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魔法使いと繋がる世界EP2~震災のピアニスト~  作者: shiori


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第七話「思い出の中の二人」1

  まだまだ肌寒い日が続く春先の休日。

 私は夕食後、机に戻り電気スタンドの照明をつけて脚本の手直しを続けていた。


 稗田さんも黒沢さんも配役を引き受けてくれて、ようやく劇に向けて準備が始められる。


 出来るだけ二人が演じやすいようにと、私は入念に確認して手直しを繰り返していく。

 

 二人の演技をこれから見ていく中で、また変更になる部分も出てくるだろうけど、それを修正するのも私の大切な仕事だ。


 タオルケットを膝に掛けていてもまだ肌寒さを感じる。

 

 日本の気象は暑くなる時は急に暑くなるのだけど、まだ4月の前半、夜は寒さでエアコンが恋しくなるほどだ。世界的なエネルギー事情を考えればもう少し我慢をするのが世のためとはいえ、ちょっとこの寒さは辛い。


 現実は甘くなく、カーテンを閉めても冷たい空気は私の心までひんやりと冷やしてくる。窓を開けて換気しているから寒いのは仕方のないことだけど。


 私は嫌気がさすような感情に襲われて、一度立ち上がって、一枚上着を羽織ってから再び机に戻った。


 キーボードをタッチしながら、ふと、前よりも殺風景になった机を見て、感傷に浸る自分がいた。


 浩二と付き合っていた頃は、ここに写真立てをいくつも置いて飾っていた。

 あの頃は、一つ一つ思い出を積み重ねていくのが幸せだった。


 学園祭の日、クリスマスイブの日、お正月に参拝に行った日、そして、私の誕生日、遊園地に行った日、どれも今も大切な思い出で、その時の情景が頭の中で蘇ってくる。

 

 過ぎ去ってしまった日々はもう戻らないけど、私は少しでも前向きに考えて生きていこうと、前に進もうとしている。


 思い出せば浩二との日々は初めてづくしだった。

 初めての恋人、それは浩二にとっても同じで、かけがえのない時間の繰り返しだった。



()()()()()()()()()()()()



 天井を仰いで、長い夜の闇に漂う虚無感を感じながら、たまらず私は呟いた。


 一人の夜は感傷的になりやすい。それは眠っている間に記憶を整理するように、人が人であり続けるために必要不可欠な感情と分かっていても、失くしてしまったものの大きさは、時が経ってもまだ耐え難いものだった。


 “思い出になってしまったこと”も、“机がまた殺風景になってしまった”のも、全部私が悪いのだけど、自分自身でも気持ちの整理がついたのか今でも分からなかった。


「にゃー!! にゃにゃー!!」


「マルちゃん、慰めてくれるの?」


 邪魔をしに来たのか、慰めに来たのか、構ってほしそうに机に飛び乗ってきたマルちゃんを私は両手に抱えて膝に乗せて撫でてあげた。


「にゃにゃーー!!」


 暖かく柔らかい毛ざわり、嬉しそうに鳴くその鳴き声は耳鳴りのようで、まるで現実感のないものだった。


 もう少しみんなと一緒に過ごせば、この鳴き声もやがて“聞こえなくなる”のだろうか。


 深淵の奥深くの自分に問いかけたところで答えは出ない。


 でも、変わり始める予感の中で、私は今一度、私を導いてくる声を求めて、浩二との出会いの頃を回想することにした。



「はぁ……、二学期早々、なんてことになってるのよ……」


 私、八重塚羽月は高校二年生の二学期早々、大変な問題に直面していた。



「あの生徒会長め、こんな時に引越なんてしなくてもいいじゃない! 全部私が残った仕事の尻拭いして、引き継ぎやって、学園祭や体育祭の運営しなきゃならないなんて、引っ越すならもっと早く伝えてくれればいいのに、もーーーっ!!!!!」



 私は誰もいない事をいいことに生徒会室で一人愚痴っていた。

 愚痴ったところで何も解決しないのだけど、問題が山積しているだけに、愚痴らずにはいられない状況だった。


 とりあえず、この後は学園祭に向けての二年生会議が行われる予定で、生徒会としてその進行を務めなければならないことになっている。早いところ準備を終わらせないと……。


 どうして私がそんなことをしないといけないかといえば、私が生徒会副会長で、生徒会長が無責任にこの二学期になって引っ越したからで、今、私が生徒会長の分もやらなければならないからである。



「コピーくらい誰かに頼むんだった……、いちいち連絡入れて用事頼むの遠慮してたら、いつまでたっても忙しいの終わらないって……。三年生の先輩でもいいから手伝ってくれないかしら」



 私は悪態を付いた。今までは補佐役に過ぎなかったから、苦に感じることなんてなかったけど、今や人に物を頼むのも億劫になるほどだ。


 レジュメを準備するだけで肩が凝るほど時間がかかったのに、コピーまで自分でやっていては時間がいくらあったって足りない。

 そうは言っても、いつレジュメ作りが終わるのか想定できないため、なかなか雑用を頼むため人に頼み事をするのはしづらいのだった。

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