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魔法使いと繋がる世界EP2~震災のピアニスト~  作者: shiori


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第十七話「取り戻せない時間」2

 学園祭の日より10℃近く気温が下がり肌寒い陽気となった当日、そのせいもあり、夏から秋へ、秋から冬へと季節が移り変わっていく感覚を覚えながら、浩二は羽月のために駅前でチョコレートケーキを買って、上機嫌に待ち合わせ場所の駅に向かった。


「浩二っ!」


 待ち合わせ時間には早かったがすでに羽月は駅に着いていて、紺のジャケットと白のTシャツを着た浩二の姿を見つけるや否やすぐさま駆け寄って行った。


「早いな、待ったか?」

「大丈夫、さっき来たところよ」

 

 浩二は肌寒いに季節になってきたこともあり、待たせてしまうのは申し訳ない気持ちだった。

 学園の外で久々に二人きりになれたということもあり、気持ちの高ぶった羽月はいつもより近い距離に寄り添うように手を繋ぎ、指と指を絡めあった。


「さぁ、行こうか」

「ええ、お迎えする準備はしてきたから」


 ロングスカートをヒラヒラとさせ、嬉しさのあまりついついキュンとして心臓の鼓動が高鳴ってしまうのを感じながら、羽月は浩二の隣で寄り添う。

 普段は大変で後回しにしていた掃除も今日は入念に頑張ったと羽月は機嫌よく親しげに話しながら、駅や学園からも近い場所にある羽月の住むアパートへと向かった。


 二人きりで歩くと恋人同士であることを否応にも意識させられ、ふいに視線が一致すると自分たちらしくないと思いつつも言葉にできない気恥ずかしさが込み上げてくる。


 時間の感覚も乏しくなるほど緊張しながら静かな街並みを歩き、アパートに着くと、4階までエレベーターで上がって、玄関の前まで到着した。


「(さすがに緊張するわね……)」

 

 いざ自分の住むところまで浩二を連れてきて羽月は心の中で思った。

 玄関のカギを開錠して扉を開ける。芳香剤の香りがほのかに漂ってくる中、先に羽月が入り、浩二を招き入れた。


「お邪魔します」

「うん、遠慮しないでいいわよ、今日はパーティーだから」


 羽月は“二人きり”のと言いかけたところをぐっと堪えた。

 少しハイなテンションになっていて、簡単に恥ずかしいことを口走ってしまいそうになる。あまり刺激的な言葉を使うとかえって恥ずかしくなってしまうので、ポンなところを見せないよう羽月は言葉に気を付けたいところだった。


 玄関を上がったところでそっと後ろを振り返ると浩二の靴が見えて、本当に家に浩二がここにいるのだという実感が沸き上がった。


「一人用のアパートだから狭いけど、我慢してね」


 部屋へと案内する羽月、六畳間の部屋は一人で暮らすにも十分とは言えない。

 少し広い台所と通路にある扉の先にあるトイレとお風呂の浴槽が一緒になったフロアがあり、物を仕舞えるクローゼットもあるので、これ以上欲を言ってはならないのだと羽月も一人暮らしをさせてもらっている以上分かっていた。


 浩二は慣れない様子でキョロキョロと視線を移しながら、羽月の部屋を見渡した。


「思ったより、女の子らしい部屋なんだな……」


 浩二は部屋に入り、ぬいぐるみが置いてあったり、色合いも可愛いものを選んだようなインテリアを見て、思わずそのまま気付いたことを言葉に出した。


「私の雰囲気に合わないでしょ? 自分でも分かってるのよ、だから学園の人を連れてきたことないし……」


 羽月は自分には似合わないと思いながらも可愛いものを集めてしまう自分を出来るだけ隠してきた。目の前の浩二には、もう開き直って隠すこともないかと思っているが、未だに学園の生徒には言いづらい部分があるのだった。


「別にいいんじゃないか、可愛いところがあっても、俺は好きだけどな、その方が」

「そうかな? それならいいけど、でも、家族以外、この部屋に入れるのはあなたが初めてだから」


 他意はなかったが、特別な関係であることを示唆するような言葉を入れてしまうと、ゾワっとした感覚をお互いに覚えた。

 言葉が言葉だけについ緊張が高まる。


「そうか……、それはまた責任重大だな」


 卑猥なことを考えそうになって浩二は返事に困りながら、なんとか言葉を紡いだ。


「はぁ……、私も緊張しちゃってるからつい……。ちょっと興奮させちゃったかしらね……、そういうつもりじゃなかったんだけど」

「それはまぁ、部屋に二人きりでいる時点で仕方ないって」


 浩二が羽月のことをフォローするが、羽月には何が正解かは見えてこなかった。

 付き合って間もない二人特有のぎこちない調子で会話を続ける。


 そんな二人の元に羽月の飼い猫であるマルちゃんが浩二の足に身体をすりすりとしながら寄ってきた。


「おおっ、そういえば、猫を飼ってるって言ってたな。まだ小さくて可愛いな。不意打ちだったから驚いたけど、飼ってるペットがアナコンダじゃなくてよかったぜ」


 一度は身構えるように身体をそらした浩二は姿勢を戻し、今度は膝を曲げて姿勢を下げると、冷静に猫を撫でてあやした。


「誰がでっかい蛇をこの狭いアパートで飼育するのよ……」


 浩二の失礼にも程がある発言があったので、羽月は間髪入れずに抗議を入れた。


「いや、ボディガード? それか、女帝として君臨するためのワンポイントとか?」

「どういう脳ミソをしてたらそんな発想が出てくるのよ……。

 一人暮らしで寂しいなって思うようになってから、飼うことにしただけよ。

 保健所で保護されていた雑種だけど、猫は実家でも飼ってたから飼い方も分かるし、可愛いから」


 羽月は慣れた手つきで猫を抱え上げる。すでに猫は羽月に懐いているようであった。

 猫の登場もあって、二人は和んだ雰囲気になりながら、それから食事を摂り、浩二の持ってきたチョコレートケーキも食べて、ゆっくりと二人の時間を過ごした。


 日が傾いてきた頃、羽月の提案もあり、学園祭の時に撮影された映像を二人で肩を寄せ合いながら鑑賞する。


 誰にも邪魔されることのない二人きりの空間は想像以上に安心感を与えてくれる。


「みんな楽しそう……、私たちは屋上にいたから全然違う雰囲気の中にいたけど」


 大勢の生徒たちがキャンプファイヤーを囲んで踊っている光景を映像で見ていた。

 少し懐かしい光景、浩二と羽月はこの時、屋上から見下ろす形で見ただけだった。


「こっちの方が、より貴重で過ごし方をしてたからな……、誰も屋上にいたことなんて思いもよらなかっただろう」


 地上での光景でも十分にロマンチックに見えるが、学園の中で空に一番近い場所で二人過ごしていたこととは比較にもならないだろう。


「あれは……、そうね、頑張った私たちに神様がくれたご褒美ということにしておきましょう」


 優しい口調でそんなことを言う羽月は普段では考えられなかったが、浩二にとっては嬉しい言葉だった。


 記録された映像も見終わり、羽月が率先して片づけを始める。

 思い出話を語り明かしているだけで過ぎていく時間の早さ実感しながら、浩二が先にお風呂に入ってから、後に羽月がお風呂へと向かい、浩二は一時、一人きりになった。


 机の上に立てかけてある写真立てが目に入る。


 学園祭の時の綺麗なドレスに身を包んだ羽月と自分が映っている。


 ついこの間経験したばかりの大切な思い出の一ページ。


 自分にとっても、羽月にとっても大切な思い出となっていることが、浩二は嬉しかった。


 羽月が戻ってくるまで机の椅子に座るか、ベッドに座るかを迷いながら、浩二は椅子に座って、羽月が戻ってくるのを待った。


 浩二がやってきても猫は大人しい様子で、クローゼットのそばに設置しているボアドームベッドの中で丸まっていた。

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