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魔法使いと繋がる世界EP2~震災のピアニスト~  作者: shiori


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第二十一話「思い出は思い出のままで」6

 リハーサルから水原家に帰り、夕食後お風呂に入った後に、私は寝付けずに物置にあるピアノの椅子に腰かけて、ピアノの練習を始めた。

 

 電子ピアノであれば音量の調整も簡単なので夜間でも練習しやすい。

 ヘッドホンなりイヤホンを付ければ済む話なのだが、台詞練習も一緒にする機会が多いので、あまりイヤホンやヘッドホンをしながら練習をすることに慣れていないのだった。


 練習の成果もあり劇中に流れるピアノコンクールの課題曲を少しは弾けるようになった。


 実際の本番では台詞もあるから、もし演奏できたとしても、モノローグ台詞と同時に演奏するのは到底不可能なのだが、練習する価値は十分にあると思っている。


「まだ、練習してたんだ」


 夜遅くなっても練習している様子を気にして光が様子を見に来た。


「いよいよ明日だからね、出来るだけリハーサルの復習をしておきたくて。

 気になるところは、今もたくさんあるからね」


 5月に入り、徐々に暖かい気候に入ったため、寝間着は薄ピンク色のネグリジェ姿の私に対して、光はTシャツにハーフパンツ姿だった。


「そっか、偉いね。もう怖くない?」

「うん、後は私に出来ることをするだけだから」

「やっぱり、お姉ちゃんは強いね」


 光は半月ちょっとの稽古の日々を思い出しているのか、しみじみと呟いた。


「お姉ちゃんを信じなさいって、本当は自信ないけどね。やっぱりリハーサルの時も思ったけど、みんなの実力の方がずっと上だから……。

 見ていてよく分かった、みんなの実力は長い時間をかけて努力と経験を続けてここまで積み上げてきたものなんだって。


 意見を出し合って、どうするのがいいのか繰り返し考えて、稽古とリハーサルをして、本番を繰り返して、そうして作り上げたクラスなんだって。


 まだ実力の伴ってない私がそれに上手に乗っかるのは難しいけど、でも、私は精一杯最後までやろうと思う、それで、今までになかった舞台を作ることが出来たらいいなって」


 私はこれまで取り組んできた日々を振り返りながら、素直な今の気持ちを光に伝えた。


「うん、今のお姉ちゃんなら大丈夫だよ、一緒に頑張ろう。

 僕、楽しみなんだ、一緒に舞台に立てるの。練習では緊張してばっかりだけど、本当に夢みたいなことだから」


「うん、私もよ、光と再会できて、一緒の家で暮らして、一緒のクラスになれるだけでも夢みたいなことなのに、一緒に演劇が出来るなんて。


 みんなの演劇の映像をここに来るまで見てきて、光が輝いているのを見て、姉弟として誇らしいのと一緒にずっと羨ましくもあった。嫉妬に似た感情かな、舞や神楽さんと仲良くやっているのが羨ましくって。私には学生らしい経験なんてほとんどなかったから」


 正直に言ってしまえば、学生らしい青春の日々に憧れをずっと抱いてきた。

 自分の特殊な境遇に不満があるわけではなかったけど、それでも、光達のこれまでの日々が輝いて私には見えたのだ。


「うん、僕も嬉しい、本当に一緒に暮らせて、演劇まで出来てこんなに毎日ワクワクさせられて、嬉しくないわけないよ」



 光は優しい、ずっと。

 最初に声を聞いた、一緒に話しをしたあの時から。



「光、来て」

 


 私は光の背後から手を掴んで、そっと誘うように触れて、身体を抱き寄せるように引き寄せた。

 光は少し驚くような仕草をしながらも、引き寄せられるように抵抗するのを止めて、私は身体の余計な力を抜きながら両手で光を抱き締めるようにギュッと優しく包み込まれた。


「あったかいね、光は」

「お姉ちゃんこそ」


 顔を目の前まで近づけながら囁く。

 姉弟水入らずとはこういう事を言うのだろうか、体格が似ている小柄な光相手だから積極的にこんなことが出来てしまうのかもしれないが、気恥ずかしい気持ちは残りながらも、また一つ、光から勇気をもらうことが出来た。


「明日、頑張ろう、光」

「うん、お姉ちゃん」


 夜が更けていく、明日になればいよいよ本番。

 他クラスに負けてしまえば、演劇クラスとして一年間活動出来ない。

 私のような新参者にはまだ、他のクラスメイト程分からないけど、きっとそれはとても大きなこと。


 だから、私も精一杯頑張ろう。

 ここから始まる、みんなとの一年間を幸福な思い出にするために。




「—————————作戦は明日決行だ。失敗するなよ、女王種の確保は計画の必須事項だ」


「了解しています。魔女が相手であろうと、確保して見せます」


 その言葉を最後に通信が切れた。真夜中の繁華街にある一角、チャン・ソンウンは仲間と連絡を取っていた。


「ふっ、この前の借りは返させてもらう、稗田知枝」


 憎しみのこもった声色で眉間にしわを寄せた男の姿が、路地裏の影にあった。

 ラフな格好で街の中に紛れるその正体をほとんどの人が知らない。


 連絡を終えたチャン・ソンウンのそばで救急車のサイレンが聞こえた。


「……今日も騒がしいな、いや、今日だからか、血が躍るように、実に騒がしい夜だ」


 サイレンの音は段々と近くなり、すぐ近くで止まったようだ。

 どうやら近くで事故か事件があったらしい。

 チャン・ソンウンは物陰からそっとその状況を覗き込んだ。


「ほぉ……、若い女か」


 おそらく高校生か中学生くらいだろう、腹から血を出してすでに意識を失っている。


「助かるかどうかは運次第といったところだろうか」、


 気に病む様子もなく、繁華街のガラの悪い若者と同様、愉快気に見つめるチャン・ソンウンは興味津々な様子で考察した。


「ありゃ……、刺されたか、気の毒に。通り魔か……、それとも恨みを持ったやつの犯行か、まぁ、この繁華街ではどっちか判断付かないか」


 チャン・ソンウンは頭の中でそう思った。

 

 この繁華街ではよくあることだった。

 人が密集し、商売も盛んであれば、恨み恨まれることもあれば、酒が入り苛立ち逆上し無差別に犯行を起こすものもいる、人が集まれば、人が増えればそれだけ犯罪も増える、あまり行政の管理下に入らず、舞原市の復興後、勝手気ままに発展を遂げてきたこの繁華街では当たり前のことだった。


「結構な美少女だったようだが、ふっ、俺には関係ねぇか」


 野次馬になっている人は如何せん大勢いて、騒ぎになっているようだった。

 

「興味はないが、もしかしたらそこそこの有名人だったのかもしれないな」


 担架に乗せられた少女が救急隊員によって救急車に乗せられると、救急車はすぐさまサイレンを鳴らしながら人だかりの中を抜けて、夜の繁華街を走り去っていった。

次回からいよいよ第二十二話。

合同演劇発表会当日を迎えます。

ここまでの物語が最大限生かされる形でさまざまな展開が待ち受けています。

それぞれの想いを乗せて、演劇本番の舞台までどうか一緒に見守ってあげてくださいませ!

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