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どうやら俺は異世界に舞い戻ってきたらしい。
正直かなりナイスだ。
思いだせば前の転生は散々だった。何が散々だったかって、もうなんか怖かった。いろいろなものが怖くて、正直死にたかった。そのくらい怖かったのだ。正気ちびってしまった。でも俺は舞い戻った。気持ち良すぎたな。だから今に感謝しなければならない。
「あぁ……これで良かったのかな俺……てかこれからどうしよ……」
俺はマットの上で寝転がりながらぼんやりと考える。
思いを馳せているとも言えるだろう。
正直走り回って疲れた。
だがその疲れも大分回復しつつあった。
あー、異世界って言ったって、よくよく考えればどう行動していくのが正解なんだろうな。まぁあいにく街はいるから、ここから活動を広げていけばいいんだろうけど、何をどうしていけばいというのだろうか。
まぁでもなんとかなるかな。元気にやっていくのが大事だよな。まぁ俺の目標は魔王を倒すことらしいし、とりあえず生活面を整えて英気を養っていくとしますか。
「よーし、作戦が決まったところで、行動開始といきまっか!」
俺は再び起き上がり、外に出た。
うーん、やはり辛気臭い感じだ。こんなところにいてはいつまで建ってもあんまり元気にはなれないぞ。いや、ちょっとは元気だが、物凄く元気になれないという意味だ。まぁともかく元気にやっていきますか。
「まずは移動してみよう」
わざわざスラムと呼ばれているということは、陽の地帯もあるということ。移動してれば、そのうち見つかるだろう。
俺はとりあえず一直線に走ってみることにした。
先程走り回ったことにより、この辺の地理は多少理解している。
なんとなくスラム感が浅い方向にいけば、おのずと明るい未来が見えてくるだろう。
ということで俺は頑張って走った。
途中いろんな人にすれ違い、すれ違うたびに、舌を出しておいた。
だって服装とかもボロボロで本当に見るにたえないんだもん。
やっぱり貧乏なやつを拝むほど気持ちの悪いことはないよな。俺は絶対に貧乏だけにはならないとこっと。貧しい生活をしているのって、ほぼ死んでるのと一緒な気がするし。いや、流石にそれはないか。ちょっとそれは暴論だったな。本当に申し訳ないです。
そんなアホなことを考えながら進んでいると、若干建物が新しめになってきている気がした。
いや、間違いない。なんとなく先ほどのドブのような空気が浄化されつつある気もするし、遠くの方から人の活気のようなものも聞こえてくる。あぁ、やっぱり正解だったんだな。俺の作戦大成功というわけだ。やはり俺は天才だな。これは将来魔王を倒す器ですわ。
「ふぅ、走り疲れたけどいい調子だよな。よーし、では早速開けた場所に出てスリで金を得て……ん?」
なんだか、今一瞬、人の叫び声が聞こえたような……気のせいかな。走り終わったあとで耳鳴りもなってるし、そのせいかな。
――だ、だれか……
「はっ、やっぱり聞こえた!」
これは間違いない、かなりはっきり聞こえたぞ。
結構近くだ。多分こっち、右の方から……
俺は迷うことなく声の聞こえた方向に向かった。
困っている人がいるなら助ける。それは人として当たり前のこと。いや、男として当たり前のことだ!
俺は再び駆け出し、声のする方の裏路地へ飛び出す。……と思ったがちょっぴり怖かったので様子を見ることにした。ちらりと顔半分だけ出し、おそるおそる覗いてみる。
「嬢ちゃん、怖がるこタァねぇ。ちと付いてきてくれりゃそれでいいんだ」
見てみると、そこには三人の人物がいた。
二人は男。そしてもうひとりは女の子に見える。
なんだひそひそと……麻薬取引とかか? だとすれば警察に通報した方がいいよな……
「へへ、もうここで頂いちまってもいんじゃねぇか」
「バカいえ、それでアイゴンがどうなったか知ってんだろ。死ぬならお前一人で死ねよ」
「ちっ、わーってるよ。ボスの貢ぎ物には手を出さねぇってな」
男二人はなにやら話し合っていた。
よく見てみれば男の一人は女の一人の手を抑え、壁に押し付けている。
逃げられなくしようとしているように見えるな。女の子の方はかなり痛そうだ。
「あ、あのっ、私これから家に帰らないと……!」
「あーん、まだ言ってんのかよ。お前の人生とっくに終わってんだよ。これからは一生裏社会の奴隷として生きていくんだ。ま、恨むならボス好みの見た目に生まれてきた自分か生んだ親を恨むこったな」
女の子はか細い声で言葉を紡ぐが、手をつかんでる男にすぐに否定されてしまう。
ていうかあの女の子銀髪だ……あそこまできれいな銀髪始めてみたかも。染めてるだけなのかな、いや、でも異世界なんだからどんな髪質だってありえる。あれがナチュラルだとしたらかなりやばいぞ。それに肌も白くて顔も小顔だし、近くで一変見てみたいまであるな。
「んじゃ、連れて行くか」
「や、やめてぇ!」
「うら、騒ぐんじゃねぇ!」
べし。
女の子は頬を叩かれていた。
うはー、痛そう。女の子にあそこまでするかね。
「おい、傷つけんなよ」
「大丈夫だ。俺はこう見えて拷問は得意な方なんだよ」
「そんな風には見えねぇが。まぁ黙らせるってのは賛成だ。縛るのも面倒クセェ、そのままとっとといこうぜ」
そう言って男二人は少女を無理やり引きづってどこかに連れて行こうとしていた。
ああ、どうしよ。ここはスルーするべきなのか?