第二十三話「聖者たちの攻防」1
美帆の姿が会場の中へと消え、見えなくなるのと、コール音に気づいた浩二が通話に出るのはほぼ同時だった。
「先輩!! 驚かないで落ち着いて聞いてほしいことがあります!!」
浩二が劇場のホールにいることはすぐに分かるほど、ホールの盛り上がりはよく舞に伝わったが、至急説明すべきだと舞は判断した。
「舞、落ち着くのはお前の方だ。話しがあるなら焦らず話してくれ」
周りの状況で聞き取りづらくても、通話に出た浩二は焦る舞の様子が手に取るように分かった。
舞は状況を伝えるためにも呼吸を整え、焦らず冷静に努めて、浩二に状況を説明した。
浩二は隣にいる羽月にアイコンタクトを取りながら舞の話しを聞いた。
「それで、あたしは駐車場にいますので、知枝を追いかけるのを手伝ってほしいんです」
知枝を助けるために舞は浩二に必死に訴えた。
「あぁ、俺がここを離れるくらいなら問題ないか。羽月たちにも説明してそっちに向かうよ」
「はい、ありがとうございます! あの、このまま通話は切らないで、状況が分かる方が動きやすいから」
「了解だ、早まるなよ」
リアルタイムで状況が分かる方がお互い助かる、それは舞にとっても浩二にとっても同じ認識だった。
浩二と羽月は一度ホールを出て話し合い、事態の深刻さをすぐさま理解した。
「浩二? 一人でいいの?」
「あぁ、キャスト組や羽月は準備を進めてくれ。警察の捜査を待っていられる状況じゃない、知枝は絶対に救出して、本番に間に合わせる」
浩二はすでに覚悟が出来ていた、自分がやらなければならないという決意の表れだった。
「本当に誘拐犯だとしたら、簡単には稗田さんを解放してくれないだろうけど、それでも行くのね?」
羽月は浩二が無茶なことをするだろうと分かって、心配だった。
だが、心配するだけで浩二が足を止めるとも思えないし、行かないでと命令することも出来なかった。
「あぁ、止めたっていくよ。稗田さんが今この時も危ない状況に変わりないんだから。一秒でも早く助けないと」
「分かったわ……、先生には私から言っておくから、絶対、無理しないで。そして、帰ってくるのよ」
羽月は祈るような気持ちだった。誘拐犯だとして、素性の知れない相手と対峙してどうにかなるかは分からない、誘拐犯が何か邪悪な目的を持って行動しているとすれば、危険極まりないことだ。
最悪、舞や浩二も被害を受けるような二次災害にも繋がる危険がある、それでも羽月は浩二を信じることしか出来ないと判断した。
分からないことだらけのこの状況で迂闊な選択であることは間違いなかった。
それでも“今日まで過ごしてきたみんなと積み上げてきた時間を無駄にしたくない気持ち”は、羽月も同じだった。
「帰ってくるさ、稗田さんを連れてな。いつも助け合ってここまで来たんだから、こんなところで誰にも邪魔をさせたりしない」
恐れる気持ちを隠して、羽月の肩に手を乗せて心配させないよう言葉を掛けると、浩二は振り返ることなく会場から走り去っていく。
羽月は無事を願いながら、消えていく浩二の姿を視線で追いかけながら、会場を出る様子を見送った。




