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「はーあ、やばいな。もうどうにかなりそうだな」
俺は自室で一人閉じこもっていた。
閉じこもっているとは言っても、何も引きこもりや不登校などというわけではない。
俺は普通に学校には行っているし、ちゃんと宿題もこなしている。
今こうして真昼にもかかわらず、だらんとベッドで横になっているのは、単純にやることがないためだ。
あー、俺はいつまでこんな退屈な日々を送らなければならないんだろう。
高校デビューを決めるべくそれなりの偏差値の高校に意気揚々と殴り込んだのはいいが、蓋を開けてみれば、中学時代と何も変わらない毎日だった。奥手な俺の性格が災いしているのが友達もろくにできないし、当然恋人の一人もできない。
しかも趣味という趣味も特にないのが痛いんだよな。このままだと本当に何も成し遂げることなく、ただ息を吸って吐くだけの毎日を送ることになってしまう。
「だ、だめだ。そんなのは絶対だめだ!」
変えるのだ! 自分の日々を! 人生を!
あいにくまだ十六歳。まだまだ時間は残されている。
今からでもなにか動けば、未来は変えていけるはずだ!
「よーし、こうなったらなにかしよう! そうだな、とりあえず外に出よう!」
特にやることが思いつくわけでもないが、こうやって部屋にいても何も変わらないのは確かだ。
俺は猛ダッシュで一階に降り、玄関で靴をはき、外へと出た。
家の前に飛び出した瞬間差し込むまばゆい光。
ふー、太陽が心地良い!
そうだ、これでいいんだ。こうやって一歩ずつ人生を変えていくんだ!
「うっしゃー! とりあえず走り回るぜ!」
「あぶなーい!」
離れたところから人の声が聞こえたが、一歩遅かった。
俺は意気揚々と路地に飛び出したところ、ちょうど走ってきていた乗用車に撥ねられてしまった。
あぁ、痛い……なんだよ……車に撥ねられるって……しかもそんなにスピードを出してなかったから、吹き飛ばされたというよりベチャッと轢かれたって感じだし……最悪……最悪だぁ……
俺は周囲に人の存在を認知したが、そんなことに思いを馳せる間に徐々に意識を失っていった。
「目覚めたかのう!」
「あ、あれ……?」
俺は気づけば白い部屋にいた。
調度品の類も何もない、本当に真っ白な小部屋だ。
そしてその中に、俺と、目の前のもう一人が立っていたのだ。
「あの、あなたは……」
目の前の快活に笑っている人物は干からびる寸前の老人だった。
もうとにかくシワが寄っていて、とても見れたもんじゃない。これはひどいな。もう少しで死んじゃうんじゃないかというほどだ。
「儂か? 儂はいわゆる神という存在じゃな。まぁそれもお主のおる地球でいうところの名称であって、本来の価値的にはまた少し違ってくるのじゃがの」
「は、はぁ、神様ですか」
やばいな。死にかけってだけではなく、脳の状態も非常に末期な状態らしい。もう優しい目で相手してあげたほうがいいな……こんな人、周りからは誰も相手にされないだろうし、せめて俺が優しく対応してあげて、いい思いのまま死んでいってほしいよな。
「そうじゃ、そしてお主は死んだのじゃよ」
「死んだ、ですか。どちらかと言えば死にそうなのはおじいさんの方だと思いますけど」
「なんじゃ、失礼なやつじゃな! 儂は死なんぞ。不老不死じゃからな。まぁおよそ神と聞き想像するような全知全能というわけにはいかんのじゃがの」
「はいはい、そういう設定ですか。それで僕が死んだというのは一体どうやって死んだというんですかね」
「お主全然信じておらんな。これを見よ」
おじさんが言うと、目の前にモニターのようなものが出現した。
次の瞬間そこに映像が表示され、そこには車に轢かれる俺の姿が映っていた。
「あ……」
「どうじゃ思い出したか。お主は迂闊にも時速二十キロで徐行する軽自動車に気づかず撥ねられてしまったのじゃ。まぁ相手も脇見運転しとったっぽいからどちらが悪いと一概には言えんがのう」
お、思い出した……そ、そうだ、俺はあの時車に轢かれしまって凄い痛い思いをして、それはもう大変なことになったんだった。なんだよあれ、俺マジでついてなさすぎじゃないか? あんなところにちょうどくるかな普通。はぁ、まぁ終わったことにいくら言っても仕方ないよな。これは完全に俺が悪いし、死んでしまったとしてもしょうがない……
「……あれ? 轢かれて死んだはずなのに、俺まだ生きてますよ?」
「ふむ、正しく疑問に思うところじゃろうな。通常であれば、お主の魂は二度と肉体を宿すことなく、天国か地獄かで一生安置されることになる。しかし安心していいぞ。今回は儂がこうしてわざわざお主を呼び出したのじゃからな」
「え、なに? もしかして本当の神様だったり……」
「実はお主に、とあることを頼みたいと思うてのう」
だめだ。最初はただの頭のおかしい人かと思ったら、どんどん言葉の信憑性が高くなっていくし、どうしたらいいんだ俺は……
「頼み、ですか……?」
「うむ、そうじゃ。その内容というのがじゃな」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「ふむ、どうかしたかの?」
俺はおじさんの言葉を遮ると、壁際により、ふっと息を吐いて逆立ちをした。
「見てください! 逆立ちをしています! 僕は逆立ちをしているんですよ!」
「それがどうしたんじゃ」
物凄い空気になってしまったので、俺はすぐに逆立ちを止めて定位置に戻ってきた。