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6. デパ地下は戦場ですわ!

 都内某デパート、地下1階。


 そこは、華園凛音にとって異世界の戦場よりも神聖な場所であった。


「見てくださいまし皆様!この神々しい輝き……。一切の妥協を許さない衣の反り、肉汁を閉じ込めた完璧な造形。これこそがデパ地下の至宝、『特選!黒毛和牛メンチカツ』ですわ!」


 凛音は自撮り棒を片手に、ショーケース越しに熱弁を振るう。


 配信画面には、すでに3万人を超える視聴者が集まっていた。


『マッスル課金:お嬢様、テンション高すぎて声が裏返ってるぞw』

『考察班A:収益70万あるのに、迷わず「2個入りパック(本日限定10%OFF)」を選ぶあたり、徹底しているな』

『ケーキ大好き:そこ、行列必至の人気店だよね。並んでる?』


「もちろんですわ!行列もまた、美味しさへのスパイス。わたくし、清く正しく並んで……あら?」


 その時。凛音の背後から、不躾な足音が近づいてきた。


 取り巻きを引き連れ、派手なブランド物らしき探索者装備をジャラジャラと鳴らしながら、一人の男が割り込んできたのだ。


「よお、そこの『縦ロール』。君が最近ヤラセ動画で話題の新人ちゃん?ちょっとツラ貸せよ」


 男の名は、火神かがみ


 国内最大手ギルド『火の鳥』に所属するBランク探索者であり、人気ToyTuberでもある男だ。


『考察班A:出た、火神だ。実力はあるけど性格に難ありで有名な……』

『マッスル課金:おいおい、お嬢様の行列を乱すんじゃねえ。死ぬぞ』


「……恐れ入りますが。わたくし、今はメンチカツを賭けた神聖な儀式の最中ですの。お話なら、あちらの『最後尾』という看板の向こうで伺いますわ」


「はっ!ヤラセの分際で偉そうに。バール一本でケルベロス?物理的にあり得ねえんだよ。どうせ管理局と組んで、中身をドローンか何かにすり替えたんだろ?」


 火神はニヤニヤと笑いながら、凛音の持つバール(お買い物袋から少し飛び出している)を指差した。


「そんな鉄屑でAランクが倒せるなら、俺たちの苦労は……ぐあっ!?」


 火神がバールに触れようとした瞬間。凛音の腕が、視認できない速度で動いた。バールの先端が火神の喉元、1ミリの距離で静止している。


「……お客様。わたくし、不作法な方は嫌いではありませんわ。ですが……」


 凛音の瞳が、黄金色に沈む。


 デパ地下の喧騒が、一瞬で凍りついた。


「わたくしの『お掃除道具』を鉄屑と呼ぶのは、聞き捨てなりませんわね。それに……先ほどからその大きな足で、後ろに並んでいるお婆様の靴を踏んでいらっしゃいますわ。……育ちが悪くってよ」


『マッスル課金:キターーー!!格上のランクに説教!さすおじょ!』

『ケーキ大好き:あ、火神の取り巻きが腰抜かしてるw』

『考察班A:今、お嬢様から出たプレッシャー、探知機なしでも肌で感じるぞ……。これ覇王のそれだ』


「な、なんだよその目は……!俺はBランク探索者だぞ!こんなところで恥をかかせて……!」


 火神が腰の短剣に手をかけた。


 だが、凛音は優雅に溜息をつき、空いている左手でスマホを固定したまま、右手のバールを軽く「振った」。



 ――パァン。



 乾いた音が響き、火神の短剣が、つかだけを残して粉々に砕け散った。


 衝撃波の「余波」だけで、火神の髪型がリーゼントからオールバックに書き換えられる。


「あ、あら……。力加減を間違えましたわ。メンチカツを前に、少し気が立っていたようですわね」


 凛音は、腰を抜かして震える火神を見下ろし、慈悲深い微笑みを浮かべた。


「皆様、ご覧くださいまし。行列の邪魔をする『生ゴミ』がお掃除されましたわ!これでようやく、メンチカツに集中できますわね。最高ですわ~~!!」


『マッスル課金:Bランク探索者がゴミ扱いwww』

『考察班A:武器を破壊した衝撃波を、店の商品ケーキとかに一切当てない精密制御……。これ本当にただのバールか?』

『ケーキ大好き:あ、店員さんが「お嬢様、お待たせいたしました」ってメンチカツ出した!』


「あら?ありがとうございますわ!……ふふ、見てください皆様。この、揚げたての香り!……あ、佐藤様?いつからそこに?」


 いつの間にか、物陰で顔を覆って震えていた管理局の佐藤課長が、おぼつかない足取りで現れた。


「……LIVE映像が流れてきて、たまたま近くにいたんだよぉ!華園さん。せめて、公共の場でBランク探索者を『掃除』するのはやめてもらえませんか。私の胃に、穴が開くどころか、異界が繋がりそうです……」


「あら、佐藤様。お掃除に場所は関係ありませんわ。……それより、佐藤様もメンチカツ、いかがかしら?わたくし、今日は気が大きくなっておりますので、半分差し上げてもよろしいですわよ。そのかわりお掃除のことは内緒でお願いしますわ!」


「……メンチカツで、暴力沙汰を隠蔽しようとしないでください!」


 夕暮れのデパ地下。


 黒塗りの車(管理局)に囲まれながら、ホカホカのメンチカツを頬張る殲滅お嬢様の姿が、全配信者の注目を集めていた。

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