毒薬
夜半、小奇麗な洋風の一間。部屋は暖色の光で明るく隅々まで満たされている。ほとんど紫に見えるほどくすんだ紅のカーペットとその迷宮のような刺繍がひときわ目を引く。足の長い小さな木製テーブルのそばで。
床に転がる 数多の 丸底ビン
踏み場もなく 私は 立ち尽くすのみ
光の交錯 絢爛 目は眩む
休息 だが私は 不安に憑かれ
フラスコビン ぽつねんと 机の上
首を掴むと ひやり 指に吸いつく
薄くて軽い それを ライトにかざす
海面越しの 夕陽色 温かい
太陽の 天の恵み 酒の色か?
これを飲めば 私も 安らげるのか?
夜を脅かす トラックの声 遠くに
空きビンたちは 目を覚まし 歯を鳴らす
労働近く 地響き 部屋は揺れる
最高潮 暗闇 音は立ち去った
光を失い 頼りない 私は
手の中の ガラスに よすがを求める
頭だ ビン詰め少女の 泣きっ面だ
青白い 醜い 懐かしい顔だ
偽の 人造の生 ホムンクルスか?
お前が 私を 導いてくれるか?
冷えた空気が ねちっこく まとわりつく
鋭い闇が 後悔を 刺激する
そうだ窓だ 真後ろに あるじゃないか!
すがりつく ビンを蹴散らして 踏み割って
結露 にじむ街灯 眠る外界
澄んだ空気! 笑み漏れて 息は白い
だが私は 手のビンを 透かして見る
無色透明 違う 空っぽのビンを
飲み干す 何色にも染まる 空気を
いつか私を 死へと遣る 毒薬を
虚構 ハリボテ 中身のない生活
もう眠ろう