獣人の国の王族の事情
世の中には、人族と獣族の二種が存在している。人族は人の神に似せられて、獣人は獣神に似せられて作られた、という伝説が残っている。そのため、人族は人の神を、獣人は獣神を宗教として崇めている。同じ神から作られた者同士なのだが、人族と獣人は仲が良いわけではない。
人族は理性の生き方をする。だから、物事をよく考えて行動するのだ。まず、話し合いで決める。獣人ほど、腕力があるわけではないので、道具を使って戦う。
獣人は本能に従って生きる。ともかく、話し合う前に手が出る。ものすごく頑丈なので、殴り合いは普通である。話し合うよりも、殴りあったほうが、白黒はっきりしていい、と考えている所がある。
そう、人族と獣人では、話し合いの時点で、決裂である。獣人は、すぐ手が出るのだ。人族は体は頑丈でないので、すぐに大怪我である。だから、ちょっとした喧嘩が殺し合いに発展し、決裂して、戦争なんて普通なのだ。
だから、人族と獣人は別々の国を作って、人は人同士で、獣人は獣人同士で仲良くして、時々、お互いでは手に入らないものを貿易で手に入れたりしている。国としては、友好的なのだ。
だから、獣人が人の国に旅人として行っても、人族が獣人の国に旅人として行っても、別に差別を受けることはない。ただ、それぞれの国には、それぞれの決まり事があるので、それさえ気を付ければ、問題なんてないのだ。
アタシも、そこのところは十分、理解して、旅人として獣人の国を訪れていた。腕っぷしのある兄と一緒なので、何か起こっても、兄がどうかしてくれるのだ。
だけど、あの兄の目を欺くように誘拐されるとは、思ってもいなかった。
本当に一瞬だった。気づいたら、ひょいと持ち上げられ、屋根伝いでぴょんぴょんと飛んでいくのだ。もう、あれよあれよという間の出来事である。
アタシは目がいいんだ。兄はというと、食べ物に夢中で、アタシが誘拐されていることに、結局、気づいていなかった。どうせ、ちょっとはぐれちゃったか、なんて思ったんだよね。
でも、誘拐、これが初めてではない。旅をしていると、そういうことがよくあるのだ。だから、アタシは落ち着いていた。
荷物のように肩に持ち上げられ、運ばれた先は、とんでもない豪勢な屋敷なのには驚いた。
さらに、とんでもない豪華なベッドにアタシは下ろされ、誘拐犯に圧し掛かられたのだ。
「え? 待って待って待って!!」
「やっと見つけた、愛しい番」
まっずー------いー------!!!
爬虫類の目の綺麗な男だ。熱い息をアタシに吐き付け、アタシの制止の言葉なんて無視だよ。おもいっきり口づけされた。
最初は軽くだけど、どんどんと長く、深く、舌までいれてきた。
「やめて、あ、アタシ、婚約者がいるの!!」
どうにか顔を背けて叫んだ。これで止まってくれると思ったのだ。
しかし、相手の男はアタシの叫びなんて無視だ。どんどんと服の下に手をいれて、逃げられないように、上手にアタシの体をおさえこんでくれる。くっそー、綺麗な顔してるけど、力あるな!!
よく見れば、この男、竜種だ。獣人最強の種族だよ。体は細くったって、そのバカ力は獣人最強だ。こんなの、人族のアタシには、無理だ。
それでも、蹴ったりしてみたけど、まるで効いていない。むしろ、股間にある固いものの感触を足で感じて、アタシは顔が赤くなった。うわ、こういうの、触ったのも初めてだよ!!
「婚約者がいるなら、はやく、番にしないと」
「ダメダメダメダメダメ!! それは絶対にダメ!!! 大変なことになっちゃうから、ダメだって」
「心配ない。私は王族だ」
「知ってる!! でも、ダメなの!!!」
「万が一は、嫁盗りで、その婚約者を殺してやる」
「そういう問題じゃないの!!」
獣人だから、話し合いはそこで終了だ。こいつ、アタシの服を脱がしてきやがった。もう、アタシの苦情なんて無視するつもりだ。
だけど、そんなこと出来ないのだ。アタシは誘拐された経験はそれなりにあるが、今も元気にぴんぴんしている。そういうことだ。
豪勢な屋敷の一階から、とんでもない破壊音がとどろいた。誘拐犯は、アタシのことは大事なんだろう。アタシを抱きあげ、ベッドから移動する。それと入れ替わりに、とんでもない獣がベッドを下から貫いたのだ。
「な、神獣だと?」
「離して!! 兄上、待って待って待ってぇえええー-----!!!」
力いっぱい叫んだ。だけど、無理だった。
神獣があけた穴から、獣神の姿となった兄ラセンが誘拐犯に襲い掛かったのである。
「てめぇ、俺の妹を誘拐するとは………あれ?」
ところが、誘拐犯を見て、ラセンは止まった。怒りもどこへやら、その姿はただの人になったのだ。
誘拐犯はアタシを抱きしめたまま、ラセンを見て、呆然となる。
「ら、ラセン」
「シンセイ、お前、どうして俺の妹を誘拐出来たんだ? お前、番が見つからないと死ぬ病気で、臥せってただろう」
「その番を見つけたんだ」
そう言って、誘拐犯シンセイはアタシを見せた。
ラセンは、アタシとシンセイを交互に見て、そして言ったのだ。
「許さん!!!」
どーんとラセンは残り六体の神獣を召喚し、豪勢な屋敷を壊したのだった。
アタシは人の国の辺境伯ナハトの姪マイナである。見た目はただの人なのだが、辺境伯の一族は、生まれつき、強大な魔法を一つ持っている。アタシの伯父ナハトは業火である。人も獣人も簡単に消し炭に出来てしまうほどの火力である。アタシの伯母ローズマリーは何もかも凍らしてしまう魔法である。一度凍らされると、ちょっとした衝撃で壊れてしまうほど、恐ろしい魔法である。
かくいうアタシはというと、母譲りの黒魔法である。とんでもない呪いの力が強い上、人の神の加護によって、全ての呪いを跳ね返してしまうという。使い方によっては、人の意思まで捻じ曲げて、操れてしまう。実際、アタシの母は、黒魔法を使って人心を操り、辺境にいながら、邪魔になる政敵を辺境に呼び寄せ、惨殺したという。
人の国でも、獣人の国でも、それぞれ、象徴が存在する。人の国は、人の神の子からなり立ったという辺境伯の一族である。人の神は、人との間に子を為したのだ。その子どもが苦労しないように、巨大な魔法を一つ授けたと伝えられている。それは、子々孫々続いているのだ。
獣人の国では、獣神の化身が存在する。獣神の姿をを持って生まれるという。辺境伯の一族は、複数の跡継ぎが存在するのだが、獣神の化身は頑丈なため、たった一人しか存在しない。次の世代が誕生すると、獣神の姿も、そのまま子に引き渡されてしまうという。
そう、アタシの兄が獣神の姿をしたということは、父親は獣神の化身なのだ。
母は辺境伯の一族として、一生、辺境の地で生きていくことが運命づけられていた。そこに、偵察で身分を隠してやってきた父が、母に一目惚れしたのだ。母を口説き落として、なんと子まで作って、と大変なこととなった。母はどこの誰の子なのか知らないので、そのまま幽閉決定だったところで、獣神の化身である父は嫁盗りとして戦争を仕掛けたのである。そして、母が父の番だとわかり、辺境伯ナハトは、泣く泣く、母を獣神の化身に嫁入りさせたのである。
そこまでは、めでたしめでたしなのだ。しかし、母は双子を産み落とした。獣神の化身である男の子、そして、人族である女の子だ。
前代未聞のことで、大変なことになったという。だけど、獣神の化身であえる兄ラセンは獣人の国の神殿が引き取り、人族の姿で誕生したアタシは、子がいない辺境伯ナハトの跡継ぎとして引き取られたのである。
という感じでアタシの身の上を説明しているのだが、瓦礫の山の中、誘拐犯、ではなく、獣人の国の王族シンセイは、アタシを離してくれない。
「だから、ね、離して。これ、絶対にまずいって」
「私の番だ。離さない」
「離れろ!!」
後ろからはシンセイが、前からは兄ラセンががっしりとアタシを抱きしめてきた。前も後ろもべったりだよ。しかも、シンセイ、なんか、妙なものがお尻の辺りに感じるんだけど!!
「二人とも、離れて。えっと、シンセイ様?」
「呼び捨てでいい。シンセイと呼んでくれ、マイナ」
むっちゃ熱のこもった声を耳元で囁いてくるけど、ぞぞっと悪寒がするだけだから。やめてぇ!!
「その、シンセイ、これはまずいから。アタシ、次の辺境伯なの。だから、嫁入り出来ない」
「わかった、私が婿に出よう」
「そういう問題じゃないの!! 我が家は、人の神の子の子孫なんだよ。血の濃さが力なの。だから、他所の血をいれられないのよ」
「そんな悲しいことを言わないでくれ。これは、神が定めた運命だ」
「我が家の成り立ちも、神だよ!!」
腰のあたりでがっしりと組まれているシンセイの両手に爪をたててやってるのに、びくともしないよ。しかも、綺麗な肌だってのに、傷一つつかない。さすがだね、竜種!! 頑丈さでは、獣人族最強だよ、ちくしょー--!!!
だけど、獣神の化身である兄ラセンの敵ではない。ラセンが力をこめて、シンセイの拘束をといてくれた。その隙に、ぱっと逃げて、ラセンの後ろに隠れる。
「ラセン、邪魔をするな。私の運命だ」
「番が見つかって、病気も治ったんだ。それでいいだろう。さっさと番封じの首輪でもして、一生、城の奥で暮らせ」
「絶対に諦めない。私の番を逃がすものか!!」
とうとう、シンセイも獣人の本能全開で、姿を顕現する。それは、竜種だ。
対するラセンだって大人しくしていない。獣神の化身にはならないが、屋敷を瓦礫にした神獣を二体召喚する。
大変なことになった。だけど、アタシには、まだ、どうにかする手段がある。荷物から、ある道具を取り出して操作した。どうせ、アタシの周囲には、暗部が潜んでいるんだ。もう、辺境の地にも届いているだろう。
そして、道具から、アタシだけでなく、獣神の化身であるラセンだって恐れる人の声が響いたのだ。
『ラセン、貴様、よりにもよって、マイナを誘拐されるとは、どこまで間抜けなんだ!?』
「ご、ごめんなさいいいいー-----!!!」
相手はその場にいないというのに、道具に向かってラセンは土下座した。
道具から響いてきた声は、アタシとラセンの伯父ナハトである。人の国最強の武力を持つ辺境伯だ。ナハトが辺境を出て歩いた道には、草一つ消し炭になる、と言われるほど、人の国でも、獣人の国でも恐れられているのだ。
声だけで、辺境伯ナハトだなんてわからないが、シンセイは、ラセンの態度に、相手は怒らせてはいけない人だと悟ってくれた。
「私は、獣人の国の王族シンセイと言います。どうか、マイナとの婚姻をお許しください」
あれ、シンセイ、まともな人っぽい。獣人って、ともかく力づくだ。気に入らないと、すぐに手が出るのである。
てっきり、この怪しい道具を壊されることをアタシは覚悟していた。ほら、遠くにいる人と連絡がとれるという、人の国の、辺境伯一族が作った、わけのわからない道具である。
王族だからだろう。シンセイ、たぶん、この道具を知っているのだ。
礼儀正しく申し込んでくるシンセイに、ナハトは怒鳴ったりしない。
『姪を見染めるとは、見る目があるな。そう、マイナは可愛い姪だ。そんじょそこらの男なんかに渡すわけにはいかない。王族ならば、まあ、考えなくもないな」
「これほど可憐な女性です。大切にします」
『だが、マイナは辺境伯の跡継ぎだ。辺境伯は、よその血を入れない』
「私にください。大切にします」
『血の流出も許されない。我が家は、特殊なんだ。だから、諦めろ』
「諦めません。マイナは、今、目の前にいます」
獣人は話し合いで済まないと、次は力づくなのよ!!
しかし、辺境伯ナハトを甘く見てはいけない。天からとんでもない火柱がアタシとシンセイの間に落ちてきたのである。これには、シンセイも手をひっこめた。
『俺は、道具作りの天才だ。離れた所にいる貴様も消し炭に出来る』
「伯父上、まさか、天罰の道具、完成させちゃったのですか!?」
伯父ナハトは、性格ははちゃめちゃなくせに、手先がとっても器用だ。その器用さで、とんでもない魔道具を生み出す才能まで持っている。
辺境伯では、人の国のどこでも攻撃出来る道具がある。地図型の道具なのだけど、それを通して、王都まで消し炭に出来るのだ。それの獣人の国版をとうとう、ナハトは完成させたのである。
「あれ、作らないって、両親と伯母に約束したじゃないですか!?」
『作ったお陰で、姪についた悪い虫を消し炭に出来る』
「嘘つきじゃないですか!!」
『何度も誘拐されるから、仕方がないだろう。ラセンが役立たずなのが悪い』
「ごめんなさい!!」
もう、兄ラセンは平謝りする。ついでに、ラセンが召喚した神獣まで頭を下げているよ。どこまで、伯父ナハトを恐れるのやら。
遠隔でも正確に攻撃するナハトが相手では、シンセイも迂闊に手が出せないでいます。だから、アタシに流し目を送ってきます。
「どうか、私を受け入れてほしい」
「まず、その前に、話すことがあるでしょう。番を見つけないと死ぬ病って何?」
「あなたに出会って、治りました」
綺麗な顔で微笑むシンセイ。綺麗だから、アタシのほうがくらっとなっちゃうよ!!
これだけの事をしたのだから、シンセイ側の味方は集まってくるよ。シンセイの周囲を護衛らしき獣人たちが囲む。だけど、対峙しているのが獣神の化身であるラセンだと気づき、戸惑ってる。本当に、ややこしいよね、これ!!
「ともかく、話し合いましょう」
「貴様、人族の分際で」
「俺の妹だぞ!!」
「私の番です!!」
「え? え? えええええー------」
アタシが獣神の化身の妹で、王族シンセイの番と発覚して、その場にいる護衛たちは叫ぶなり、武器を地面に置いて、ひれ伏した。
豪勢な屋敷は神獣によって廃墟になってしまったので、仕方なく、近くの神殿に移動である。ほら、獣神の化身であるラセンが一緒だから、アタシも受け入れてくれるのだ。
獣人の国の王族シンセイは有名なのだろう。シンセイ相手でも、深く頭を下げるのだ。驚いた。
「ここ、王都からかなり離れてるけど、シンセイのこと知られてるんだ」
「シンセイは、特別なんだよ」
アタシは兄ラセンを間に置いて、シンセイを見た。シンセイ、竜種の特徴を持っているが、人としてもかなり美形である。その美しい相貌で、アタシをじっと見つめて歩いている。目が合うと、物凄く嬉しそうに笑う。
「っ!?」
とんでもない男だ。そういう防御力がないアタシは大変なことになっちゃうよ。アタシは兄ラセンにしがみ付いて、どうにか耐えた。
シンセイ、ラセン、そしてアタシは、いつもの客間に案内された。このまま獣神の化身用の寝所に行く予定だったが、さすがに王族シンセイを一緒に、というわけにはいかない。だいたい、あの寝所、本来はアタシだってダメなんだ。ただ、アタシはラセンの妹だから、特別に許されているだけである。
「改めて、自己紹介しましょう。アタシは辺境伯ナハトの姪マイナです。兄は獣神の化身ラセンです」
アタシの自己紹介で、シンセイにくっついてきた護衛たちは真っ青である。気の毒に、生きた心地がしないでしょうね。
獣神の化身ラセンはまあ、獣人の国の象徴だから、誰もが知っている。だけど、辺境伯ナハトは恐怖の人族として有名である。
昔、人族と獣人が戦争をしたのだ。もちろん、辺境伯ナハトも前線に参加した。この戦争、始めから大変なこととなったのだ。戦争が始まってまだ三日くらいで、辺境伯が持つ暗部によって、獣人側の将軍三人が暗殺されたのだ。獣人はともかく鼻がいい。だから、暗殺は不可能と言われていたのだが、それを簡単にやってのけたのである。さらに、辺境伯は業火の魔法を使わず、その腕っぷしで向かってくる獣人をどんどんと切り裂いて、軍馬で踏み殺したのだ。辺境伯が持つ武力だけで、戦争に出た獣人の半数が殺されたと言われている。
というわけで、アタシを誘拐した奴らは皆、辺境伯ナハトによって処刑されました、おしまい!!
辺境伯ナハトは、とんでもない妹大好きである。妹二人に言い寄った男たちは、全て、闇に葬られたと聞いています。その延長で、姪であるアタシのことも大切にしています。だから、アタシに言い寄った男たちも、以下略。
実はこの話も有名である。だから、今、シンセイの護衛たち、生きた心地がしないのだ。ほら、誘拐されているから。
「俺はいいだろう。両方とも、俺のこと知ってるし」
「では、私だね。私は獣人の国の国王の甥シンセイです。マイナ、一生涯、よろしくね」
「よろしくしない!!」
この男、油断も隙もないよね。さりげなくアタシの手を握ってきやがったよ!!
アタシは、獣人の国のこと、それほど詳しくない。王族がどこそこの誰、ということも知らない。せいぜい、知っているのは、王様の名前くらいだ。
まあ、普通は、王族がどこの誰かなんて、平民だって知らない。王族なんて、関わることなんて、よほどのことなのだ。
だけど、シンセイは諦めず、アタシの手を握って、なんと、口づけまでしてきた。
「ちょ、ちょっと!!」
「君は私の命の恩人だ。もう、離さない」
「その、命の恩人、というのが、よくわからないの!! ねえ、どういうことか、説明して」
「王族にのみ伝わっていることなんだけどね」
こんな話である。
王族である竜種は獣人最強の種族と呼ばれていた。その力があまりにも強すぎるからか、時々、力に耐えられない竜種が誕生した。
力は強いのだ。しかし、強すぎて、体が持たないため、弱って死んでしまう。
それを憐れんだのが、なんと人の神である。人の神は、強い力のために死にそうな竜種に、人の番を与えた。途端、竜種は、壊れやすい人の番のために、強い体に変異したのだ。
人の神はいった。
「そなたの力は、番を守るためのものだ。番を見つけることで、そなたの真の力が目覚めた。その力で、番を何者からも守りなさい」
こうして、番を得た竜種は、最強の体が目覚め、生まれ持った力に耐えられるようになり、壊れやすい人族の番を何者からも守ったという。
ここで驚きなのが、出てきた神様が人の神ということだ。ここで、獣神なら、獣人の伝説だし、と思うわけだが、人の神である。
逆に、信憑性が高くなった。
獣人と人族は崇める神が違う。何せ、それぞれ、神の姿を似せて作られた泥人形だ。だから、獣人は獣神を、人族は人の神を崇める。
なのに、この言い伝えに人の神が出てくるのだ。王族にのみ伝えられたのも、人の神が出てくるため、外部に洩らせないのだろう。
「つまり、シンセイは番を見つけられなかったら、死んでたということ?」
「そうです。あなたが獣人の国に来てくれたのは運命です!!」
「いやいや、アタシ、王都には頻繁に行っていたよ。どうして、こんな王都から離れた僻地にいるの?」
そこである。アタシは獣神の化身の妹だから、王族にも、国王にだって会ったことがある。くそ生意気な王族の子どもたちに、よく、いじめられたものだ。
なのに、シンセイをアタシは一度も見たことがないのだ。ここまで綺麗な人だ。子どもの頃だって、相当、綺麗だっただろう。
その疑問に、シンセイは苦笑した。
「私の番は人族と決まっている。だから、僻地に追いやられたんだ」
そうか、王族であるために、人族を番に持つのは恥となる。
一応、今は人族と獣人は仲良くしている。だけど、ちょっと諍いとなると、戦争だ。時には、人族の国王の妻が獣人の国王の番だったというだけで、戦争になったこともある。
「あれ? でも、獣人の国王が人族の番欲しさに戦争したよね」
「それは、まあ、外交上で発覚してしまったことだ。何より、獣人にとって、番は絶対だ。国王でありながら、見つけた番を手に入れない、なんてあってはならない。獣人としては、戦争だって起こすのは当然のことだ」
「王族の面子の問題か」
「………」
身も蓋もない話となった。アタシの感想に、獣人の皆さんは目をそらした。
「これも、人の神の導きのお陰です」
とろけるような笑顔でいうシンセイ。人の神と言われると、なんとも言えない。
これは、困ったこととなった。獣人に人の神の導きだ。この繋がりを簡単に切り捨てていいわけではない。
だって、母だって、夢枕に立った獣神の導きで、獣神の化身である父と結婚したのだ。
「まずは、生家に持ち帰りましょう」
「ええ!? これからマイナと僻地のさらに奥に行く予定だってのに、もう帰るなんて。次、いつマイナと旅に出られるか、わからないってのにぃ」
文句を言う獣神の化身ラセン。
「もう、伯父上にバレちゃってるんだから、帰るしかないの!!」
「問題ありません」
そこに、気配一つなくやってきたのは、元は母の護衛であったガランである。
「うわぁ!? 気配も匂いもさせないで、近づくなよ!!」
「まだまだですね、ラセン様」
「ガランには、一生勝てないよ!!」
ちょっと不貞腐れていうラセン。ラセンは、ガランに育てられたのだ。だから、ラセンは絶対にガランには逆らえない。
「久しぶり、ガラン!!」
つい、アタシはガランに抱きついた。見た目は随分と年老いているけど、伯父ナハトよりも若く、母と同じくらいの年頃だという。ガランは罪人だ。その罪を償うために母に仕え、護衛となり、不貞を働かないようにするため、去勢までしたのだ。そこまで、ガランは母を崇拝していた。
そして、母の子どもであるアタシとラセンも、崇拝をしているが、子育てで手をかけているので、時々、困った弟や妹のように見ることがある。今がそうだ。
「マイナ、まさか、その男が婚約者なのか!?」
アタシがガランに抱きついたから、嫉妬で表情を険しくするシンセイ。
「ガランは、育ての親だよね」
「そうそう。俺もガキの頃、こっぴどく叱られた。今も叱られてるけどな」
「そういえば、屋敷を一つ、壊したね、ラセン様」
「っ!?」
「マイナ様を誘拐された時は、食事に夢中になっていましたね。見てましたよ」
だらだらと汗を流す兄。ガランは笑顔だけど、空気が怖いんだよね。そうかー、ガラン、ずっとアタシとラセンのこと見てたんだ。
それから、兄ラセンは、ガランにこっぴどく叱られたのでした。
突然、始めました。設定は、年齢制限ありの外れ姫の秘密の恋人をそのまま使いました。なんとなく、年齢制限なしで書きたかったので、書きました。流れが決まっていませんので、ゆっくりと書き進めていきます。