出てこられず、遅くなって申し訳ありません……」


 息を切らせて荷物を抱えるリズに、アンドレアは優しく声をかけた。

 リズが運んできた荷物の中身はパンやリンゴ、飴等の食料品だった。


「お帰りなさい、疲れたでしょう?今日はもういいから休みなさい。ああ、それだけ下げて貰えるかしら?」


 結局ヘレンは食器を下げには来なかった。

 夕食も運ばれず、入浴の準備もないままその日を終えようとしていたアンドレアは、リズの帰りを心から喜んだ。

 リズに労いの言葉をかけると、朝の食器を下げることだけを言いつけて下がらせようとした。

 銀の盆に載せられた粗末な皿にリズの顔が曇った。


「申し訳ございません奥様。明日の朝は私がお食事を持ってきます」


 まだ若いリズはアンドレアに敵愾心を持ってはいないようだった。

 申し訳なさそうに銀の盆を手にしようとした。


「ええ、よろしくね。明日は私からゼルキンに会いに行くから、安心してちょうだいね。これは今日のお礼よ、受け取って」

「……ありがとうございます!早く旦那様がお戻りになればいいのですが」


 アンドレアは荷物から小さな瓶に入った飴を取り出し、リズに手渡した。

 嬉しそうに受け取るリズは大事そうに飴を隠しにしまうと、丁寧に銀の盆を持ち上げて部屋を出て行った。

 リズが出て行った扉を見詰め、アンドレアは受け取った荷物からリンゴを取り出すと自分のワンピースの裾で拭い齧りついた。

 その姿は貴族の令嬢と言うよりも傭兵のような雰囲気を纏っていた。


「明日で終わりだ」


 ゼルキンがいる部屋も、厨房も、厩舎や井戸に至るまで、館の間取りは全て覚えた。

 誰にも邪魔をされずに覚えられたのだから放置も悪くないと皮肉に笑った。


「旦那様の帰宅前に大掃除だな」


 アンドレアは朝起きたままのベッドに横になった。


♦♦♦

 三日目、朝早く目が覚めたアンドレアはさっさとワンピースに着替え呼び鈴を鳴らした。

 直ぐに小さなノックが響き、リズの入室を求める声がした。


「おはようございます、奥様。御用をお聞きします」

「おはよう、リズ。早く目が覚めてしまったの。洗顔の水を持って来てくれるかしら。朝食は決まった時間で構わないわ」

「わかりました、少々お待ちください」


 パタパタと音を立てて歩くリズを微笑ましく思い、アンドレアは椅子に座り洗顔の水を待った。


「ベッドの上で待てるようになるにはもう少しかしらね」


 新人で、商家の出であるリズは本来はアンドレア付きにはならないだろう。

 それでも甲斐甲斐しく世話をしようとする姿は好感が持てた。


「奥様、お水をお持ちしました」

「ありがとう、ここでいいわ」


 テーブルの上に置かれた盥の水は、程よい温度でリズの心遣いが嬉しかった。

 タオルを濯いで顔を拭き、一息ついたところでアンドレアはリズに問いかけた。


「ここの家政婦長はどうしているの?まだ誰も紹介されていないのよ」

「……家政婦長は先日体調を崩して療養中なんです。奥様のお世話をするように手配はしてくださっていたんですけど……」


 大方、家政婦長が復帰するまでにアンドレアを追い出してしまえばいいと思っている使用人達が結託しているのだろう。

 顎に指を添えて考え込んだアンドレアの思考を邪魔するように、ヘレンが乱暴に扉を開けた。


「呼び鈴を鳴らさないで下さいと言ったでしょう。全く、田舎のお嬢様は早く食事がしたいんですか?どこまで卑しいんでしょうね!」

「……ヘレン様!その言い方は奥様に失礼です……!」


 ヘレンの態度にリズが震える声で抗議をするがアンドレアがそっとその肩を叩きリズを下がらせた。


「言い返せもしないお嬢様は勇敢なレオンハルト様には相応しくないんですよ、伯爵領では女も立派な戦士ですからね」


 ヘレンが洗顔の盥の横に銀の盆を叩き付けた。

 その盆の上に置かれた食事を見てリズは顔を青ざめさせ、アンドレアはすっと目を眇めた。


「さぁどうぞ!」


 パンはカビが生え、とても食べられるような状態ではなかった。

 スープからは饐えた臭いがしており、そちらも廃棄するしかない状態だとすぐに分かった。

 アンドレアは一歩ヘレンの前に踏み出し、同じ目線にあるヘレンの髪を素早く左手で鷲掴みにして洗顔の盥に叩きつけた。


「……っっ!」


 洗顔の水は冷めているが、まだ盥の中は水がたっぷりと残っていた。

 リズはアンドレアの突然の行動に驚いたが、タオルを濯ぐだけに止めたのは水量を減らさないためだったのだと気が付いた。


「リズ、その盆を持ってゼルキンの部屋の前で『奥様が厨房に!』と叫んでから厨房に行きなさい。そのパンとスープを用意したのは、トーマスだと思うけど確認して逃がさないようにね。私もすぐ厨房に向かうから」


 穏やかに言いつけるアンドレアだが、その左手はしっかりとヘレンの後頭部を押さえつけていた。

 ヘレンは何とかその手から逃れようと藻掻くが、細身のアンドレアの拘束は揺らがなかった。

 アンドレアは盥からヘレンの顔を上げさせると、髪を掴んだまま厨房へ向かい歩き出した。

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を拭う間もなく、ヘレンは泣きながら歩き出すしか術がなかった。


 厨房には盆を台に置いたリズと、リズを睨み付けるトーマスがいた。


「どうしてこんな物を奥様のお盆に載せたんですか!私達だって食べないものです!」


 リズは必死にトーマスに訴えるが、トーマスは不機嫌そうにしているだけだった。


「ああ?文句があるなら食わなきゃいいだろ!田舎のお嬢さんには勿体ないくらいだ!」

「何なんですかその言い草は!」

「―リズ、ありがとう。どいていなさい」


 興奮して怒鳴りあう二人にはヘレンの泣き叫ぶ声は届いていなかったが、静かなアンドレアの声は何故かはっきりと厨房に響いた。


「やはりトーマスね……。いい覚悟だわ」


 アンドレアは左手は離さないまま、右手で素早くトーマスの首を押さえた。

 細い指なのにピクリとも抵抗できず、トーマスは声も上げられないまま額にじんわりと冷や汗を浮かべていた。

 アンドレアは獰猛な瞳で口角を上げた。


「お前たちに教えてやろう。レオンハルトは立派な騎士だ。伯爵家の男性達もそうだろう。だが子爵家はな、傭兵たちの集まりなんだよ。最高の軍馬に乗るんだ。私達も鍛えないと馬に失礼だろう?私達は生まれた瞬間から剣を持つ。女子供関係なく、だ。誰でも等しく国境の小競り合いに参加するんだ。いつ襲ってくるか分からない異民族と、水一滴、パン一欠けらすら無駄にできない極限の状況でな。だからこそ、私は食い物を粗末にする頭の悪い嫌がらせが大嫌いなんだ」


 ヘレンのしゃくり上げる声がか細く響くが、アンドレアは気にしなかった。

 厨房にいる誰もが小柄なアンドレアの威圧感に何も言えずにいた。


「田舎の小娘と甘く見たか?私が実家に泣きつけばいいと?そうなったらどうなるか分かるか?伯爵家と利権を争っている奴らがな、奏上すればいいんだ。『奥方一人守れぬ当主が、鉱夫との契約を守れるのか。領民すら守れぬ貴族がいてもいいのか』とな。お前たちは伯爵家を潰したかったのか?」


 たかだが子爵家の令嬢一人、何ができると内心アンドレアを見下していた彼等はやっと気付いた。

 この結婚は契約だったのだ、と。


「身支度の手伝いもない、入浴の準備もない、ノックもせずに部屋に入る。お前は何様だったんだ?お前を雇った者が無能だっただけか?」


 ヘレンの耳元で囁くアンドレアの声は優しいがその威圧感をヘレンはしっかり感じ取っていた。


「答えろゼルキン、家門に仇なす奸臣か、見る目のない無能か、どちらだ」


 アンドレアは振り向くと息を切らせたゼルキンが深く頭を下げた。

 ここで話は冒頭に戻り、全ての責任は自分にある、とゼルキンは頭を下げ続けた。


「……窶れたな。旦那様が不在の今、寝る間も惜しんで伯爵家のために働いたお前が責任を取るか。やるせないものだ」


 アンドレアが呟くとトーマスもヘレンもはっとゼルキンを見つめた。


「顔を上げろ」


 アンドレアがゼルキンに命じた。

 彼は疲弊した顔をしていたが、しっかりとアンドレアを見詰め返した。


「責任はお前にある、と言ったが……。お前が選んだヘレンは私に無礼を働いた。トーマスはくだらん嫌がらせに食料を無駄にした。そして、コレット、ベティ、マーゴ、お前が選んだ私付きの侍女は挨拶にすら来なかった。リズだけだ。私によく仕えてくれたのは。お前のことだ、ヘレンに責任持って世話をする、と言われて時間が惜しくなり任せたのだろう。―旦那様の状況を考えれば仕方がない。今回だけはゼルキンの責は問わん」


 ゼルキンの後ろ、名前を呼ばれた侍女達は顔を青くして今にも倒れそうになっていた。


「挨拶もしていないから名前を知られていないと油断したか?旦那様から使用人のリストは預かっている。私に仕えたくないのだろう?暇をやるから出て行くがいいさ。誇り高い伯爵家の使用人だと胸を張って言えるならば残してやろう。どうだ?」

「―奥様、責任は全て私にございます。どうぞ、どうぞ私だけを罰してください」


 言い訳もせず、責任は自分だけにある、と明言したゼルキンにアンドレアはヘレンの髪を離した。

 ヘレンはアンドレアの足元に蹲り許しを請うた。


「っ申し訳ございません、申し訳ございません、お許しください……!」

「お前たちの処分はゼルキンに一任する。ゼルキン、私を失望させるな」

「……畏まりました」


 ヘレンには目もくれずアンドレアは歩き出した。

 ゼルキンの横で立ち止まると、その肩をそっと叩いた。


「よく働いてくれているな、感謝する。あいつらは残しても構わんが、―今回だけだ。お前の覚悟に免じてな」


 アンドレアは今度こそ扉を潜り、厨房を後にした。


 使用人達はその背に深く頭を下げていた。


アンドレア 20歳、レオンハルト19歳イメージ。

ヘレンは18位。

食べ物粗末にする嫌がらせがとても嫌いです。

嫌がらせダメ。暴力もよくないんですけどね。平和に生きたいです。

家政婦長はぎっくり腰で寝込んでます。復帰したら全員ブートキャンプで性根叩き直される予感。

裏テーマ:パワーカップル。物理的。レオンハルトの影が薄い…。

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― 新着の感想 ―
つ、続きは何処で読めますか?!
も,物足りない 失礼なメイドもシェフもちゃんとしたメイドも執事も不在の家政婦長もキャラが立ってる。旦那様も含めてどっぷり読みたい…!! とりあえず執事長の沙汰も拝見したく…! チラ見できる世界観もこう…
アンドレアは優しいですね。 使用人達のやらかしたことを考えたら、紹介状なしの解雇が穏当で、貴族対平民と考えたら随分と優しい対応だと思います。 実力者故の余裕なのかな。 面白かったです。
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