ニコイチ
誤字、脱字、不自然な文脈等ありましたら、報告して頂けると嬉しいです。
[初期設定を完了しました。お疲れ様でした。]
「...(あークッソ...)」
[事前登録済のソフトのダウンロードを開始します。宜しいですか?]
「...あ、お願いします。」
[了解しました。ゲームソフト[ループマイナー]のダウンロードを開始します。]
[ダウンロードは32分後に終了予定です。]
[ダウンロードが終了すると、BRヘッドセットのゴーグル部分にあるLEDライトが赤から青に変わります。]
[ので、ダウンロードが終了するまでの間、ヘッドセットを外し、英気を養うことを推奨します。]
[電源を切らないよう気を付けてください。]
「(丁寧だな...)分かりました。」
───急いで着替えたせいでズボンが前後逆だった事を、丈はまだ引き摺っていた。
どんよりとした気持ちでヘッドセットを外した彼女は、[ループマイナー]のダウンロードが終わるまでの間でご飯を食べる事にした。
今日のご飯は、手でちぎったレタスと水に浸したタマネギと解したチキンサラダの盛り合わせ。
箸を巧みに使いながらそれを食べる丈は、ソファーの上から持って来た充電を終えたタブレットを起動し、[ゲームフォルダ]という名前のフォルダの中にある、[SER地底探査センター]というアプリを起動した。
「....っし、やるか。」
このアプリは、[ループマイナー]の購入者のみがダウンロード出来る公式のコミュニティアプリ。
[ループマイナー]の様々な最新情報をいち早く閲覧出来たり、他[マイナー]とのマッチングやチャットが出来たりと、このゲーム限定の万能アプリだ。
丈が今から利用するのは、[マイナーメイク]という機能。
ゲームをスムーズに始める為に用意されている、[スタートダッシュ]という項目に含まれる機能で、キャラクリやロールの設定等を事前に済ませておけるのだ。
「えっと....あった..!!」
まず始まったのは、[第一職業]の設定。
・敵の攻撃を一身に集中させる事で仲間を守る役割、[タンク]
・敵にダメージを与えてHPを削る役割、[アタッカー]
・敵の攻撃で傷付いた仲間を回復.蘇生する役割、[ヒーラー]
主にこの3種類の中から、自分がやりたい役割を選ぶことになる。
で、このゲームには....
[守護者] [修行僧] [鎧武者] [狂戦士]
[剣闘士] [型剣士] [黒騎士] [格闘者]
[火器職人] [吟遊詩人] [黒魔術師] [白騎士]
[暗殺者] [無法者] [動物学者] [古代魔術師]
[踊り子] [赤魔道士] [紫魔道士] [召喚術師]
[白魔術師] [占星術師] [結界術師] [精霊術者]
...の、[タンク]が4、[アタッカー]が12、[ヒーラー]が8の合計24種類もの”ロール”が実装されている。
その中から丈が選ぶのはもちろん、
「”暗殺者”!!!」
[暗殺者]。
このロールは、全ロール中トップクラスの”機動力”を有し、
”バーストダメージ”による攻撃を得意とする、[アタッカー]の[第一職業]だ。
敵の攻撃を回避し、カウンターダメージを叩き込む事で、固有能力の[電荷]をチャージして、それを全消費する[点火]で強化モードの[必殺奥義・絶命纏衣]を発動し、必死の連撃を叩き込もう。
By公式サイト。
寝落ちした時に見ていた実況者曰く、[玄人向けのロール。難易度★5(最高評価)。もし初期からこれで行くなら、地獄を見る覚悟を決める必要がある。]らしいが、関係ない。逝く。
「ふっふ〜〜♪ よし次!」
丈が次に決めるのは、[第二職業]。
これは現実で言う”職業”、”趣味”に該当する設定だ。
その総数は、[第一職業]24種を遥かに超える100種類強。
カタログを眺めるだけで日が暮れそうな数だ。
[龍狩り]に、[死を正す者]と、かなり局所的なサブロールもたまに見かける玩具箱の中から丈が拾い上げたのは、
「...やっぱりこれかな。”武器職人”。」
[武器職人]。
専用の設備と素材を使って、自作の武器を作れる[第二職業]。
それ自体はこのロールに就職せずとも可能だが、このロールに就いていると、武器キャパシティの上限増加、強化限界の上限増加、作成.強化.修理に必要なリソース量の軽減等の恩恵がある。
By公式サイト。
丈が何故これを選んだかと言うと、”このゲームの武具には[耐久力]の概念があるから。”
丈は昔とあるゲームで、3戦に1度拠点に帰還し、武器を修理しまた出撃...という事を、ボスに勝てるまで30回以上繰り返したトラウマがあり、これに並ぶくらいクリティカルなサブロールが見つからなかったので、消去法でこれに決めた。
「...あれ?まだあるの?」
最後に決めるのは[特性]。
これは、本人の”特殊能力”みたいなものだ。
”瀕死の敵が分かる”とか、”MPが他人より多い”とか...
「...ふぅん...」
そこで丈が選んだ[特性]は、
「え〜.....これにしよっと。」
[第六感]。
敵の攻撃判定の出だしに”閃光”のエフェクトが発生するようになり、
敵の攻撃予告線が視認できるようになる代わりに、
直接攻撃被ダメージが100%増加してしまう。
パパっと検索をかけてみたところ、世の暗殺者の人達は、
・”電荷のチャージ増加量アップ”の効果を持つ[集中]、
・”絶命纏衣状態の効果時間延長”の効果を持つ[効率のいい本気]
・”カウンターダメージのダメージアップ”の効果を持つ[返しの刃]、
・”回避の無敵時間延長”の効果を持つ[身軽]、
これら通称”四天王”の中から選んでいるみたい。
私も最初はその中から決めようと思ったけど、[集中]はこの世界でのアクションに慣れている前提のアビリティで、[効率のいい本気]も同様。[返しの刃]も同じ理由で却下。
じゃあ[身軽]か...?ってなったけど、こういう系のは後々呪いの装備化する確率90%なのでこれも却下。
って訳で、自分の練度に依らない便利能力の[第六感]にしてみた。
[特性]は後から変更もできるみたいなので、ある程度戦えるようになるまではこれで行こうって感じだ。デメリットはなんか、バトルに緊張感が出て成長早まるかなって。
「...あ、きた〜」
その三設定を終えると、遂にキャラクリが始まった。
付箋だらけの辞書見たいな設定項目の草原が、横画面にしたタブレットの画面左側にズラっと並び、画面右側には自キャラの3Dモデルが表示されていた。
一通り項目を見た感じ、[種族]や[アクセサリー]といった設定は無いらしい。
たしか私達プレイヤーは[マイナー]という人造人間らしいし、まぁ無いか。
「.......がんばろ。」
さぁ、沼の始まりだ。
■
───は"ーー、あー終わった....」
2時間もの死闘の後に、丈のタブレットの画面に表示されていたのは、何かを企んでいそうな黒ジト目と、ちょっと控えめなにんまりお口に癖を感じる、薔薇の花を逆さに被ったようなふんわり黒髪が目を引く美少女だった。
「.....怖いからもう1回確認しよ..」
(ゑ?もうダウンロード終わったのに....???)って心の声が聞こえてくるヘッドセットの横で、丈は再びタブレットと向き合い、設定項目の一つ一つをタップしながら、キャラの表情に違和感は無いか、ライティングの違いでキャラの雰囲気が崩れないかを念入りに確認して行った。
「.........よっし...ゃあ!!終わった〜!」
そして、合計5回の確認作業の末に、私の[マイナー]は完成した。
その名は[ジョーク]!
自分の要素をちょっと入れたかったのと、一発ドカンと腹に響くインパクトのあるサメ映画と、アサシンの火力の出し方に共通点を感じた結果のこの名前だ。
それなら”ジョーズ”とか、”シャーク”にした方が良いとかも思ったのだが、初心者が”上手”を名乗るのはちょっと未来見すぎかなぁと思ったのと、丁度タイムリーな2次元キャラが”ジョー”名義だったので、”嘘みたいに弱い/強い”って言い訳できそうなこっちにしたっていう...
一応、”暗殺者なのに全然標的モンスターじゃねーか!人殺す職業じゃねーのかよ!”っていうツッコミ要素あるし...ね...?
───さて、遂にタブレットの画面から剥がれた丈は、さっきまで野菜が盛られていたボウルを台所で洗い始めた。それが終わると冷蔵庫から麦茶を取りだし、コップ半分の量をグイッと飲み干すと、玄関やリビングの窓の施錠をして、そそくさと自分の部屋に帰って行った。
「しゃあっ!!やるぞ!」
敷きっぱなしの布団の上に寝転び、私は再び、ヘッドセットを装着した。
そうして直ぐに、ザーン...と、湯船に耳まで浸かった時のように、環境音が引いていく。
次第に感覚が薄れていき、そして感覚がハッキリしてくる。
その頃にはもう、重力の方向が前から下に変わっている。
私は椅子に座っていて、正面には一冊の本が開かれていて、そのページには[ループマイナー]のタイトルロゴが表記されている。
[こんにちは、asasino。]
[[ループマイナー]及び、[ループマイナー:予約特典アイテムパック]のダウンロードが完了しています。]
[起動しますか?]
「お願いします!」
[了解。]
[[ループマイナー]を起動します....]
そして再び、私の感覚は薄れていく....
■
───...6:155、覚醒します。
<プシッー!!ウーーン...ガコンっ。
「....」
音が聞こえて瞼を開けるとそこには、白い煙と霜を纏う窓付きの棺桶のような、無数の管が繋がれた円柱型のオブジェクトがあった。おそらく私もそのオブジェクトの中に居て、その扉は私が目覚めた事で開いたのだろう。
さっきの音は、そういう音だった。
<ペタペタ...ペタ...
「.....っ...」
患者用の手術服みたいなラフな服装をしている事を確認した後、自分の棺桶の扉の枠に手をかけてヨイショとそこから出ると、ヒヤッとした感覚が足から頭へ駆け抜けた。
私が今いるここの床はどうやら鉄製のようで、建築中の足場のようなくすんだ銀色をしており、周囲の環境の影響かとても冷たい。
顔を上げて周囲を見渡すと、その棺桶はずっと先まで並んでおり、それは通路を挟んで私側の壁にもズラっと奥まで続いている。
[マイナー、G-6:155。この音声の指示に従い行動して下さい。]
[貴方の養育ポッドから出て左手側の通路を行き、最初の分岐点を左に曲がって下さい。]
「.....(G-6...あぁ私の事か。)」
<ペタ、ペタ、ペタ、ペタ...
頭上から聞こえてきた、地域の防災放送の様な音質の音声に従い、私は通路を歩き始めた。
道すがら、自分以外のその[養育ポッド]とやらを眺めていたが、どうやらその窓の奥は羊水の様な液体で満たされていて、炭酸のような気泡と、[ジョーク]になる前のキャラに似た顔の人間が眠っていた。
....というか今更だが、これがゲームとはとても信じられない。
1歩を踏み出す度に感じる”冷たさ”、鳥肌が立つ様な”寒さ”、服が肌を”擦る”感覚....どれも、冬の日にコンビニに行く過程で感じたあの感覚と、全く同じなのだ。
「.....(着いたけど...)」
[扉の右手前にあるパネルへ手を触れてください。]
「...(これか。)」
<ペタッ
<ID、ヲ、認証。扉、ヒラキマス。
<ガコンっ、プシっー!!!
客船のクルーが出入りするような、真っ黒で重厚な見た目の扉が横にスライドすると、そこには、所謂”更衣室”というような空間が拡がっていた。
天井はゴマフアザラシみたいな柄のタイル貼りで、そこにある二個三列の蛍光灯が部屋全体を白く照らしている。床は一面がザッザッとした触り心地の灰色のカーペットで覆われていて、ロッカーは白く、上手く言い表せないが近未来的的な外観をしていた。
「....ほほぁ...」
[G-6:155、貴方のロッカーはC-13にあります。]
[内容物を全て取りだし、装備し、もう一つの扉へと向かってください。]
私はその部屋に入るやいなや、「ほっ...」と色んな感情が混ぜこぜになった声を漏らしてしまった。
どうやらこの部屋には丁度いい温度の暖房が回っているようで、さっきの凍える様な廊下からのこれだったので、思わず力が抜けてしまう。逆サウナとか言うやつだろうか。
と、温度の濃淡に浮かれるのもここまで。この部屋の床には、よく見ると色つきの英語が体育館の床のように描かれており、私から見て左側の壁にあるロッカー郡の所が”C”のロッカーらしい。
その壁に近付き、ドアを開ける為の溝の下に書いてある文字を確認して、私はその[C-13]のロッカーを発見した。溝の横にあるパネルに手をかざすと、カシャンとロックが外れたような音が鳴った。
私がロッカーを開けると、内部は二段式になっており、上段には重そうなショルダーバッグが。下段には装備が。そして扉の裏の傘立てみたいなポケットには、納刀状態の小太刀が掛けてあった。
「....おぉ...」
私はまず防具を着ることにした。
そこで下段から装備を取り出してみると、まず袖付きの水着のようなインナーの上下が出て来た。それを手に取ってみると、[SER:ムーブアシストインナーVer.6.0]というアイテム名が表示された。
最近引越し業とかで使われているとかいう、動きをアシストしてくれる機械みたいな感じだろうか...?
チャチャッとそれを着た丈が次に取りだしたのは、半ズボンとも長ズボンとも言い難い半端な丈の深海色の袴と、蹄鉄のような金具が着いたスニーカーの様な靴だった。
それぞれ、[SER:C型遊撃機動武装:下]と、[SER:A型汎用武装:靴]という名称らしい。
早速袴を履くと、インナーが勝手に伸びて足の指先までを覆ってしまった。靴出されたのに靴下無いなぁ...と思っていたら、こんな機能で解決するとは...まぁ日本人的感性に基づき、靴は履かないんですけど。
そしてお次は、超ピッタリサイズの白い半袖の和服と、3枚の装甲が鱗のように連なった、肘までを守る黒の手甲が現れた。
[SER:C型遊撃機動武装:上]と、[SER:B型軽量武装:腕]と言うらしい。
気になったところで言えば、和服の右の胸元には、
[ Survival Elucidate Recapture SER ]
という丸いロゴのワッペンが綺麗に縫い付けられていた。
さっきからちょいちょい出てくるこの[SER]って言うのは、[人類の生存、天災の解明、故郷の奪還]を掲げる、政府によって立ち上げられた組織の略称で、丁度さっき私がキャラクリをしていたアプリ、[SER地底探査センター]の本家みたいな感じだ。
っと、装備はまだあるらしい。
丈が最後に取りだしたのは、ワイヤレスイヤホンの様な形をした耳用デバイス。
[SER:Eランク通信機]というアイテムらしい。
「...さてっと...あれ??軽っ。」
それを耳に取り付けた後、私はロッカーの上段からショルダーバッグを取り出した。
[SER:ミドルアイテムバックパック]と言うそれは、見ただけでわかる中身の詰まり方をしていて、「(これ持ち上げるの...?)」と相当な重量を覚悟していたが、持ち上げてみると案外そうでもなかった。これがゲーム補正、パワードインナーのアシストと言うやつだろうか。
さて最後に、私はロッカーの扉の裏に傘替わりに置いてある武器を手に取った。
私の肩から手首にかけての長さとほぼ同じサイズのそれは、銃のグリップによく見る滑り止めのうねうねがある黒い柄と、自販機に売ってる超小さいコーヒー缶を横からちょっと潰した見たいな、楕円形で筒状のシルバーの鍔を持ち、[SER]のロゴが赤文字で記されたチャンピオンベルトみたいなものが巻き付いた木製の鞘に収められた、”小太刀”だ。
それを手に取ると、[超振動ブレード”震月”]というアイテム名が表示された。
「....おぉ...」
すらりと途中まで刀を抜いてみると、鯉口から銀色の刀身が顔を覗かせた。
ナタや出刃包丁を彷彿とさせる平たい刃にはアスファルトの地面の様に絶妙な反りがあり、その切っ先はナイアガラの滝の様な形をしており、刺突攻撃は難しそうだ。
よく見ると、この刀の柄の鍔近くには、トリガーのような形のボタンがあった。色が同じで分かりづらいんじゃい!と心の中で不満を垂れつつ、利き手の右手で刀を握った時、丁度人差し指がそこ担当なので人差し指でトリガーを引いてみると、”カシャン”と独特な形の鍔の左右が上下にスライドし、そこを覗いてみると、換気扇みたいな何かが高速で回転していた。
「.....」
<カシャン、カシャン。
多分これが、武器の名前にあった”超振動”の部分なんだろう。
トリガーから指を離すと鍔のスライドドアは閉じ、換気扇が回る”ブーン...”のような音も収まった。
「.......これで全部...だね。」
刀を鞘へ戻し、左手に鍔と鞘を半分づつ握った丈は、バッグを左の肩から反対の腰に掛けてロッカーの扉を閉めた。カシャンと、ロッカーの扉を開けた時と同じ音が鳴り、扉が開かないことを確認した丈は、バッグの上を肘掛けのように使いつつ、音声さん指定の”もう一つの扉”の前に来た。
[.....ロッカーの中に忘れ物があるようです、G-6:155。]
「...え。」
[扉の裏に掛かっている[IDカード]を首に掛けてください。]
.......。
再びロッカーを開けると、刀が置いてあったところの上に、確かに、赤く平たい紐に繋がれた社員証っぽいものが掛けてあった。なぜこれに気が付かないのだろうか私は。
IDカードは、私は使った事ないがキャッシュレス決済用のカードに似た感じのアイテムで、左に私の肩から上を映した顔写真があり、右には[第一職業]、[第二職業]、レベル、所属ギルド等の記載欄があり、真ん中には、今着ているこの服の[SERロゴ]みたいに、ハンコのような形で[マイナーランク/ノービス・アンランク]と言う文字がでかでかと面を並べていた。
[....靴は履いていいんですよ、G-6:155。]
「あ、はい...」
[さて、忘れ物は無くなりました。G-6:155。]
[今一度、扉の右手前にあるパネルに触れて下さい。]
「はい。」
この部屋に入った時みたいにパネルに手を翳すと、空いた扉の先には、サングラスをかけた一人の女の人が、壁を背にして足を組み、片方の手をポケットに突っ込み、もう片方の手でポチポチとスマホっぽいものを弄っていた。
「....ん、お〜!女の子だ!」
[貴方の要望通り、雌のマイナーを充てましたよ、G-1:210。]
「はいはいありがとね〜」
[......]
「ありがとうございます神さま仏さまコマンド様!」
[よろしい。]
”G-1:210”と呼ばれた彼女は、炎のようなグラデーションの、海月のようなフワッとした長髪が目を引く女の人だ。私と比べて10cmほど背が高く、その羨ましい体躯も相まって、すごく”大人”って感じがする。
その装備は、今の私が下着代わりに着ている[インナー]のアップグレード版?の様な物の上に、上下が繋がった所謂”つなぎ”と呼ばれる物を着て、暑がりなのか上は脱いで袖を腰のところで結び、歩く時にゴトゴト言いそうな登山靴みたいな靴と、私の手甲の装甲部分が小さなラウンドシールドに付け替えられた様なガントレットを装着している。
そうやって私が彼女の事をまじまじと見ていると、その事に気がついていたのか、音声との掛け合いが終わると同時に彼女は私に話しかけてきた。
「ねぇキミ!名前はなんて言うの?」
「あえっと、ジョーク...です。」
「ジョークね?覚えた!わたしは[イカロン]、キミの、[相方]です!」
「.......、えっと...??」
「とりあえず着いてきて!キミは目覚めたばっかりだから、いーっぱいやる事あるんだ〜」
「...はい。」
”ジョーク”がテンションを作る暇もなく、”イカロン”と名乗った彼女は、ジョークの手を引いて、通路の奥へと連れて行った。
「まずは〜....”マイナー登録”から行こっか!こっちだよ〜!」
「あっ、えっと、はい、はい!」
───チュートリアルはまだ、始まったばかり。
G-6、G-1は、彼女達がどの世代のマイナーかを示すものです。
ジョークは[G-6:155]、第六世代の155番目に目覚めたマイナー。
イカロンは[G-1:210]、第一世代の210番目に目覚めたマイナーということです。
[マイナー]は、地底探査用に改造された[3M計画]のヒューマノイドです。
”未知領域を開拓し、物資を持ち帰り、施設を建てて、人類の絶滅を回避しましょう。”
”でも人類がそれをやるには数も実力も足りないので、ヒューマノイドにやらせましょう。”
という訳で、第三次大戦を想定した[兵士を畑で採る計画]通称[3M計画]をリサイクルして創り出されたのが、[マイナー]です。
探索の質を高めるべく”自由意志”が与えられていますが、”反逆”を想定して脳内に爆弾が仕込まれています。