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4.自宅警備員になりますわ!

  配信を切った後、華園家の和室にはシュールな光景が広がっていた。


 上座で優雅にお茶を啜る凛音と、その対面で国家予算クラスの魔石を文鎮代わりに置かれ、脂汗を流しながらバームクーヘンを頬張る佐藤課長。


「……で、佐藤様。先ほどから『管理』だの『登録』だのと仰っておりますけれど、要するにわたくしにまた『働け』とおっしゃりたいのですか?」


「い、いや、働くというか……君。君のやっていることは、免許なしで戦車を乗り回して、その辺の山を更地にするようなものなんだよ! このダンジョンは、もう君個人の庭じゃない。国家的な特定災害区域なんだ!」


 佐藤は必死だった。


 本来、Aランクの魔力反応が出た場所は即座に軍が封鎖し、半径数キロの住民を避難させる。それを「お掃除」の一言で片付け、あまつさえその戦利品で白菜を漬けようとする女が目の前にいるという事実を受け入れるのに1時間くらいかかった。


「あら、心外ですわ。わたくし、ただのニートですのよ?昨日の今日で再就職なんて、体が持ちませんわ。それに……」


 凛音はスッと視線を鋭くした。


「わたくしの前職の『サービス残業』に比べれば、あのワンちゃんとの戯れなど、有給休暇のようなものですわ」


『マッスル課金:前職、どんな魔界だったんだよw』

『考察班A:比較対象がブラック企業なの、闇が深すぎるだろ』

『ケーキ大好き:佐藤課長、目が泳いでるぞ。頑張れ……』


 佐藤は、凛音が無自覚に垂れ流す「暴力的なまでのスペック」に震えながら、一通の書類を取り出した。


「わかった、わかったから!就職とは言わない。ただ、このダンジョンの『暫定管理人』として、管理局と協力関係を結んでくれないか?もちろん、相応の手当は出す。一回のダンジョン調査につき、公務員の特別賞与並みの額を約束しよう」


「……お金、ですの?」


 凛音の眉がピクリと動いた。


 彼女は異世界で世界を救ったが、報酬は「名誉」や「聖剣」といった、換金性の低いものばかりだった。現代日本に戻り、何より彼女を苦しめたのは「デパ地下のケーキが意外と高い」という現実だ。


「ええ、お金です。それと、君が持ち帰ったその魔石。無許可でダンジョンに潜っている以上、本来は没収対象だが、協力してくれるなら……管理局が『時価』で買い取ろう。どうだ?」


 凛音は計算した。


 国家予算クラスで価値のある魔石。


 それがメンチカツ、バームクーヘン、そしてデパ地下の高級ショートケーキに化ける姿を。


「……佐藤様。わたくし、一つ条件がございますわ」


「な、なんだね!?予算の範囲内なら検討する!」


「わたくし、あくまで『ニート』としてこの活動を続けたいんですの。ですから、肩書きは『自宅警備員』ということで。それと、報酬は現金ではなく、わたくしの指定するデパートの商品券でいただけますかしら?」


『ケーキ大好き:商品券wwwお嬢様、庶民派すぎて泣ける』

『考察班A:国家予算クラスの商品券とか、デパートが倒産するぞ』

『マッスル課金:国家最強の自宅警備員ニート、誕生の瞬間である』


「し、商品券……。わかった、善処しよう。……ああ、胃が痛い。とりあえず、そのバールをしまってくれないか?見てるだけで寿命が縮むんだ」


「あら、失礼。これはわたくしの『お掃除道具』ですのに」


 凛音がバールを物置に片付けたその時、彼女のスマホに一通の通知が届いた。


 ToyTubeの運営からの、「公式パートナーシップ」の案内。そして、昨日の配信の「収益化」が承認されたという知らせ。


「あらあら……皆様。見てくださいまし!広告収入というものが、すでに振り込まれておりますわ!……ええと、スパチャと合わせて、ななじゅうまんえん?」


『は???』

『初日で70万!?』

『考察班A:昨日だけで再生数数百万いってたからな……当然か』

『マッスル課金:お嬢様、もうデパ地下の王になれるぞ』


「七十万……。佐藤様、すみません。商品券のお話、一度白紙に戻してよろしくて?わたくし、もう一生分のおやつ代を稼いでしまったかもしれませんわ。最高ですわ~~!!」


「え、ちょっと待って!?契約は!?君がいないと、またこのダンジョンから魔物が出てきたらどうしたらいいんだ!?お嬢様!凛音さん!!」


 佐藤の絶叫が夕暮れの住宅街に響く中、凛音は優雅に鼻歌を歌いながら、夕飯の献立を考え始めていた。

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