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11話 謂れなき断罪〜囚われたミユ〜

 凍鎧竜の脅威が去り、氷雪帝の魔法によりクリスタルパレスが修復されていく。幸い、そこまで大きな被害はなかった。

 ——まあ、俺達が戦った場所であるバルコニーの壊れ方は相当な物だったが。


「ミユさんは呪詛喰らいだったんですね……」


 ナターシャ陛下がぽつりと呟く。その瞬間ミユが身構えた。


「そうだよ……ボクは疫病神だ…………」


「あ……、違うんです。差別する意図とかは全然なくて…………今まで呪詛喰らいなんて吟遊詩人が語る『血染めのハルファスの詩』くらいでしか聞いた事がなくてびっくりしたというか……」


 『血染めのハルファス』、もはやたいていの吟遊詩人にとっては(アドリビトゥムでは)鉄板ネタになるくらい人気の物語だな……

 簡単に説明すると、常夜の国出身で呪詛喰らいの戦士『ハルファス』が訳あって氷雪の国に永住する事となり、魔王との戦いで数々の武勲を立てて当時の氷雪帝の側近にまで出世する。

ある時ハルファスは氷雪帝に『呪詛喰らいの力で瘴気に汚染された土地を浄化せよ』と命じられる。

ハルファスは見事に任務を果たしたがその後、消息を断つ。

数年後、彼の足取りを追い続けてようやく再開した氷雪帝が見たのは呪いに汚染され、無差別に殺戮を行う狂い果てたハルファスだった——、という内容だ。……俺、誰に説明してんだろうか?


「貴方の力がなければ氷雪の国は滅んでいたかもしれません。本当にありがとうございました」


 ナターシャ陛下はそう言ってミユの頭を撫でた。ミユはまんざらでもないようで、されるがままになってる。なんでわかるかって?ほら、狐耳と尻尾がめっちゃ動いてる。

 ナターシャ陛下はしばしミユの頭を撫でていたが突如、頭を押さえてうずくまった。


「うっ…………!?頭が……、痛い…………!?」


 衛兵が慌てて駆けつけて俺達をナターシャ陛下から引き離すが、正直俺達も状況が読み込めていない。

 やがてナターシャ陛下がゆらり……と、何かに取り憑かれたかのように立ち上がる。


「ほう……その娘は呪詛喰らいなのか…………ならば処刑だ」


 威厳に満ちた冷徹な声。先程までのナターシャ陛下と同一人物とは思えない。

 ナターシャ陛下の姿をした何者かは瞬時に間合いを詰めてミユの腹を殴り、気絶させた。


「ナターシャ陛下……!?何をするんですか!!」


 アインが腰の心剣を構えた。リゼルも魔法の詠唱の準備をしていて既に臨戦態勢。


「テメェ誰だ……?」


 俺は大鎌を手に、ナターシャ陛下の中にいるであろう何者かに尋ねた。聞きたい事は色々あるが、これが一番重要だ。

 とりあえずミユをぶん殴った時点で有罪(ギルティ)だが、答え次第では殴るだけでおあいこにしてやらんでもない。


「よくぞ気付いた。余は、氷雪帝ローレンス·ブラッドベリである」


「「「ローレンス·ブラッドベリ!?」」」


 それって、『血染めのハルファス』に出てくる氷雪帝の名前じゃないか………!?

 確かに『血染めのハルファス』は300年程前の史実を元にした物語と言われているが……まさか……!?

 氷雪帝となる者は歴代の知識だけでなく記憶も引き継ぐ。

 ならば、その記憶に強烈な残留思念などが混じっていたとしたら……?


「貴様らには悪いが、ハルファスの時のような悲劇は二度と繰り返してはならぬ…………ゆえに、この娘は処刑する」


「勝手な事を抜かすなァァァァァァ!!!!」


俺は怒りに任せて氷雪帝ローレンスに斬りかかった。

固有時間20倍速の全力攻撃。肉薄するまでの時間は1秒にも満たない。しかし、ローレンスにはそれすらも読まれていたようだ。


瞬間氷結(アイシクル)…………」


 俺の身体の周りに氷が張り付き、瞬時に固まる。俺の振りかざした大鎌の刃はローレンスの首からわずか数センチの所で停止した。腕も脚も動かず、俺はローレンスに触れる事さえもできない。

 アインとリゼルも同じ状態のようで、俺達は一瞬で制圧された。


「衛兵、この娘を処刑までの間、監獄塔に幽閉しろ」


「か……、かしこまりました」


衛兵は氷雪帝の変わりように驚きながらもミユを連行するべく歩み寄る。


「そうはさせません!!」


アリアは針と糸を手に持ち、ミユを守ろうと衛兵に向かっていくがローレンスは近くにいた衛兵から剣を奪い取って瞬時にアリアの首に突きつけた。


「貴様らは国外追放だ……死にたくなければ、あの娘を助けようなどとは思わぬ事だ」


「待てよローレンス……!!!ミユを返せェーーーーー!!!」


背中を向けて歩き去っていくローレンスに対して俺は、叫び続ける事しかできなかった。

人物紹介


氷雪帝ローレンス·ブラッドベリ


本来なら目覚めるはずではなかった、氷雪帝となる者に継承される記憶の中に焼き付いた強烈な残留思念。

生前は文字通り文武両道の名君だったが自身の盟友であったハルファスの『呪詛喰らい』の力を過信して送り出したがゆえに悲劇を招いた事を、後悔という言葉すら生易しい程に悔いている。

二度とハルファスのような悲劇を繰り返さない為、悲劇を未然に防ぐ為に『呪詛喰らい』であるミユを処刑しようとしている。

余談だが命名はテキトーに、ハガ○ンのブラッドレイ大総統みたいな響きの名前にした。


血染めのハルファス


アドリビトゥムの吟遊詩人にとって鉄板ネタになるくらい有名な物語。主な内容は作中で語られた通り。

300年程前の史実に基づいており、常夜の国の民にしか発現しない特異体質である呪詛喰らいが世界的に有名となった原因。

呪詛喰らいが差別や迫害の対象となったのも主に『血染めのハルファス』のせいである。

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― 新着の感想 ―
[一言] そ、そんな! まさかの残留思念ですと!? そんでもって最悪な状況!! 果たしてミユちゃんを奪還できるのか!?
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