国王ですが息子に好きな人が出来たようです
『聖女さんは追放されたい!~王家を支えていた宮廷聖女、代わりが出来たとクビにされるが、なぜか王家で病が蔓延!えっ、今更戻って来い?一般の大勢の方々の病を治すのが先決なので無理です』
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儂の息子はケインと言う。
それはそれは玉のようにかわいい、目に入れても痛くないほどの息子じゃ。
じゃが、儂の立場からしてケインは不憫な人生を歩むことが目に見えておった。
第一王子であるケインは、将来国王になることが決まっておる。
もちろん、王様になれることをうらやましく思う輩も多いだろう。
じゃが、王など全然良いものではない。
常に権力闘争に明け暮れる貴族たちをまとめねばならないし、四六時中公務に忙殺される。政略結婚は当たり前じゃし(なお、今の妻に幸いながら不満はない。運よく、とても気の合う妃をもらうことができたので)、自由とはかけ離れた人生を死ぬまで送ることが約束された、いわば呪われた職業じゃ。
これが男爵や、あるいは侯爵くらいならばある程度自由もきくし、あるいは次男や三男ならば随分マシなのじゃが、第一王子ともなれば、もう歩き方から喋り方、服の着こなしまで、全てが管理監督の元に置かれる。
うう、儂の息子ながら何と不憫な。
思わず涙がちょちょぎれる。
で、思った通り、やはりケインはそんな生活が幼い頃から続いたことや、自由の何一つない未来に絶望を覚えるようになっていったようじゃった。そして、時折近づいて来る貴族たち。それにも相当嫌気がさしたようじゃ。女子にしても、ケインの性格が好きで近寄る、ということはなく(そもそも、ケインに自由意志を示すような機会は多くない)、その権力にすり寄ると言うか、ようは玉の輿狙いじゃった。
そんなケインが人間不信、あるいは無感動な人間になっていくのを、情けないことに儂は止めることが出来んかった。
そして、10歳の頃にはもう婚約者が確定した。
相手はビルバーク公爵家のルナ令嬢で、家柄も申し分ないし、美しい少女であった。
じゃが、ケインがそんな政略結婚相手に喜ぶはずもなく、やはり無感動というか、ああ、決まったんですね、とだけ言ってすぐに興味を失ってしまったようじゃった。
恐らく相手のルナ令嬢も政略結婚として、ケインと結婚さえすれば満足じゃろうから、将来は冷めきった夫婦生活が待っていることじゃろう。
儂は心を大いに痛めた。
しかし、
「父上。あのルナという女性なのですが……」
なんとも珍しい。あのこちらから話しかけなければ答えないケインが、自分から儂に相談をもちかけてきおったのだ。
じゃが、なんじゃろう?
もしや、気に入らないということじゃろうか?
まぁ、もしそうだとするならば、変更することはやぶさかではない。あまり好ましいことではないが、少しくらいはケインの意向を聞いてやらねば、余りにも可哀そうすぎるからじゃ。
しかし、彼の放った言葉は意外なものであった。
「ちょっと、おかしいですね」
そう言って、本当に珍しいことに。
というか、初めてかというくらいに、唇を綻ばせて微笑んだのであった。
おお!
神様!!
儂の可愛いケインが笑っておる!!
ありがとう!!
じゃが、どうして?
理由を聞いてみることにした。
すると、どうやら、王子が訪ねて行った日に、メイド服で出迎えられたというのだ。
ええ……なんじゃそれ?
と思ったが、どうやら作業着で泥まみれ、ほこりまみれになりながらも、自分の部屋を掃除していたというのだ。
そして驚いて、何をやっているのか、と尋ねるケインに彼女は言ったそうじゃ。
「自分の部屋くらい自分で掃除するのは当然ですわ。やってもらうのが当たり前と思ってはいけませんのよ。はあ、それにしてもあかぎれが痛いわ」
そう言って、公爵令嬢とは思えないほど荒れた手を見せられたようだ。
じゃが、そのことにケインは何やら思う所があったらしく、
「僕は自分が王子ということに甘えていたんじゃないか。思えば自分の部屋を掃除するくらい、自由にできたはずなのに」
等と言って、自分の部屋を掃除しはじめたのである。
王子の私室はもちろん、ハウスキーパーを入れているが、王族の部屋というのはデリケートな場所だ。例えば公文書が置かれていることもあれば、密談をすることもある。だからハウスキーパーを入れない処置をとることは別におかしなことではない。
ケインは初めて儂に願い事をした。
その時の感動と言えばっ……! いや、その話は置いておこう。
ともかく、その日からケインは私室の掃除は自分でやるようになったのだ。そして時々だが、儂に手のあかぎれなんかを見せて、最近は寒くなって来て水がしみるようになってきた。今までは気づかなかったが、使用人たちは僕を一生懸命こうして支えてきてくれたんですね。それは他の民たちも一緒なのだろう、といったことを言ってきたのだった。
まさにそれは王族や貴族に必要な視点なのじゃった。いつの間にかケインは第一王子の資質を育み始めていたのじゃ。さすが儂の息子。
他にもこんなこともあった。
あの日から頻繁にルナ公爵令嬢の元に通い始めたケインを、儂はニヤニヤしながら送り出していたわけじゃが、ある日真っ青な顔をして、ケインが戻ってきたのじゃ。
もしや毒か! 衛生兵~!!! と儂が叫んでいるところを、ケインが止めた。
よく聞いてみると、ルナ公爵令嬢が料理を振る舞ってくれたらしい。じゃが、どうやら不慣れであった模様。貴族令嬢は料理などする必要はないから、恐らく儂の可愛いケインのために一生懸命作ってくれたのじゃろう。その気持ちを分かって、ケインはその、まぁ、まずいながらも愛情たっぷりの料理を平らげて来たのだ。
まさしく愛じゃな!
素晴らしい!
じゃが、ケインは3日間ほど寝込んだのじゃけど。
しかし、そこはさすがのルナ公爵令嬢。数日後には手作りのクッキーを振る舞ってくれたというのじゃ。しかもその出来栄えが見事なものだったという。これは完全に以前振る舞った手料理が微妙だったことを気に病んで、短期間のうちに猛特訓をしたに違いあるまい。そして見事においしいクッキーを焼くことに成功したのじゃ。公爵令嬢ともなれば美味しい焼き菓子の店などいくらでも出入りできるはず。しかし、そうではなく、あくまで手作りにてケインに料理を振る舞おうとする姿勢に、父である儂でさえも感動したのじゃった。うむ、我が愛するケインの嫁にはこのルナ公爵令嬢しかおらぬ! と。
他にも聞けば聞くほど彼女の素晴らしさが浮き彫りになるばかりじゃった。彼女は華美なものが嫌いなようで、豪華なドレスなどは全て売ってしまったようじゃ。また豪華な壺や絵画、そういったものもあっさりと手放してしまったようじゃ。おかげで見た目はみすぼらしく、他の貴族からは陰口なんぞを叩かれたりしていたので、儂も気が気ではなかったのじゃが、彼女自身はまったく気にもとめていなかったようじゃ。
素晴らしい! 他人の意見に流されることなく、そして現在の王室の財政状況を鑑みれば華美であることはむしろ避けるべきであることは明白なのじゃ。じゃが、伝統だから、という理由で、儂も含めなかなか改革ができんかった。それを彼女は微力な身でありながらも自ら体現していたのじゃ。
おお! なんということじゃろう。さっさと結婚したらええと思うのじゃ、ケイン!!!
じゃが、週5で通ってアプローチするケインなのじゃが、どうにもルナ公爵令嬢の態度はそっけないようじゃった。ピクニックに誘い、デートに誘い、食事に誘い、晩餐に誘い、旅行に誘い、プレゼントを渡し、手紙を渡し、友人たちをも巻き込んでなんとか振りむいてもらおうとするのじゃが、彼女の気持ちはどうしてもケインに向かないようじゃった。
それについてケインも理解しておったようじゃ。
そう。政略結婚じゃからこそ、彼女のような素晴らしい女性が自分と婚約してくれるのじゃと、ケインは言っておったのじゃ。
本来であれば自分にはもったいな女性じゃと。
そして、本来であればもっと別の、僕のような面白みのないただの王族よりも、よほど素晴らしい男性がお似合いじゃと言っておったのじゃ!
じゃが、そんなことないと思うのじゃ!
父的にひいき目に見ても、流れるような金髪とスラリとした長身、甘いマスクといざ微笑んだ時の魅力的な笑顔。小さなころからやってきた剣の腕前は王国一であり、仕事の腕前も素晴らしく、さっさと儂としては王位を禅譲したいくらいなのじゃ!
じゃが、それは婚姻が成立してからのほうが良い。
なんせ魑魅魍魎が跋扈してるわけじゃから、隙はないに越したことはないのじゃ。
しかし、なかなか二人の仲は進まんかった。ケインはもう傍目で見ていればバレバレなくらいルナ令嬢のことが好きすぎるくらい好きなのじゃが、肝心の彼女が婚姻を引き延ばそう引き延ばそうとするのじゃった。もしかすると、自分などは妃に相応しくないと慎ましく考えているのかもしれなかった。というか、たぶんそうじゃと思われた。
無理やり結婚しちまえ! という考えが儂の頭をよぎらぬでもなかったのは正直なところじゃが、ケインはどうしても彼女に振り向いてもらったうえで結婚したいようじゃった。まったくもって高潔な精神じゃけど、ケインよ、時には強引さも必要なのじゃぞ!?
と、そんなこんなで月日が進み、ついに彼女も20歳を超えた。
20歳を超えて結婚していないと、この国では行き遅れなどと言われる。儂から言わせると古い考え方なんじゃけど、まぁ、人の口というものに板は立てられぬ。何より彼女自身がそれを気にしていない様じゃった。なるほど、王子の婚姻を反故にするならば、自分は生涯未婚であるべきという精神なのか。
なんと筋の通った女性であろう!
じゃが、このままではせっかくの大魚を逃してしまう。もうなんでもいいからゲットするのじゃケイン! お前の幸せはルナ公爵令嬢を嫁にもらう他ない! うむ!
そんなことを日々悶々と考えていた時じゃった。
「ルナ公爵令嬢、君との婚約は破棄させてもらう! 僕は真実の愛に目覚めたのだ」
そんな突拍子もない言葉が、我が息子ケインから出たのじゃった。
場所は舞踏会で貴族たちが大勢参加しておる!
仕掛けたか!
あのケインが!
儂は自分の可愛い息子の成長をはらはらドキドキしながら見守るのじゃった。
ちなみにあの桃色の髪の可愛らしい少女は、長く留学していた実妹のイルマじゃな。ノリの良い子じゃから面白いという一点で協力したんじゃろうなぁ。
『聖女さんは追放されたい!~王家を支えていた宮廷聖女、代わりが出来たとクビにされるが、なぜか王家で病が蔓延!えっ、今更戻って来い?一般の大勢の方々の病を治すのが先決なので無理です』
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