ハローマイナー！
趣味小説です。
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「.....ふふ...」
電気の消えた部屋の空に、そのため息のような呟きは一瞬にして吸い込まれ、消えた。
ソファーの前に敷かれた布団の上に寝転んだ彼女は、ソファーの側面に右半分の背中を預け、カバーを折って自立させたタブレットの画面を眺めていた。
彼女の名前は[淺篠 丈]。
ゲーム以外に生きがいを持たない、事勿れ思想の強い引きこもりだ。嫌いな物は、親指より大きい虫。
彼女のタブレットに映されている動画は、[ループマイナー]というゲームのPV。最新のVRゲーム機で遊べて、”実際にその世界に居る様な感覚でプレイできる”と話題のゲームだ。
彼女は、その[ループマイナー]が遊べるゲーム機の予約抽選に最近ようやく当選し、ついに明日、ゲーム機が家に届き、今一番気になっていたこのゲームて遊べるようになるという事で、今の彼女の心は穏やかじゃない。
どれくらい穏やかじゃないかと言うと、”現在三徹目”と言えばそのはしゃぎ様が分かるだろう。
...でその肝心のゲームだが、タイトルを、[ループマイナー]と言う。
他のゲームと大きく違う点は、”実際にその世界に居る様な感覚でプレイできる”という事。
最新ゲーム機の[BRゴーグル]を頭に装備すると、脳波がどうとかで装備者がゲーム世界に入り込む事が出来、これまでよりも遥かにリアルなゲーム体験ができる....とかなんとか。
何が出来るゲームなのかと言うと....”リアルファンタジーMMORPG”が出来る。
人が大勢いる所で踊ってたら、みんながシンクロダンスしだしたり、仲間達と何度もコケながらレイドボスを攻略したり、ハウジングや釣り、ミニゲームを極めたり....MMORPGで出来る全てを、”リアル”に体感することが出来るのだ。
「....あーぁ、な〜にしよっかな〜...」
───穴が空くほど見たPVが終わり、さて次はなんの動画見よっかな〜と動画一覧を眺めていると、私は、とある動画のサムネに惹かれた。
「...”君も今日から未来人”....??」
それは、目隠しの線が入った天然パーマから伸びた吹き出しに、「当たらなければどうということはない！」と書かれているのと、[理論上ずっと無敵時間！？”回避強化”と”ジャストアクション”の組み合わせがヤバすぎる！]という、パチンコの当たり演出見たいなビカビカしたフォントの赤文字で埋め尽くされた、派手なサムネの動画だった。
タイトルは、【最強】ビルド紹介#135 ”避けろ。敵が隙を見せるまで。”【君も今日から未来人】。
私がまだ小さい頃、MMORPGをテーマにしたアニメを途中から数話見たことがあるのだが、そのアニメにでてきた”アサシンの子”に私はとても憧れた。
彼女に対しては勿論、そのプレイスタイルに対する憧れは、今でも変わらない。
敵が隙を見せるまで、避け、弾き、耐え忍び、遂に来た一瞬の隙に最大火力を叩き込む...それを、”実際に出来るかもしれない”。
動画を再生する事にそして、私がそのスタイルで行く事に、一切の躊躇は無かった。
[ハローマイナー！黄饅頭だぜ。]
[ハローマイナー！赤饅頭よ。ねぇ黄饅頭、私最近、この間のアプデで実装された【カルディア種】のファームを頑張っているんだけど、アイツらって所謂”盾チク”見たいな戦法を取ってきて、嫌いなのよね...。]
[おぉ、なかなか頑張ってるじゃないか。【カルディア種】な、確かに鬱陶しい戦い方をしてくるエネミーだ。これまで当たり前だったAOE魔法周回は奴ら魔法耐性高くて難しいし、タイマンバトルも、近接職じゃないお前じゃ厳しいもんな。]
[ねぇ黄饅頭、どうにかならないかしら...]
[実は...どうにかなっちまうんだぜ！しかも、スキル枠はたった2枠しか使わない、超コンパクトなビルドなんだ。]
[えぇ！？そんなビルドがあったの！？]
[あぁ。しかも、お前のプレイスキルの向上も兼ねる事ができるから、マジでオススメなビルドなんだぜ。]
[教えて教えて！早く試したくてたまらないわ！]
[おっけー任せとけ。それじゃあ、せーの...]
[[ビルドアップ！]]
「........♪」
シーンチェンジの編集が入り、ふと部屋の壁を見上げると、そこにあった時計の針は、午前零時一分を指していた。
■
───ん"....」
気がつけば私は、寝落ちしていた。
動画を流していたタブレットは起動ボタンを押しても点かず、どうやら充電切れでダウンしたらしい。
タブレットの充電コードを探す為に起き上がると、部屋のカーテンの奥が明るかった。
「.......(今何時だ？)」
グツグツ煮立った鍋の火を止める様に、私の頭は一瞬にして晴れた。
弾かれるように振り返り、ソファーの後ろの壁に掛けた時計を見上げると、針はほぼ10時を指していた。
現在時刻、午前9時56分。
ゲーム機の配達予定時刻、午前10時前後。
「....っ!!?(ヤバいっ！)」
＜ピンポーン
...長い事ここに住んでいるからか、丈は配達員がもう扉の前まで迫っている事に気付いていた。
配達員を待たせる訳にはいかないけど、流石に肌着一枚で出ていくのはバカが過ぎる...そう思っていたその時、弾かれるように振り返った先のソファーの背もたれに、昨日コンビニに買い物に行った時に来ていた上下の服が投げてあった。
恐ろしい速度でそれを着た丈は、「はい！」と印象の良い返事を返し、バタバタと玄関へ走っていった...
───後に彼女は、”劫火”と呼ばれるマイナーと成るのだが、その第1歩は彼女にとって、良いスタートとは言えないものだった。
主人公:淺篠 丈( あさしの じょう )
年齢:19
性別:女
体躯:168.2cm・46.3kg
性格:内向的・受動的
職業:無職
趣味:ゲーム
好物:豚肉・鶏肉・レタス
嫌物:牛肉・ナス(天ぷら以外)・かぼちゃ
交通事故で両親を亡くし、幼くしてその莫大な遺産の半分を引き継ぐ事となった、元[淺篠百貨店]の令嬢。
体裁を何よりも重視する両親の教育との相性が悪く、お互いに意志を曲げない散々な幼少期を送った結果、ド級の引きこもりとなってしまった。その事を謝られた事は無いが、贖罪のつもりなのか、両親はある時期を境に、部屋に引こもる丈を責めることはしなくなった。
なんやかんやあって今は、独り都内のマンションで悠々自適なニート生活を送っている。
タイトル:ループマイナー
ジャンル:アンダーグラウンドファンタジーオンラインBRアクションアドベンチャー
価格
＞スタンダードパック:4990円←丈が買ったもの
＞エキスパートパック:8990円
＞エクストリームパック:15990円
キャッチコピー:[絶滅に、抗え。]
概要
[ループマイナー]は、果てしなく広大な地底世界を舞台に、オンライン上で繋がった世界中のプレイヤー達と共に冒険ができるRPGです。[マイナー]をカスタマイズし、唯一無二の”主人公”としてその世界へと降り立てば、これまでに無いゲーム体験が貴方を待っているでしょう。
ひとりで冒険に出かけるもよし、仲間と共に強敵に挑むもよし、家を建ててフレンドとのんびりするもよし、美しい景色の中で釣りをする事も、NPCと仲良くなる事も、ミニゲームに明け暮れる事も...遊び方はあなた次第です！
貴方だけの”冒険”が、”もう一つの人生”が、今始まろうとしています....
