第十二話「真奈と庭園の残り香」4
「あっ! 庭師のおじちゃんだ」
庭園の中に入っていた真奈が、摘んできた花を持ってやってきた。
おそらくボタンとサクラソウだろうか、気に入った花を大切そうに握って真奈は上機嫌だった。
「気に入ってくれたかい?」
「うん! うちのお庭よりお花でいっぱいなのだ!!」
真奈は嬉しそうに言う、正確には樋坂家で育てているのは二階にあるベランダであるが、そのことを訂正する人はいなかった。
「たまに遊びに来てくれると、花も喜ぶ。いつでもおいで」
「うん!! あのね、池のそばでね、フシギなお姉さんにあったの」
真奈は三人の前で、さっきまでの体験を話した。
「そうかい、真奈ちゃんは優しいね。きっと、そのお姉さんも喜んでいたことだよ」
麻生さんは真奈に笑いかけて、頭を撫でた。
「そうかな? ねぇ、おじちゃんの知り合い?」
真奈は頭を撫でられて照れながら、麻生さんに聞いた。
「そうだね。よく知っているよ、ここの医院のお嬢様の友人だったからね。この庭でよく談笑している姿を見ていたよ……、懐かしいねぇ……」
麻生さんはとても懐かしそうに語った。
そしてその真奈の話していた少女が、さっきの話しで出てきた、庭園で死んでいた少女であることは、後の話しで分かった。
*
それからしばらく、真奈は庭師に花飾りを作ってもらいながら、談笑していた。
真奈にとっては気分転換になっただろうと浩二は思った。
「見て見て! おにぃ!! おじちゃんに作ってもらった!!」
無邪気に輪っかの形をした花のかんむりを頭にのせて、スカートをひらひらとさせクルリと身体を回転させながら、浩二の前まで真奈は上機嫌に見せに来た。
「よかったな、真奈」
「うん!!」
小学生になって色々大変だろうから、休日くらいは気分転換させてあげないといけないなと浩二は改めて思った。
「また、輪っかの花飾り作ってくれる?」
「いいとも、いつでもいらっしゃい」
別れ際、真奈は麻生さんに伝えて、また浩二の手を掴んで相変わらずの甘えん坊な様子を見せた。
「また、お邪魔しますね」
浩二は挨拶をして、名残惜しそうな真奈を連れて家路へと帰ることにした。
二人手を繋いで影が長く続く紅い夕日の差す街並みを歩いて、上機嫌のまま家路へと向かっていく。
「お姉ちゃんは先生のところに帰れたかな」
真奈が遠くを見ながら呟く。
真奈にとっては、少女は幻でもなければ幽霊でもなかった。
「そうかもしれないな」
真奈に幽霊が見えていたのなら、それは何か大きなことが起きる兆しなのではないか、浩二はこれを不吉な前触れとして考えるべきなのかもしれないが、元気な真奈の姿を見ていると、幻が見えていたとしても、それが真奈を脅かすものであるか、とても判断できなかった。




