表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最北大学学生事務局、季節は巡る  作者: 萩原詩荻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/37

第4話 うちのサークルは美女が多すぎる

202X年、4月20日


 夕方。

 部室の窓からオレンジ色が差し込み、ホワイトボードにはでかでかと――


「月末は春合宿! 新入生の正式入会はそこまでに!」



 メグミが紅茶のおかわりを注ぎながら、机にぺたーんと突っ伏す。

「このサークル、空気あったかいですね〜」


 カズネが元気よく便乗。

「わかる!! 学校より落ち着くよね!!」

 ……落ち着いては、ない。


 そこにアキハがコーヒー片手に近づく。

「ねぇ一年生、学校には慣れた?」


「正直、まだ迷子になります!!」

「講義棟が多すぎるんです。教養棟ってどこも似てて……」

 とフユミ。

 毎年必ず一年生が通る悩みだ。俺達も通った。


「まあ、そうだな。端から端まで二十キロあるから、毎年春は必ず迷子が出る。畑も牧場もあるしな……」

 噂では秘密の地下道もあるらしい。

 というか本当にあった。


「みんな最初はそんな感じだから大丈夫だよ!!」

「こ、困ったら周りの先輩に聞いてね。みんな同じだから」

 マシロ先輩とマヨイ先輩のダブルやさしさ。

 ――うちのサークル、心優しい美女が多すぎる。


「おつかれー♡」

 さらに美女が増えた。

 ナツキがドアから滑り込み、笑顔と声が部屋を一段明るくする。


「アキハ、書類あとでチェックよろしく」

「はいはい。……ナツキ、最近どう?」

「“どう”って何が?」

「“恋の景気”とか?」

「ふふん?聞いちゃう?――実は、この二週間、ひとっっっつも告白されてないの!人生初なんだけど!!」


 空気が一拍だけ止まる。


「ふーん」

「へー」

 俺とイズミのリアクションは薄い。


「ちょっと!! 何よ、そのリアクション!!」

「普通、そんな告白されねーのよ」

「髪切ったせいかなー」

「知らんがな」

 シンジが段ボール畳みながら突っ込んでいる。


 一方、テーブルの反対側でカズネの目がキラキラしている。

「やっぱり、ナツキセンパイってそんなに告白されるんですかー!?」

「一年前の学祭、準備期間込みで三十くらいだっけ」

 アキハがさらっと凄い数字をばらす。

 カズネもモテそうなものだが。


「うわー。バイト先のカフェでもお客さんにLINE聞かれてますもんね〜」

「メグミ、あなただって聞かれてるでしょ」

「でも先輩ほどじゃないですし、断り方が優しいから逆に好感度上がってますよ〜」

 へー。メグミも可愛いしな。


 フユミが淡々とひとこと。

「……大変そうですね」

「フユミちゃん、それはどっちの意味?」

「……どっちも、です」

「言葉のナイフ感じるんだけど!?」

 テーブルが笑いに包まれる。



 そんな穏やかな空気の中、自分のカップにコーヒーを注ぎながら、カズネが首をかしげた。

 そういう動作があざと可愛いな。

「タマキセンパイもコーヒーいります?」

「ありがとう。でもパス、コーヒー苦手だから紅茶飲んでるんだよ」

「えぇ、意外ッスね~」


「…紅茶は私も好きです」

 お。フユミの猫耳センサーが反応している。これは拾っておきたい。

「お、そうなんだ。全然詳しくないんだけど、ニルギリとか好きだな」

「…私はミルクティーも好きなので、アールグレイとかが好きです」

「いいね」

 うん、ちょっとだけ目を合わせて会話してくれたのは前進だな。


「あ、タマキ、そういえば、紅茶切れてたゾ♡」

「切れてた、じゃなくて昨夜ナツキが飲んだんだろ」

「今日も泊まるから補充しといて♡」

「はいはい、というかナツキが買って帰れ」

 我儘な同居人からのリクエストである。


「んー???アキハセンパイ、イズミセンパイ」

「ん?」

「なんだ?」

 カズネとメグミがこそこそとアキハとイズミに話しかけているのが視界の端に映る。

 まあ、何となく会話の内容に想像は付くが。


「え?ああ、あの2人?付き合ってないわよ。

 ナツキが遠いからって泊まってるだけ。

 というか、結構皆、タマキん家は泊まるわよ。ナツキの頻度がダントツなだけで」

「まあ、タマキの部屋が、こっから徒歩三分なのもあるしな。

 去年の夏からああだし。今さら突っ込む気も起きねぇ。俺も同じアパートだしな」


「つまり、わたしたちも泊まっていいんですか~?」

「いいんじゃない?たぶんタマキは断らないわよ」

「わーい!みんなでお泊り会ですね!」

 許可した覚えはない。



「はい雑談終わり、配布!」

 カオル先輩が、奥の小部屋から出てきて、全員に『春合宿のしおり』を配り始める。

 この人も心優しい美女だ。

 …シンジやリン先輩もイケメンだし、うちのサークル、俺以外の顔面偏差値が高すぎてヤンナルネ。


 カオル先輩が配るしおりを、なんとなく、テーブル全員分受け取ってしまった。

「一年生は、名札と連絡先シートも忘れずに」

 カズネとメグミには普通に渡す。フユミの番で、一瞬だけ指が止まった。

「……どうぞ」

「ありがとうございます」

 受け取りの角度が綺麗で、目を必要以上に合わせない。

 ――“礼儀の鎧”。


 この子のことは、たぶんクール系美少女に分類するのが正解そうだな。

 たぶん、今はそれでいい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ