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なろうっぽい小説

素朴で善良な村娘

作者: 伽藍

辺境の村で、自他ともにいずれ結婚するものと思われていた若い男女の幼馴染みがいた。平和に生きていた二人が、少年が王家に迎えられたことで引き裂かれるお話。

 とある辺境の村には、少年クレイと少女リンダという仲の良い男女の幼馴染みがいた。


 二人とも親はなく、村の片隅に住む老女の薬師に育てられた。老女がこの世を去ってからも、クレイとリンダは協力して生活していた。

 リンダは魔法に秀でており、独学で薬師となって老女の営んでいた薬屋を継いだ。クレイは腕っ節が強く、村の作物を荒らす獣を仕留めたり、リンダに頼まれて薬の素材を採取したりして生活していた。


 そんな二人には、不思議なことがあった。もともとその辺境の村は作物が育ちにくく、貧しい村だったのだが、老女がどこからか連れてきた二人を村で育て始めて以来、村は非常に豊作に恵まれていたのだ。

 なので村の者たちは、二人か二人のいずれかが神の愛し子なのではないかと噂をして大切にしており、老女が亡くなった十二歳以降は二人は孤児だったにも関わらずほとんど生活に困ったことがないのだった。


 クレイとリンダは昔からずっと仲が良く、婚姻の認められる十六歳になれば二人は結婚するのだろうと村の誰もが思っていたし、本人たちもそのつもりだった。


 事態が動いたのは、クレイが十六歳になる前日のことだった。突然、王宮からの使者が村を訪れたのだった。

 驚いたことに、クレイが実は国王の庶子であり、先ごろまで国王の唯一の直系の王子だった王太子が事故で行方不明になってしまったのでクレイを王子として引き取りたいとのことだった。


 クレイ本人や村長を始めとして誰もが驚いたが、そも王宮からの命令であれば逆らう余地もなく、クレイは王宮に向かうことになった。

 クレイは教育を終えたあとには立太子する予定であるとのことで、辺境の村から次期国王が誕生するという慶事に誰もが浮き足立った。村中が熱に浮かされたような雰囲気のなか、リンダだけがただ一人不安そうな顔をしていた。


 だからリンダは、村を挙げたクレイの送別会でつい言ってしまったのだった。


「クレイ、本当に行くの? わたしと結婚するんじゃなかったの?」


 その一言が、良くなかったのだろう。リンダはクレイや、村の人びとから白い目で見られることになった。


「めでたいことに水を差すな! 王子殿下に取り入ろうなどと、卑しい孤児め」


 リンダはつい昨日までは親切にしてくれていた村長に鬼のような形相で罵られて、祝いの席から放り出されることになった。


 それから、リンダの生活は一変した。

 親切だった村のみなが、あっという間に手のひらを返してリンダを除け者にした。村の恵みは王族であったクレイが齎していたのだろうと言われて、リンダに親切にしても旨味がないと思われたのだった。

 リンダは村に唯一の薬師だったので村八分にこそされなかったけれど、これまでのように仲良く過ごすことはできなくなった。今までのように農作物や狩った獣のお裾分けがなくなったので、それだけでもリンダにとっては随分と苦しく、リンダは自ら近くの森に分け入って食べるものを探すしかなかった。


 老女から受け継いだ大切な薬屋は、村人たちからの嫌がらせであっという間に見窄らしくなった。石やゴミを投げ込まれて汚れた店内で、リンダは細々と暮らすしかなかった。朝な夕なに戸を叩かれて、まともに眠ることも難しくなった。


 そんな生活が二年ほど続いて、リンダは耐えきれなくなって一縷の望みをかけて王都に向かった。クレイに窮状を訴えて、どうにか助けて貰えないかと考えたのだった。


 本来ならばクレイは王宮にいるので、ただの村娘でしかないリンダが会えるはずもなかった。けれど何の偶然か、リンダは視察に出ていたクレイと出くわすことになった。


 もともと整った顔立ちをしていたけれど、きっと使用人たちに磨かれたのと年頃もあるだろう、クレイはますます精悍で美しい青年になっていた。一目で貴族のご令嬢だと判る着飾った女性をエスコートするクレイは、村にいた二年前からは想像もつかないほど王族らしい立ち居振る舞いをしていた。


「クレイ!」


 リンダはクレイに呼びかけた。リンダはクレイを愛していたので、こんな状況でありながらもクレイに会えたことが嬉しくてリンダの心は躍った。

 けれどクレイがリンダに向けたのは、そこらの石ころを見るようなしらっとした表情だった。


「卑しい女が、俺に何の用だ」


 昔のクレイであれば絶対にしなかったであろう表情を向けられて、リンダは硬直した。王都にくるのにわざわざ新しい服を買うこともできなくて着古したワンピース姿のリンダをざっと眺めて、クレイは眉を顰めた。


「ただの村娘が、王太子である俺に話しかけるなど不敬だぞ」


 クレイの隣では、ご令嬢が口元を隠してくすくすと笑っている。


「まさか、俺に情けをかけて貰えるとでも思っていたのか? ――おい、警備! この女をつまみ出せ。俺にすり寄ろうとする不届き者だ」


 リンダはクレイに近寄ろうとしたけれど、護衛の騎士たちに阻まれて話しかけることすらろくにできなかった。そのままリンダは、あっさりと王都から追い出されることになった。

 もみ合う中で破けたワンピースの裾を眺めて、リンダは泣いた。もうあの頃のクレイはいないのだ、と思った。


 それからリンダは、失意のまま村に戻った。幸いリンダは薬師としての知識があるので、荷物をまとめて村を出て行こうと思った。このまま村に残っていても、リンダは幸せになれないからだ。

 けれどその道中で、リンダは思わぬ拾いものをした。それは見窄らしい旅装の青年だった。


 リンダが青年を見つけたとき、青年は一人で、酷い怪我をしていた。獣か魔獣かに襲われたのか、背中がぱっくりと抉られている。正直なところ、リンダは最初は青年がもう亡くなっているものだと思ったのだ。


 けれど辛うじて呼吸をしていたので、リンダはどうにか青年を助けることにした。

 薬屋まで戻るには遠かったので、近くの洞穴にどうにかこうにか青年を引っ張り込んだ。空間収納からありったけの魔法薬や救急道具を引っ張り出し、苦手な治癒魔法まで駆使しながら最初の三日三晩はほとんど眠ることも食べることもせずに看病し続けた。

 その後には最初は手持ちの食料を食べていたけれど、もともと村に戻る途中だったのでやがてそれも尽きてしまった。それからの食事は、薬の素材を探しに行くついでに木の実を摘まむ程度しか食べられなかった。

 青年を下手に動かすわけにもいかず、村に戻れないままそんな生活を二週間ほど続けた頃に、ようやく青年が眼を覚ました。


「ここは……」

「動かないで、酷い怪我ですよ」


 身を起こそうとした青年が痛みに呻くのを抑えつける。こんな生活をもう二週間も続けていたので、リンダの動きに遠慮はなかった。

 青年が、横たわったままリンダを見上げて眼を細める。


「……助けて頂いたのですね。どなたでしょうか」

「この先の小さな村の薬師で、リンダと言います。わたしが知っているだけでも、あなたは二週間も寝ていたのですよ」

「二週間……」


 青年は眼を見開いた。


「わたしはジャイルズと言います。済みませんが、わたしの上着の……内側のポケットに通信の魔道具がありますから、取って貰っても良いですか」


 リンダは驚いた。魔道具は色々と普及しているけれど、通信の魔道具といえば最先端で、大変に高価なものだからだ。

 治療をするときに脱がせて放り出したままだったジャイルズの上着から魔道具を渡してやれば、ジャイルズが何かを迷うような顔をした。察して、リンダは立ち上がる。


「わたしは食べられそうなものを探してきます。素材も見つけなくては」


 きっとジャイルズは大変に高貴なお人で、聞かれては困ることがたくさんあるのだろう、とリンダは察したのだった。

 ジャイルズに見送られながら、リンダは洞窟を出た。次に洞窟に戻るときにはジャイルズはもういないかも知れないな、と思いながら。


 けれどリンダにとっては意外なことに、リンダが少しばかり時間を潰してから戻ってもジャイルズは洞窟に残ったままだった。その代わりに、知らぬ男が二人、ジャイルズの看病をしている。


 ジャイルズは相変わらず痛みが辛そうだったので、リンダは新しく摘んできた薬草で痛み止めを作り始めた。その横で、化膿止めと傷薬も並行して作る。

 リンダが小さな鍋を幾つも魔法の火で炙るのを、ジャイルズは興味深げに眺めていた。


「手際が良いですね。きっと良い師に恵まれたのでしょう」


 本当に感心したようなジャイルズの言葉に、リンダは少しだけ動きを止めた。リンダのいる村では、もう何年も前に亡くなった老女のことをリンダと語り合えるひとは誰もいなくなってしまったからだ。

 魔法で火加減を調節しながら、リンダは答えた。


「はい、とても」


 それから更に一週間が経って、ジャイルズが短時間でも動けるようになったのを見計らってリンダはジャイルズと他の二人を連れて村の薬屋に戻った。リンダが薬屋から離れていたしばらくの間に、ますます薬屋は荒らされていて、いくつかの私物まで持ち出されていた。


「済みません、一応ベッドは綺麗なままのはずなので」


 盗賊にでも襲われたようなありさまに、ジャイルズは顔を顰めた。


「小さな村などでは、根拠のない偏見に踊らされてたまに医師や薬師などが虐げられたり嫌がらせをされることがあると聞きます。その類いですか」

「いいえ、これは……」


 リンダは苦笑した。笑い話にしてしまおうと、クレイとの一件を聞かせる。

 ジャイルズはどうにも高貴なお人のようだから、もしかしたらクレイに同意をするかも知れないと思っていた。けれどジャイルズは、リンダのためにクレイに怒ってくれた。


「罪のない、まして親しかった者を貶めるなど、身分に関係なく良くないことです」


 ジャイルズがそう言ってくれて、リンダは心が軽くなる気持ちがした。クレイが王子になってから、誰も彼もがクレイの味方をしてリンダを貶めたので、ジャイルズに肯われて少しだけほっとしたのだった。


 それからしばらく、ジャイルズとリンダは一緒に生活をした。リンダの家には村人たちが嫌がらせをしに来ることがあったけれど、ジャイルズに従っている二人の男たちが追い払ってくれてからは嫌がらせもなくなった。

 ジャイルズの怪我は酷かったので、薬屋に戻ってからもリンダがつきっきりで看病することには変わりがなかった。薬屋に置いていたはずの効果の高い治療薬の類いは奪われてしまっていたので、リンダは二人の男たちの一人を供にして森の奥深くまで分け入り素材を採取した。ときに魔獣や魔物から素材を得ることもあったけれど、これは男たちが対応してくれた。リンダ一人ではどうにもならなかっただろう。


 ようやくジャイルズが一日起きていられるようになった頃に、リンダは思い出して問うた。


「そういえば、ジャイルズ。あなたはどうしてこんなに辺鄙な村の近くで倒れていたの?」


 ジャイルズが高貴なお人だろうということにリンダは気づいていたけれど、一緒に住み始めてひと月も経つ頃には遠慮などなくなった。リンダはジャイルズに些細な家事や料理を手伝って貰うこともあった。

 問われたジャイルズが難しい顔をする。


「この村の近くにある広原に咲くと言われている、伝説の魔法植物を探しているんだ。季節に関係なく咲くというから二か月ほど探し続けていたのだけれど、一向に見つからない。そうしているうちに、うっかり魔獣の巣に足を踏み入れてしまってね」

「この辺りには村はここの一つしかないけれど、この村の人びとには訊かなかったの?」

「実は以前に村長やその知り合いに問うたことがあるのだけれど、噂しか知らないとのことだったよ。この村に薬屋があるというのも、リンダに連れてこられて初めて知った」


 魔法植物の件であれば、薬師であるリンダに訊くのが道理だ。けれどジャイルズがリンダの話を聞かず、リンダもジャイルズのことを知らなかったということは、村長は意図的にジャイルズに対してリンダの話をしなかったのだろう。

 村長はリンダを嫌っているから、リンダをこの見るからに貴族の所作をしている青年に近づけることを嫌がったのかも知れなかった。


「リンダは何か知らないかい?」


 問いかけるジャイルズの眼には期待が浮かんでいる。けれど、リンダは首を捻るしかなかった。


「もちろん、地域特有であったり珍しい魔法植物はいくつか思い浮かぶけれど、二か月も探して見つからないようなものがあったかしら? 伝説と言われるほどのものは……。どんな魔法植物なの?」

「青い宝石のような花弁で、花弁に雨が落ちると鈴のような音が鳴るそうだ。妖精に守られているから人間は滅多に見つけることができないうえに、ただ花があれば良いのではなくて、花と一緒に朝早い時間に花弁に降って音を鳴らした雨滴が必要なんだ」

「それは、随分と特殊な……」


 言いかけて、リンダはあっと声を上げた。


「雨滴は知らないけれど、それっぽい花なら知っているわ」


 ジャイルズが顔を上げる。けれど、リンダは肩を落とした。


「たまにお友だちの妖精が持ってきてくれるのを寝室や店内に飾っていたのだけれど、見た目が綺麗でしょう。盗まれてしまったわ。あの花はきちんと管理しないとあっという間に枯れてしまうのだけれど。でも……」


 思いついて、リンダは心が晴れるような気がした。ぱっと立ち上がって、ジャイルズに力強く宣言した。


「妖精たちに頼んで、採取に行きましょう。きっと一輪や二輪なら譲ってくれるわ」


 そうして、リンダとジャイルズは男たちを伴って出かけることにした。


 リンダは森の中腹のとある花の前にとっておきのクッキーを置いて、その花を指先でちょんと突いた。飛び出してきた妖精にクッキーを渡してやれば、小さな妖精が機嫌良く四人を先導し始める。

 ころころと笑う花たちの歌声を聞き流し、鳥の謎かけに従って二度、三度と曲がる。最後にひとの背丈の三倍ほどもある大きな花が開けてくれた茂みの通路を通れば、妖精たちの飛び交う花畑に行き着いた。


「ひとの住む近くに妖精郷があるのは珍しいな」

「そうなの? お婆ちゃんから教えて貰って、昔から遊び場にしていたから。そういえば……」


 老女はクレイとリンダを分け隔てなく愛してくれたけれど、老女がこの場に連れてくるのはいつもリンダだけだった。リンダは昔から色んなことをクレイに話してきたけれど、どうしてだかこの場のことは教える気にはならなかったから、クレイはこの場のことを知らないままなのかも知れない。

 不思議なことを思い出して動きを止めたリンダに、ジャイルズが首を傾げた。


「どうかしたかい、リンダ」

「いいえ、何でもないわ」


 リンダは首を振って、二人は再び妖精について歩き始めた。

 やがて小さな妖精は、一つの聳えるように大きな樹の前で止まった。その下を見れば、一面に青い宝石のような花弁を持つ花が広がっている。


 花たちを踏まないように注意して、リンダたちは樹の根元に敷布を広げて座り込んだ。


「その水滴って、魔法で生み出した水じゃダメなのよね?」

「そうだね。自然に雨が降るのを待つしかないかな」


 仕方なく、二人は花畑でのんびりと過ごし始めた。辿り着いたのは昼過ぎだったので最初から泊まるつもりで、夜になったら妖精に許可を貰って毛布を広げて横たわった。

 朝になっても、雨が降っているとは限らない。朝の雨滴を得なければいけないから、午前中に雨が降らなければ午後からはお互い自由に過ごした。リンダは妖精たちに訊きながら珍しい薬草や花卉を集めたり、ジャイルズは人間が食べられる果物を採取したりした。

 そうやって数日を過ごして、リンダが何度目かの朝日を眺めていたとき、ぽつりとリンダの頬に水滴が落ちた。


「あ、雨……」


 待ち望んだ朝の雨が降っているのだった。しずくが一つ落ちるたびに、りん、りん、と鈴のような優しい音が鳴った。

 雨が酷くなる前に、二人は雨滴ごと数輪の魔法植物を摘んだ。それから妖精たちに礼を言って、村への帰路を辿り始めた。


 リンダは、ジャイルズとの別れが近いことを悟っていた。今までよりもちょっとだけ気まずい沈黙を挟んで、ジャイルズが言った。


「リンダ、良ければなのだけれど」


 リンダが顔を上げれば、ジャイルズは一瞬だけ視線を逸らして、それからすぐに視線を戻して、真剣な表情で言った。


「わたしと一緒に村を出ないか。あの村は、リンダにとって居心地が悪いだろう」

「え、でも……」


 リンダはとうに村を見限っていたので、村を出ることには異存がなかった。けれど、この明らかに貴族であろうジャイルズと行動をともにしていれば、また辛い思いをするかも知れないと思って逡巡した。

 なぜならこのとき、リンダはすでにこの穏やかな青年を少しだけ好きになってしまっていたので。


 クレイのときだって、リンダがクレイを好きでなければ突き放されてもあれほど傷つかなかった。ひとを好きになることは、たまに痛みを伴うことなのだ。


 リンダの迷いを悟ったように、ジャイルズは言った。


「わたしはあなたに傍にいて欲しい。もしかしたら苦労をさせるかも知れないけれど、一緒に乗り越えたい。あなたとならば、色々なことを楽しめる気がするよ」


 迷いに迷って、リンダは頷いた。また傷つくかも知れないと心のどこかで思っていたし、村を出るのならばどうせ明日も知れぬということで半ば自棄になっていたのかも知れないけれど、どうであれ頷いたのだった。


 それからリンダはジャイルズに連れられて、ジャイルズの故国だというリンダの故国から国をいくつか跨いだ先にある帝国に辿り着いた。ジャイルズが実は帝国の第二皇子だと知ったときにはさすがに逃げだそうと思ったけれど、そのときには皇宮に招かれたあとだったのでどうにもならなかった。

 ジャイルズが魔法植物を求めていたのは、ジャイルズの実母である酷い呪いに侵された皇妃を助けるためだった。皇妃を救い出す手助けをしたことで、リンダは帝国で盛大に歓迎されることになった。


「うちの皇家では、『嫁くらい自分で連れてこい』というのが家訓でね。今までわたしが誰にも興味を持てなかったのは、きっとリンダに会うためだったのだろう」


 ジャイルズがリンダに正式に求婚をしたとき、ジャイルズはそんな恥ずかしいことを言った。


 今まで独学でありながら優秀な薬師であったリンダは、高度な教育を受けられるようになって飛躍的に実力を伸ばし、数年後には宮廷薬師に名を連ねるほどになった。やがてジャイルズと結婚したリンダは、帝国の臣民たちの健康を守るのに尽力し、人びとに慕われたという。






 ところでリンダが故国を出てからほどなくして、とある小さな町で記憶を失って保護されていた元王太子が見つかったという喜ばしい知らせが入った。ここまでは、リンダも知るところである。

 けれどそのあとに、嫡出の王子が戻ったことで王宮で持て余されたクレイが子どもができぬよう断種されたうえで不都合なことを喋らぬよう制約魔法を施されて故郷の村に戻されたことや、そのクレイが見たのがリンダがいなくなってリンダが住み始める前と同じように枯れ果てて貧しくなった故郷の村であることは、リンダの全く与り知らぬことなのだった。

作中でリンダはジャイルズを助けていますが、助けられた人間が助けてくれた人間に難癖をつけて裁判を起こすなんてことは現実なら普通に起こり得ますよね。現実は物語のようにはいかんよなあ、とか思いながら書きました

作中で透かしてますが、リンダは神の愛し子です。まあ精霊でも妖精でも良いのですけれど(適当)。リンダ本人は全く気づいていません。ジャイルズは魔法植物のくだりで薄ら察していたけれど、リンダが村を離れたことで村が枯れたのを見て確信を持ちました。リンダの故国のだーれも気づいていないので、だーれにも気づかれないままこっそりお持ち帰りしました。愛ありきなので大丈夫


これリンダとジャイルズが出会わなくて、リンダがリンダを邪魔に思った王宮なり高位貴族なりに殺されてしまって、神の愛し子を殺したことでじわじわと国が滅びましたとさ、ちゃんちゃん、ってパターンも考えてました。そっちのが『っぽい』よなーとか思いながらどちらにするか迷った。最初に思いついたのが本文のパターンなので、結果的にこうなりました

この手のお話を書くと『愛し子なのにこんなに酷い目に遭うの?!』って突っ込まれることがあるのですけれど、尊いものがそんなに気軽に地上に介入していたら不健全だよね、っていう考えをわたしが持っているもので……。神や精霊たちが好むのは美しかったり優しいものが多いのだけれど、美しかったり優しいものはただそれだけで悪意に晒されやすいものなので、愛し子たちは必然的に人びとの心臓を測る天秤の役割を兼ねています。だから隣人に優しくしましょうね、というお話


【追記20250627】

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/799770/blogkey/3462724/

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― 新着の感想 ―
優しい人、心の美しい人には、人の世は住みにくいものなんだなあ、と思いました。にしても、クレイは、そこまで心がネジくれ曲がったのか。それとも、元々そんな素質のあった人間なのか。 富でなく、あざとさでなく…
第二皇子と皇妃の生命の恩人で優秀な宮廷薬師で皇子妃で、元の国での扱いも皇子との出会いのエピソードとして恐らく民に喧伝されてる…… 元の国の人達、外交関連で真っ青じゃね?
神様や精霊に愛されてることが全て幸せとは限らないというのはよくあることよね~とは思います。人は妬むものなので…。神様や精霊はあまり妬みとかなさそう…というか種族が違うものに嫉妬する?って話なのかもしれ…
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