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31話 勝ち取りたい未来(モノ)もない、無欲な馬鹿にはなれない

連合軍の作戦会議終了後、巴カムイって人から邪神の呪いに対抗する為の護符を受け取り、俺達勇者パーティは風の国にて待機となる。

風の国は、領地であるシムルグ峡谷地帯に住む自由民が造り上げた国で、国内に点在する各部族のまとめ役として烈風王が存在する。

だが、その烈風王ですら現在も地上に留まっている『風神ヴァーユ』に仕える神官でしかない。

今も神と共に生きるとても珍しい国だ。

ちなみに風の国までの移動手段は、普段ならば国境とかその他諸々の問題でまずやらない空間転移魔法でひとっ飛び。

そして夜明けと共にシムルグ峡谷から出陣する予定。

今は、特にやる事もないので俺達のメシついでに現地の竜騎兵部隊の皆さんにも料理を振る舞っている。(リゼルが)

ミユの好物のタンドリーチキンと常世の国風スパイスシチュー、氷雪の国風の惣菜入り揚げパン(ピロシキ的なモノ)とか色々………

リゼル、いつの間にそんなにたくさんのレシピを覚えたンだ……?

もはや炊き出しというか祭りというか………とにかくこれが………、


「キミは今こう考えている………『これが最後の晩餐にならなけりゃアいいが………』と」


そうそうその通り…………って、誰だオマエェェェェェェ……!?

いつの間にか隣に小柄で中性的な、服と帽子に極彩色の鳥の羽を飾り付けている、エメラルドグリーンの瞳を持った美少年がいた。

そいつはなんかしれっと紛れ込んで飯食ってるし、なんなら風の国から提供された酒を当然の権利のように飲んでた。


「ヴァーユ様!?」


竜騎兵部隊の隊長が少年に気づいて平伏した。それに続いて他の隊員も皆平伏する。ヴァーユ?まさか………

こいつが風神ヴァーユ……??


「皆、楽にして良いよ。驚かせてしまったならすまないね。僕が風神ヴァーユだよ」


ヴァーユは気取るでもなく、ふんぞり返る訳でもなく自然体で俺達に名乗った。


「やはり祭りは良いね〜♪僕まで楽しくなってくるよ」


いや、別に祭りではないけどな………?あまりにもマイペースすぎて、いまいちコミュニケーション取りづらい。


「クロード、そいつ………誰…………????」


アカン………ミユの殺気とメンヘラ度が天元突破してやがる………!!!

ただでさえ男だか女だか判別しづらい小柄で美形な風神(ヴァーユ)が隣にいるせいで、このままでは『浮気認定→断罪→ザマァ·もう遅い』されてしまう………


「やぁ、素敵な狐耳の物騒なお嬢さん♪別にキミの彼氏を取るつもりはないから、一緒に宴を楽しもうよ♪」


敵意も悪意も一切ない、底抜けの明るさが籠もったヴァーユの態度にミユも少し警戒を緩める。


「正直に言うとね、僕達天使の争いによる負の遺産(邪神)を、キミ達に押し付けてしまって僕も心苦しく思ってる………」


ヴァーユは、唐突に独白を始めた。


「僕はかつて、過ちを犯した。最初は僕の治める民を、この閉塞的な谷底から連れ出す為だった………その為に他の天使と争い、殺しあった。回り回ってそのツケが、今のキミ達に、僕の治める民に負債として降りかかるなんて、考えてもなかったんだ………」


「今の僕には、キミ達を応援する事しかできない。背中を押す事しかできないけれど、キミ達ならばこのアドリビトゥムの歴史に残る英雄譚を紡げると………この戦いの結末を、最高のハッピーエンドに導けると信じているよ」


「……………」


ヴァーユの言葉に何か感じ入る物があったのか、ミユは俯きながら黙り込んでいる。

しかし、その目には確かな決意の光が見てとれた。


「さて、真面目な話はこれで終わり!!!酒だ〜〜♪美味しいご飯だ〜〜♪」


切り替え早っ!?ヴァーユは先程までの真剣な様子はどこへやら、グラスと食器を持って宴の輪の中に戻っていった。

なんか、一方的に喋って去っていったな…………

ヴァーユ……あまりにもマイペースすぎてコミュニケーションが難しい奴だったが、少なくとも応援してくれたのは間違いないはずだ。

なら、せいぜい期待を裏切らないようにするかァ……


 

▷▷▷



アインside


宴は終わり、竜騎兵部隊の人達も皆持ち場へと戻っていく。

僕はクロード達と一緒に後片付けを手伝う事にした。とりあえず皿とか鍋を洗うところから始めよう。

リゼルの隣で鍋や食器を分担しながら洗う。


「「…………」」


気まずい沈黙。こうしてふたりきりになると、大地の国でケビンさんにからかわれた時の事を思い出して、ついリゼルを意識してしまう。

それはリゼルも同じなようで、お互い無言のまま、せめて今の状況から気を逸らそうと作業に集中している。

明日、夜明けと共に僕達は邪神樹へと乗り込む事になっている。あまり考えたくないけど、もしかしたら死ぬかもしれない。

ならば、これだけは今言わなくちゃいけない。

身分の違いはあれど、幼い頃からリゼルとは家族同然に過ごしてきた。だから恋人とか、そういうのは少しも考えた事なかった。

今でもリゼルの事を、本当はどう思ってるかわからないけどこれだけは今言わなくちゃいけない。


「あの………さ、リゼル………この戦いが終わったら、一緒に白夜の国を復興しよう」


「正直、リゼルの事は家族同然に思ってる………だから恋人とかそういうのは、まだ考えた事ないけど………それでも僕は、リゼルと一緒にいたい。この気持ちに答えを出せるのはいつになるかわからないけど、二人で白夜の国に帰ろう。時間はかかっても、僕達の故郷を再建するんだ」


「………………」


黙り込むリゼル。そうだよなぁ………流石に僕も、かなり変な事言ってる自覚はある。

なんだよ………『二人で故郷を再建しよう(キリッ✨)』って………


「何を言ってるんですか?アイン………」


ほらやっぱり………


「当然、私も同じ気持ちですよ?私達の帰るべき場所は、故郷は、いつだって白夜の国ですから」


へ?

……………………………………………………………

(思考回路フリーズ中)


「私も、恋人とかそういうのはまだわからないですけど、あんまり長く待たせないでくださいね?」


そう言ってリゼルはいたずらっぽく微笑んだ。


アインside 終



▷▷▷



アリアside


クロード様達から離れて、手にした懐中時計………天界(エアルス)の創造主より与えられた、私自身の魂の残存量を測る道具に目を落とす。


「やはり、そろそろですか………」


魂の残存量はもはや幾ばくもない。私は既に、戦闘なんて不可能なくらいに消耗しきっていた。

最後までクロード様とミユ様を見守る事ができれば………と思っていたが、それももう叶わなくなりそうだ。


「そう………やっぱりアリアは、もうすぐ消えちゃうんだね………」


ミユ様………全て聞かれていたようだ。なんなら最初から、魔法で監視されていたかもしれない。


「ええ。間違いなく消えます」


ミユ様の表情からはいまいち感情が伝わってこない。たぶんミユ様は私にあまり良い印象は抱いていないだろうけど………それでも………


「ミユ様、最後に………私のユニーク魔法を受け取ってくださいませんか?」


ミユ様は、少し考えるような素振りを見せた。そして………、 


「わかった…………」 


ミユ様は私の最後の頼みを受け入れてくださった。互いに手を取り合い、ユニーク魔法の継承を行う。


「ボク、アリアの事は好きじゃなかったけど、別に嫌いでもなかったよ………」 


「!?」


その言葉だけで、充分報われた。


「ありがとうございます、ミユ様………御武運を」


ユニーク魔法の継承が終わると同時に、私自身を構成する最後の魔力が底をついた。間に合って良かった………あとはこのまま燃え尽きるだけ、しかし後悔はない。


アリアside 終



▷▷▷



静かに朝焼けが、大地を包んでいく。

いつもと変わらぬ夜明けだが、俺達にとっては人類の明日を左右する戦いの始まりを意味する。

既に俺達はワイバーンに乗り込んでいる。風の国の竜騎兵部隊も戦闘準備完了。


「未来を拓く者達に祝福を、仇なす者に烈風の洗礼を………天与の神風(ウインド·ギフト)………!!!」


ヴァーユの権能による追い風を受けて、風の国の主力、竜騎兵部隊全軍が俺達と共に飛び立つ。

当然、邪神がそれを黙って見過ごすはずもなく飛行型の眷属を次々と送り込んできた。


「ここは我らにお任せを!!!」


竜騎兵部隊の隊長の号令のもと、風の国が誇る竜騎兵部隊は眷属達を引き受けて露払いに徹する。

ヴァーユの『天与の神風(ウインド·ギフト)』の影響で追い風によるバフを受けているのもあるがワイバーンと竜騎兵の人竜一体のコンビネーション、そして3次元機動能力は凄まじく瞬く間に邪神の眷属は数を減らしていく。

しかし、邪神樹がある限りいくらでも補充できるのか減った端からまた眷属が絶えず現れる。

こいつら、ヴァーユの権能による向かい風にも怯む事なく襲って来やがる………

兵力の質では竜騎兵が上回っているが、数は圧倒的に邪神の眷属が上。

多勢に無勢、このままでは疲弊したところをすり潰されてしまう。


「やっぱり、僕の権能では力不足か………」


俺達に同行していたヴァーユが歯噛みする。

万事休すか…………まだ邪神樹にも辿りつけてないってのによォ…………!!!


暴風狂嵐の(ゲイルストリーム·)蒼翼(オーバードライブ)!!!」


突如、暴風が吹き荒れた。間違いない、この暴風は…………、


「リタ!?」


「私、リタ·アズリアが粛清しようと言うのだ………!!!(ドヤァ✨)」


いつも通りのテンションのリタが、なんか妙なキメポーズしていた。


「相変わらず貧弱な権能だね、ヴァーユ。この程度の敵なら本気を出さなくても…………!!!」


邪神の眷属を切り裂き穿ち削り取るリタの権能による暴風。まさに圧倒的と言う他なかった。


「流石、()()()()()()()の最高傑作………僕なんかとは比べ物にならないね………」


「無駄話は後、今やるべき事は勇者達の露払い………、でしょ?」


リタはヴァーユに背を向けて、手にした無骨で巨大な剣槍『ストームブリンガー』を構える。


「露払いが目的だが、別に倒してしまっても構わんのだろう?(ドヤァ✨)」


思いがけない援軍により、一気に突破口が見えてきた。


「すまんリタ、ここは任せた!!!」


「OKOK〜…………問題無インテイル〜……」


ヴァーユの権能による追い風と、リタの権能による暴風の援護攻撃で一気に眷属を蹴散らしながら邪神樹へと迫る。


「行くぞ!!!」


俺達は目前の邪神樹めがけて飛び降りた。

こいつは挨拶代わりだ………食らっとけ!!!


断ち切る者(スラッシャー)!!!」


邪神樹の頂上の部分を切り裂き、強引に入口を作る。

その時、血のような物が切断面から吹き出た。


「!?」 


アレはいったい、なんだ?

俺は一瞬考えを巡らすが、今やるべき事は邪神の本体を見つけ出す事。着地はヴァーユの権能に任せて、俺達は落下の勢いのまま邪神樹内部へと飛び込んだ。



用語解説


原初のあの御方


天界(エアルス)を統べるアドリビトゥムの創造主。

本来『リタ·アズリア』は、地上で終わりなき縄張り争いを繰り返す天使達への抑止力として創造主が製造した最後の天使。

本来ならば自我すらも存在しない創造主の操り人形のような天使だったのだが、創造主の手を離れて勝手に地上へと降りた為に創造主は裁きの雷を下し、リタを断罪した。


天与の神風(ウインド·ギフト)


風神ヴァーユの権能。

物理現象としての風を支配するのが基本的な能力だが、自軍全体に追い風によるバフ、敵全体に向かい風によるデバフを付与する。

更に『物事の転機、思いがけない幸運』をもたらす祝福を帯びており、味方全体の幸運をブーストする効果も持つ。

その特徴から攻撃性能ではリタの権能に劣るが、本来ヴァーユの権能は集団戦闘でのサポートに特化した能力である。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 二柱くらいの神様(天使)しか戦いに参加しないのは、邪神を活気付けてしまうからかなぁその力の根源的に。それか生き残りの神様がほとんどいないのか。 [一言] 鉄血は面白かったけど今思えば唐…
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