第二十二話「三者三様の舞台」7
舞は両親を客席まで送り、クラスメイトの友達と会場の外に出た。
そして、会場の外の開放感のある心地を味わいつつ、近くのコンビニまで行き、上機嫌にアイスクリームを買って二人で談笑しながら会場近くのベンチに座り、冷たいアイスを美味しそうに頬張っていた。
舞は会場にいたらすぐ眠ってしまいそうになるほど”ファミリア”での勤務で前日から疲れていた事もあり、アイスクリームでも食べて気分転換でもと友達と外に出ていた。
「うーん! 美味しい、やっぱり疲れにはアイスよね」
「えっ? アイスを愛す?」
「それは言ってないっ」
「ふふふっ、何か舞、今日は変なテンション」
「それは美帆のほうでしょ~!」
いつもの調子で談笑する舞とその友人。
舞の性格上、留年してクラスが変わってもすぐに友人はできる。
舞自身は底の浅い友人関係と考えているが、気分転換になる程度の会話相手や遊び相手が今はちょうどいいと考えていた。
「でも、出てきちゃってよかったの? 親も一緒だったんでしょ?」
「え? 言ったじゃん! あたしは光を見に来ただけだって、他のクラスの演技に興味ないのよ。それに、巴里のアメリカ人くらいは前にも観たことあるから、わざわざ観るほどでもないって」
「そうなの? 舞は本当に光の事ばっかりねっ、まぁ、可愛いけどさ」
光の話しをする舞はいつだって上機嫌なので、美帆も今更それを咎めることもない。
舞は演劇好きであるが、留年したことで演者としてのモチベーションは下がり、それは趣味で演劇を鑑賞する興味すらも失わせていた。
鑑賞すればするほど、演者として舞台に立てないことが苦しくなる、そんな内面的な理由で積もりに積もった複雑な感情的事情が、舞をこうして会場外でアイスを食べるという行動に繋げていた。
「ねぇ? あれって、誰だっけ? 病人を運んでるようには見えないよね……?」
何かを見つけたのか不思議そうに美帆は駐車場の方を眺めて何やら舞に話してきた。
舞は何だろうと思いながら美帆の見ている方角に視線を向けると、知枝を抱えて乗用車に向かい運転手と話している男の姿を目撃した。
「(女の子が会場から連れ出されてる? あんな明らかに不審な男に。だったら誘拐以外考えられない)」
いきなりの事だったが誘拐事件の可能性がよぎって思考を巡らせる舞、そして、集中してその光景を見ると、抱えている人影が知枝であることも時間経たずに把握するに至った。
「知枝……」
知枝が連れ去られている事に気づき、呆然とした舞に美帆が異常な反応に気付いて間髪入れずに舞へ声をかけた。
「知り合い?」
男の行動から後部座席に入れられる知枝の姿がはっきりと視界に入った。
「ええ、三つ子の姉弟ってこの前話したでしょ、それが知枝なのよ」
「そうなの?! じゃあ、あれ、ヤバいんじゃない?」
「うん、急ごう!」
見たところ知枝はすでに意識を失い、抱えられていたように見えた。不審な男たちに誘拐されているとしか考えられない。
舞と美帆は急いで立ち上がり駆け寄ろうとするが、すぐに乗用車は走り去ってしまった。
「ナンバー見た?」
「うん、一応」
舞が聞くと、美帆はナンバーを見たと答えたが、それでも事態が深刻であると考えるのが妥当だった。
「美帆は先生に知らせてくれる? 私は演劇クラスの子に連絡入れるから」
「ラジャー!」
そのまま美帆が会場に向かって走り去っていく中、舞は即座に唯花や浩二に連絡を入れる覚悟を決めた。
「(先輩! お願い! あたしだけじゃ、知枝を助けられない!!)」
祈るような気持ちで知枝の無事を願いながらコールを入れる。
舞は知枝を連れ去った車両を追いかけるにしても一人で対処するのは困難であると考え、一人で先走るのではなく、仲間の到着を待つことにしたのだった。
——————そして、体感的に長いコールの後に、浩二の声が焦る舞の元に届いた。
次回から第23話です。
事件の流れで知枝と浩二が主人公らしく活躍していきます。
舞と浩二の会話のやり取りは書いていて楽しいです。
こういうノリも個性的でいいなぁと思います。
では、終盤に入っていきますがどうぞよろしくお願いします!




