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5・卒業式当日/前

 卒業式当日は何というか、とても平和だった。サラは朝には懲罰部屋から出されていたが、式中も数人の職員に付き添われて卒業生たちとは別の席で話を聞いており他の生徒とは隔離されていた。式が終わってからもサラは解放されなかったらしく、彼女を見かけた人はいない。パフォーマンスはエヴァンだけで行ったが、昨日のお披露目よりも高く美しく上がった火柱は本当に綺麗だった。


 この三年間で、一番に平和だったと言っても過言ではなかったくらいに平和だったかもしれない。サラの取り巻きたちも、彼女が懲罰部屋に行ったと聞いてからとても静かだ。……それくらいサラの影響力が強かったのだと思うと、何だかとても微妙な気分になってしまったがそれも今日で終わるのだ。


 無事に卒業式も終わり、残すは後夜祭のみ。全生徒は一度部屋に戻り着飾ってホールに向かうが、ヴァイオレッタの様子が変だった。



「……やっぱりない」

「ヴァイオレッタ? どうかしましたか?」

「んー、ちょっとね。……ま、いっか。ないものはないわ」

「何か失くしたんですか?」

「うん、今朝から見当たらなくて。でもいいの、またあとで探すわ。さ、卒業式も終わったし、最後の思い出にいっぱい美味しいご飯食べましょ!」

「本当にいいんですか、手伝いますよ?」

「いいのいいの!」

「……じゃあ、後夜祭が終わったら一緒に探しましょう」

「えへへ、ありがとう。昨日から見当たらなくて、いつもと同じところに片付けたと思ったんだけど……」

「そういうこともありますよ」



 そんな話をしていると、私たちを呼ぶ声がする。



「ねえ、二人とも! もう行くよ!」

「早く早く!」

「はーい!」

「今行きますー!」



 ……こうやって友だちに呼ばれるのもこれで最後だと思うと、本当に感慨深い。何気ないことに涙腺が刺激されて困ってしまう。けれど、さすがにここで泣くのは恥ずかしいので、それは頑張って堪えた。


―――


 後夜祭の為に飾り付けられたホールは、いい意味で滅茶苦茶だった。世界各国の食事、踊りや音楽、生徒や来賓が着ている衣装も様々で、更に魔法が飛び交っている。攻撃性のある魔法は封じられているので、一応は安全だけれど室内に光が飛び散った時はとても吃驚した。熱くない花火みたいな魔法で、今もキラキラと天井付近で輝いている。


 友人たちは他の友人や自分の親、来賓たちに挨拶に行っているので、私は今一人だ。私の母は田舎から出てこなかった。つまり、一人なのでスイーツをお皿いっぱいに取っても、誰にも何も言われない。少しお行儀は悪いが、後夜祭だしいいんじゃないかなと思う。見たこともないお菓子もいっぱいあって、食べきれるか心配なくらいで――



「甘いものばかり食べ過ぎじゃないか?」

「ひえ……!」



 驚いて振り向くと、そこには今夜の主役であるエヴァンが立っていた。卒業生全員が主役だけれど、常に成績トップで生徒代表でパフォーマンスも行ったエヴァンはやはり別格と言える。そんな人がどうして。



「え、え、エヴァ……!」



 今まで、私のお願いを聞いてあの森で以外は話しかけてきたことのなかったエヴァンが、私の後ろに立っている!



「はは、何て顔をしてるんだ」

「~~~っ!」

「そう慌てるな。阻害魔法をかけているから、シャノン以外には俺のことは俺とは分からない。……最後だしな」

「そ、そういうことは、昨日の内に言っておいてくださいよ……!」

「ふは、悪い」



 いろんな意味で心臓に悪かった。ゆっくりと深呼吸をして、落ち着く為にマカロンをひと齧りするとまたエヴァンが笑ってくるが、もう気にしないことにした。



「最後だし、そっとしておいた方がよかったかと思ったが、最後だしな」

「どっちの意味で言ってます?」

「……どっちもだ。それにしても似合っているな、自分で選んだのか?」

「本当ですか? ありがとうございます。母が卒業式に着ていたものを直したんですよ。エヴァンは……文句なしに似合ってますよ」



 エヴァンはいわゆる礼装というものを着ていた。制服以外の装いを見たことがなかったが、かちっとした服が非常に似合っている。悔しいくらいに似合っている。……私もドレスを着ていて、鏡に映っている自分はそれなりに見えたが、まあ素材の違いということだろう。



「褒めるんだったら、顔を顰めるんじゃない」

「だってまあ、エヴァンですし。似合うのは当たり前かなって」

「……嫌味か?」

「どっちかと言うと嫉みですが、結局は褒め言葉です」

「だから、顔」

「ふふ、私のこと笑ったお返しですよ」



 何だろう、ここには他にもたくさんの人がいるのに、あの森で話しているような気分だ。エヴァンが阻害魔法を使っているというのだから、心配はないのだけれど不思議な感じがする。



「エヴァンも食べます? 美味しいですよ」

「あ」

「もう、自分で食べてくださいよ……」

「ん」



 私は少しかがんで口を開けてくるエヴァンに呆れつつ、その口にプチケーキを押し込んだ。



「美味しいでしょう?」

「甘い」

「ケーキですからね」

「ところで」

「はい」

「シャノンは踊りに行かないのか」

「最後の最後で恥をかきたくないです」



 エヴァンは思い切り顔を顰めた。思っていることは何となく分かる。自意識過剰とか折角の後夜祭でとか、友人たちにも言われたのだ。でも恥をかきたくないというのは本心だから仕方ない。



「そんな顔をしても駄目。私は行きません。エヴァンが踊りたいなら、お相手はいくらでもいるでしょう?」

「シャノンが行かないならいい」

「……じゃあ、二人でお菓子食べましょう。こんな機会じゃないと世界各国のお菓子なんて食べられませんからね」

「珍しく食い気に走るじゃないか」

「正直、暇で。ダンスは踊りたくないし、魔法は綺麗ですけどもう見たし、友だちも皆忙しそうだし。でも後夜祭を途中で抜けるのって禁止だから……」

「ふ、分かった、付き合う。ただし、途中で食事の方にも行かせてくれよ?」

「やった。ありがとうございます、エヴァン」



 目立つはずのエヴァンと会話をしているのに、誰の視線も感じない。阻害魔法なんて使っていたら、それを見破る人も出てきておかしくないのに誰も気づかないみたいだ。何だか、楽しい。私が気にしていただけだけれど、今まで人がいる前でこんな風に話したことがなかったから新鮮だ。



「エヴァンの故郷の料理とかお菓子はありました?」

「見に行ってないから分からん」

「じゃあ見に――」

《がじゃああああああ!》



 見に行きましょうと言いたかったのに、私の言葉は何かが崩れるような大きな音でかき消されてしまった。音が聞こえたと思うと、次に衝撃のようなものが体に響く。


 けれどそれは一瞬の出来事で、何があったのかを全て理解できた時には何故か私はエヴァンに抱き上げられていた。俗に言うお姫様抱っこというものではなく、こう、肩に担ぎ上げられるような感じだ。



「シャノン、怪我はないか?」

「だ、大丈夫、ですけど……。え、何があったんですか?」



 私を下ろしたエヴァンは黙ったまま会場の中央を指さした。



「何、あれ……」



 それしか言葉が出なかった。会場の中央には瓦礫の山ができていて、その上に誰かが立っている。男の人だ。あんまりにも異様な光景だった。ついさっきまで、学生生活最後のパーティーを楽しんでいたというに、これはどういうことなんだろう。理解が追い付かない。



「心配するな、何も問題はない」

「いや、問題はあると、思うんですけど……」



 おそらく瓦礫は屋根のそれだ。下敷きになった人や怪我をした人はいないのだろうか。そもそも、あの中央に立っている人は何なのだろう。


 でも一番おかしいのは、こんなに異常で怖くて仕方がない状況なのに、ひどく落ち着いている私自身なのかもしれない。エヴァンが支えてくれている肩が温かいせいだと思う。そんなよく分からない状況の中で、瓦礫の上に立った人が喋りだした。



「さて、はじめまして、こんばんは、皆さん。卒業おめでとうございます。騒がせてしまって申し訳ない」



 その声は、なんと表現すべきか分からないものだった。無理矢理に表すのであれば、重圧そのものが音になったような、大きくないのに世界に響くような、そんな声だ。


 誰もその声の主を止めることはできなかった。彼を止めるべきではなかった。そんなことをただの人風情がしていいはずない。そんな畏怖の感情が自然に湧いてくる。おかしなことだ。この場には、貴族もいれば権威ある魔法使いもいる。それなのに。


 瓦礫の上の人は明るくにこりと微笑んで、純白の魔石と漆黒の魔石を作り上げた人を迎えに来たのだとのたまった。……え?


 そこでやっと私の心臓が正常に騒ぎ出した。どっと汗がにじむのを感じる。魔石とはなんのことなのか分からない。分からないけれど、私のドレスのポケットには、真っ黒なガラス玉がある。



「シャノン」

「エヴァ――」

「はい! アタシです、アタシ!」



 私が助けを求めてエヴァンの手を掴んだのと、甲高い声が会場に響き渡ったのはほとんど同時だった。



「ほ、本当だったんですね! 竜王陛下の血を引く方が、綺麗な色の魔石を作り上げた魔法使いを迎えに来るって!」



 甲高い声は、サラのものだ。遠目から見てもとても興奮していて、顔は真っ赤で息も荒いことが分かる。サラの言っていることは分からないが、この緊迫した状況下でよくああも自由に動けるものだと感心してしまった。そんなサラに、未だ瓦礫の上にいる人が首を傾げた。



「貴女は?」

「アタシ、サラっていいます! 貴方様が迎えに来てくれるのを待っていました! アタシこそが選ばれた人間だもの! 純白の魔石なら、ほらここに!」

「確かに、それは純白の魔石――」



 瓦礫の上にいた人は、笑みを消しながらサラに近寄っていく。



「――の、なりそこない」

「……え?」

「誰からこれを奪ったのです? 魔石は、三年間決して手放してはいけないもの。ずっと肌身離さずとは言わないまでも、せめて傍に置いておかねばならない。でなければ、魔力が定着せずにただのガラス玉に戻ります。……持ち主が手放して、半日以上は経っていますね。もう、このガラス玉は魔石にはなり得ません」

「そ、そんな、これは、あの、アタシのもので、そんなはずは……」

「まだ言いますか。ここまでくると逆に感心しますよ」

「ひ……っ」



 大きな歩幅で歩み寄ってくる人に、サラは顔色を失くして後ずさっている。サラが何か危害を加えられそうなのに誰も動けない。助ける義理もないけれど見放すのも寝覚めが悪いと足に力を込めたが、それはエヴァンに止められた。



「大丈夫だ、かなり怒っているが奴も殺しはしない」

「でも、エヴァン……!」

「それにほら、そういうのは“大人”の仕事だ」



 エヴァンは私の方を見ないでそう言った。その視線を追うと、人々をかき分けてサラたちのいる中央に歩み出て来た理事長先生がそこにいた。



「申し訳ございません、閣下。全ては我々の不手際でございます」

「そうですね。それで? これは、どうするつもりです」

「……該当者に新たな魔石の種を渡し、我々のできる限りのサポートを」

「この盗人は?」

「厳正なる処罰を」

「……まあ、信頼してもいいでしょう。私の怒りはおさまりませんが、どんなに怒り狂ったとしてもこの魔石のなりそこないが元に戻ることはない。ええ、例えばこの場にいる全員を殺したとしても」



 ぞっとするような威圧感と魔力だ。きっとあの男の人は、本当にこの場にいる全員を皆殺しにできるのだろう。至近距離にいるサラは腰を抜かして泡を吹いているし、あの世界的な魔法使いである理事長先生も声が震えている。


 ……それでも、私は恐怖を感じない。自分が異常なのだとこれ以上自覚したくなくて、そっとエヴァンに耳打ちをしてみた。



「あの、エヴァン?」

「何だ」

「魔石の種って、つまりこのガラス玉のことなんですよね?」

「そうだ。この学園では生徒の自主性を育てるとかふざけてたことを言って、何故かその本質を隠しているがな。親が魔法使いなら知っている奴もいただろう」

「……私、母から何も聞いてないんですが。魔石って、魔法使いが使う証明証代わりのものですよね。魔法協会とかで働くのに必要なもので、学園を卒業と同時に渡されるって説明がありましたよね。この後夜祭の後に貰えるって」

「嘘であり本当だろう。生徒が三年間、肌身離さず持ち歩き魔石の種を魔石にする。それを正式に授与するっていう形なら、嘘にはならない。魔石の種は地域や学校ごとに若干の違いがあるから、どの地域のどの学園を卒業したかが分かるようになっている。だから証明証代わりに使えるんだ」

「……エヴァンのは?」

「大丈夫だ」



 大丈夫って何、と言い返そうとしたところで、乱入者の男の人がまた声を上げる。サラは理事長先生が魔法で持ち上げてどこかに連れて行かれていた。



「さて、それでは本当に純白の魔石と漆黒の魔石を作り上げた方はどちらに? ……純白は、作り直しになりますが」



 びくりと肩が震える。



「どうした、シャノン」

「ど、どうしたって……」



 エヴァンが不思議そうにこちらを見てくるが、「どうした」はないと思う。だってエヴァンは私のガラス玉が真っ黒になっていることを知っているのに。


 確かに何故か私はあの男の人が怖くはない。けれどこの状況下で呼ばれることには恐怖を感じる。人前に立つのは嫌だ。どうしても行かなければいけないのだろうか。それに今更だけれど、そもそもあの男の人は何なのだろう。


 ああ、混乱してきた。そんな私を余所に、向こう側から声が上がる。男の人のでも、理事長先生でもましてやサラでもない、知った人の声だった。



「その白いガラス玉はわたしの物、のはずです」



 そう言ったのは、ヴァイオレッタだった。眉間に皺を寄せながら、あからさまな警戒を男の人に向けている。ひゅ、と私の喉が鳴った。どうしよう、ヴァイオレッタがあの男の人に何かされでもしたら――。



「シャノン、大丈夫だ。あいつがヴァイオレッタに危害を加えることはない。一度落ち着け」

「で、でも、でもエヴァン……!」



 私たちが話をしている間に、男の人がヴァイオレッタに近づく。正直、サラは自業自得だったけれど、どうしてヴァイオレッタが。疑問は尽きなくて、でもエヴァンに腕を掴まれているから傍にもいけない。


 そうこうしている内に、男の人はヴァイオレッタの目の前まで来ていた。



「確かに、これは貴女のもののようですね。お名前をお伺いしても?」

「……その前に、ご自身が名乗るべきではなくて? 貴方は誰で、何の為にここに来たのか。何故わたしを呼んだのか、その説明を先にするのが筋というものだわ」

「おや、気がお強い」

「よく言われるわ」



 そう言って、ヴァイオレッタは目の前の男の人を睨みつけながら髪を耳にかけた。


 ……強い。そうだ、ヴァイオレッタは強い人だった。でも、この場でそれを言うのは悪手ではないだろうか。そんな意味でもはらはらする。相手は、おそらくやる気を出せばこの場の全員を殺せるレベルの魔力を持っている人だ。胃がキリキリとしてきた。



「そうですね、貴女の仰る通りです。私の名はクライヴ。さっきの盗人が言っていたように竜王陛下の血を引く者の一人です。多くの人は我々のことを竜人閣下などと呼びますが、まあ、竜に変身できる、とっても魔力の強い種族ですね」

「竜に変身できる?」

「変身魔法や幻覚で外側を整えているのではなく、竜そのものになれるということです。竜王の血が流れているからこそできる秘術というところですかね」

「……にわかには信じがたいけれど、それで何の用なの?」

「簡単に言ってしまえば嫁探しです」

「さっきのサラっていう子がなりたそうにしてたわよ」

「我々にも選ぶ権利というものが」

「それは、わたしにだってあるわよ」

「……本当に気がお強い。非常にイイですね」

「気持ち悪……」



 ヴァイオレッタがこれでもかと顔を顰めたのに、クライヴと名乗った人は何故かにこにこと笑っている。心なしか恍惚としたような目をしている気がするのはさすがに気のせいだと思いたい。それにしても、竜王陛下の血を引く者というのは本当だろうか。……いや、彼の魔力や理事長先生の対応からみて、本当なのかもしれない。



「まあ、後でもう少し話をしましょう。もっと落ち着ける場所で、二人きりで」

「嫌よ、気持ち悪い」

「ところで、お名前は?」

「言いたくないわ」

「では、また後で」



 何だか、場の雰囲気がさっきと全く違うものになった。何というか、説明は難しいが先程までの張りつめた空気はなくなっている。クライヴと名乗った人は、どこか浮かれたような足取りで私たちの方を振り返った。



「漆黒の魔石を作り上げた方がいる筈です。さあ、前へ」

「……」

「おい、シャノン、何してる。さっさと行け」



 黙ったままでいると、エヴァンが私の背中を突いてきた。まさかエヴァンがこういうことをしてくるとは思っていなくて、びくりとする。それでも何とか、小声の範囲で彼に向かって叫んだ。



「何でそんなこと言うんですか? 私がどうなってもいいんですか!?」

「心配はいらない、どうにもならん。クライヴ、こっちだ!」

「おや」

「――っ!」



 ひぃっという悲鳴は、喉の奥で潰れてしまった。さらに、その音が引っかかって息ができない。皆の注目が集まっている。どうしよう、どうしたら。



「エヴァン、久しぶりですね。元気そうでなにより」

「思ってもないことを」

「それは穿った見方というものです。お前ももう成人なんですから、そろそろ言葉の使い方を覚えなさい。で、そちらが漆黒の?」

「ああ」



 今目の前で何が起きているのか、頭が理解するのを拒んでいるような気がする。しかし何にせよ、どうしてエヴァンと乱入者が会話をしているのだろう。恐怖は感じていないのだけれど、注目を浴びているのが落ち着かない。



「……あの、エヴァン? お知り合いなんですか?」



 こそりとエヴァンにだけ聞こえるような声で話したのに、この疑問に答えたのは彼ではなかった。



「ええ! 我々は遠い遠い親戚のようなものですよ、漆黒の人。これからどうぞ、よろしく!」

「こ、これから……?」

「ちょっと、シャノンに近寄らないで!」

「おや、エヴァンの漆黒は私の純白と仲がいいのですか。何かしらの運命を感じますね」

「ないわよ、そんなもん!」



 返答に困惑していると、今度はヴァイオレッタが乱入者の後ろで声を荒げた。私を庇ってくれているのだ。でも、もう、何が何だか。


 今日は、卒業式だったはずだ。三年間過ごした学舎を離れ、皆が旅立つことを祝う日だったはずだ。お祝いの後夜祭では、最後だと少し羽目を外して楽しむ、そんな日だったのに。


 くらくらする頭を押さえると、そんな私をエヴァンが支えてくれた。



「エヴァン……」

「大丈夫か?」

「……あんまり大丈夫じゃないです」

「そうだろうな。その、悪い」

「悪いと思っているなら、せめて説明を求めます」

「分かった」



 じとりと睨みつけると、さすがのエヴァンも気まずそうにしていた。私が注目を浴びたくないと思っているのを、きちんと覚えてくれているらしい。それにしてはせっつかれたが。


 一連の流れからして、なんとなく察しはついた。けれど、エヴァンの事情やこの状況は、彼の口から説明をもらわなければいけない。そうでないと納得ができない。私は、大事な母のお下がりのドレスの裾をぎゅっと握った。



「おい、クライヴ、ヴァイオレッタ! 行くぞ!」

「どこによ!?」

「理事長室だ」

「なんでよ!?」

「何でもだ、説明が必要だろう」

「当たり前でしょう! 大体何で、アンタがシャノンと一緒にいるのよ!?」

「説明するから、来い。クライヴはそこ直してこいよ」

「ああ、そういえばそうですね。……では、皆さん、お騒がせしました。よい、後夜祭を」



 クライヴと呼ばれた人は、指先一つで突き破った屋根とその破片を直してしまった。不機嫌を隠しもしないヴァイオレッタはそれを見もせずにホールから出て行くが、彼は笑いながらそんな彼女を追っていく。おそらく言われたとおりに理事長室へ行ったのだろう。そして、私とエヴァンも理事長室へ向かった。背中に視線が刺さるのを感じたが、もう学園に来るのもこれで最後なのだからと割り切って無視をすることにした。


読んでいただき、ありがとうございます。

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