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魔法使いと繋がる世界EP2~震災のピアニスト~  作者: shiori


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第十六話「広いこの舞台の上で」5

「————羽月さん……」



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 強い意思の込められたはっきりと言い切った言葉に、このままここで時間を潰そうと思っていた私の心は激しく乱された。



「私を呼びに来たんですか? それは、そうですよね……、勝手に飛び出していったきり帰ってこなかったら、羽月さん……、責任感じて捜しに来ますよね……。


 でも、ダメなんです、私なんかじゃ、無理なんです。

 だから、お願いです、今ならまだ間に合います、羽月さんが私の代わりに舞台に立ってください。

 

 私には出来なくても、羽月さんならできるはずです。

 羽月さんが作った脚本なんですから」



 実力不足の私のことなんて放っておいてくれたらいいのにと……、そう思っても羽月さんはとても折れてくれそうになかった。



「許さないわよ、そんなこと」



 はっきりと強い意志のこもった口調で、羽月さんは決意を込めて言い放った。


「どうして……、どうして私でないといけないんですか? そんなの無理ですよ……、演技未経験の私がいきなりこの短い期間でなんて……、私が舞台に立っても一緒に恥をかくだけです、こんなことはやめましょうよ……っ」


 私はすがるように懸命に訴えた。きっと私が舞台に立てば、私を選んだ羽月さんにも迷惑がかかる、“()()()()()()()()()”と、そんなの、耐えられるわけがない。



「……私は、ずっと前から浩二と約束したの。一緒に演劇をしようって。

 そのためには、私も含めて、同じハードルを一度越えなければならない、そうでなければ、一緒に考えて、同じ目標に向かって進んでいくことなんてできないわ」



 羽月さんの紡ぐ言葉が頭の中で振動するように反響する。私の心を乱すような強い意思の言葉が、私の諦めようとする意思を否定する。


 ()()という言葉が引き金になったのか、それが“()()()()()()()()()()()()”として使われたかのように、無意識のうちに羽月さんと意識が繋がって、電気的な流れを持ったシナプス細胞とテレパシー能力を通じて接続された感触を感じ、ゾクっとした感覚に襲われる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、それも分からないまま、その接続された回路は、私の意思と関係なく、羽月さんの記憶の扉の中へと私を連れていく。



 深く深く、記憶の奥深く深層に向かって、私はコントロール出来ないまま導かれていく。



 羽月さんと樋坂君が“約束した”学園祭の日の光景が、頭の中で駆け巡っていく。

 学園の屋上、夕日を背に身体を寄せ合い触れ合う、二人の唇。

 自分から望んだわけでもないので、記憶を勝手に覗き見てしまう。

 私は勝手に、人の大切な部分に足を踏み入れてしまっている。



「(どうして、私……、羽月さんと接続されてる)」



 胸が締め付けられるような、鋭い感覚。心臓の鼓動までリアルな感覚として聞こえてきて、それだけで、この情景が羽月さんにとって、とても大切な思い出の記憶であることがよくわかる。


 魔法使いとしての私の持つ力の一つ、“()()()()()()()()()()”それは、人の記憶がアリスのアーカイヴに記録されるようになったことがきっかけで目覚めたものだと祖母は教えてくれた。


 ある種のウィルスのようなものに感染した人だけリンクが繋がり、一部の記憶をアリスのアーカイヴに転送される。それは本人も知らない間に接続され自動で転送される。生体ネットワークの影響ともいわれる、心と心を繋ぐための回路。


 私は近しい間柄の人が、アリスのアーカイヴに登録されていて、記憶が保存されていれば、生体ネットワークのリンクさえ繋いでいればそれを閲覧することが出来る。


 新時代のために再構成されたアーカイブスシステム、それを知るものはごく少数だ。


 アーカイブが記憶されていることを知るのにはいくつか条件があり、その本人に直接会うことも一つの条件だから、便利に利用できるものではない。


 つまりは、記憶を覗き見れる相手は限定的であるということで、私はこの力を、あまり過信しすぎるのは危険だと考えている。


 これはアリスの信託を受けた私だけの力だが、私自身がこの力を完全に制御できるわけではなく、私の意思とは関係なく無意識に求めてしまった記憶を取り込んで、覗き見てしまうこともある。

 

 リンクが繋がれた羽月さんの記憶が情報として、処理速度の調整も効かないまま物凄い勢いで私の中に流れ込んでくる。


 濁流となった川のように激しい勢いで流れてくる記憶に、頭痛を覚えた私は頭を抱えながら、それでもなんとか倒れまいと前を向こうとした。


 ぼんやりとした視界の中で羽月さんは声を掛けてくれている様子が見えたがどうすることもできない。


 雑木林の中で羽月さんと二人きり、叫んでも助けは来ないだろう、そもそも叫ぶだけの気力も残っていない。

 

 心配そうに見つめる制服姿の羽月さんが(うつ)(まなこ)に映り、残る力を使ってなんとか私は姿勢を保ち立ち上がろうと、ローファーを履いた足に力を込めて立ち上がった。

 

 今、望んでいるわけではないのだからと、これ以上記憶を取り込まないように、流れを止めようと必死に抵抗する私の視界に、思いもよらない人物が映った。



「あっ、樋坂くん……」



 羽月さんの背後に映る樋坂君の姿を視認し、思わず助けを求めるように声が零れた。



「稗田さん!! こんなところにいたのか、リハーサルが始まるから早く!」



 普段は見ない、真剣な眼差しでこちらに言葉を掛ける樋坂くんの姿がぼんやりと映る、でも、今来られたら、私は……。



「———————樋坂君、来ちゃダメ!! お願い、離れて!! 私を見ないでっ!!」



 自分では制御できないほどに自らの力が解放されている恐怖心から、私は必死に叫んだ。今、樋坂君とまで接続してしまったら、私は……。


 私はずっと、樋坂君が親戚であり、両親の葬儀にも参席したことを思い出して以来、樋坂君とこれ以上接続して記憶を見ないように、必死に自分を制御しようと我慢してきたのに……。


 記憶を覗き見ることはとても恐ろしいことで、きっと、私自身が耐えられない事で、だから私は浩二君に叫んで、懇願するしかなかった。


 どくんどくんと、強く心臓が鼓動し、身体が熱くなる。



「稗田さん、あなた」



 何が起こっているのか分からず、驚いたような羽月さんの声が、曖昧な判断力の中で遠く聞こえた。



「やめて……、苦しい、入ってこないで……っっ」



 身体が敏感になり、熱のこもった甘い吐息が零れて、私は私を制御できないまま、私ではない私の中に潜むものの意思が、人の記憶を食い散らかすように、記憶を通じてその人を支配することに喜びを感じ、その興奮に、身を焦がしていく。


 人の記憶を吸収して、美味を食するように喜ぶ、根源的なアリスの持つ意思と欲望。


 私は抑えきれない衝動を受け入れられず、その場に倒れた。


 消えゆく意識の中で、接続が断線していく。

 ようやく、痛みが引いていく。

 だけど、私の意識はそのまま溶けるように、眠りの中に落ちていく。


「稗田さん!! 稗田さん!!」

 

 倒れかかる私を羽月さんが抱きかかえて、必死に声を掛けてくれているのが最後に分かった。

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