王子様とストーカー
エリシアは今日も王子様を見つけて、ドキドキしながらその後を追いかけていた。王宮の廊下をアーサー・ヴァルデン王子が歩いている。王子様の金色の髪が風に揺れ、青い瞳が輝いている。
「王子様…今日も素敵だわ…」エリシアは目を細めながらつぶやく。
今は王子が早朝の訓練から戻る時間、エリシアはいつも通り、王子の行く先をさりげなく見守る。王子が訓練場から出てくるのを見計らって、ほんの少しだけ後ろを歩き始めた。歩くペースを合わせ、さりげなく、でもできるだけ目立たないように。
「うーん…どうしよう、こんなに近くにいるなんて、どうしてもドキドキして落ち着かないわ」
と、そんな時、突然王子が立ち止まった。
「ねぇ、」王子の低い声に、エリシアはびっくりして足を止める。焦って立ち止まると、王子は振り返ってほんの少し微笑んでいた。
「君、僕についてきてるよね?」王子の青い瞳が優しく、少し困ったようにエリシアを見つめる。
「えっ、あ、違いますっ! 王子様と、偶然、同じ方向に…」エリシアは慌てて言葉を並べる。
「偶然?」王子が一歩近づき、距離を縮める。
その言葉に、エリシアは動けなくなった。心臓が爆発しそうなくらい速く鼓動を打っている。
「は、はい…」エリシアは小さな声で返事をした。
王子は少しだけ肩をすくめ、優しく微笑んだ。
「なんてね。前から君のことが気になってたから、つい声をかけてしまった」
「うっ…!」思わず声を出してしまった。
今日だけなら偶然と言い逃れできるが、前からだとバレていたことに対し、エリシアの心臓が早鐘のように打ち始める。
王子が静かに歩み寄る。エリシアは自分の心臓の音のせいか、王子の足音はほとんど聞こえないほど静かで、まるで周囲の空気まで変わったかのようだ。彼の顔は微かにほほ笑み、目は柔らかな光をたたえている。その視線は真っすぐエリシアに焦点を合わせており、まるで彼女のすべてを観察するかのように向けられている。
距離が縮まると、その存在感はますます増し、彼の優雅な姿勢と落ち着いた空気が、周りのすべてをかき消していくようだ。
彼は女性の目の前に立つと、こちらを伺うように静かに首を少し傾ける。
「ん……」彼の声は低く、心地よい響きで耳に届く。
「わ、私は、…王子様が、素敵で、かっこよくて、気になって、それでいつも、その…」
エリシアは正直に胸の内を答える。
王子はエリシアの返答に嬉しそうに微笑み、「もう少しだけ一緒に歩こうか?」と優しい声で言った。
エリシアはその提案に胸が高鳴り、思わず彼の隣に並ぶ。そして、王子と並んで歩き出すと、彼女の心はどんどん幸福であふれていった。
「僕も君を見ていたんだよ」
王子がにっこりと微笑むと、エリシアはその言葉に胸がキュンと鳴るのを感じた。
「でも、王子様、私のことストーカーだと思わない…?」
エリシアが少し不安そうに口を開くと、王子は少し笑いながら言った。
「はは!可愛いストーカーさんだね」
「王子様…好き…」エリシアは立ち止まって王子を見上げる。
王子はまた微笑み返してくれた。
二人はしばらく並んで歩きながら、静かな時間を楽しんだ。王子とこんな風に過ごすなんて、エリシアには夢のようなひとときだった。
「もしよければ、このまま一緒に僕の部屋に行く?」王子が言うと、エリシアはすぐに答えた。
「もちろんです! ぜひ…!」
「ふふ、じゃあ抱っこしていこうか」
王子がふわりとエリシアを抱き上げる。
王子のぬくもりを感じながら、エリシアは幸せそうに鳴いた。
「やっと君を捕まえることができたよ、可愛い黒猫さん」
そう言って王子はホクホクした気持ちで王宮へ戻って行った。