歴史は繰り返す
街の近くの盗賊と、街の領主は仲良しだったことが、今回のことで発覚しました。あの領主、とんでもない男ですね。
盗賊の被害を隠すだけでなく、盗賊から逃げてきた被害者の訴えを被害者ごと消したんです。盗賊のアジトから逃げて、近くの街に助けを求めた女子どもは皆、殺されていました。
盗賊のアジトから救われた被害者たちは、泣くしかありません。街の住人たちも知っていたことだと言います。ちょっとした盗賊被害、ではなくなりました。
「これは、大きなことになってしまいました」
「だから、控え目に、と言ったのに」
お目付け役のガランが頭を抱えました。大事になると、それだけで、足止めになるのですよね。
「ナハトの便利道具が役立ちましたね」
叔父ナハトの道具で、今回のことは、即、獣人の国の王都へ報告です。すぐに、軍隊がここに送り込まれることとなりました。
ついでに、神殿も粛清に出ましたよ。
街でも村でも、教会なり神殿なりがあるのですよ。これほど大きい街なので、神殿があります。盗賊被害があったこと、神殿だって把握していたはずなのに、その報告、王都の神殿に上がっていないのです。つまり、そういうことです。
普段は、アタシとラセンは神殿で就寝します。ラセンは獣神の化身ですから、神殿での寝泊りが普通なんです。ですが、今回の騒ぎで、野宿となりました。神殿は今、腐敗しています。そんな所で就寝なんて、危険でしかありません。
野宿も馴れているので、アタシは普通に兄である獣神の化身ラセンと一緒に寝ます。
「いくら兄妹といえども、同衾するのはどうかと」
羨ましそうに見て言ってくる竜種シンセイ。
「兄上は、夏は涼しく、冬は暖かいから、野宿には最適なんです」
「シンセイも一緒にどうだ?」
ラセンは普通にシンセイを手招きする。
馬でも一緒で、寝る時も一緒。それに、シンセイは物凄く葛藤している感じだ。
「それに、兄上の側なら、夜襲も一掃されますよ。ほら、兄上には、神獣がついていますから」
アタシは意識がないと役立たずなのだけど、獣神の化身は、意識がなくても、何事かあると、神獣が表に出るのだ。
野宿で、もっとも安全なのは、ラセンの側である。逆にいうと、ラセンから離れて眠っていると、勝手に召喚された神獣に襲われるのだ。ほら、神獣、敵味方の判定が単純だ。アタシとラセンの側にいるのは味方で、それ以外は敵だ。
そういう説明すると、シンセイの従者たちはラセンの周囲を囲むようにして横になる。離れると、大変だ。
シンセイも、そういう事情では、ということで、ラセンの側で眠ることにした。
「シンセイは野宿、大丈夫ですか? アタシたちは馴れてるけど」
「マイナは人族の貴族のご令嬢ですよね」
「辺境伯は、戦場に出るから。アタシは、辺境伯のただ一人の跡継ぎだから、令嬢というより、辺境伯の教育を徹底的にされているから」
叔父ナハトだって、獣人の国との戦争の時には、前線に出て、戦ったのだ。辺境伯は、男女関係ない。跡継ぎが前線に出ることとなっている。
アタシが辺境伯となってから、戦争なんて起きた時は、アタシは前線に出ることとなる。そうなってもいいように、色々と経験させられている。
「俺が生きている内は、戦争なんて、絶対にさせないから、安心しろ」
獣神の化身ラセンはアタシを抱きしめて言い切る。
「兄上は、象徴なんだから、政治とかには口出ししちゃダメなんだよ」
「そんなの、知るか。そうなったら、俺は獣人の国を出て行ってやるからな。絶対に、人族の国と戦争なんかさせない」
「出てっちゃダメだよ。獣神の化身は、象徴なんだから。兄上は、象徴であるために、様々な恩恵を国から受けてるんだよ」
「そうなのか?」
「そうなの!! 衣食住、全てを信者である獣人たちの寄付や、国のお金で保たれてるんだから。兄上の体って、兄上だけの物じゃないの。国のものなの」
「難しいけど、マイナがいうんだから、我慢する」
納得出来ていない兄ラセン。
視界の端では、呆れているお目付け役ガランがいる。ガラン、頑張ってラセンを教育したのだけど、結果はこれである。双子に生まれたから、知性の部分をアタシが持ってっちゃったのかもしれない。
そんなアタシとラセンの会話を聞きつつ、シンセイは、何か言いたそうにアタシを見ている。
「シンセイ、何か他に、聞きたいことがありますか?」
夜は長いし、どうせ、育ちのいいシンセイはすぐ眠れるとは思えないので、アタシのほうから話題を放り投げてやる。
「マイナの黒魔法のことだ。私は、それなりに魔法のことは勉強したのだが、黒魔法は、呪い程度しか知らない。あんな、影を通して人を攻撃するなんて、知らなかった」
実際に見て、そして、影によって体の一部を失った獣人たちを見ているシンセイの従者たちは、アタシを恐れている。真っ暗な夜は、相当、怖いだろうな。
「黒魔法というと、呪いが有名ですよね。逆にいえば、それだけしか、出来ないのですよ。まず、呪いをするためには、対象者の一部を手に入れます。それを通して、相手を呪うわけです。ただ、黒魔法を行使する側の力量や、差し出すものによって、その呪いの幅は変わります。呪殺なんて、普通は出来ないですよ。だって、命のやり取りです。呪殺するために、万が一のために、代わりの命を用意しなければなりません。しかも、失敗したら、代わりの命は失われてしまいます」
「私の認識では、命を捧げれば、呪殺は成功すると思っていたのだが」
「そこは、歪められています。黒魔法は、相手に認識されてしまうと、失敗してしまいます。だから、逆に、情報を歪めて、成功率を上げているわけです。シンセイの認識は、黒魔法使いたちがあえて、情報を歪めて、一般的な黒魔法を歪めて、知らしめただけです。実際は、一騎打ちと変わりません」
「では、影を操るのも、一騎打ちということですか?」
「本来の黒魔法は、一人に対して一人です。ですが、アタシはこの通り、人の神の血筋ですので、あの程度の街の住人相手でも、一人で戦うことは出来ます。アタシは、絶対に負けませんから」
黒魔法の一般常識は歪められている上、後ろ暗い代物だ。叔父や伯母のように、目に見えた攻撃系はわかりやすいが、黒魔法は本来、表に出すことはない。
理由は簡単だ。黒魔法は代償が必要だ。炎魔法、氷魔法は自らが持つ魔力である。黒魔法は、魔力だけでなく、代償が必要とする魔法だ。実際に戦いで使うには、代償を必要とするので、一歩間違えると、二次被害を出すこととなってしまう。
「今回、アタシは黒魔法で、盗賊たち、街の住人たちに一方的に勝負をしかけました。この勝負をしかける時に、何を賭けているか、それを知られないようにするのが大事です。ほら、賭けたものがバレてしまうと、それよりも大きい代償を賭けられてしまうと、負けてしまいますから」
「そんな、危険なことをマイナはしているのか!? もう、黒魔法を使ってはいけない」
とても真剣な顔で、シンセイはアタシの黒魔法を止めてくれる。
私はつい、笑ってしまう。
「父と同じことを言いますね」
「当然だ!! 命のやり取りをするとわかっていて、黒魔法なんか行使させるわけにはいかない。もう二度と、使ってはいけない」
「心配いりません。アタシは負けません。アタシに勝てる人族も、獣人もいません」
「世の中、絶対ではない。私だって、本来は、野垂れ死んでいたはずなんだ」
シンセイは表情を歪めていう。
シンセイは、番が見つからないと、自らが持つ強大な力に体が負けて、死ぬことが決まっていた。なのに、シンセイの番を国は見つけようとしなかった。それどころか、人族だって足を踏み入れない僻地にシンセイを幽閉したのだ。
獣人が人族の番を持つことは稀なわけではない。何代か前の獣人の国の国王が、人族の番を見つけて、なんと戦争までしたのだ。珍しい話ではないのだ。
しかし、未だに、人族を番とすることを恥じる風習は根強く残っている。シンセイは、人族が番だと決まっている。王族としては、シンセイの番を見つけることは、恥なのだ。だからといって、シンセイを殺すわけにはいかないので、表向きは療養、裏では僻地へ幽閉である。こうして、シンセイが自らが持つ力に負けて死ぬのを獣人の国の王族たちは待っていたのだ。
そこに、たまたま、旅で立ち寄ったアタシが番だった。こうして、シンセイは、最強の肉体を手に入れ、生きながらえたのである。
とんでもない偶然である。そこに、神がかりな運命を感じる。
「ねえ、兄上は、どうして、あの街に立ち寄ったの?」
そこが疑問だった。ほら、それまでは、神獣連れての野宿である。街に立ち寄るなんてしなかった。それに、シンセイと兄ラセンが顔見知りなのがおかしい。
シンセイは、隠された王族である。獣神の化身ラセンと顔を合わせることなんてないはずだ。
「俺は獣神の化身として、よく、あの街にも慰問に行ってたんだよ。シンセイのことは知っていたから、あの街に行くと、シンセイと話したりしてたんだ。あの時も、近くにシンセイがいるな、と思って、立ち寄っただけだ」
「それだけ!?」
「シンセイはいつ死ぬかわからないほど弱いヤツなんだ。会える時に会うもんだろう」
「っ!?」
アタシだけでなく、シンセイまで驚愕する。兄ラセンが、まともなことを言っているのだ。
「これで、頭のほうも、もう少し育ってくれていれば」
それを聞いて、先の短そうなガランは涙ぐみが、ついつい、口から出るのは愚痴である。本当に、そうだよね。
「そんなふうに言ってくれるなんて、ありがとう」
「だからといって、マイナを番にするのは、別問題だからな」
「そこは、マイナが決めることですから。私には、ありあまる時間と力があります。口説いていきます」
「大人しく、城の奥底に閉じこもってろよ」
「旅にも付いて行きますよ。もう、私はマイナの最強の盾ですから」
「確かに、そうだな!!」
そういう伝承だからね。単純なラセンは、簡単に納得しちゃう。
「はあ、無事、王都に到着出来るのかなー」
「マイナ様が、妙な事に首突っ込まないのであれば、すぐですよ、すぐ!!」
「そんな、気楽なこと言って、大丈夫? 歴史は繰り返すものだよ」
お目付け役のガランまで、気楽なことを言ってくれる。
アタシは兄ラセンの体にしがみつく。わかっているのかな? 獣人の国は、何度か、獣神だけでなく、人の神からも怒りを買ってるって事、忘れてるよね。
深夜、兄ラセンの神獣が召喚される音で、アタシは起きることとなった。
「ほら、やっぱり」
神獣数体が、夜襲を仕掛けて来た何者かを踏みつけている。それをアタシは止めに行く。
「マイナ、危ない!!」
よく眠れていないシンセイが止めにやってくる。兄ラセンはというと、こんな騒動が起きても、寝てるよ。そうだよね、叔父ナハトが爆炎魔法で吹っ飛ばすまで、ラセンは普通に寝てるよね。
「大丈夫だから。ほら、やめてあげてください。死んだら、証言がとれません。ほら、こうして捕縛です」
暗いので、影はあちらこちらにいっぱいだ。アタシの黒魔法で、襲撃者たちは拘束される。
シンセイの従者たちは起きて、アタシの拘束に恐れながらも、襲撃者たちの人相とかを確かめる。同じ獣人だけど、顔に酷い火傷をさせられて、どこの誰なのか、わからないようにされていた。これは、その道の専門家だな。
「話せますか?」
「そういうところも封じられている」
「文字も読めないだろうし、書けないでしょうね。徹底されています」
この襲撃者、明らかにアタシたちを狙っていた。さて、誰の指金かな?
アタシは疑うように、シンセイの従者たちを見回す。
「これは、領主の指金でしょう。今更、こんなことしたって無駄だというのに」
「領主の手先全て、アタシが封じたから、そんなこと出来ない。これは、王族関連の暗殺者ですよ」
「まさか、そんなこと」
「芝居はいりません。さっさと名乗り上げなさい」
「我々を疑っているのですか!?」
この襲撃者を差し向けたのが、シンセイの従者たちだとアタシがいうから、全員が怒りに震える。そうなるよね、普通。
アタシは、深いため息をつくしかない。
「人族は、小賢しいのですよ。今回の番関係の情報は、辺境伯ナハトを通じて、王族に報告されました。さて、この情報を知っているのは、誰だかわかりますか?」
「それはもちろん、王族全てだろう。とても目出度い話だ。最強の竜種が誕生したんだからな」
「だったら、もっと積極的に番探しに勤しむでしょう。シンセイを無理にでも人族の国に連れて行き、番探しをさせるものです。それなのに、人族の国の正反対の僻地に療養でしょう。そんな大事な竜種だったら、人族の国境に近い街に滞在させればいいというのにね」
「それは、仕方のないことだ。王族全てが、同じ考えであるわけではない」
そう、シンセイの扱いを最終的に決めたのは、同じ王族である。獣人の国王だって、シンセイの幽閉を賛成したのだ。
だから、最強の竜種の誕生を王族たちは目出度くないのだ。
「今代の獣人の国王は、アタシの両親の頃から続いています。アタシが番だと知って、卒倒したそうですよ。あの国王は、絶対に辺境伯の血筋、特に、母の娘であるアタシに逆らうような真似はしません。一度、恐ろしい目に遭わされて、二度と逆らえなくなったんです。だから、アタシがシンセイの番だと知っているのは、国王とその側近くらいです」
「では、その側近が」
「側近もまた、アタシの両親のことを良く知る将軍です。叔父ナハトのことを恐れ、絶対に敵に回してはならない、と公言している方ですよ。叔父は、妹だけでなく、姪のアタシを溺愛していることは、人の国でも、獣人の国でも有名です。絶対に、アタシに暗殺者を差し向けるようなことはしない」
「………」
「誰が、裏切者ですか? すぐに、名乗り出てください」
これほどの従者がいるのだ。一人二人は裏切者はいる。
万が一、シンセイが番を見つけてしまった時のために、煙たがれている者たちの中に、それとなく、裏切者を混ぜるものだ。だって、人事は最終的には王族判断である。
皆、城では優秀だけど、煙たがれていただろう。だけど、そうでない者だっているはずだ。こういう集団は、皆、顔見知りなわけではない。煙たがれているから、孤立しているものだ。
だけど、あえて孤立する者だっている。そうして、王族の影の刃として、ここに送り込まれたのだろう。
皆、お互いの顔を疑うように見た。仲間だと思っていたら、実は裏切者だなんて、過去を思い返しても、信じられないのだろう。むしろ、領主から差し向けられた襲撃者のほうがいいに決まっている。
「街へ役人を呼ぶ役割を請け負った皆さんの中で、途中、いなくなった人がいるでしょう」
そう言ってやれば、従者たちは、ただ一人の男から距離をとった。
眼鏡をかけた、武力なんてなさそうな従者だ。よく、アタシに向かって口答えしてきたな。
今回は、アタシのことを忌々しいみたいに睨んできた。
「街には、決められた伝達者がいたのでしょう。だけど、神獣の情報を彼らに渡すことは出来なかったから、今回、失敗しました」
獣神の化身ラセンが持つ神獣が、眠っていても召喚出来ることなど、間際で知ったのだ。しかも、この裏切者は、アタシの黒魔法を警戒して、単独行動が出来なくなった。だから、襲撃の中止が出来なかった。
どうにか、失敗しても、街の領主のせいにすればいい、なんて軽く考えていたのだろう。実際は、それ以前の話である。
「誰を殺すつもりでしたか?」
すぐに、裏切者は黒魔法で捕縛です。地面に転がされ、裏切者はアタシを睨み上げます。
「薄汚い、人族が番など、認められない!!」
「お前たちは、また、同じことを繰り返すのですか。獣神の化身の番が人族だった時、次代だけ取り上げて、番を殺害して、ついでに、用なしとなった獣神の化身を始末していましたよね。表沙汰にしてやったというのに、また、同じことをやっているとは」
獣神の化身は番を見つけ、次代が誕生すると、不死でなくなる。獣神の化身と番は命が繋がるのだ。番が死ぬと、自動的に獣神の化身も死ぬのだ。
この方法で、過去、何度も、獣人の神殿は、人族の番を殺し、ついでに、獣神の化身も始末したのだ。
同じようなことを母マナにもやろうとした。だけど、結局、人の神の加護と、辺境伯一族最強の魔力持ちであるマナによって、神殿は大変なこととなった。それは、王族にまで及んだのだ。
「仕方ありませんね。本当の伝承を人族も、獣人も、己の驕りで失ってしまったのですから。だから、神が定めた運命を勝手に歪める。神になったつもりですか?」
「貴様こそ、神の代行者を気取っているだろう!!」
「仕方ありません。アタシとラセンは、神の子孫です。お前たち泥人形とは違う」
「元は、同じ泥人形のくせに」
「神のお気に入りの泥人形ですよ。獣人も人族も、地上を這いつくばって生きていますが、お気に入りの泥人形は神の元で永遠に老いることなく、永遠に可愛がってもらっています。その恩恵を辺境伯一族と獣神の化身が受けているにすぎません」
嘲笑ってやる。目の前で無様に転がっている裏切者だって、所詮は泥人形なのだ。
「言っておきますが、辺境伯一族も、獣神の化身も、身の程をわきまえています。辺境伯一族は絶対に支配者にはならないことを条件に、国を守るための最強の力を与えられたにすぎません。獣神の化身だって同じです。信仰の象徴となり、政治に一切に口出しをせず、神殿で大人しくしています。そうして、神から与えられた力を行使して、世を乱すような真似をしていません。それが、現実です。なのに、獣人たちは、神が定めた番を殺そうとするなんて」
「私だけでなく、マイナを?」
「いえ、アタシだけを暗殺しようとしたのですよ」
「………どうして」
信じられない、という目でシンセイは裏切者を見た。きっと、仲良くしていたのだろう。
「伝承に隠された真実はこうでしょう。番を一度でも見つけてしまえば、最強の竜種は存在し続けます。逆にいえば、番はもう必要ないのですよ。獣人の国では、試したのでしょう。人族の番を殺してしまえば、残るのは、最強の竜種ですよ」
「………は?」
「最強の竜種はきっと、王族として重要な位置に立っているのでしょう。これまで、王族が竜種でなければならなかったのは、その最強の竜種が関わっていると思われます」
最強の竜種について、辺境伯一族が書き残した文献には載っていなかった。つまり、獣人の国の、王族のみが知る事実である。
王族となるからには、それなりの力が必要である。人族の国も、獣人の国も、王族は、神に愛された女の血族だということが、文献で記されている。そこはいいのだ。
獣人の国は、王族をあえて竜種と定めていた。最初はそうではなかったのだ。それを決定的にしたのが、きっと、最強の竜種だろう。
「伝承に残すほどのことです。最強の竜種の誕生により、竜種は王族に固定されたのでしょう。獣人は力の強さが全てです。話し合いよりも殴り合いが先です。最強の竜種は、王族の象徴と位置づけられていると思われます。そこに、人族の番は邪魔です。だったら、人族の番を排除して、最強の竜種だけを残そうと、これまで、そういうことを行ってきたのでしょう」
裏切者はアタシの予想を聞いて、引きつった笑みを浮かべた。うわ、予想通りなのか。
「同じことを獣神の化身でも行われたのですよ。それにより、とうとう、獣神が怒ったんです。だから、辺境伯の末妹が番に選ばれました。今回も同じです。最強の竜種にアタシが選ばれたのは、人の神が怒ったからでしょう」
つまり、アタシは巻き込まれたのだ。
アタシがあえて言わないが、それを感じたシンセイは泣きそうな顔になる。美形は、そんな顔しても、綺麗だな。憐れに感じてしまう。
「私のせいで、マイナの命が狙われてしまうなんて。心配ない、私は王族を捨て、マイナに尽くそう!!」
あ、この人、諦めるとか、我慢するとか、そういうことしないな。
「それは絶対に許されない!! 最強の竜種の血筋こそ、次の王だ。そこに、汚い人族の番の血筋が混ざるなど、表沙汰にするわけにはいかない!!」
「もう、煩いな!!」
こんな大騒ぎになっているというのに、やっと、兄ラセンが目を覚ましたのだ。
騒いでいるのは裏切者である。まだ、頭がはっきりしていないラセンは、黒魔法によって捕縛されている裏切者を見下ろす。
「うるせぇ!!」
ラセン、裏切者を思いっきり蹴とばしたのだ。いくら、獣神の化身の力を封じたとしても、そのバカ力は健在である。
憐れ、裏切者はどっかの木に衝突して、そのまま、意識をなくしたのだった。