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とりあえず、王都へ向かおう

 大陸には、二つの種族が存在している。一つは、アタシ側の人族。もう一つは、兄ラセン側の獣人族。両者は微妙に成り立ちが違う。

 人族は人の神の形を似せた泥人形、獣人族は獣神が持つあらゆる獣の要素を分割された泥人形。どちらも、元は泥人形である。人の神と獣神は、泥人形を作って、弄んでいたのだ。

 神とは、災いを落とす存在だ。人族も、獣人族も、神のご機嫌をとるために、生贄を捧げた。

 醜い傷を持つ、身売りで生計を立てていた女であったという。生贄は、本来、夜に捧げられる。ところが、間違って、生贄を昼に捧げられたのだ。

 生贄を受け取ったのは、人の神である。人の神は温和な神であった。実は、泥人形を弄んでいたのは、獣神のほうなのだ。人の神は、醜い傷を持つ泥人形を憐れに思い、顔の傷を治してやった。すると、美しい相貌となった。

 そして、夜になると、女は獣神に捧げられた。獣神は、生娘を蹂躙し、殺すことに喜びを抱いていた。ところが、やってきた生贄は生娘でなかった。しかし、人の神に「よろしく」と頼まれてしまったので、仕方なく、女を受け入れたのだ。

 ところが、この泥人形、具合が良かった。身を売って生計をたてていただけのことはあって、女の体は獣神にとって、具合が良かった。結局、獣神は女の体に溺れ、殺さなかった。

 朝日とともに、生贄の女は人の神の元に入った。五体満足で残った生贄の女に、人の神は喜んだ。生贄の女は家族のことを大事にする健気な泥人形だった。そこに、人の神は絆された。

 こうして、生贄の女は人の神からも、獣神からも愛され、そして、二柱の血を持つ子を産み落とした。

 産み落とされたのは双子だった。一人は、人の神と同じ姿をしていた。もう一人は、獣神と全く同じ姿だったという。

 生贄の女は、誕生した子を人の世へ送り出すことを願った。人の神と獣神は、生贄の女は手元に置き、生まれた我が子たちが、世の中で苦労しないように、様々な恩恵を与えた。

 人の神に似た子どもは、最強の魔法と、便利な道具を作る能力と、獣人に負けない体躯を与えられた。ただし、これは、血筋の濃さによって変わっていくこととなった。そのため、人の神に似た子どもの子々孫々は、血筋を守る生き方をすることとなった。

 獣神に似た子どもは、獣神の化身と呼ばれるほどの姿を継代と、七体の神獣を与えられた。獣神の化身と呼ばれる姿は一子相伝の上、神が定めた番を母体としか誕生しないという。そのため、番に出会い、次の子が誕生するため、獣神の化身は不死に近い存在となった。

 最初はこんな成り立ちである。それが、今では、時とともに歪められていった。

 人の神の姿を持った子孫は、辺境伯となり、人の国の盾と鉾と呼ばれ、獣人の国の国境沿いを守る存在となった。人の神の姿を持った子孫、元は王族であったのだが、権力を握らない代わりに、国を守る力を守る方向へと、生き方を変えたのだ。

 獣神の姿を持った子孫は、信仰の象徴となって、神殿によって崇め立てられる存在となった。何せ、その姿は獣神である。しかも、人にはわからないが、獣人にとっては、威圧する匂いがあるため、ちょっと外に出ると、力の弱い獣人たちはひれ伏してしまうという。だから、獣神の姿を持った子孫は、不自由な生活を強いられることとなった。

 そうして、神の子孫たちは、互いに不可侵となって、それぞれの国で過ごしていたのだ。

 それが、何の因果か、獣神の化身が辺境伯の末妹に恋をした。

 獣神の化身がいうには、恋が先で、番だったのは後の話だ、という。結局、番だよね。

 一度は別れた血筋が、父である獣神の化身ザガンと辺境伯の末妹マナによって混じわり、再び、人の姿を持つアタシ・マイナと、獣神の化身の姿を持つ兄ラセンが誕生することとなった。

 辺境伯の一族は、ともかく知識がある。書物にまで残して、あらゆる記録を後世に伝えたのだ。だが、こんなことは前代未聞のことだった。

 だからといって、人の国と獣人の国の関係が変わるわけではない。ただ、ちょっと、信仰心が変わっただけである。






 アタシは今、大変、困っている。神殿を出ると、二人の獣人が、争っているのだが、その内容がくだらない。

「マイナは私が馬で連れて行こう」

 そう言って、竜種であり、王族であるシンセイが、人を踏みつぶすんじゃないか、というほど立派な軍馬の手綱を掴んだ。その細身で、こんな軍馬を操作できるのかな?

「そんなので行ったら、日が暮れるだろう!! 俺が持つ神獣だったら、王都まですぐだ!!!」

 人も獣人も踏みつぶすぜ、みたいな巨体の神獣を召喚する兄ラセン。兄は獣神の化身だから、外に出るだけで、もう、大変だってのに、神獣なんか召喚するから、往来の獣人たちは、皆、ひれ伏しているよ。

 シンセイが綺麗な笑顔で、ラセンはキラキラと曇りのない目で、アタシを見た。これ、アタシが選ぶの!?

 そこに、従者であるガランが可愛らしい馬の手綱を引っ張ってやってきて、シンセイとラセンを容赦なくげんこつで殴った。

「どっちも却下です。マイナ様は乗馬が出来ますから、一人で馬に乗れます」

「っ!?」

 まず、シンセイの軍馬を封じた。シンセイ、きっと、アタシと二人乗りしようとしたんだよね。ごめん、アタシは領地でも、馬での移動しまくってたよ。

「ラセン様はさっさと神獣を消してください。邪魔です」

「けど、俺、馬には乗れないし」

「親睦を深めるためにも、シンセイ様に同乗させてもらってください」

「っ!?」

 泣きそうなラセン。仕方がない。ラセン、乗馬がどうしても出来ない。だって、馬が怖がっちゃって、ラセンから逃げるのだ。だから、誰かに乗せてもらうしかないのだ。

 シンセイ、心底、イヤそうな顔をする。ラセンだって同じだ。

「未だに乗馬が出来ないなんて、獣神の化身のくせに、情けない」

「お前だって、ちょっと前まで、馬にも乗れないほど貧弱だっただろう!! 番見つけたからって、いい気になるなよ!!!」

「とてもいい気分ですよ。マイナの側にいるだけで、力が漲ります」

「俺だって、マイナのためだったらな、世界の果てまで連れてってやるんだからな!!!」

「私だって、マイナのためであれば、獣人の国の王になってなってみせます」

「ち、ちくしょー---!!」

 どうやら、シンセイが勝ちらしい。獣神の化身であるラセンは、信仰の象徴だから、国王になれないね。

「アタシの一族、支配者になっちゃダメなんだけど」

「っ!?」

 そこら辺の女子なら嬉しい内容だが、アタシはそうではない。我が家は、支配者になってはいけないこととなっている。一時期は、色々とあったが、今では、辺境伯家は、特別扱いである。母マナと叔父ナハトが、王都でかなりのことをやらかしたせいで、辺境伯一族は辺境から出ないでー、と言われているとか。

 渾身の口説き文句を封じられたシンセイはがくーと肩を落とした。

「もう、お二方とも、さっさと馬に乗ってください。ナハト様を通じて、獣人の国の国王には、今回のことは伝わっています。王族の伝承であるため、一度、我々は王都に行かなければなりません」

 従者であるが、実際はアタシと兄ラセンの保護者のような存在のガランは、皺だらけの顔を歪ませ、ラセンをシンセイのほうへと押しやった。

 アタシはガランが連れてきてくれた馬にひょいっと乗った。おう、乗りやすい子を連れてきてくれたよ。

 竜種シンセイが連れてきた軍馬はというと、やっぱり、獣神の化身であるラセンを恐れた。それをどうにかするために、ガランがラセンに獣人専用の奴隷の首輪を装着させる。途端、その姿はただの人に変わった。獣人は普段からバカ力なので、ああして、奴隷の首輪で力を封じるのだ。そうすることで、見た目も人族と変わらなくなるという。

 ラセンが装着している奴隷の首輪は特別製である。大昔、人族の辺境伯が獣神の化身の力を一時期的に封じるために作ったという曰くがある。本当かどうか、知らないけど。かなり強力な封じであるため、ただの獣人に装着すると、生命活動が停止してしまうほどとか。

 こうして、ラセンの力を封じて、やっと、馬も怯えなくなった。

「サガン様では、こういうことありませんでしたよ。もっと、精進しなさい」

「えへへへへ」

 アタシとラセンの父サガンは、問題なかったという。馬だって普通に乗れたとか。

「父上は、かなりの年月を生きた方だと聞いています。同じものを若い兄上に求めるのは、酷というものですよ」

「いつまでも、俺が側についていられるわけではありませんよ」

「………」

 ガランは叔父ナハトよりも若いというのに、見た目はもうおじいちゃんだ。きっと、寿命も短いのだろう。

 ガランは祈るように空を見上げる。ガランはまだ、贖罪の途中だという。昔、辺境の街を滅ぼしかけたガランは、神の裁きを二度、受けた。一度目は、罪人として、その身に印をつけられたのだ。体の一部が黒くなっている。二度目は、巻き込まれてだ。本来であれば、ガランはその時、神に連れて行かれるはずだった。

 その時、生まれたばかりのアタシと兄ラセンがいたため、ガランは地上に残されたのだ。当時、政治も宗教も乱れてしまったため、アタシもラセンも危険だった。アタシたちのために、ガランは地上に残されたのだ。

 ガランは今も、神の迎えを待っている。





 本当は、アタシと兄ラセンは、地上の最果てまで旅に行く予定だった。だけど、途中、アタシは竜種シンセイの番だと発覚してしまった。

 このまま無視して旅に出てしまってもいいのだ。しかし、神が関与しているので、一応、獣人国の国王に報告しよう、という話になったのだ。

 そこのところは、叔父ナハトとガランと話し合って決めた。ナハトとガランの決め事だから、ラセンは絶対に逆らえない。

 アタシはというと、遠回りだなー、なんて面倒臭さを感じてしまった。だって、アタシ、普通の人だから。

 いやいや、人族最強の血筋だよ。人の神の子孫だし、その血を色濃く受け継いでいるから、黒魔法は人外だと言われている。

 だけど、アタシの寿命は普通の人並だ。

 獣神の化身であるラセンは、番が見つかるまで不死だ。百年でも二百年でも生きるという。だけど、アタシはただの人だから、せいぜい長生きしたって、百年である。見た目だって、どんどんと年老いていくから、気づいたら、お婆ちゃんだよ。

 だから、アタシは生き急いでいる。人なんて、あっという間に死ぬんだ。だから、こんな寄り道は、時間の無駄なんだ。

 ということを訴えたいのだけど、我慢した。明らかに寿命の短いガランには言えない。

 アタシは大人しい馬に乗って、のんびりと進める。もうちょっとで最果てのさらに向こうってところだったのに、王都に戻るのだから、大変だ。しかも、馬だし。

 さらに、王都に向かうのは、アタシ、竜種シンセイ、兄ラセン、お目付け役ガランだけではない。シンセイは、竜種で王族である。それなりに側仕えやら護衛やら側近やらがついているのだ。アタシたちが馬車ではなく馬での移動を選択したので、彼らも馬である。

 馬での大人数の移動は物々しい。だから、街や村に寄らずに、人の通りがない、だけど、獣とか盗賊とかが出るような道を爆走である。

 だから、アタシの乗った馬がちょっと攻撃されて、止まることとなってしまうのだ。

 ただ一人の女だから、アタシが狙われた。どっかから矢が飛んできて、それを受けて、アタシが乗っていた馬が痛みで、暴れたのだ。

 乗馬はかなり訓練させられたアタシは、さっさと馬を捨て、離れた。無駄にしがみついて怪我なんてしたら、大変だ。近くに村も街もない、獣道である。

 馬だって、急には止まれない。アタシは後続の馬を上手に避けて、生い茂る木々に入った。アタシを追い抜いてしまったシンセイの従者たちは大変だ。二手に別れて、半分がアタシを助けるために戻ってきてくれる。

「おっと、大人しくしてろ」

 だけど、手慣れた盗賊は、アタシの首に切れ味が良さそうな短剣の刃を押し当ててくれる。

「静かにしてろ。ほら、こっちだ」

「やめたほうがいいと思う」

「顔を傷ものになるぞ」

 頬に冷たい短剣を押し付けてきた。

「体だって、傷物にするつもりでしょう。女はね、連れ去らわれた時点で、傷物決定だから」

「見た目だけは綺麗にしてやる。それに、嵌るかもしれないぞ」

「口づけの経験しかないけど、確かに、良かった」

 竜種シンセイに強引にされた口づけは、かなり良かったな。確かに、それから先はいいかもしれない。

 盗賊の男はげひた笑いをして、アタシを引っ張って行こうとする。だけど、アタシは動くつもりはない。

「だけど、アタシにだって、選ぶ権利はある。お前は除外だ」

 アタシが切れ味抜群の短剣をちょっと触れると、それは、一瞬にして真っ黒になって、消えてなくなる。

 盗賊の男は、手の中にあった武器が、溶けるようになったことに、恐怖して、アタシを押し離した。

「てめぇ、ただの人族じゃねえのか!?」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」

 アタシは呆れて、遠くへと視線を飛ばす。途端、とんでもない轟音がアタシに近づいてくる。

 地面が揺れるほどの轟音だ。盗賊の男は動くに動けない。それだけでなく、木の上で隠れていた仲間の盗賊が、振動によって、落ちてきた。

 盗賊たち、逃げたくても逃げられない。恐怖で、足が動かなくなったのだ。そこに、巨大な神獣が木々を薙ぎ払って登場である。

「俺の妹に手を出した奴はどこだ!!」

 兄であり獣神の化身であるラセンが神獣の上から叫んだ。

「兄上、やり過ぎです!! 薙ぎ払った木とかの下敷きになっちゃっていますよ!!!」

 気の毒に、盗賊たちは、薙ぎ払われた木々の下敷きとなって、逃げることすら出来なくなっていた。

「くそ、遅れたっ!!」

 竜種シンセイが、竜人の姿となって、遅れて登場である。だけど、その手には、途中で捕縛したのだろう盗賊たち数人を引きずっていた。盗賊たち、白目をむいている。

「マイナ、怪我はありませんか?」

「アタシはないかな。ちょっと短剣で脅されただけだし」

「へえ、そうなんだ」

 シンセイ、途端、剣呑となり、薙ぎ払われた木々を細腕のくせに、取り払って、動けなくなっていた盗賊たちを引きずって戻ってきた。

「マイナに短剣を突きつけた男はどれ?」

 笑顔で質問されたアタシ。

「ごめん、後ろだから、見てない。声聞けばわかるかも」

 そうそう、後ろから脅されたんだよね。一度は離れたけど、顔なんて一瞬だから、覚えてもいない。

 それを聞いたシンセイは、意識のない盗賊たちの顔をぱんぱんといい音をたてて叩いて、無理矢理、覚醒させた。

「ひぃ、化け物!?」

 アタシを見て、悲鳴をあげる盗賊たち。えー、アタシがやったのって、短剣を黒魔法で消しただけなのにぃ。

「私のマイナを化け物というとは、この目、節穴だな」

 シンセイが竜に変化させた手で、盗賊たちの目を抉ろうとする。

「待って待って!! ほら、こういう人たちは、まずは、証言とらないと。他にも被害者が、アジトにいるかもしれないよ」

「マイナ、なんて優しいんだ。お前たち、マイナに感謝しなさい!!」

 シンセイ、アタシには蕩けるような笑顔を向けるというのに、盗賊たちには怒りの形相である。美形は、怒っても綺麗だね。目の保養だ。

 盗賊たちは、ガクブルしながら、アタシの前でひれ伏した。ほら、アタシの横には、巨大な神獣が立ってるから。

「なあ、こいつら、近くの街の役人に任せちゃえば?」

 ラセンにしては、まともなことを言ってくれる。

 シンセイは、アタシに短剣を突きつけた男がいるので、そいつの身柄を探すのに忙しい。アタシが証言しなくても、盗賊内で証言しあっている。あっという間に、一人の盗賊がつまはじきにされた。シンセイは、その男の首を片手で持って締め上げた。

「そうですね。こいつだけ、我々がいただいていきましょう」

「えー、連れて行くのかよ。馬の数が足りないぞ」

「こいつ、私のマイナに短剣を突きつけて脅したんですよ」

「馬に括りつけて、引きずっていけばいいか」

 もう、盗賊は真っ青である。無事ではいられないな。

「同じ道を通っているのに、行く時には、盗賊なんて出なかったのに」

 そう、同じ道を通っているのだ。王都の向かう途中で盗賊にあうなんて。

「神獣に乗っていましたからね」

「あ」

 ガランに指摘されて気づく。すっかり忘れていた。最初はアタシと兄ラセンの二人旅だから、神獣に乗って移動していた。あんなのに乗ってるような旅人、盗賊だって見逃すよ。命だって危ない。

 シンセイの従者たちは、出来た人たちで、すぐに盗賊たちを捕縛する。皆、このまま街に連れて行かれることを覚悟した目をしていた。

「でも、このまま、盗賊たちを街の役人に引き渡している間に、盗賊たちのアジトは、移動してしまってるよね」

「そうですか?」

「そうか?」

「普通、そうだよ」

 アタシは側に召喚されたまま放置されている神獣を見る。こんなのが暴れたのだ。アジトにいる盗賊たちだって、下っ端の盗賊が捕縛されたと勘ぐるだろう。

 鈍い兄ラセンは仕方がないとして、賢い見た目のシンセイまで、そのことに気づかないのには驚きだ。だけど、よくよく考えれば、シンセイって、番が見つかるまでは、弱ってて、寝たきりだったとか。そうか、シンセイって、世間知らずのおぼっちゃまだ。

 シンセイの従者たちとしては、面倒なので、この盗賊たちを近くの街の役人に押し付けたいのだろう。だから、黙っていた。

 だけど、アタシは黙っていない。

「きっと、アジトには、誘拐された人たちがいるよ。女は慰み者にするって、そいつ、言ってた」

「私のマイナに何しようとしたんだ?」

「てめぇ、俺の妹に、何やろうとしたんだよ」

 シンセイとラセンが、アタシにやってしまった盗賊の顔を殴るやら、腹を蹴るやら、酷い扱いをする。もう、この盗賊は、二人の気晴らしの玩具だな。

「こらこら、やめなさい。ともかく、そういう可哀想な被害者がいるのだから、助けに行きましょう」

「勝手に動いてもらっては困ります!!」

 とうとう、シンセイの従者たちが口を挟んできた。そりゃ、面倒臭いことだもんね。

「あのね、アタシとラセンは、こういう時の免罪符を国王から与えられているの。見て見ぬふりが出来ないから、こうやって、権力貰ったの」

 獣人の国王と人族の国王から、問題事が起こった時の免罪符を貰っているのだ。それを街や村の偉い人に見せると、全て、ひれ伏してくれる。

 免罪符を見せてやると、シンセイの従者たちも口答え出来なくなる。いくら田舎に閉じ込められているといえども、こういうこと、従者であれば、知っているものだ。獣神の化身であるラセンとも顔見知りだから、情報だけは渡されているのだ。

「では、マイナは安全な街に行ってください」

「アタシも一緒に行く」

「マイナ!!」

 シンセイだけでなく、兄ラセンも大反対である。

「もう、盗賊のアジトは制圧しちゃってるし」

「………は?」

「マイナ様、また!!」

 シンセイはわけがわからない、という顔をしているが、お目付け役のガランは全てを悟って、アタシの横で叫んだ。

「大丈夫だよ、五体満足だから」

 こんな影ばっかりが広がる場所だ。盗賊のアジトだって、影がいっぱいだろう。

 アタシが盗賊のアジトがあるほうにちょっと目を向けると、目の前にあったはずの木々や草は地面の影にずずずっと飲み込まれていく。

「このまま真っすぐ進めば、盗賊のアジトだよ。行こう」

「まさか、これは、黒魔法」

 シンセイの従者たちは、目の前で起こった事に、アタシの実力に気づいた。

「もう、ここ一帯は、アタシの支配下だよ」

 影はどこまでも繋がっている。その影を支配出来るアタシは、盗賊のアジトを含む一帯を支配下に置いていた。

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